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第一章―抹消×新生10

「神寺結希、合格です。貴殿を聖法教会の正規神人として迎え入れましょう」


 それに対しての女性の返答は思いもよらないモノであった。


「え?」

「後は蒼天の騎士に一任しておりますので、どうか無事に使命を成し遂げてください」

「え、えええ。どう言うこと?」


 訳も分からない展開に結希は困惑しおろおろとする。


「こんな青空を皆、久しく見ていません」


 結局、結希がそうこうしているうちに、最初と終わりでは声色に温度差のある女性は、呆気ないほど早急に話を終わらせ空間を元の蒼天へと変えてしまった。


「聖老五卿の老いぼれの許しは出ているのかリマジューよ? また勝手に行動したと文句を言われるのは面倒じゃ」

「あら、魔王様もあろうお方が古狸を恐れているのですか? もはや聖法教会も研究所も地位にしがみ付く豚共所有の傀儡の組織、それを打ち砕き革命を起こせるのは貴方だけです。過去の事は悔やまれますが、私たち若い世代を導けるのは蒼天の騎士以外は当てはまりません」

「まったくこんな老いぼれを高く買ったもんじゃな。しかし、言われなくてもそのつもりじゃ、ぬしも新世界と第三世界の為に精進するのじゃぞ」


 これまでの状況が差し迫っていただけあって、二人のその会話は逆に穏やかであり、心なしか結希の神人としての門出を祝っている様にも感じられる。


「承知。では、神寺結希、貴殿の未来に栄光と健やかな安寧あらんことを」


 あれ程機械的に話を進めていた女性が、蒼天の向こう側で微笑んでいるのか愛敬のある声色でそれにもポカンとする結希の未来をあんじ願い消えていった。


「どうしたのじゃ結希、間抜けな顔をして?」

「狐に化かされた気分だよ。あれだけ酷い事言っときながら、本当はいい人なんだね」

「ああ、いくら試験を兼ねた適性検査だと言っても容赦はしないがの。これも全て神人と守るべき新世界の為じゃ、生半可な気持ちで神の子を名乗る事はできん」


 気が付いたら結希と同じ空間で女性と言葉を交わした魔王様が、結希の頭に手を置きながら入道雲と蒼が広がる天を仰ぐ。


 その様は世界の数ある名画よりも気品にあふれる立ち振る舞いであった。蒼天に浮かぶ漆黒の騎士、今なら彼があの女性から多大な敬意を抱かれる理由が結希にも分かった。そして、この空間が蒼天を映しているのかも。

「魔王様、僕も世界を守りたい。強くなって菜月の生活を守りたいです! だから僕を――」


「騎士の刀は、魂そのモノ。その柄を持たせる事の意味が分かるか結希よ」


 結希はワクワクしていた。本の中でしか読んだことがない、世界を守る為の戦いを自分がするんだ。そう思うと居ても立ってもいられなくなった。高鳴る鼓動を押さえもせずに魔王様と向き合って自分を弟子にして欲しいと言いかけた。


 だが、それよりも先に魔王様が刀を帯びから抜き、鞘に収まった状態で足元に突き立てたのだ。


「一心同体ってことですか? それとも子弟関係の成立?」

「かっかかかかかか、じいさんよりよっぽどそっちのが現実的で人間らしいな。だが違うぜ、これは家族の契だ」


 風切音をさせ所定の位置に降り立ったエシキが魔王様をからかう様に下品な笑い声を出しそれら行為の意図を説明する。


「ワシは弟子など取らん、じゃが……か、家族とならば稽古の一つや二つつけてやってもよいぞ」

「へへへ、やっぱり魔王様は優しいし人情味のあるおじいさんなんだね。僕なんかでよかったら家族にしてください」


 見た目によらず。とは、この時に見え見えの照れ隠しを必死に隠そうとする魔王様にこそ相応しい慣用句であった。


 百戦錬磨の大魔王が見せた、その恥じらう姿、人を大切に思う気持ちが“家族”と言う単語に濃縮されており結希は一瞬で心を奪われた。そうなれば、神人としての重大な一歩を紋章の彫られた柄を握ると言う動作で表さずにいられなかった。


「――これでワシらは家族じゃ、もう魔王様と呼ぶのは禁止とする」


 前もって鞘から刀身を僅かに引き出されていた事で、結希が柄を握ると引き出されていた刀身が重みで下がり、鞘と鍔がぶつかる金属音が神妙に周囲へと響いて消えた。


「はい! じゃあ、おじいさんは良いんですか?」


 いわゆる秀吉の刀狩りから現代の銃刀法違反と様々な時代で度々禁止される“本物”の刀の感触もさることながら、見た目によらず人情味のある魔王様に早くも愛敬を抱く結希。祖父と戯れる感覚で悪戯小僧の笑みをする。


「ダメに決まっているじゃろ! 第一ワシはまだ――」


 固い絆で結ばれた家族だからこそ出来る言い合いが、蒼天の異空間でもそれに引けを取る事無く展開される。


「かっかかかか、認める時もあれば動揺して何回か訂正しなかった時もあるくせによく言うぜ。仁義を重んじるから(じん)だ、聖法教会ではもっぱら蒼天の騎士で通っているが、俺やあの女はそう呼んでる」

「仁……さん? 魔王様にぴったりのカッコよくて良い名前だね!」

「ぬっ、皆が勝手にそう呼ぶだけじゃ! ワシは別に、そんなつもりでは」

「かっかかかかか、じじいが照れても気持ち悪いだけだ!」


 純真無垢な結希の綺麗な瞳に見上げられ赤面する強面の魔王様こと仁を、冷やかす神獣のエシキ。まったく緊張感のない異次元空間である。


「エシキそれは言いすぎだよ。ギャップがあって可愛いじゃん」

「なっ、なんじゃ二人して人を馬鹿にしおって!」


 思いがけない反応に思わず笑いを噴き出した結希は、一時だけでも辛い現実を忘れ抱腹した。それが原因で強面の仁が熟れた林檎以上に顔を赤くしたのは、それをその場で目撃した結希とエシキだけの一生の秘密となったのであった――。


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