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GunZ&SworD  作者: 聖庵
93/185

シーン 93

話し合いの最後に国王は用意していたペンダントを手渡してくれた。

国家上流階級“ウェラ”の証らしい。

これを持っている限り、無条件でノースフィールドの出入りが可能になるそうだ。

デザインもコルグスに返した物とよく似ていた。


「重ねて言うが、私は人間を認めたわけではない。しかし、危険を承知で我々に歩み寄ってきたそなたに敬意を表し、特別にそれを渡しておく。兵を助けてくれた礼だ。何かあれば訪ねてくるといい」

「ありがとうございます。まずは一度国へ帰り、皇帝にその旨を伝えたいと思います。私はまだ諦めたわけではありませんので」

「そうか。その意志、最後まで貫いて欲しいものだ」


そう言って国王は一足先に会議室を出て行った。


「王は穏やかな顔をされていた。あんな表情はいつぶりだろうか。レイジ、私からも礼を言う。お前に出会うことが出来たのは幸運だった」

「それは俺も同じだ。だけど、まだ終わったわけじゃない。そのためにも、お前には協力してもらいたいんだ」

「そうだな。可能な限り力を貸そう。この後、晩餐会の準備を急がせている。今日はゆっくりしていくといい」


時間が分からなかったが、そろそろ夕食時らしい。

それを聞いて心なしか腹の虫が騒ぎ出したような気がする。

会議室を出ると世話係の男が客室に案内してくれた。

室内はさすが王宮の客間というだけはあり、調度品も一流の品ばかりが並んでいる。

ただ、ベッドはドワーフの体格に合わせ、少し長さが短くなっていた。

晩餐会が始まるまでの間、サフラには酒を飲まないよう念を押しておいた。


「晩餐会の準備が整いました。こちらにご用意しております」


コック姿の男が客室まで迎えに着てくれた。


「こちらでございます。ごゆっくりどうぞ」


案内された部屋は先ほどまで居た会議室より少し狭い“晩餐室”だった。

一度に二十人近くが座れる長方形のテーブルには、会食者たちの顔が見えやすいよう対面に椅子が置かれてある。

ドワーフな文化に“上座”と“下座”の概念があるのかは分からないが、接客係に案内されるまま席に着いた。

並んでいる料理はどれも酒に合いそうな味の濃いものが多く、肉と野菜のバランスも取れている。

ここでも主食はパンだが、バゲットのように硬いものではなく、外はカリッと中はフワフワの丸いもの。

真ん中に穴は空いていないが、おそらくベーグル一種だろう。

食事のイメージはドイツと北米系の料理といったところか。


「では、我らの友好を目指して、乾杯」


国王の音頭で晩餐会が始まった。

“目指して”と言った辺りに気遣いが感じられる。

実際、個人としては僕を応援してくれているため、その期待に応えなければいけない。

そのためにも、信じる道を突き進むしかないだろう。

案の定、用意された酒は強く、慣れていない僕はペースを誤ったのか、宴もたけなわの頃になると記憶がなくなっていた。


「…いつつ」


二日酔いによる頭痛で目を覚ました。

どうやら晩餐会が終わるまでは何とか意識を保ち、客室までは一人で移動できたらしい。

傍らにはサフラがベッドに寄り添い眠っていた。

キャビネットの上には水の入ったガラス製のポットとグラスが置かれている。

僕は何気なくサフラの髪を撫でていた。

艶のある赤い髪は神秘的で指通りも滑らかだ。


「う…うん…あれ…起きてたの?」

「悪い、起こしちまったな」

「平気…。それより、大丈夫?」

「二日酔いだな。少し頭痛がする。水をくれないか」


サフラに頼んでグラスを受け取り、水を飲み干した。

朝、目覚めてから飲むコップ一杯の水は身体にいいと聞いたことがある。

実際、どんな効果があるのかは分からないが、飲んでみた感想はスッキリして気持ちいい。


「前とは立場が逆になったな」


グラスを返しながら苦笑いをした。

サフラには無理をするなと言っておきながら、僕が飲み過ぎてしまうとは情けない。

すると、彼女は僕の手を取った。


「レイジは昨日、頑張ってたもん。それに、王様も楽しそうだったよ」

「そっか。最後の方は記憶がないけど、楽しんでもらえたなら無理をしたかいがあったな。そう言えば他の三人は?」

「ニーナさんとセシルさんは相部屋。隣の部屋で寝てるよ。アルマハウドは一人部屋だけど、壁にもたれて眠ってたと思う」


部屋割りを詳しく聞いていなかったが、順当な配置だろう。

それよりも気になるのはアルマハウドの眠り方だ。

昨日は終始緊張を解いていたとは言え、眠る時はさすがに無防備になる。

何かあった時のために、いつでも動けるようにという配慮だろう。

本人がそれで満足なら口を出す必要はないが、万が一命を狙われるなら、わざわざ食事と部屋を用意することはないと思う。

彼もそんな事は分かっていると思うが、一応用心のためにと思っているのだろう。

ドボォイに入ってから時間の感覚が曖昧で今がどれくらいなのかは分からない。

おそらく今は朝方なのだろうが、不思議と空腹感はなかった。


「サフラ、お前、ちゃんと眠れたか?」

「え…あ、うん。大丈夫だよ。どうして?」

「いや、横になって休んでなかったみたいだからな」

「それなら平気。心配してくれて、ありがとね」

「当たり前だろ?まぁ、無茶だけはしないでくれ。いいな?」

「うん」


今日は帝都に帰る日だ。

地上に出れば家に帰るまで緊張が続く。

ここで出来る限り身体を休め、英気を養っておきたい。

しばらくすると人が歩き回る気配を感じた。

どうやら眠っていた使用人たちが仕事を始めたようだ。


「サフラ、朝食までは時間があるからベッドで横になってろ。目を閉じてるだけでも休まるぞ。俺はソファーで休むから」

「うんん。えっと…レイジが嫌じゃなかったら…そのまま隣で寝ていいかな?」


今使っているベッドはシングルサイズだ。

それもドワーフに合わせた作りのため、縦の長さは少し短め。

僕くらいの身長なら足の先がベッドの端からはみ出してしまうが、サフラならちょうどいいだろう。

ただ、横幅は変わらないため、二人で横になれば窮屈に感じる。

まぁ、抱き合うくらいに身体を寄せれば話は別だが…。


了承の旨を伝えるとサフラはベッドに潜り込んできた。

予想通り二人で使うには横幅が足りない。

僕はサフラがベッドから落ちないよう抱き寄せてやった。


「えへへ。嬉しいな」

「窮屈じゃないか?」

「このくらいでちょうどいいよ?」

「それは抱き合ってスペースを確保してるからだろ?そうじゃなかったらベッドから落ちてる」


抱き寄せたサフラから女の子の甘い香りがした。

この瞬間は心が落ち着き嫌なことを忘れさせてくれる。

反対にサフラはどう思っているだろうか。

まぁ、嫌だったらわざわざベッドに潜り込んでくるはずがない。

それを聞くだけ野暮と言うものだ。

しばらくすると安心したのか、規則正しい寝息が聞こえてきた。

さっきは気を張って大丈夫だと言っていたが、思った以上に疲れていたらしい。

サフラの寝顔に癒されながら朝の残された貴重な時間が過ぎていった。


気が付くと先ほどより廊下が慌ただしい気配を感じた。

どうやら使用人たちの他に、大臣や官僚たちも活動を始めたようだ。

そろそろ朝食の時間も近いのだろう。

隣の部屋でもニーナとセシルが目覚めたようで、動き回る気配を微かに感じた。

僕も身支度を整えようとベッドから出ようとしたが、サフラが服の裾をシッカリ掴んでいたため身動きが取れなかった。

無理に動けば彼女を起こしてしまう。

せっかく気持ちよそうに眠っているのに起こすのはかわいそうだった。


「…ふふ」

「お前、起きてたのか」

「さっき目が覚めたんだけど、レイジが隣に居てくれたから、ついね」

「ちゃんと休めたか?」

「うん、大丈夫だよ」


僕らは二人揃ってベッドの中で伸びをした。

近所の野良猫も昼寝から覚めるとこうして身体をほぐしていたのは懐かしい記憶だ。


「レイジ、入るぞ?」


不意に扉がノックされ、ニーナが入ってきた。

もちろん、僕らはまだベッドの中だ。

返事をする間もなく、否応なしにゆっくりとドアが開いた。

そういえば、ここのドアには鍵がついていなかったのを思い出したが、気付いたときには遅かった。


「ん…?悪い、取り込み中だったか」


何を勘違いしたのか、彼女はバツが悪そうに扉を閉めてしまった。


「に、ニーナ!」

「冗談だ。それより、朝食の準備が出来ているそうだ。一足に昨日の晩餐室で待ってるぞ」


扉越しに用件だけ伝えるとそのまま廊下の奥へ気配が消えていった。

変な勘違いをされてしまったが、こんな状況を見れば誤解もしたくなるだろう。

別にやましい気持ちあったわけではないので、変に意識して気を使う必要もない。

潔白だと証明するためにも堂々としているに限る。

僕らは身支度を整えて晩餐室に向かった。

途中、行き交うドワーフと目が合い、簡単に朝の挨拶をしておいた。

ドワーフたちは人間を敵視するところもあるが、僕らは特別だと国王から直接指示が出ていたため、邪険にされることはなかった。


朝食は昨晩ほどではないが、豪勢な食事が並んでいた。

もちろん酒も常備されている。

さすがに二日酔いを引きずったまま朝から飲むわけにもいかず、今回は丁重にお断りをして事なきを得た。

朝食が終わると僕らは出発の準備を急いだ。

特に早く帰らなければならない理由もないが、無用に時間を使う必要はない。


「レイジ、出口まではケルドに案内を頼む。分らないことがあれば彼に聞いてくれ」

「ありがとう。最後まですまない」

「いや、お前のような人間なら歓迎だ。いや、お前が特別なのかもしれないな」

「そうかもな。また、必ず会いに来る。その時も頼むな」

「あぁ、任せておけ。それと、お前さんにもらったラベンディアの種。大事にさせてもらうよ。アレがあればもう危険を冒してミッドランドへ行く必要もないからな」

「そうか。喜んでもらえてよかった」


最後の別れ際、コルグスが城門まで見送りにきてくれた。

元はと言えばアポ無しで押し掛けたが、彼は嫌な顔一つ見せず僕らの言葉に耳を傾けてくれた。

彼が居なければここまで穏便に国王と話す事もできなかっただろう。

協力してくれた事に感謝をしつつ、帝都に向けて帰路についた。

目立った成果はなくとも、着実に前に進んでいく精神は大事だと思います。

千里の道も一歩からですね。




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