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GunZ&SworD  作者: 聖庵
9/185

シーン 9

2014/04/15 改稿済み。

確か転生の際、幼女に“異性にモテモテなら…”と言った旨の要望したような気がする。

もしかすると、これも転生時に付与されたボーナスの一つなのだろうか。

外見は転生前と大きく変わっていないし、間違っても“イケメン”と呼ばれる顔でもない。

見た目に魅力と言うより、内側から異性を虜にするフェロモンでも出ているのかもしれない。

今になっては幼女に確認することも出来ないので、ここは前向きに解釈しておくことにする。


「ふぅ~露天は天井がなくて気持ちがいいな」

「天井って、露天風呂なんだから当たり前だろ」

「ん?何だ知らないのか、女湯には内湯があるんだ。受付と脱衣所がある建物とは別にな。それでさっき、内湯でくつろいでいたんだが、キミの連れていた女の子を見つけてな。もしかしたらと思ったんだ」

「へ?」

「いや、だから内湯だ。室内にある風呂」

「いや…そんなことは説明されなくても分かる。ふむ…サフラが入って来なかったのはそれでか」

「まぁ、そういうことだな。私のように気にしない者ならいいが、彼女のようにしおらしい女子には些か刺激が強いだろうな」


男湯には内湯がなかったので、女湯だけ特別な造りになっているようだ。

女性客を取り込む上では必要な配慮といったところか。

それを言うのなら男性にも内湯を作るべきなのだが、きっと女性よりも利用者が少ないと見越してのことだろう。

変なところに気を使ってくれているようだ。


「それよりレイジ、今朝の話を聞いたか?」

「ん?バレルゴブリンのことだろう?商隊が一つ壊滅したらしいな」

「あぁ、十数人のキャラバンだったようだが、一名を残して全滅らしい。ほとんどが非戦闘員だったというのもあるが、生存者の証言が確かならかなりの強敵だ」

「そうらしいな。並みのゴブリンとは別物と考えていいだろう。まぁ、退治されて安全が確認されるまでしばらく足止めだ」

「ほぅ?キミなら真っ先に討伐に向かうと思っていたんだが、意外だな」


言葉通り意外そうな顔をされた。

正確には、ほとんど目を合わせることが出来ないため、心中どう感じているのかは、視覚よりも聴覚の情報に頼り切りだった。


「俺にはサフラがいる。アイツを危険に曝すような真似はしたくないんでね。まぁ、昨晩のオッサンみたいに、直接害を及ぼされなければ基本的にはこちらから動くことはないさ」

「なるほど。守るモノがいる者の貴重な意見として受け取っておこう。私にも守るべきモノが居ればそう考えるかもしれない」

「何だ、アンタ、今までずっと一人だった言い方をするんだな?」

「その通りだ。いや、正確にはキミが連れていた子と同じ歳くらいまでだ。今は止まり木を転々とする渡り鳥だよ」

「腕にはかなり覚えがあるんだろう?身のこなしを見る限り、昨日のオッサンなんて足元にも及ばない風だったな」


体格差のある大男と対峙しても平然としていたところを見ると、実力もさることながら、踏んできた場数がそれを裏付けているように見える。

挑発的な中にも落ち着きを払い、隙を見せれば隠していた牙でガブリと、喉元を噛み付かれてしまいそうだ。


「昨日も言った通り、私はバウンティーハンターだからな。今までに何十匹も怪物を倒しては報奨金を得て生活してきたんだ。昨日の男程度ならオークやトロール数匹に出くわすのと比べれば些末なことさ」

「随分物騒なことをアッサリ言うんだな。やはりアンタとは敵として相手をしたくはないな…」

「フフ、そう敬遠しないでくれよ。一人が長いと言っても、たまには人恋しくなるんだよ?」

「あくまで手合わせという話だ…真に受けなくてもいい」

「ふむ、なかなか釣れない男なのか、キミは?冗談だったのだが」


言葉の通り、本当に残念そうな顔をした。

心なしか声のトーンも下がり気味だ。

別に敬遠をしたわけではなく、あくまでも自衛手段の一つとして、間に受けないようにしただけなのだが。

こういう場合は正直な話をするに限る。

下手に言い訳をすれば後でボロが出るかもしれない。

もちろん、彼女になら手の内を明かしても害はないだろうが。


「…正直なところ、見ず知らずの相手には、敬意を持って警戒するようにしている。気にするな」

「見ず知らずねぇ。さっき、あれほど舐めまわすような視線で身体を見られたんだが、あれでは足りなかったかな?」

「ば、バカ言うな、内面的な問題だ。見た目は関係ない。むしろ安心感のある相手ほど、出来る限りの警戒をするようにしている…」

「ハッハッハッ、やっぱりキミはからかいがいがあるな。大丈夫だ、そこまで気にしてはいないよ」


あまり感情を表に出さないタイプかと思えば、突然の大笑いだった。

近くでくつろいで居た男性客もコレには驚いたのか、僕の顔を見て困り顔をされてしまった。

対するニーナは特に気にした様子もない。

どうやら感情のオンとオフがハッキリとしている性格のようだ。

逆に、気に入らないことがあれば敵意を剥き出しにするのだろう。

そう考えれば昨日のケンカも頷ける。


「…それで、わざわざ世間話をしに来ただけなのか?」

「ん?あぁ、そうだな。キミに興味があった、と言っておこうか。それより、キミがバレルゴブリンについてどう考えているか疑問だったんだ。あわよくば共闘をと思ったんだが…なかなか難しそうだ」

「そうだな。さっき言った通り、サフラを危険な目に遭わせたくない。よほどの理由がない限り協力は無理だ」


受益の関係がハッキリしていればいいが、危険を承知で奉仕活動をするほど、今の僕に余裕があるわけではない。

人のために無償の愛を注げる人には頭が下がるが、僕にはまだそれだけの器でない。

タダで動けというのなら拒否権を行使して「無理だ!」と言わざるを得ないだろう。

だが、それを聞いてニーナの目が怪しく光った。


「ではキミに有益な情報を教えておこう。先頃ギルドからバレルゴブリンの討伐者に支払われる報奨金の額が決まった。金貨百五十枚だそうだ」

「なッ…百五十枚?銀貨の間違いじゃないのか!?」

「いいや、金貨であってるよ。何でも、襲われた馬車は、ある貴族様に届け物をする途中だったらしい。その積み荷の中に金貨百枚があったようだ。一度魔物に襲われ奪われた物資は所有権が失われるから、それがそのまま報奨金に上乗せされるというわけだ」

「なるほど…。いや、待てよ?と、言うことは、金貨五十枚分はギルドが負担するんだろう?たった一匹相手に過剰じゃないのか?」

「ギルド側もバカではないさ。それにも考えがあって、長い間物流が止まるのは経済にとって不利益にしか繋がらない。だから一日でも早く解決することが優先されたのさ。ギルド側も早く事件を解決して、メンツを守りたいという思惑があるんだよ。まぁ、今まで存在が確認されなかった個体だから、私は一体だけで行動しているとは思ってはいないがね。ギルド側もそれを薄々感じているからこそ、その金額なんだろうさ」


賞金稼ぎという職業柄と経験から判断したのだろう。

話を続ける中で、今まで人前に存在を明かすことの無かったバレルゴブリンが、何故逃げ場のないトンネルの中に現れたのかという疑問も持ち上がった。

疑い始めればきりはないが、一つの仮説として力に絶対の自信がある怪物なのだから、やってくる犠牲者を逃さないためではないかと言う結論に至った。

実際に現場となったトンネルの内情を知っているわけではないが、この世界の技術ではそれほど立派ということもないだろう。


仮にトンネルを通らない場合、迂回路になる道は石畳もない原野を歩くことになる。

原野となれば怪物の巣窟になる危険な場所もあるため、よほどの実力をもったハンダーでもない限り近寄りはしないだろう。

つまり、人を狩るという目的において、トンネルの中は格好の狩場ということになる。


「キミの仮説が正しいなら、やはりその線が濃厚だろうな。まったく、面倒な相手だよ」

「それで、アンタは一人でも戦うつもりなのか?」

「いいや。さすがに死にたくはないんでね。勝算がなければ挑むつもりはないさ。ただし、キミが協力してくれるなら、私は喜んで討伐に向かおうと思っているよ」

「まぁ…それについては考えさせてくれ。さすがに金貨百五十枚は魅力だからな」

「そうだろう?今ならキミの取り分が六、私は四でいい。どうだい、悪い話ではないだろう?」

「普通は半々が相場だろう…随分と気前がいいな。さすがにそこまで気を使われると気味が悪いぞ」

「じゃあこうしよう。キミと彼女、それぞれ三割と言うことにして、合わせればちょうど六割だ。これなら文句はないだろう?」

「…ハッキリ物を言え。返答次第では断らせてもらう」


別に悪い話ではないが、相手の意図が分からない場合は注意が必要だ。

お互いに気が知れた者同士で、どちらかの立場が上の場合なら話は別だが、今回はそういった事情もない。

現にこうして裸の付き合いをしてはいるが、これでお互いの距離が縮まったとは到底思えなかった。

身体の距離ということではなく、心の距離という意味でだが。

現時点ではどちらが上や下ということもないので、隠し事があるのなら明かしてもらわなければ信頼することはできない。


「ふむ…キミはなかなか…と言うか…。いや、慎重なのは長生きの秘訣とも言うからな。否定するのは止めておこう。わかった、理由を話す。私が欲しいのは目先の報奨金よりも、バレルゴブリンを倒したという事実だ。今は無名のバウンティーハンターだが、名前が売れていた方が何かと動きやすくてな。ギルドからも信頼を得られるわけだ」

「…なるほど。最もらしい理由…か。まぁいい、納得することにしよう。だけど、そんな回りくどい方法を取るより、試験を受けて正式な一員になったらどうだ?その方が早いだろう」

「残念ながらそうとは思っていなくてね。ハンターというのは、便利なようで不便な職業さ。常に義務が付いて回るからな。ギルドの命令はそのまま皇帝陛下の命令でもある。つまり、何があっても命令に従わなければならない。逆らった場合には相応のペナルティーもあるから、私の性格上向いていなくてね。それに、私が見るに、キミはどちらかと言えば私と性格が似ていそうだから、ハンターよりはバウンティーハンターの方が向いていると思うよ」


護られる変わりに義務を負わなければならない。

そうなればニーナの言う通り、ハンターになるのも考えものだ。

こちらの都合がある程度考慮されるとしても、命令という言葉はあまり好きではない。

むしろ、“嫌い!”と断言できる。

もう少しニーナからバウンティーハンターついて聞きたいが、そろそろサフラも湯から上がっている頃だろう。

正直なところ、長湯のし過ぎでのぼせる一歩手前だ。


「…わかった。討伐の件は保留にさせてもらう」

「あぁ、それでいい。自由意志は何より尊重されるからね」


情報をくれたニーナに礼を言って風呂を出た。

風呂上がりはよく冷えたコーヒー牛乳を身体が欲しているが、そんな気の利いたものなどあるはずもない。

いちごミルクでもいいが、それも無理だった。

いや、ここは炭酸の利いた清涼飲料を…。

考えるだけ虚しくなるので無心で着替えて外に出た。


建物の外では先に風呂から上がっていたサフラが待っていた。

一緒に出ようと約束しておいて、僕が遅れていては立つ瀬がない。

何だか昭和の名曲を思い出しそうなワンシーンだ。

季節が冬で、マフラー代わりの赤いタオル首に掛けていれば歌詞通りだろうか。

残念ながら僕は世代ではないため、詳しい知識はこの程度しか持ち合わせていない。


「悪い、待たせたな」

「うんん。そんなに待ってないよ。あッ、そう言えばね、内湯で昨日会ったお姉さんを見たよ。目が合ったらすぐ露天の方に行っちゃったけど」

「それならさっきまで中で一緒だった。いろいろ情報を教えてもらったんで遅くなったんだよ」

「そうなんだ。あッ!」


サフラは僕の背後を見て驚き、目を丸くした。

微かに背中から気配を感じる。

これはあまり望ましくない気配だ。

大袈裟に言えば厄介事の匂いがする。


「やぁ、レイジ。また会ったな」


気配の主は遅れて風呂から出てきたニーナだった。

着衣から覗く素肌は、サクラ色に染まって色っぽい。

先ほどはいろいろあったが、これはこれで魅力的だ。

風呂から出たタイミングもほぼ同じだったので特に不思議はないが、先ほどの話もあるから少し時間が欲しいところだ。

討伐に参加するという相談をまだサフラに打ち明けていないのだから。


「やぁ、じゃない。さっき散々話してたじゃないか?」

「おっと、愛する彼女との甘い時間を邪魔して悪かったよ。だから怒らないでくれ」

「茶化すな。サフラとはそんなんじゃない。俺の家族だ」


サフラもウンウンと頷いている。


「何だか、面白くない。でも、キミたちは全然似ていないな。腹違いなのか?それに、彼女の髪の色といい、瞳の色といい、イーストランド出身だろ?確か赤髪の一族が暮らしていたはずだ」


ニーナは気になることを言った。

その言葉が正しければサフラのルーツの手掛かりになるかもしれない。

ニーナが言った言葉だけでは情報が乏しいが、それ以上多くは語ってくれなかった。


「…それで、アンタはこれからどうするつもりだ?」

「暇だからね。キミたちの後に着いて行こうと…」

「勘弁してくれ」

「何だ、本当にキミは釣れないヤツなのかい?お姉さんは悲しいよ…」


女というのは、男にはない武器を持っている。

そう、涙だ。

どうみてもニーナの泣き方は嘘にしか見えないが、隣に居るサフラは心配そうに見つめている。

今は何を言っても聞き入れてもらえないだろう。

本当に、これだから女というのは…。

いや、そういうところも含めて、男は女に弱い生き物だという自覚はある。

結局、僕は彼女が納得する提案をしなければならないようだ。

その譲歩を受け入れるか否かは彼女次第ではあるが。


「…分かった、晩飯の時に落ち合おう。それで我慢してくれ」

「…釣れないねぇ。まぁそう言うことにしておこうか」


思った通りの嘘泣きだったが、とりあえずこの場はうまく切り抜けることが出来た。

僕らは夕食の前にこの場所で待ち合わせることを約束してニーナと別れた。

ご意見・ご感想・誤字脱字の指摘等がありましたらよろしくお願いします

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