シーン 8 / 登場人物紹介 3
【登場人物紹介】
ニーナ=クリステル
バウンティーハンター(賞金稼ぎ)を生業にする女性。年齢は22歳を自称。(幼い頃の記憶がハッキリしないため、正確な年齢は不明)出生・出身地等は不明。
女性ながら一人で各地を巡って怪物を倒して周っている。ゴブリン程度なら相手にならず、上位種のオーク・トロールと対峙しても物怖じしない。
誤解されがちだが、決して人付き合いが苦手ということはない。好き嫌いがハッキリしており、気に入ったモノにはとことん追求するが、気に入らなければ視界に入るのも嫌う。
性格は「S」で猫っぽい。可愛いモノと強い男が大好き。
使用武器:ショーテル(三日月形のサーベル)、投擲用の投げナイフ、錘=スイ(極細のチェーンの先に分銅が付いた武器)
ようやく主人公とヒロイン以外で重要なキャラクターが登場しました。豪快で強くカッコイイお姉さんのイメージです。彼女が物語にどの程度絡むのか、今後の活躍にご期待ください。
2012/04/14 改稿済み。
翌朝。
昨日買った真新しい衣装に着替え、旅支度を済ませて宿を出た。
今まで世話になったトレードマークとも言うべきジャージは役目を終え、今はバックパックの中にある。
サフラも新しいワンピースに袖を通し、その上からカーキ色のポンチョを纏っている。
丈は長めなので裾は太股の辺りまで届いていて可愛らしい。
フードも付いているので雨風を凌ぐのはもちろん、日中の日差しから肌を守るのにも役立つだろう。
元々、サフラは色白なタイプなので、多少日焼けをした方が健康的に見えるとは思うが、紫外線は肌に良くないというのは、前世の知識から引き継いで記憶している。
遮れるものなら浴びないに越したことはない。
二人で連れ立って路地を抜けると、ザワザワとした喧騒が聞こえてきた。
喧騒の原因はキャラバンギルドに詰めかけた旅人や行商人たちによるものだ。
建物の中に入れない順番待ちの列が続いている。
長さにして十数メートルと言ったところか。
朝なので旅立つには最良の時間帯ではあるが、この混み具合は一目で異常と分かるほど。
「何かあったのか?」
「うーん、何だろうね?」
しばらくすると近くで話をする男たちの声が聞こえてきた。
聞き耳を立てると、街道の途中にある『ロックケイブ』と呼ばれるトンネルに見たこともない怪物が現れ、今朝早く出発した商隊が壊滅したらしい。
男たちの話から怪物はゴブリンと良く似た特徴があるらしいが、身体が樽のように巨大で、腕力も並なゴブリンとは比較にならないほど怪力だという。
たった一人生き残った若い男性の目撃証言によると、並みの人間が両手持ちでやっと使いこなせる“ツーハンデットソード”と呼ばれる大剣を片手で軽々と扱い、一振りで馬車を両断したという。
同行していたバウンティーハンターは、まるで赤子の手を捻るようになぶられ、着ていた甲冑ごと真っ二つにされたようだ。
話を黙って聞いていた男の一人が、ある名前を口にした。
「…ソイツは“バレルゴブリン”に違いない。バレルゴブリンはゴブリンが数多くの人間を喰らい、巨大化したゴブリンの化け物だ。見た目はただの身体の大きいゴブリンだが、腕力は上位種のオークやトロールを軽々と上回る。ヤツの旺盛な食欲は小さな村一つを一晩で食い散らすと言われているんだ…。下手をするとソイツは、単純な力だけなら孤島の悪魔と呼ばれる“ジャイアント”に匹敵するかもしれん…」
話を要約すると、物凄く手強いゴブリンという事らしい。
ちなみに“バレル”とは“樽”を意味する言葉なので、見た目からそう呼ばれるようになったようだ。
ゴブリンの他にもオーク、グレムリン、トロールなどの“バレル”を冠した亜人が確認されている。
そのどれもが狡猾で、並みのハンターでは手に負えず、必ずチームを組んで挑むようにとギルドから通達が出るほど。
特に今回確認されたバレルゴブリンは、これまでに討伐されてきた個体よりも身体が大きく、これほどに肥大化するまで存在が確認されなかったのは奇跡に近い確率だという。
つまり、それだけ知能が高く、人間欺く知性を兼ね備えていることになる。
「…お兄ちゃん、恐いよ」
「心配するな。町にはハンターギルドもあるし、賞金稼ぎだって居るんだ。今すぐどうこうって話じゃないだろ」
「…だけど」
「何、心配なら安全が確認されるまでこの町を出なければいい。急ぐ旅でもないから、その辺りの融通も利くじゃないか」
言葉の通り、初めから急ぐ旅ではない。
帝都へ行くという目的だって、行かなければ“世界が破滅する”という終末論に発展するわけでもない。
ただ、成り行きで目的地に定めただけなので、気にするだけ無駄だというものだ。
僕としては安全が確認されるまでは何日でもここに留まればいいと思っている。
「そうだなぁ…じゃあ、こうしよう。安全が確認されるまでこの町を出ない。それまでは、また宿を取って買い物をしよう」
「本当?」
「あぁ、あと美味しい物も食べよう。何なら、昨日買ったラスクを買い足そうか?」
「え?いいの?」
「当たり前だろ。さて、と。そうと決まれば時間が勿体ない。売れ切れちまう前に買い物だ!」
「やった~」
僕らはまず宿探しから始めた。
出来れば昨日利用した宿ではなく、別の場所をそうと話し合った。
サフラがオススメしてくれた宿も悪くないが、せっかく泊まるなら知らない場所を開拓しようと言うのが理由だ。
そうすれば、またこの町を訪れた時に宿屋選びの選択肢が増えるため、問題がなければ積極的に開拓しておいて損はないだろう。
たくさんの旅行者か訪れる比較的中規模な町なので、安宿から高級ホテルまで幅広い選択肢がある。
中には貴族が遠征の際に泊まる宮殿のような宿もあり、“超”が付くほど高級なスイートルームを完備したところもあるそうだ。
そう言った場所の多くは身分証明も必要になるため、貴族階級ではなければ宿泊するのは難しい。
僕らには縁のない場所なので、庶民的な宿であれば問題はない。
一つ条件を挙げるとすれば、客室にバスルームを併設しているかだ。
風呂と言っても、この世界では湯は贅沢なモノなので、湯船に水を張っただけの言わば“水風呂”の事をいう。
お湯に浸かれるのは皇族や貴族階級の金持ちだけなので、庶民は行水をして身体の汚れを洗い流すようだ。
ちなみに最初に泊まったロヌールの宿と昨日泊まって宿にはバスルームがあった。
出来れば温かい湯に浸かり疲れを癒したいが、贅沢は言っていられないので行水で我慢するしかない。
「この国では風呂って言えば行水なんだよな。日本では湯に浸かる習慣が普通だったから驚いたぞ」
「そうなの?うーん…もしかして、実はお兄ちゃんって貴族の出身…なのかな?」
「いいや、普通の一般人だ。まぁ、こっちとは生活様式がまったく違うから、どう説明していいか迷うんだけどな。出来れば温かい湯に浸かりたいな。例えば温泉とか」
「温泉?あるよ、この町に」
「え?」
「うん。ちゃんと温かいお湯のお風呂があるの。露天風呂って言うんだよ」
温泉があるというのは驚きだった。
でも、よく考えれば温泉の元になる源泉は、地熱によって温められた地下水が地中から湧き出したものなのだから、あったとしても不思議はない。
「ここの温泉は少し変わってて、お湯の色が赤くて不思議なの」
「へぇ、それって含鉄泉ってヤツじゃないか。湯に含まれてる鉄分が酸化して赤く見えるんだ」
「ほぇ?そうなの?」
「日本では赤湯とも呼ばれてたな。確か、有馬とかが有名か」
「…アリマ?」
サフラは言葉を反芻しながら首を傾けた。
その様子から頭の上にクエスチョンマークでも浮いているのだろう。
「日本にある地名だ。それより、その温泉はどこにあるんだ?」
「えっとね、町の北側にあるトンネルの中だよ。昔、鉄鉱石を掘ってる最中に偶然見つかったんだって」
「へぇ、洞窟風呂か。ん?さっき露天風呂って言ってなかったか?」
「うん。えっとね、洞窟の中にあるのは源泉で、そこから外にお湯を引いてるの」
「そう言うことか。なるほどな」
露天風呂は町の中心部から北西にあるようだ。
サフラに案内してもらうと、確かに温泉があった。
微かだが温泉特有の硫黄臭もしている。
このまま風呂へとも考えたが、手荷物もあるので今回は下見程度に留めておき、宿探しを再開した。
町の中を縦断するように歩くと、中心部から少し南へ歩いたところに宿を見つけた。
受付で確認したところ部屋にバスルームもあり、条件を満たしていたのでサフラにも確認して決めた。
部屋は二階の角部屋だ。
室内は清潔感があり、ベッドも大きく寝心地が良さそうだった。
僕らは荷物を置いてさっそく露天風呂へと向かった。
ちなみにタオルは風呂で借りることができるらしい。
「サフラは温泉にはよく入るのか?」
「うーん、ほとんどないかな。ほら、村にはなかったから。でも、温かいお風呂っていいよね。水浴びは夏だと気持ちいいけど、冬は冷たくて大変だもん」
生前、冬場によくあったことだが、風呂に入る時間が遅くなり湯が冷めていたことがあった。
それを知らずに風呂に飛び込み悲鳴を上げたのは、もはや遠い日のことのように思う。
そう思えば、行水が当たり前のこの世界ではみんな苦労しいるのだろう。
感慨深い気持ちになっていると目的地にたどり着いた。
佇まいは一見して山小屋のような作りをしている。
サフラによると内部は受付と簡単な脱衣場があるだけ。
風呂自体は露天を謳っているのでもちろん野外にあるが、プライバシーを守るため周囲を三メートル近くある板塀で囲まれている。
日本的な露天風呂のイメージなら板塀より竹垣の方が風情を感じるが、異世界でそこまでのクオリティーを求めるのは酷だろう。
受付で二人分の料金を支払うと、タオルを二枚渡された。
風呂に入る作法は前世とほとんど変わらず、タオルは湯船には浸けないこと、風呂に入る前には身体の汚れを洗い流し、長湯をしないよう徹底しているようだ。
共同浴場という観点からも、ルールが徹底されているのは大切だ。
サフラにはあとで落ち合うように言って、青い暖簾が掛かった脱衣場へ向かった。
中には旅人と思われる男たちが居たが、気にせずに服を脱ぎ、タオルを首に掛けて歩き回っていた。
こういう時は下手に隠すより堂々としているに限る。
見られたところで減るモノでもないし、旅をしている身なのだから、利用客とそう何度も顔を合わせることもない。
こういう時は一時の恥を忍ぶより、解放感を味わって旅の疲れを癒すに限る。
しかし僕はすぐに開けた戸を引き元に戻した。
「…なん…だと!?」
「なんだい、兄ちゃん、入らないならどきなッ」
あとから来た男性が声を掛けてきたので、僕は慌てて道を開けた。
男性は気にする様子もなく、至極当然と言った表情で意気揚々と入っていった。
僕が躊躇ったのは言うまでもなく、風呂場に女性の姿を見たからだ。
平たく言うと混浴だった。
午前中なのであまり利用客はいなかったが、それでも男女数名が湯船に浸かっていただろうか。
湯はサフラの言った通り赤湯だったので、湯船に浸かっている限りではプライベートな部分が見えることは無い。
問題は湯船に浸かっていない時だ。
特に風呂に入る直前は無防備になるので、混浴の経験がない僕には躊躇せざるを得ない。
その間にも入浴を終えた男性がサッパリした様子で通り過ぎていった。
もちろんプライベートな部分は隠されていない。
文字通り全開だ。
ここは僕の度胸を試されているのだろう。
意を決して湯船に向かった。
湯気が立っているおかげで全て丸見えということはないが、やはり慣れていないので居心地はよくない。
利用客もマナーをわきまえているのか、ジロジロ見られということはなかった。
ただ、掛け湯をして風呂に入るまでの間、生きた心地がしなかったのは言うまでもない。
これが普通の男湯だったらどれだけ気が楽だっただろう。
本来なら羨ましい状況だが、実際に体験するとなれば話しは別だと痛感した。
これも慣れれば気にならなくなるだろうが、始めから心構えのない状態では動揺何とか抑えるだけで精一杯だ。
湯は熱すぎるということもなく、体温よりほんの少し高めの温度に保たれている。
僕が江戸っ子なら「熱い湯じゃなきゃダメだ!」と言ったかもしれないが、長く浸かっていたいタイプなのでありがたい。
周りには中年の男性が二人と女性客が二人。
まだサフラの姿はないが、しばらくすれば現れるだろう。
女性客も堂々としているので、僕も気にしないようにポーカーフェイスを心がけた。
初めは目のやり場には困ったが、ぼんやりと空を眺めているのも悪くない。
「…ん?キミは…レイジだったかな?」
不意に声を掛けられたら。
声は空から降ってきた。
どこかで聞き覚えのある声だったので振り向くと、頭にタオルを乗せた長身のニーナが、腰に手を当てて仁王立ちをしていた。
プライベートな部分は一切隠さず、僕を見下げる形で立っていたので、丸見えを通り越して物凄くアングルだ。
たわわに実った瑞々しい二つの果実とモデル並みくびれた腰、“ぷりん”と上向いたヒップラインは、パリのルーブル美術館に所蔵されるミロのヴィーナスを連想させる。
いや、ヴィーナスよりも果実の膨らみは大きい。
素っ裸で生まれたままの姿は、彼女が理想的なボディラインを有していることが一目で分かる。
僕も生前は人並みの男子学生だったので、コンビニで買う成年向け雑誌を日々の楽しみにしていたが、これほどパーフェクトな造形は見たことがない。
ほんの一瞬だったが、見とれていた僕は慌てて目をそらした。
「おいおい、なかなかウブだな、キミは。顔が赤いぞ?」
「ちょ、ちょっとのぼせただけだ!」
言葉では否定したが動揺が滲み出てしまいバレバレだった。
出来ることなら今すぐにこの場から逃げ出したい。
もちろん逃げ出せば下半身が大変なことになっているので出るに出られないのだが。
「まぁいい。風呂とはそういうものだ。隣、いいか?」
「あ、あぁ」
しかし、ニーナは返事を聞く前に湯船に足を浸けていたので、確認したのは社交辞令だったらしい。
それにしても美人と入浴するなんて、前世ではとても想像も出来なかった事態だった。
今回の露天風呂シーンは予定していた5000字に収まらなかったため次回に続きます。
それにしても、色っぽく書くのってなかなか難しいですね(汗)
ご意見・ご感想・誤字脱字の指摘等がありましたらよろしくお願いします。