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GunZ&SworD  作者: 聖庵
87/185

シーン 87

全ての負傷者を運び終え戻ってみると、すでに戦闘が繰り広げられていた。

二対五という不利な状況にも関わらず、二人はまだ無傷だ。

反対に二匹のマーナガルムは身体から血を流している。

二人は確実に相手の戦力を削り、戦闘を有利に進めていた。

そんな時、一匹が身を屈め、全身のバネを使ってアルマハウドに体当たりをした。

矢のように放たれたマーナガルムは、そのままアルマハウドの身体を簡単に吹き飛ばした。

ただ、衝突の間際に身体を後方に反らしていたため、ある程度のダメージは受け流している。

それでも、体重が普通乗用車並にあるため、普通の人間なら打ち所が悪ければ死んでしまうだろう。

だが、着ていた鎧と足首の高さまで積もった雪面がクッションになり、致命傷には至らなかったようだ。

アルマハウドは素早く起き上がり、追撃を仕掛けようとしていたマーナガルムに太刀を浴びせた。


マーナガルムの恐ろしさは統率された連携プレーだけではない。

特に脅威なのは、この凍てつくような環境下でも、常に身体能力が衰えないところにある。

通常、生き物は寒さを感じると筋肉が萎縮して運動性能が落ちてしまう。

そうなればいくら飛び抜けた身体能力を持っていても、最高のパフォーマンスを発揮することは難しい。

また、寒さで身体が硬くなっていれば怪我もしやすくなる。

マーナガルムは全身を覆う毛で体温を一定に保ち、この厳しい環境に適応していた。


「すまん、遅くなった!」


僕は慌てて援護射撃に適した狙撃ポイントへ移動すると、肩の力を抜いて銃を構えた。

先ほどは一体だけだったが、今回は五体を相手にしなければならない。

幸い、全てのマーナガルムが一斉に二人を攻撃しているわけではなく、散発的な攻撃によって的を絞らせないようにしている。

その度に攻手が入れ替わるため、適切な狙撃のタイミングを逸してしまう。

元々、拳銃では致命的なダメージには繋がらず、何発か撃つことで一時的に足止めをする程度の効果しかない。

僕の使う“M1911”にはリロードや射撃時の反動がないとはいえ、元々、機関銃のように弾を連続で発射するタイプの銃ではいない。

小型で扱いやすい利点はとても気に入っているが、相手が複数いる今回のような状況には不向きな面もある。


僕はこの状況に適した武器を求め、銃に念を込めると、“M1911”は全長が九百センチほどある自動小銃“AK-47”に姿を変えた。

自動小銃は実用的な全自動射撃能力を持ち、至近距離から中距離での狙撃性能も高い。

ただ、小型で扱いやすい拳銃とは違い、銃身が長いため細やかな取り回しは少し劣る面もある。

素早い動きを得意とした相手の場合、銃口を向けている間に間合を詰められる恐れもある。

ただし、今回のように少し距離を取った戦闘シーンにはとても向いている。


「二人とも、援護する!」


射線軸上に二人が入らないよう注意を払って銃口を向けた。

この銃は引き金を引き続けると装填された弾の数だけ発射することができる。

ちなみにこの銃の弾倉にはおよそ三十発の弾が入っている。

もちろんこれまでの銃と同様に、リロードも反動もないため、引き金を引き続けている間は装填数に関係なく、無限に弾が発射される。


僕は牽制を兼ね、セシルに襲いかかろうとしていたマーナガルムに弾を浴びせた。

“M1911”より貫通力が高い“AK-47”は数発で足止めの効果を表し、その隙にセシルが雷を帯びた渾身の一撃で切り伏せた。


「その調子だ!次を頼む」


手応えを覚えたセシルは嬉々としていた。

残るマーナガルムはあと四体。

こちらの損失は特になし。

サフラとニーナは万が一に備え僕の後ろで待機しているが、この調子なら出番はないだろう。


「すまん、二人とも、背中を任せるぞ」

「気にするな。キミは公爵たちの援護に集中してくれ」


ニーナは辺りに警戒しながら戦況を見守っている。

実際、一番頑張っているのはアルマハウドとセシルだ。

僕はいつも通り、引き金を引くだけの簡単な仕事を淡々とこなすだけでいい。

仲間が倒されマーナガルムたちは浮き足立っていた。

元々、連携プレーが得意な魔物のため、数が減ればそれだけ優位性がなくなっていく。

僕は間髪入れずに残りのマーナガルムに銃弾を浴びせた。

拳銃とは違い、連射性能に優れる“AK-47”は想像以上の戦果をもたらしてくれた。

当たり所が悪ければ数発でマーナガルムの動きを完全に封じ、怯んだ隙に二人のどちらかが止めを刺す。

気が付けば残るは身体が一番大きな個体だけになった。


「信じられん…」


不意に背後から声が聞こえた。

声の主は先ほどドワーフのリーダーだ。

リーダーを務めるだけあって、彼もそれなりに実力を持っているのだろうが、たった三人で五体のマーナガルムを殲滅していく僕らを、得体も知れない恐ろしいモノを見る目で見た。

僕はそんな事には気にせず、残った一体の動きを封じる。


「今だ、やれ!」

「うおおおッ!」


アルマハウドは雄叫びをあげ、渾身の力を込めて剣を振るうと、完全に息の根を止めた。


「やったか…」

「二人とも、お疲れさん」


戦いを終えた二人の労をねぎらうと、アルマハウドも珍しく安堵の表情を浮かべた。

彼自身、一時は危うい場面もあったが、終わってみればかすり傷程度しか負っていない。

さすがは歴戦の猛者たちだと感心する。

アルマハウドは大剣についた返り血を払い、背負っていた鞘に剣を収めた。


「そちらも片付いたようだな」

「あぁ、負傷者はみんな医務室だ」

「キミの援護があって助かったよ。その銃は初めて見るな?」


セシルは僕も持つ銃を興味深げに眺めた。

思えば両手持ちの銃を手にしたのはこれが初めてだ。

ショットガンも銃身が短く、片手で使用することができた。


「これはアサルトライフルだ。拳銃よりも大きくて両手が塞がってしまうのは難点だが、援護射撃にはちょうどいい」

「確かに、物凄い勢いで弾が飛んでいたな。私も初めは驚いたよ」

「拳銃とは性質が違うからな。弾の形状も違うだ」

「そうなのか?銃というものは奥が深いのだな」


セシルは感心して頷き、一人で納得していた。


「さてと、改めてアンタに質問だ。コルグスに会わせてもらえないか?」


少し離れたところで、先ほどのリーダーの男が立ち尽くしていた。

まだ、戦闘の余韻が残っているのか、“心ここに在らず”と言った顔をしている。


「あ、あぁ…すまなかった。まだ目の前で起きたことが信じられなくてな」

「戦いは終わったんだよ。それで、そう言えばまだ名を名乗っていなかったな。俺はレイジ。特使として和解に来た」

「レイジ…?その名前、以前コルグス様から聞いたことがある。まさか、アナタがそうだったのか。私はケルド。ここの部隊長だ」

「ほう、それなら話が早い。それで、彼はどこにいる?」

「生憎、コルグス様はここには居ない。今は王宮に居られるよ」


ケルドと名乗ったドワーフは僕らへの警戒を解き、同時にマーナガルムを退けてくれた礼を言って頭を下げた。

彼によれば、この施設は南からの侵攻を防ぐ目的で立てられた防衛の前線基地らしい。

元々、人間から身を守る目的で建てられたが、ここ最近ではこの辺りに住み着いたマーナガルムを殲滅する拠点として機能していたしい。

今回の戦闘でドワーフ側には何人かの死者が出たものの、僕らが加勢しなければ被害はさらに甚大なものになっていただろう。

下手をすれば全滅という最悪の事態に陥っていたかもしれない。


「何度も重複するようで悪いが、俺たちは戦いに来たんじゃない。和解を申し入れに来た」

「和解…か。確かに、あなた方は我々の知る人間像とはまるで違っていた。命の恩人だ、感謝している」

「困っている相手を助けるのは当たり前だからな。友好の証に土産も持参した。コルグスに会わせてはもらえないか?」

「…分かった。では明日、あなた方を王宮へ案内しよう」


不意に誰かの腹の虫が鳴いた。

振り向くとその主はニーナで、緊張感を台無しにしてしまったと顔を赤くしている。


「す…すまん…」

「そういえば食事がまだでしたな。急いで用意させます。今日は酒宴といたしましょう」


ケルドは仲間に告げて早速準備に移らせた。

僕らはその間、会議室へ案内され、しばらく待つように言われた。

それからさらにしばらく経って、食事の準備が整ったと告げられた。


「こちらのお部屋にご用意しております」


コック帽を被ったドワーフが迎えに来た。

部屋に案内されると、結婚式の披露宴会場のような広間に、豪華な料理が並べられている。

特に目を引くのは、牛を一頭丸焼きにした豪快な料理だ。

他にも見たことの無い食材で作られたスープやサラダなどが並んでいる。


「取り急ぎ用意したのでこの程度しか用意できず申し訳ない」

「いえ、十分過ぎますよ」

「では、冷めないうちにお召し上がりください」


食事の席に参加したドワーフたちは士官クラスの軍人だった。

最初は怖い顔をしていた彼らも、ケルドの説明で徐々に心を開き、乾杯が始まる前には敵意が完全になくなっていった。

ケルドが酒宴と言った理由はすぐに分かった。

ドワーフたちは普段、飲み水代わりに酒を飲むらしい。

地下世界では地上に比べて水資源が豊富ではなく、飲み水を得るのは簡単ではない。

代わりに、アルコール分を含んだ酒は長期の保存が利き、身体を芯から温めることが出来る。

そのため、比較的乾燥に強く、地下の暗い世界に適応した葡萄の品種でワインを作っているらしい。

特にドワーフたちはアルコールを分解する能力が人間よりも高く、子どもでも少し酒を飲んだくらいでは酔うことがないらしい。


ケルドが乾杯の音頭を取ると、士官たちは一斉にグラスを空にした。

僕は何とかグラスの半分くらいまで飲んでみたが、一度にたくさんの酒は身体が受けない。

それを見てケルドが不思議そうな顔した。


「お口に合いませんでしたかな?」

「いえ、味は大丈夫なんです。ただ、酒を飲むという習慣がないもので」

「なるほど。人間はあまり酒がお得意ではないと?」

「あなた方ほど強くはありませんよ。元々、身体の構造が違うからでしょう」


よく見るとサフラも無理をして酒を飲んでいた。

この世界では成人しか酒を飲んではいけないという法律は無い。

むしろ、子どもは小さいうちから酒を嗜むものと主張する者もいる。

ただ、それは前世の知識から、脳の発育を阻害する恐れがあるため、僕は極力サフラには酒を飲まないようにと言い聞かせていた。


「おい、大丈夫か?」

「う、うん…」

「顔赤いぞ?」


今までの経験からサフラが酒に強くないことは知っていた。

少量ならどうと言うことはないが、一度にたくさん飲んでしまえば許容量を超えてしまう。

加えて今は空腹時だ。

空腹時はアルコールが吸収されやすく、酔いが回りやすい。

サフラは空気を読むタイプなので、周りに合わせて一気にグラスを空にしてしまったようだ。

おかげで焦点が定まっていない。

彼女が大丈夫と気を張っていたので注意する程度だったが、突然テーブルに倒れ込んでしまった。


「サフラッ!」


顔が真っ赤になり息が絶え絶えになっている。

無理をし過ぎて急性アルコール中毒の一歩手前の状況だ。

騒然とする会場の中で、僕は冷静さを何とか保ちサフラを抱えると、ケルドに急いで部屋を用意させた。

お酒は二十歳になってから。とは言え、成人でもお酒が弱い人に対して無理に飲ませてはいけません。


過去に、友人が飲みすぎて救急車を呼ぶ一歩手前にまでなってしまいました。

そんな姿と今回のサフラが重なって見えます。(汗)




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