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GunZ&SworD  作者: 聖庵
85/185

シーン 85

あと一日ほど進めばノースフィールドの入口というところまでやって来た。

すでにマンイーターが出没する湿地帯は抜けたが、ここから先は寒さとの戦いが本格的に始まる。

実際、昨日までの気候では零度を下回ることはなかったが、今は粉雪が舞い始め、飲み水も凍っている。

喉を潤すにも、食事を作るにも、一度鍋に氷を移し、それを温めてから使う必要がある。

とても面倒だが自然相手では文句も言ってはいられない。

烈火石のストックはたくさん用意しておいて正解だ。


湿地帯を抜けたおかげで旅事態はすこぶる順調だった。

当初予定して行程より早く進んでいる。

元々、行程は移動の際、外敵に襲われるおおよその回数を予測し、それらを退ける時間から割り出したものが参考になっている。

つまり、セシルが素早く危険を処理する今なら、ほとんど停車することなく先へ進むことができるというわけだ。

おかげで予定していた行程が大幅に短縮された。

ニーナも自分より早く危険を察知するセシルに多大な信頼をおき、御者として単純な作業をこなすだけだ。


「サフラ、寒くないか?」

「私は大丈夫。でも、御者台のニーナさんは大変かも?」


馬車と言うものは全面が覆われた自動車とは違い、運転席である御者台が外に露出している。

そのため、寒さを遮るものが何もなく、身を守るには厚着をするしかない。

ニーナ曰く、寒さには強い体質のようで、今くらいの気温なら普段より少し厚着する程度で過ごせるようだ。

僕には信じられないことだが、彼女は平気な顔をしていたので、無理をしないようにとだけ伝えてある。

ちなみに、荷台は以前の改修工事で御者台との間にカーテンを取り付け、直接身体を冷やす心配はない。

多少のすきま風は気になるが、カーテンがあるのとないのでは大違いだ。


馬車の外で何かが断末魔の悲鳴を上げた。

どうやらセシルが外敵を退けたらしい。

剣を持った時の彼女は“最強”の名に恥じない働きをする。

敵を見つけると馬車の屋根から飛び降り、剣の一振りで決着をつけて戻ってくる。

以前、ニーナの事を猫科の“豹”に例えたことがあったが、セシルの場合は猛禽類の“鷹”というべきか。

そう思わせるのは彼女の戦い方にある。

多くの場合、彼女は高く飛び上がり、狙った相手を空から音も無く強襲する。

その姿は小動物を獲物にする猛禽類とよく似ていた。

その点、アルマハウドを動物に例えるなら“熊”だ。

相手を真っ向から力でねじ伏せる戦い方からそう感じている。

実際、彼の体格は大柄で、剣を振り上げた姿は実物の熊以上に迫力がある。


「ニーナ、スピードを落とせ!」


不意に屋根の上にいたセシルが声をあげ、ニーナはすぐに手綱を引いた。

僕は状況を確認するため御者台へと移動し、周囲に注意を払った。


「どうした!?」

「以前来たときにはなかった物が見える。あれは要塞のようだ」


セシルは荷台の屋根に立って遠くを見つめている。

僕も屋根に上がってセシルが指差す方向を見ると、不干渉領域には不釣り合いな石造りの構造物が見えた。

かなり距離があるため正確な大きさは分からないが、見えている限りでは横幅が五十メートル近くある巨大な施設だ。

三階建ての建物で、僕らの進行方向にあることから、南からの侵攻を防ぐ前線基地と見て間違いないだろう。

セシルによれば、一年前には影も形もなかったらしい。

つまり、ここ一年あまりの短い時間で作られたことになる。


「ドワーフが作ったモノと見て間違いないなさそうだ。見ろ、屋上に見張りのドワーフが居る」


セシルの指摘通り、目を凝らすと屋上には武器を手にしたドワーフの姿が見えた。


「どうする?」

「言ったろ、俺たちは戦いに来たんじゃない。話し合うために来たんだ」

「では、ヤツらから攻撃を仕掛けてきたらどうするつもりだ?」

「正当防衛で身を守るのは当然だ。だが、決して殺すんじゃないぞ。無力化して制圧する」

「まったく…簡単に言ってくれるな」

「お前ほどの腕があればたやすいだろ?」

「まぁ…そうだな」


相手との力量に差が少なければ“殺さず”は難しくなるが、セシルやアルマハウドほどの使い手ならそれほど難しくはないだろう。

正当防衛の反撃も無力化することが目的で、間違ってもこちらから攻撃することだけは避けたい。

万が一こちらから攻撃を仕掛ければ相手に不信感を与え、作戦そのものの遂行が難しくなる。

ちなみにセシルの専門は“殺し”だが、今回のように“殺さず”の経験はほぼ皆無らしい。

僕らは彼らを刺激しないよう、慎重に馬車を進めた。


「引き返すなら今のうちだぞ?」


手綱を握るニーナの表情が引きつっている。

それもそのはずだ。

僕を含めた全員に武器の所持を禁止しのだから。

サフラ以外は素手でも十分に強い面々が揃っているが、それは相手もこちらと同じ条件の場合に限ったこと。

だが、こちらが争う意志を見せないことで、彼らの気持ちを逆撫でせず、対話に持ち込むことが出来ればと思っている。


「気付かれたぞ!」

「慌てるな!セシル、白旗をあげろ」


セシルは長い竿の先に白い布を取り付けた旗を掲げた。

これは事前に用意しておいたものだ。

この意思表示が相手に伝わるのかは不明だが、何もせず不用意に近付くよりはマシだろう。

見張りをしていたドワーフは僕らに気が付き、数名が武器を持ってこちらへと駆けて来た。


「貴様ら、何者だ!その姿…人間か!?」


ドワーフの中でも年長者と思われる男が声を上げた。

どうやら彼らのリーダーらしい。

僕は馬車から降りて彼らに歩み寄った。


「俺たちは争いに来たんじゃない。話し合いに来た!」

「話し合う…だと?そういって我々を謀ろうというつもりか!」

「違う!見ての通り俺たちは丸腰だ。戦う意志はない」

「信じられるものか。人間どもはそうやって我々を虐げてきた。お前たちは野蛮な生き物だ!」


どうやらこの男には何を言っても無駄らしい。

彼らの常識では人間は野蛮という常識があるため、仕方ないと言えばそれまでだ。

元々、要塞で警備を担当する彼らはドワーフの中でも血の気の多い者たちだろう。

対応を誤れば一触即発という状況だ。

出来れば正当防衛であろうと手は出したくない。


「俺たちはコルグスに会いに来た。彼に会わせてもらいたい」

「き、貴様…何故ゴルグス様の名前を!?」

「彼に渡したい物がある」


僕はいつも身に着けておいたコルグスのペンダントを取り出した。

トルコ石に似た薄緑色の金属は何度見ても神秘的だ。

形も独特で、涙の形を模した流線型をしている。

ダマスカス鋼はドワーフ族にしか精製することが出来ないと聞いていたため、交渉材料としては効果があるだろう。

ペンダントを見たドワーフたちは一斉にどよめき、中には自分の目を疑っている者もいる。


「そ、それはコルグス様の…一体どこで手に入れた!」

「これは本人から直接受け取ったものだ。俺たちはこれを返しに来た」


本当はペンダントを返しにきたわけではない。

あくまでも話し合いにきたのだ。

ただ、彼らを説得するにはこう伝えた方が効果的だろう。


「返すだと…?貴様、そのペンダントが何を意味しているのか分かっているのか!?」

「いや。だが、そんなことは関係ない。俺たちはコルグスの面会を希望する」

「…ええい、皆のもの、こやつらを捕らえろ!!」


リーダーの男は部下たちに命令をし、数名のドワーフたちが馬車を取り囲んだ。


「お、おい、レイジ!?」

「みんな、手は出すな!」


うろたえるニーナを制止しつつ、臨戦態勢に入ったアルマハウドとセシルを諭した。

僕らはそのまま要塞の中へ連れて行かれた。

仮に僕らを殺すつもりなら、わざわざ中へ連れて行く必要はないだろう。

僕とサフラは心配をしていないが、アルマハウドとセシル、ニーナの三人はいつでも反撃できるよう気を張っていた。

ただ、僕らはすでに後手で拘束されているため、反撃するにも大した対処はできない。

そのまま僕らは地下室の牢に閉じ込められた。


「…で、これがレイジの望んだことか?」


薄暗い牢の中で五人仲良く相部屋だった。

閉じ込められた際、拘束されていた腕は開放され、今は自由に動かすことが出来る。

セシルは眉間に皺を寄せ、難しい顔をした。


「殺されなかったろ?彼らにも何か考えがあってのことだ」

「で、この状況はいつまで続く?」

「慌てても仕方がない。このまま時が来るのを待つ」

「処刑されるのを待てと言うのか?」

「殺すつもりがあるのなら、わざわざ捕らえる必要があると思うか?」

「た、確かにそうだが…」


ちなみに僕らは丸腰だ。

いや、正確には僕の銃だけは何とか死守している。

元々、彼らには銃が武器という概念がないため、ホルダーに収めたままの銃は取り上げられることが無かった。

代わりに他の四人の武器は取り上げられているため、今はどこにあるのかも分からない。

装備を積んだままの馬車はそのまま奥へと運ばれていった。

悪戯をされる心配はないと思うが、これまで歩き詰めの馬は腹を空かせているだろう。


「…地下室か。ドワーフらしい施設だな」

「確か、ドワーフは普段、地下で暮らしているんだよな」


永久凍土の大地が広がるノースフィールドでは、一年を通して雪に閉ざされ、冬場の最低気温は地球の北極と変わらない。

そのため、凍てつく暴風雪を避けるため、彼らは地下に穴を掘って都市を建設して暮らしている。

また、彼らが作り上げた地下世界には外敵がおらず、ハンターギルドのような治安維持の組織は存在しないらしい。

それでも、時より攻めて来る人間たちから身を守るため、独自に軍隊のような組織を作っているようだ。

ただ、自発的に攻撃を加える集団ではないため、どちらかと言えば日本の自衛隊に似た組織というのが正しいだろう。


「地下では息が詰まるな…」


ニーナは少し息苦しそうに呟いた。

実際、地下世界では地上よりも酸素が薄い。

ちょうど標高が二千五百から三千メートル程度の高地と同じくらいの濃度だろう。

この環境下で急に激しい運動をすれば高山病にかかる危険性がある。

対処法としてはあまり身体を動かさず、深呼吸を心がけることだ。

他にも睡眠中は呼吸の回数が減る傾向にあるため、なるべく眠らないようにする。

出来れば十分な水分補給も必要だが、閉じ込められている現在の環境では難しい。


「この柵はダマスカス鋼か。なるほど、容易に破壊することは不可能か」


アルマハウドは牢の柵を眺めて一人感心していた。

ダマスカス鋼はミスリルやテイタンとほぼ同等の強度がある。

つまり、鉄や鋼鉄よりも強度があるため、簡単に破壊することはできない。

柵を破壊して脱出するのはほぼ不可能だろう。

無意味で口惜しい時間がゆっくりと流れていった。

ファッションとは言え、冬でも薄着に徹する女性には感心します。

ただ、話に聞くと寒いのを我慢しているみたいですねぇ。(苦笑)

それでも可愛く見せようと努力する姿って、健気でいいじゃないですか!


個人的にはパンツルックでもスカートでも、上手に着こなしていればどちらが好きと甲乙が付けられません。

でも、ボーイッシュな子に魅力を感じるんで、服装にミリタリーを取り入れてる子を見ると…。(ポッ)


脱線しましたが、そろそろ物語りは中盤に差し掛かってきました!(たぶん)




ご意見・ご感想・誤字脱字の指摘等があればよろしくお願いします。

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