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GunZ&SworD  作者: 聖庵
94/185

シーン 94

帰り道はドボォイの中を淡々と歩き、不干渉領域の中ほどにある出口に案内された。

本来ならこのトンネルはミッドランドにまで通じているものの、防犯上の規則から僕らが移動できるのはここまでらしい。

また、出口の近くにはマンイーターが好む湿地もないため、いきなり襲われる心配はないそうだ。

順調に行けば不干渉領域の出口までは半日ほどの距離で、地上には岩山に偽装した管理所が設けられている。


「案内出来るのはここまでだ。出来れば不干渉領域を抜けたところまで案内したかったんだが、規則でな」

「いや、ここまで来れば十分だ。助かったよ」

「そうか。では、また会えるのを楽しみにしている」

「あぁ、国王やコルグスにもよろしく伝えてくれ」


世話になったケルドに別れを告げ帰路を急いだ。

早ければ明日の夕方にはたどり着けるだろう。

ドボォイの外は寒冷地用の装備は必要なく、飲み水が凍る心配もない。

屋根の上には相変わらずセシルが待機し、馬車に迫る危険をいち早く排除している。


揺れる荷台の中で“アルマ”についての話を思い出した。

そもそも“神”と呼ばれる古代人たちの認識は、人間とドワーフで大きな違いがある。

もちろん、間違っているのは人間側の知識だ。

この違いを正す事がお互いの理解を深める一歩になる。

そのためには宗教に詳しい人物に接触する必要があった。

候補を挙げるとすれば皇帝と教皇辺りだろうか。

教皇は町の西にある大聖堂の主でもある。

ただ、事前にアポイントメントをとっておかなければ接触する事は難しいだろう。

その前にこの事実をどう皇帝へ報告するか、この問題も解決しなければならない。


「…レイジ、この後の事でも考えているのか?」


目を閉じていたアルマハウドが声を掛けてきた。

どうやら僕の姿を見なくても考えている事が分かるらしい。

ちょっとした超能力者のような技術だ。


「ん?あぁ、ちょっとな」

「陛下にはどう説明するつもりだ?」

「嘘を言っても仕方ないからな。ありのままを話すつもりだ」

「まぁ…そうなるだろうな。ただ、結果が結果だ。陛下はお前の働きを聞いてどう思うか、私はそこが心配なのだよ」


出発の前に“煮るなり焼くなり”と啖呵を切っている。

皇帝の捉え方一つで僕の生死が分かれるのは間違いない。

“下手をすれば…”と言うこともあるだろう。

考えただけで背筋が冷たくなるが、どちらにしても今から過去の結果を今から変える事はできない。

“なるようになる!”と開き直るつもりはないが、最善は尽くしたつもりだ。


「そう…だな。やれるだけはやったんだ。これでダメなら諦めもつく」

「ほぅ?随分と潔いんだな。もう少し足掻いてもいいとは思うが」

「俺としては全力を尽くしたつもりだからな。あとは陛下に誠意を見せるしかないだろ?」

「確かにな。陛下は義理堅い一面がある。下手な事を言わなければ逆鱗に触れる事はないだろう。私も同席して事情を話すつもりだ」

「それはありがたい。頼りにしてるぞ」


実際、頭の中ではどのように対応しようか考えはまとまっている。

あとは、その通りに告げて納得してもらうしかない。


「レイジ、私も協力するからね」

「あぁ、きっと大丈夫だ。ネガティブになっても仕方ないからな」


僕を支えてくれるサフラも感謝した。


「さすがに、あの地下空間で見た事を言葉で伝えるのは難しいが、事実は事実だからな」

「問題はそこだな。証明できそうな物はこのペンダントしかないし、物的証拠がないのはハンデになるな」

「私もそのペンダントだけで納得してもらえるとは思えない。この他に何か決定打が必要だろう」

「決定打?」

「そうだな…」


そういってアルマハウドは考え込んでしまった。

いくら皇帝と旧友と言っても立場がまるで違う。

僕も親友から「実は…」と胸のうちを話されても、言葉だけを聞いて信じられる範囲には限りがあるだろう。

国王やコルグスではないが、実際にあのミュージアムに行って事実を確認する方が早いとは思うものの、現実的に考えてそれは無理だろう。

前世のように写真やビデオで撮影したものを証拠として提出できれば問題はないが、ここは近代科学の常識が通用しない異世界だ。


「…ヤツが陛下にどうやって報告をするか、これが鍵になるだろうな」


そういってアルマハウドは天井を見上げた。

いや、見ているのはそのさらに上にいるセシルだ。

彼女は皇帝の側近でもある。

アルマハウドの見立てでは、彼が説明をするよりも彼女の話す言葉を信用するだろうとの事だった。


「なるほどな…。確かに、身の安全を預ける最高責任者だからな」

「一度、彼女とは腹を割って話す必要がありそうだな」


思えばドボォイを出てからセシルとは話をしていなかった。

彼女は僕らの護衛役であり監視役だ。

万が一、僕に不穏な動きがあれば皇帝から暗殺命令も出ている。

それだけ彼女は信用された立場にあった。


馬車はしばらく進んで馬を休める見晴らしのいい草地で止まった。

ドボォイを出てからずっと歩き続け腹を空かせていたのだろう。

馬は一心不乱に草を食んだ。

時刻は夕方だが、日の入りにはまだ時間がある。


「セシル、ちょっといいか?」


屋根の上で見張りをしていたセシルに声をかけた。

彼女は周りへの警戒を続けたまま小さく頷き、屋根に上りやすいよう手を貸してくれた。


「どうした?」

「ちょっと相談があってな」

「大方、さっきアルマハウドと話していたことだろ?」

「聞こえてたのか?」

「これでも耳はいい方でね。それで、私にどうしろと言うのだ?」

「分ってるくせに、そんな事を聞く必要があるのか?」


よく見るとセシルの口元はいたずらっぽく歪んでいた。

彼女は確信犯的に僕を試すところが多々見受けられる。

一人で楽しんでいるようだが、あまり褒められた趣味ではない。


「すまんすまん。わかっている。私もこの目で見た一人だからな。キミを陥れるようなつもりは毛頭ない」

「そうか。それで、お前から見て陛下は納得してくれそうか?」

「率直に言えば、確率は半々。あとはキミの努力次第だろう」

「努力…か。いつもそのつもりなんだが、これでは足りないということか?」

「そうは言っていない。キミはよくやっているよ。いや、我々が驚くほどにね。そのままのキミで居ればいいさ。それよりも、私は次にキミがどんな突飛な行動を起こすか、そこに興味があるのだよ」

「興味か。まるで傍観者みたいな言い方だな」

「その通りだよ。元々私は陛下の“剣”であり“眼”なのだから」


フランベルクという組織は一言でいえばエリート集団だ。

それこそ、実力だけではなく知力も要求される。

その点において、彼女は僕の目から見て、時より異質な存在に見えることがある。

一言でいえば“曲者”という言葉が似合うだろうか。

虎視眈々と機会を伺う捕食者の一面を持ちつつ、何者にも与しない飄々とした顔も持っている。

特に厄介なのは後者の性質だ。

何を考えているのかまるで分らないのは、あまり気分のいいものではない。

きっと、カジノでポーカーをすればディーラーや参加者を容易に欺き、大金を巻き上げていくタイプだろう。

自分では実直なタイプだと思っている僕とは正反対だった。

もちろん、この意見には客観的な意見は含まれていないのだが。


「それにしてもだ。お前ともあろう者が、気付いていないわけではないだろう?」

「何のことだ?」

「ホンキで言ってるのか?」

「いいや、もちろん気付いているよ。そろそろ出かけようと思っていた頃さ」

「…悠長だな」

「性分なんでね。おっと、断りもなくキミの言葉を借りてしまった、許せ」

「余計なこと言ってないでさっさと行って来たらどうだ?」

「わかったよ、この旅の指揮官はキミだ。私はそれに従うただの傭兵だからね」


セシルは笑みを浮かべて屋根を強く蹴り、背面宙返りをしながら空に高く舞い上がった。

先ほどから背後に二つの気配を感じている。

もちろん敵意と悪意を備えた招かれざる客だ。

セシルが飛んでいった方向を見ると、草むらに鋭い角を生やしたウサギが見えた。

ウサギと言って大きさは、よく見る野うさぎとはまるで違う。

距離があるため詳しくは分からないが、小型自動車ほどはあるだろうか。

草に擬態した緑色の毛並みは、意識していなければ見つけるのは難しい。

ただ、天を穿つように伸びた長さ角は七十センチほどあり、隠すつもりがないのか丸見えになっている。


「ほぉ?アルミラージュか。だが、彼女の遊び相手には不足だな」


御者台で休んでいたニーナがセシルの戦いぶりに目を奪われている。

彼女が口にしたのはどうやらあの魔物の名前らしい。


「強いか?」

「まぁ、並みのハンターならそこそこ手を焼く相手だろうな。気をつけるべきはあの角だ」

「確かに、鋭くて危険だな」

「ヤツは見た通りのウサギだからな。蹴り足で体当たりをしながら、あの角で突き刺す攻撃をして来るんだ。貫通力だけなら鉄製の鎧になら穴が空くぞ」


しかし、ニーナの言った通りセシルにはいささか物足りない相手だった。

まず、雷を帯びた一太刀目で一体を黒焦げにし、残っていた一体の角を剣で真っ二つにした。

どうやら角は横からの攻撃に弱いらしい。

彼女ほどの腕なら折ることも可能のようだ。

角を折られアルミラージュは攻撃手段を失い、巨大なウサギになり下がると、特に見せ場もなく切り伏せられた。


「おーい、コイツを晩飯にしよう」


セシルは倒したばかりのアルミラージュの近くで手を振っている。

言葉の通り、夕食の一品に添えようという魂胆らしい。


「…マジかよ。食えるのか?」

「見た目はアレだが、元はウサギだからな。少し淡白だが、味付けをすれば十分に食べられるよ」


ニーナの口ぶりではアルミラージュを食べたことがあるらしい。

元々、日本でもウサギを食べる文化はあったが、食生活の多様化とペットとして接する機会が多くなったことで、ウサギを食べることに抵抗を持つ人もいる。

僕も前世ではウサギを食べた事はなかった。

初めて食べたのはこちらに来てからだ。

以前、ニーナが獲物として森で捕まえたノウサギは淡白だが、苦手な味ではなかったのを覚えている。

だからと言って、先ほどまで僕らの命を狙っていた巨大なウサギを食べるという事に抵抗がないわけではない。

むしろ、家畜の牛よりも大きい。

セシルは慣れた手つきでウサギを解体すると、美味しそうな部分だけを切り取って戻ってきた。

元々、この場所には休憩のために足を止めたが、彼女の提案でこの場所を今晩の野営地に決めた。


「美味そうだろ?」

「あ、あぁ…見た目は肉だからな」

「どうした、浮かない顔をして。ウサギ、食べたことないのか?」

「いや…ノウサギ程度ならあるが、あんなデカいヤツは初めてだ」

「そうか。まぁ、そんな事は気にせず食べようじゃないか。さぁ、準備準備」


セシルは腹が減っていたのか、手早く焚き火の準備をすると、一抱えほどある肉の塊をそのまま火の中に放り込んだ。

豪快というより大雑把な調理法だが、この方が早く火を通す事ができる。

あとは焦げた部分を取り除き、中のよく焼けたところを食べるというわけだ。

出来上がったモノを恐る恐る口にしてみたが、見た目の豪快さとは違い、ノウサギと変わらない味だ。

きっと、前世の僕ならウサギと言われなかったら気付かなかっただろう。

この世界にはまだ僕の知らないモノが溢れている。

自然の恵みに感謝しつつ、みんなで夕食を囲んだ。

ウサギを捕って食べるというのは、サバイバル精神が旺盛でなければ難しいですね。

現代社会はスーパーに行けば下処理や調理済みのばかりが売っているので便利ですからねぇ。




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