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第一章―抹消×新生2

 平時よりその運動部のレギュラーより鋭い直感で相手の動きを先読みして活躍していた結希が、“奴”を誰よりも先に発見し危険信号を受信したのは当たり前かもしれない。それこそ草食動物が常備する直感でその場から逃避するのは当然である。


 故に、結希の行動は間違ってはおらず、突然発狂した中学生を軽蔑の目で見る通行者――中年のサラリーマンの方が現状では人間もとい動物として失格であった。


「はあ……はあ……くっ……はっ……あ……」


 そんな動物としての危機管理能力が欠如した人間達の中を結希は、珍しく息を切らしながら元来た道を今は一人で全力をもってして逆走している。そうしなければイケないと全身の異常が警告しているのだ。それほど“奴”は異様で異常である。


 しかし、その狐の化け物が、突然群れから脱した幼いジャッカルを見逃す訳もなく、その鋭い爪で狩る為に、ピスト自転車よりも速度が出る結希を直立した状態で氷上を滑る様に追いかけていた。


 むろん、他の人間達には“奴”は見えていない。見えるのは運動が盛んな(せい)()学園(がくえん)中等部の男子生徒が血相を変えて信じられない速さで自分の脇を通過する様だけである。そして、何食わぬ顔をしてまた歩き出し“奴”の腹部辺りを通過して安寧の地を求め帰宅していくのであった。


 それが結希を除いた通行人――人間達――致命的欠陥アリの動物達の“奴”から逃げる結希への対応であり突如姿を現した“奴”への対応だった。


「な、なん、なんだよ……なんで僕を追いかける……なんなんだよ!」


 その大多数でマニュアル化した“奴”への対応を執れない結希は、徐々に茜空が闇に呑まれていく空模様の最中、人気が絶した薄暗い路地裏へ“奴”に追われたまま逃げ込んだ。


「うっ……なんだこの悪臭……くそ、行き止まりかよ! なんでなんで! なんなんだよこの状況!」


 軽自動車一台が通れるかも定かでない幅しかなければ採光も殆どとれない路地裏。その通路に沿って隣接した居酒屋や雑居ビルが密集する路地を結希はそう叫びながら進んだ。


 その途中で案の定道を塞いでいたコケの寄生し廃車寸前のミニバンを何とか乗り越えたが、顔面から脂汗を吹き出す結希の前にコンクリートの壁が出現し無情にも行く手を遮った。


 迷宮の様に入り組んだ路地裏をがむしゃらに奔走して行きついた先の淀んだ闇のゴールは、三メートルを優に超える冷たい壁が鎮座する路地の果てであり、背後から迫ってくる“奴”の気配を感じた結希はコケの生えた壁に拳を突き付けると、


「う、うう……」


 この迷宮に飛び込んでから感じていた悪臭によって吐き気をもよおし壁に背を付け周囲の淀んだ空気と同化する“奴”のあまりにも紅い毒々しい眼と視線が交わり正気を吸い取られたように力なく地面に座ってしまった。この状態でお互いの距離が十メートルを切り鮮明に網膜に映る“奴”が生き物ではないとその容姿と眼を見れば理解できた。だから結希は諦めてしまった。


「……シン……シ……ト……ネ……」


 そして初めて“奴”が片言の人語を発音すると、その背後の曲り角の先から自動車のエンジン音が響くと、外見からして動くはずのないと思っていたミニバンが片目の壊れたヘッドライトを点滅させながら結希と“奴”目がけ車体を側壁にぶつけながら爆走して来る。


 ――ああ、僕死ぬんだ……。


 鋭い直感が項垂れる結希に最期を通達した。


 突如出現した“奴”は大きく口を開き紅い眼と長い二股の舌をケタケタと笑いの形に変え、暴走するミニバンはエンジンを更に高鳴らせスピードを上げ不気味にほくそ笑む“奴”をすり抜け結希の体を顔面からバンパーで強打しそのままコンクリート壁へと押し込んだ。


 バキッバキ……グシャ。


 それが、神寺結希が最後に聞いた己の発した音で、その頭蓋骨が砕ける小気味良いメロディで“奴”は舌を激しく波打たせながらくすんだ藤色の靄へと消えて逝くのであった。


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