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GunZ&SworD  作者: 聖庵
84/185

シーン 84

朝は酷く底冷えして、吐いた息で視界が白く染まる。

さすがに氷までは張っていないが、もう少し北上すれば雪が降りそうだ。

元々寒いのは苦手で冬はコタツが友達だったが、この身体に生まれ変わってからは以前ほど辛く感じない。

寒さを感じるセンサーが鈍くなったというより、以前よりも寒さへの抵抗力が増しているようだ。

寒くなれば身体が反応して体温を高く保っている感じがする。

ただ、積極的にエネルギーを燃やして熱を生み出しているからか、今朝はいつも以上に空腹感が酷い。

僕らは朝食を食べ終え、旅の行程を再確認してノースフィールドへの旅を再開した。


昨日、マンイーターとの戦闘で疲弊した身体は、一晩休んだことで完全に回復していた。

ネガティブだった気持ちも晴れ、今はこの旅を成功させようという気持ちの方が強い。

実際、あのまま弱り果ててしまうのではと、心配する気持ちも少なからずあったが、どうやら考え過ぎだったようだ。

リンカーではないニーナは、こんな代償を払って剣を振るっているのかと思うと、無理はさせられないと思う。

実際に経験したから分かる苦労だ。

それを考えればセシルの異常性に気が付く。

能力を湯水のように使い、人間離れした身体能力と銃の威力を遥かに超える電撃は脅威だ。

アルマハウドが彼女の事を“人間の中で最強”と言った理由がよくわかった。

そんな彼女は今、このパーティーを護衛している。

積極的に敵を迎撃している彼女なら、この先どんな化け物が現れて大丈夫だろう。

何しろ不干渉領域の中で最強のマンイーターを凌駕する実力を備えているのだから。


昨日の戦いから御者はニーナが担当している。

膝の上に置いた地図を見ながら、みんなで確認した安全と思われるルートを辿っていく。

セシルは昨日の教訓から、荷台の中ではなく、屋根の上で待機している。

危険が迫ればいち早く飛び出し、あらゆる敵を殲滅していった。

そうして彼女が通り過ぎた跡には黒く焦げた死体だけが残る。


荷台の中は僕とサフラ、それに目を閉じて身体を休めるアルマハウドの三人だけ。

セシルが場所を空けてくれたおかげで、車内を広く使うことができ、足を伸ばしても窮屈にはならない。

サフラはまだ昨日の疲れが抜けていないのか、うとうとしながら目を半分だけ開けていた。

いっそ眠ってしまえば楽になるのに、サフラは眠らないよう我慢しているようだ。


「眠いなら寝てもいいんだぞ?」

「だ、大丈夫…」

「大丈夫には見えないから言ってるんだ。ほら、薄着だと風邪ひくぞ?」


前世でもそうだが、この世界でも女の子のファッションは男子に比べて露出度が高い。

特に太ももまで長さのある薄手のニーソックスを履き、丈がとても短いワンピースを身に付けている。

もちろん、太ももには絶対領域と呼ばれる肌を露出した部分があり、サフラはこの寒さでも平気な顔をしていた。

元々、寒がりの僕は、可能な限り厚着をし、首にはマフラーまで巻いている。

手には毛糸で編んだ厚手の手袋まで付けているから、雪山でも凍えないくらいには対策が出来ていた。

サフラもまったくの薄着と言うわけではなく、お気に入りのポンチョをワンピースの上に着て寒さ対策をしている。

それでも僕から見れば十分に薄着に見え、寒くないようにと、余分に用意しておいたコートを掛けてやった。


「あ…ありがとう」

「体力を消耗して寝不足だと風邪をひくぞ?体調管理も重要な旅の一部だからな」

「うん…心配かけてごめんね」

「気にするな。ほら、肩を寄せた方が暖かいぞ」


一人分の距離を空け座っていたサフラを呼んで肩を寄せ合う。

寒いときは風呂に入って身体の芯から温めたいところだが、あいにくここにはそんな贅沢な設備はない。

家を離れてまだ数日だが、急に家が恋しくなった。

ペオは今ごろ何をしているだろうか。

仕事を頼んでおいたから順調に進んでいるといいが、ダメなら帰ったあとで力を貸してやればいい。

そのためにも今は旅を成功させる。

そして、一人の犠牲も出してはいけない。

僕はこの旅ではリーダーだ。

采配一つで仲間を危険にさらしてしまうかもしれない。

慎重な指揮と、時には大胆な方策も必要になる。


そんな事を考えているうちに、傍らでは規則正しい寝息が聞こえてきた。

安心して眠ったサフラの横顔は天使そのものだ。

僕は笑顔の次にこの寝顔が好きだった。

反対に昨日見た泣き顔はどうしても好きになれない。

サフラにはいつも笑って元気でいてもらいたい。

そのためなら僕は何でもしてやりたいと思う。


「…護る者、か」


アルマハウドは目を閉じたまま深い溜め息をついた。

何かに落胆したと言うよりは、自身の過去を振り返っているような素振りだ。


「どうしたんだよ、急に?」

「お前たちを見ていたら少し昔のことを思い出した。まだ私が名も無き剣士だった頃の話だ」

「昔話か。差し支えなかったら聞かせてくれないか?先はまだ長いからな」


アルマハウドは一呼吸を置いて深く頷いた。

昔話といっても今から十年近く前のことらしい。

当時、彼は駆け出しのハンターとして、各地に赴いて人々の安全を守っていた。

現在でもそうだが、当時は今ほど実力が伴っていなかったため、請け負う仕事もそれほど難しくないものばかりだったそうだ。

そんな中、彼はとある女性と出逢いをしたらしい。

それは若くて美しい貴族の娘との出逢いだった。

帝都でも一、二を争うと言われた美女で、きっかけは彼女の護衛役だったらしい。


「護衛役か」

「あぁ、当時はそんな仕事ばかりをしていたんだ」

「今からは想像できないな。まぁ、最初からそこまで強くなかったということか」

「その通りだ」


アルマハウドが彼女の護衛役を請け負ったのは僅かな時間だった。

帝都から交易都市への移動。

普通なら二日もあれば移動ができる距離だ。

ただ、その時は全ての行程が終わったのが三日経ったあとだったらしい。

理由は街道を占拠していたオークの一団だ。

十人を越える群れで街道を行き来する旅人たちを専門に襲っていたらしい。

特に、豪華な作りの馬車を好んで襲い、貴族たちの間に被害が広がっていたそうだ。


「金目当ての犯行か?」

「いや、本当の目的は食料だったそうだ。貴族というものは日に三度食事をする。昼食も大事な食事と考えているから、ウマイものを馬車に積んでいたんだ」

「なるほどな…」


それは、アルマハウドが護衛した女性の馬車も例外ではなかった。

女性は婚約のために交易都市を目指していたため、食料のほかに輿入れのための家財道具や豪華な宝飾品を数多く運んでいたらしい。

食べ物に釣られて集まってきたオークの数は全部で十二体。

対する護衛側のハンターはアルマハウドを入れて三人。

アルマハウドが馬車を守りながら、残りの二人がオークを迎撃するという陣形で戦いが始まった。

数では絶対的な不利があったものの、仲間の一人が魔具使いということで、戦力に大きな開きはなかったらしい。

ただ、その魔具使いはリンカーではなかったらしく、戦況が変化するに連れて精神を疲弊し、最後には戦えなくなり命を落としたそうだ。

もう一名も深手を負ったが、残ったアルマハウドが何とか残りを討ち取った。


「残りって言っても、今の話だと一人で五体も倒したのか?」

「あぁ。あの時は無我夢中だった。生きていたのは奇跡だな」

「それで、その話はそれだけじゃないだろ?」

「まぁ焦るな。本題はここからさ」


ここから少し昔話の方向性が変わっていった。

アルマハウドの戦いによって命を救われた彼女は、彼に恋心を抱いてしまったらしい。

しかし、翌日には婚約者への輿入れを控えており、その恋は決して叶わないものだった。

アルマハウドもそれをよく理解していたため、彼女に対して特別な感情が生まれないよう自制を心がけていたそうだ。


「美女との恋愛話か。お前にもそんな事があったんだな。いや、変な意味じゃなくてな」

「ふん。私だって人並みの感情は持ち合わせているさ。普段は押し殺しているがな…」


彼が普段、感情を表に出さないのは二つの理由から。

一つはいつでも戦える心構えを崩さないため。

心に迷いがあれば、戦いに少なからず影響を及ぼすため、剣を振るう時は必ず感情を押し殺す。

残ったのは相手を打ち倒すための殺意だけ。

彼のことをよく知らなければ、ただの戦闘狂としか映らないが、実のところそうではない。

もう一つは感情表現があまり得意ではないということ。

こちらは生まれ持っての性格で、対人恐怖症とまではいかないが、不特定多数の人たちに心を開くのが苦手らしい。

ただ、ある程度気心が知れた相手ならば話は別のようだ。


「お前、案外シャイなんだな?」

「うるさい。私も好きでこうなったわけではないさ。生まれつきだ」


僕とこうして話をしているぶんにはそんな一面は見られない。

普段、よく無愛想にしているが、初めから気安いタイプの人間は疑いたくなる質のため、どちらかと言えばアルマハウドくらいストイックなタイプの方が接しやすい。

彼は一つ咳払いをして話を続けた。

オークを倒した晩、その日は野宿になってしまったらしい。

予定より行程が遅れたため、仕方なくということだ。

実際、オークとの戦いから、護衛役を務められるのがアルマハウド一人になってしまったため、寝ずの番で馬車を警護したらしい。

それだけ聞けばただの苦労話だが、ここで終わらないのがこの昔話だった。


徹夜が確定し、火の番をしていた彼の元に、彼女が現われた。

その姿は透き通った極薄生地のランジェリー姿で、話の内容からそれがキャミソールだと分かった。

ただし、下着は身に着けておらず、薄い布の下には生唾を飲む込むほどのしなやかで艶かしい肌が微かに覗いていたそうだ。


「おいおい…それ、誘われるじゃないか」

「あぁ…さすがにあの時は肝を冷やした。何せ生殺しだからな…」

「確かに、これから人妻になろうって美女には手が出せないよな…」


彼女は何も言わずアルマハウドの隣に座ると、肩を寄せ合い耳元で囁いたそうだ。

「今宵、私たちを邪魔する者はおりません」と。

言葉通りのお誘いだった。

並みの精神を持った一般男性なら、それで理性が吹き飛んでしまうだろう。

僕だって生唾を飲み込むほど魅力的な女性なら、その場の感情に流されてみたくもなる。

ただ、生真面目なアルマハウドはその誘いを丁重に断り、傍らで一夜を過ごすことだけは何とか許可したらしい。

一晩中、いい匂いのする女性がずっと隣に居たため、理性がオーバーヒート寸前になったのは言うまでもないようだ。

結局、男女の関係には至らなかったものの、僕とサフラの光景を見て当時のことを思い出したらしい。

アルマハウド曰く、男性の本分は女性を守ること。

何があっても、たとえ命を賭してでも、それが愛する人のためであれば尚更だと彼は言った。


「惜しいことをしたな。黙ってたらバレなかったんだろ?」

「無理を言うな。そうやってクライアントに手を出した仲間が処刑をされたことだってある。命が惜しければ、黙って心を無にするしかないんだよ」

「まぁ…命を投げ打ってまで欲望に流されたらお仕舞いだよな…」

「ふん。それよりだ、お前はその娘を死ぬ気で守れ。それが男として生まれてきた定めだ」

「分かってるよ。サフラは家族だ。誰が何と言おうと守り抜いて見せるさ。もちろん、居候をしているニーナも例外じゃない」

「そうか。そう思っているのなら、私が口出しすることではなかったな。マンイーターとの戦いを見ていたが、あの時のお前は、真に男だったよ。もし、私が女だったら惚れていたかもな」

「よせよ、褒めたって何も出ないぞ?」


マンイーターとの戦いは僕とサフラの心を近づけるきっかけになったと思う。

それまで、ニーナとの修行で強くなっていく彼女を見て、もう僕は必要ではないと勝手に思い込んでいたが、今回のことでそれは間違いだと気がついた。

彼女には僕が必要だ。

そして、僕にも彼女が必要だ。

もちろんニーナだって例外ではない。

家族は誰一人として欠けてはいけないのだから。

それを思えばペオも大切な家族だ。

ペオが待つ家に無事帰ることを、揺れる馬車の中で強く胸に誓った。

作者としては、普段無口な人が喋ると、「一体何を話すんだろう?」って興味が出たりします。

今回、あまり自分のことを話したがらない“アノ人”が、昔話をしていましたね。


“竜殺し”なんて物騒な通り名を持っていますが、彼には彼の美学や考えがあって毎日を過ごしています。

と、言うわけで、今回は“アルマハウド回”をお送りしました。(笑)




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