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GunZ&SworD  作者: 聖庵
99/185

シーン 99

明日はいよいよ食堂“ヒノマル”がオープンする。

この名前は僕のアイデアで、みんなに理由を説明したところすぐに快諾された。

ちなみにオープンがここまで遅れたのは、ペオに頼んでおいた食器の調達に時間がかかったからだ。

それも何とか数が揃いオープンに間に合った。

食器は全て木製にこだわっている。

採用の理由は扱いやすさを重視したからで、木製なら落としても割れる心配がない。

陶磁器の場合、下手をすれば客に怪我を負わせる危険があると、ペオが指摘してきた事が決め手になった。

他にも調達コストが安く“知り合い価格”も適応出来たようだ。

ただ、陶磁器とは違い、表面を漆や塗料でコーティングしていないため、洗った器は湿っているため乾くまでしばらく使えず、少し管理に手間がかかる。

対応策として、あらかじめ予備を多めに揃える事になった。


「レイジ様、こんな形で注文しておきましたが、如何ですか?」


ペオは届いたばかりの食器の中から、味噌汁を入れる器を取り出した。

当初想定していた“椀”に、コーヒーカップのような持ち手がついている。

これもペオのアイデアで、こちらの食文化に配慮した形だった。

この形ならカップと同じなので、直接口をつけて飲むことができる。


「いいんじゃないか?中身は具材を細かくして食べやすくする必要があるな」

「他に問題はありませんか?」

「一通り確認したけど問題ないと思うぞ。これって、欠品が出たらすぐに注文出来るのか?」

「一つ二つなら半日もあれば作れるそうです。ただ、まとまった数は材料の関係で時間が欲しいとの事でした」

「そっか。まぁ、磁器じゃないから、割れてなくなる心配はないよな。分かった、引き続きマオたちと準備を進めてくれ」


午後。

一人で広報活動に出かけた。

出来ればパンフレットやチラシがあれば説明に便利だが、そこまで準備する時間は確保できなかった。

とりあえず人が集まる場所を中心に出向き口頭で伝えるしかない。

まず向かったのは居住区画の管理事務所だ。

ここで職員に説明をして周知に貢献してもらおうと思う。


「あら、男爵様、今日はどうしましたか?」

「こんにちは。実は自宅で飲食店を開く事になったのでお伝えにきました」

「そうでしたか。そう言えば、以前から工事や準備を進められていましたね。ペオさん…でしたか、あの方からお話は聞いていますよ」

「あ、なるほど。その店が明日オープンする予定なんですよ。良かったら遊びに来てください」

「はい。是非お伺いしますね」


受付の女性に説明して周知活動にも貢献してもらうよう伝えておいた。

次に向かったのはハンターギルドだ。

ここも人の出入りが多いため、広報活動にはもってこいだ。

いつも情報をくれる職員に食堂の話をすると、興味を持って快く応じてくれた。


「…ん?レイジじゃないか。仕事か?」


ギルドを出たところでクオルに出会った。

大会の一件以来、人が変わったように仕事を熱心に取り組んでいる。

今日もどこかで護衛の仕事を済ませ、報告に戻ってきたようだ。


「あぁ、ウチで飲食店を開く事になったんだ。お前も良かったら利用してくれよ」

「ニーナが言ってた店か。いつからだ?」

「明日だ。時間は夕方から」

「そうか。それなら同僚たちとお邪魔するよ」

「よろしく頼む」


簡単に説明してクオルと別れた。

続いてキャラバンギルド、商工組合などの事務所を巡り、気付いた頃には夕方になっていた。

広報の成果としてはまずまずだろう。


「レイジ~お疲れ様~」


帰路の途中、サフラが僕を迎えに来てくれた。

彼女は昼からペオの手伝いをしていたが、どうやら開店の準備が全て整ったらしい。

僕らは夕日を背にそのまま帰路についた。


「明日が楽しみだね」

「そうだな。二人の様子はどうだ?エールなんかは緊張してるんじゃないか?」

「そうなの。大丈夫かな~って不安がってたよ。ついさっきまでマオさんが励ましてたの」

「そうなのか?まぁ、エールはいつも通りだとして、やっぱりマオは頼りになるよな。彼女が居てくれたらウチも安泰だ。ホント、ペオはいい子たちを見つけてくれたよな」

「誉めていただき、ありがとうございます」

『わッ!?』


背後から急にマオが声を掛けてきた。

僕らは同時に声をあげ、お互いの顔を見合ってしまった。

驚きすぎて心臓が踊っている。

別に悪口を言っていたわけではないが、前触れもなく本人が現れるのは心臓に悪い。

マオはいつの間にか気配を消す技を身に付けていた。

僕が気配を察知出来るのは敵意を持った敵がほとんどで、気心の知れた相手が自ら気配を消した場合は、どうしても気付くのが遅れてしまう。

これはペオにも言える事だ。

どちらかと言えばこの場、彼女がペオの真似していると言うべきか。


「驚かせてしまってすみません…」

「い、いや…気にするな。少し驚いただけだ」

「お二人で楽しそうに喋っていましたので、声をかけるタイミングが見つかりませんでした」

「気にするなよ。ん、一人か?」

「はい。サフラさんが出て行くのを見たので、こっそり後をついてきたんですよ」

「なるほど、そういう事ね。じゃあ、夕食の準備はペオとエールでやってるわけか?」

「はい。ペオさんは明日の練習も兼ねて、弟の実技試験もやるって張り切ってました。あの子、緊張すると普段の力が出せないタイプなので少し心配してるんですよ」


弟の事を誰より知る彼女ならではの悩みだ。

ただ、そんな事はペオにも分っているだろうから、自信を喪失されるほどの行き過ぎた教育はしないと思う。

必要なら僕も手伝う予定なので、みんなで協力して行えばいい。


「マオさんは接客係ですよね。あ、でも、ペオには何か考えがあるって言ってましたよね。アレ、何の事なんだろう?」

「ん?アイツから何も聞いてないのか?」

「うん。ただ、直接聞いたわけじゃないから、教えて貰ってないだけかな」

「そういうことか。なら、今ここで話しておくよ。アイツの考えたアイデアだ」


店が忙しくなる事を考慮してペオから提案があった。

それは料理の提供方法をセルフサービスとフルサービスに分ける案だ。

セルフサービスは文字通り客に動いてもらい、各自で配膳をする方法。

具体的にはある程度料理を作って置き、事前に盛り付けられた皿の中から好きな物を選びトレーに乗せていくパターン。

これなら接客に掛かる手間が大幅に減るため、マオの負担も軽減できる。

フルサービスの場合は出来たてを提供出来る反面、提供までの時間がかってしまう。

こちらは時間に余裕がある高級志向の客に向けたスタイル。

ただし、貴族や富裕層の多い地域で出店しているため、後者の方が多いだろうと予想している。

二人にこの話をすると各々難しい顔をした。

どうやら言葉で伝えても実感がないらしい。

むしろ、この世界にはセルフサービスという概念がなく、イメージができないようだ。


「つまり…お客さんに手伝ってもらうってこと?」

「そう。日本ではそういうスタイルの店があったんだよ。まぁ、ペオはこれを頭で考えて思いついたらしいんだけどな」

「レイジはそういうお店を利用した事があるの?」

「あるぞ。まぁ、毎回じゃなかったけど」


似たような店でよく覚えているのは“うどん屋”のチェーン店だ。

以前通っていた高校の近所にあり、昼休みに抜け出して食べに行ったのはいい思い出だった。


「レイジ様はペオさんに寛大なのですね」

「ペオだけじゃないさ。俺はみんなにも同じように接してるつもりだよ。ただ、ペオが積極的に動き回るから、俺が判断する機会がみんなより多いだけだろ。何なら、何かアイデアがあれば出してくれてもいいんだぞ?筋が通ってたら反対はしないからさ」


ペオがいつも提案する内容はどれも理にかなっている。

過去の経験とシミュレーションを頭の中で瞬時に行えるため、この世界になる革新的なアイデアも想像することができた。

おかげで僕が直接手を下すシーンが少なくて助かっている。


翌日。

ついにオープン当日となった。

開店は夕方からのため、午前中はシッカリ休んで本番に備えておくことにした。

その間、エールはずっと落ち着きがなかった。

緊張から身体に力が入ってしまい、何もしていないのに肩が凝ってしまったらしい。

そんな彼の緊張をほぐすように、マオは彼から離れないで話し相手になっていた。


「エール、大丈夫よ。何も怖いことなんてない。アナタは自分の力を信じればいいの。でも、もしダメだと思ったらみんなを頼りなさい。きっと力になってくれるから」


僕はとにかく裏方に徹しようと思っている。

可能な限りみんなの自主性を尊重したい。

ただ、何もせずそのまま放置するというわけではない。

僕の力が必要ならすぐに動ける準備は整えてある。

サフラもニーナも同様で、店の入口から少し離れたところに立って三人を見守ると決めていた。

そして、あっという間に開店の三十分前になった。

外には噂を聞きつけた客が列を作り、首を長くして開店を待っている。

その数は総勢十数人。

客席の数が二十席ということを考えると、ほぼ満員になる人数だ。

その間にも一人また一人と列を長くしている。


「お待たせしました。それでは、食堂“ヒノマル”オープンします」


時間になりペオが店の扉を開け放った。

客たちは順序良く店内に入り、マオが一組ずつ席に案内していく。

ここまでは順調だ。

あとは注文の確認と料理の提供をどれだけ正確に行うかにかかってくる。

僕は我慢をして遠巻きに店内の様子を眺めた。

マオは不慣れな作業にもすぐに順応し、持ち前の笑顔を客たちに振りまいている。

反対に厨房で料理を作るエールの表情にはあまり余裕がない。

客が直接彼の顔を見る事はないが、出来れば笑顔で仕事をしてもらいところだ。

何事も楽しむ精神が大切だと思うから。


「すみませーん、注文いいですかー?」


満員の店内では不慣れなセルフサービスを敬遠してフルサービスを希望する客が大半を占めていた。

そのため、マオ一人しか居ない接客係に多くの負担が掛かっている。

マオは注文の確認と料理の提供、食べ終わった食器の片づけを一人でこなさなければならない。

さすがに彼女一人ではそろそろ限界だろう。


「サフラ、手伝えるか?」

「大丈夫だよ。制服、似合うでしょ?」


フリルのあるメイド服風の制服姿で、サフラは一回転して見せた。

彼女もこの制服が気に入り、いつでも手伝える準備を整えていた。


「あぁ、最高だ!」

「ありがと。じゃあ、手伝いに行ってくるね」

「無理するなよ。手が足りなかったら呼べよ」

「はーい」


サフラはそのまま注文を待つテーブルに移動して、注文を取っていた。


「レイジ、私は厨房の手助けに行ってくるよ。何、皿洗いくらい私にも出来るさ」

「あ、あぁ、悪い。頼んだ」


サフラに触発されてニーナも手伝いに行ってしまった。

さすがに彼女は裏方なので制服は着ていない。

きっと、長身の彼女が着れば可愛らしさが強調されただろう。

機会があれば一度着てもらいところだ。

二人が応援に入ったことで徐々にペースが掴めるようになっていた。

ただ、厨房で料理を作るペオとエールにはあまり余裕はない。

同時にいくつもの料理を作るのは不慣れなため、注文をメモした紙が徐々に溜まっているようだ。

そろそろ手を貸した方がいいだろう。


「ペオ、優先して提供するメニューは何だ?」

「あ、レイジ様。えっと、そこにメモが来てます。上から順にお願いします」

「わかった。エール、足りない材料を倉庫から持ってきてくれ。それと、乾いた器から順に並べるんだ。その方が盛り付けの手間が省ける」

「わかりました!」


結局、初日は想定していた人数の倍近い客が訪れ大繁盛になった。

その中には僕が声をかけた管理事務所の職員やクオルの姿などもあった。

初日のとしてはこれ以上ないというくらいの大成功だろう。

ただ、一日やってみて思ったのは、今日くらいの客入りの場合、六人居ないと店が回せないと言うことだ。

この問題はみんなと相談して解決しなければならない。

それにしても、大きなトラブルも無く店を閉められて何よりだった。

仕事を終えた後の心地よい疲労感が身体を満たしていった。

作中に登場したセルフサービスのイメージは、某讃岐うどんのチェーン店と言えば分るでしょうか?


他にもマオやサフラが着ていた制服ですが、“割烹着”ではなく、あえて“メイド服風”にしました。補足の理由として、“日本らしい”というイメージが、利用客と共有できない点を考慮した結果です。(このシーンは作中から割愛)




ご意見・ご感想・誤字脱字の指摘等があればよろしくお願いします。

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