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GunZ&SworD  作者: 聖庵
76/185

シーン 76

ある朝、珍しい男が訪ねてきた。

甲冑姿のアルマハウドだ。

背中には愛用の大剣を背負っている。

最初に応対したペオは予想もしていなかった客人に驚いていつもの冷静さを失ってしまった。

まぁ、彼にとっては人生を左右する戦いを演じた相手が現れたのだから無理もない。


「レイジ、私と来てくれ」


アルマハウドはそれだけ言うと詳しい説明を省いた。

出来れば詳細を教えて欲しいところだが、せめて行き先くらいは聞いておきたい。


「どこへ行くんだ?」

「陛下のところだ」


それだけ言うと詳細は教えてくれなかった。

とりあえず行き先だけでも分かったのだから、普段着から着替えて正装を済ませる。

宮殿へ行くには胸に勲章を付けなければならない。

これが身分証の役割を果たすため、忘れれば受付で一つ一つ説明をする手間がある。

よく考えれば宮殿へ行くのは今回が初めてだ。

作法など何一つ分からない。

無礼な態度だけ慎めばいいだろうか。

宮殿へ向かう道すがら、アルマハウドに簡単な作法を学び、最後に肩の力は抜くようにと言われた。

皇帝は国で一番威厳のある人物だが、堅苦しい挨拶は好みではないらしい。

ただ、周りに家臣がいるため、最低限の作法だけ守れば問題ないのだとか。


宮殿に着くとアルマハウドが門番に説明して中へ入っていく。

建物は総石造りで、巨大な岩を無数に使って建てられている。

建物を支える石の柱は大人三人が両手を広げた長さと同じくらいあり、天井までの高さはビルの三階ほどあるだろうか。

宮殿と言っても中世の西欧で作られたバロック建築の大聖堂のようにも見える。

よく見ると石を加工して作った装飾が柱や天井、床板に至るまで丁寧に配されていた。

これだけ見ても美術的な価値は高いのだろうと察しがつく。

特に目を引いたのは鷹をモチーフにした彫刻で、国を象徴する鳥、つまり“国鳥”のようだ。

ちなみに鷹のモチーフは僕の胸で輝く勲章にもあしらわれている。

石の回廊を進み王の間へ続く階段の前でアルマハウドは足を止めた。


「私の役目はこれまでだ。先へ急げ」

「お前は行かないのか?」

「陛下は一対一で話がしたいそうだ。私はお呼びでないのだよ」

「そうか…。まぁ、ここまで来て引き返すわけにも行かないし、どんな用があるかは知らないが、粗相のないよう心掛けるさ」


それを聞いてアルマハウドは微かに笑った。

ゆっくりした足取りで階段を上ると、巨大な扉の前に槍を持つ衛兵が二人立っていた。

衛兵は僕の胸元にある勲章を確認すると、敬礼して静かに扉を開いた。

扉の先には幅の広い赤絨毯が敷かれ、それが王座まで一直線に続いている。


「よくぞ参った、久しぶりだな」

「陛下もお変わりないようで」


アルマハウドには肩の力を抜けと言われているため、不慣れな作法は必要ないとのことだ。

陛下に会ったら頭を下げるだけでいいと言われている。


「そなたをここへ呼んだのは他でもない。旧友、アルマハウドを倒したそなたに頼みがある。“北方大遠征”で指揮官を務めて欲しい」


北方大遠征は以前、ニーナが話していたドワーフ族の掃討作戦だ。

説明によれば総勢千人を超える大部隊を派遣し、ドワーフ族が住むノースフィールドへ攻勢をかける。

つまり、今回呼ばれたのはその指揮官に僕を任命したいということだ。


ここで思い出した人物の顔がある。

以前、ハンターギルドの依頼で接触したドワーフのコルグスだ。

彼とは一応和解が成立し、こちらが然るべき時期に攻勢をかける事も伝えてある。

つまり、彼が僕の話を信用していれば応戦するために準備を整えているだろう。

迂闊に攻め込めば多大な被害を受ける危険性がある。

僕としてはこの作戦を何とか中止してもらいたい。


「陛下、お聞きしたいのですが、何故ドワーフを敵視するのです?」


すると、皇帝は急に表情を強ばらせた。

明らかに不快感を露わにしているのが分かる。


「そなた、敵方に肩入れするつもりか?」

「いえ、そんなつもりはございません。ただ、私はここより遙か遠い国、日本からやってきました。ですからドワーフ族と敵対する理由を詳しく知らないのです」


それを言うと表情の強ばりがなくなった。

僕が日本からの旅人だということは、大会の表彰式で勲章を受け取った際に話をしてある。

皇帝も日本がどこにあるのか知らないようだが、純粋に知らない事への疑問だと分かってくれたようだ。


「…そうであったな。そなたは異国の武器を使う手練れ。理由を知らないのも無理はない」


そう言って皇帝は昔話を始めた。

まず、この世界は二つの歴史に分けられるらしい。

創神期そうしんき創聖期そうせいきというそうだ。

前者の創神期は今から数万年前以上のこと。

当時、この世界を支配していたのは“エルル”と呼ばれる巨人族だった。

エルルはさまざまな魔法や先端技術を用いてこの星の基礎を作り、今に残るルーン文字や魔具を残したらしい。

エルルは地上で繁栄を迎えると、“神”と争いをはじめ、ついに終末戦争を起こした。

百年あまりに渡る戦いでほとんどのエルルが死に絶え、やがて地上から姿を消したという。

それから時を経てエルルの血を引く種族エルフが繁栄を始める。

エルフは長命な種族で長い者は千年近く生きるらしい。

続いてエルフからドワーフという亜種が生まれた。

ドワーフは丈夫な身体と引き換えにエルフより少し寿命が短かった。

そして、エルフとドワーフは互いに争いを始めた。

生き残った両者は北と南に別れて対立を深めていく。

それから遅れてヒューマン族が現れた。

ヒューマン族は短い寿命と引き換えに旺盛な繁殖力と適応力を武器に、両者がいがみ合うミッドランドで繁栄わ始める。

これが創聖期と呼ばれる時代の始まりだった。


最初に国を開いた王、つまり皇帝の祖先にあたる初代皇帝は、過去に滅びた“神”が遣わし選ばれた種族であることを国民に宣言した。

これにより皇帝は死後になると神格化され、ヒューマン族に広く浸透する宗教の唯一神となる。

ヒューマン族は神の名の下に、争いを続けるドワーフとエルフの仲裁役を始めた。

しかし、同時のドワーフとエルフの指導者はヒューマン族を敵対して戦争を仕掛け始めた。

これにより三者は国交が途絶え、互いに敵視する仲になったそうだ。


「…これが、我々が戦うべき理由だ」

「つまり、創聖期からずっと戦い続けている…と」

「その通りだ。古い文献や経典にも記述が残されておる」


これまでを聞いて疑問が浮かぶ。

まず、コルグスが言っていた事との食い違いだ。

ドワーフは争いを好まない種族で、自己防衛のための戦いはするが、自ら進んで武器を取ることはない。

皇帝の話では仲裁役として交流を始めたが、ドワーフから戦争を仕掛けてきたという口ぶりだ。

きっとエルフについても同じ内容だろう。


「…陛下、これをご覧ください」


そう言っていつも身に付けているダマスカス製のネックレスを取り出した。

青と緑の中間色をした珍しい金属は、皇帝も知識では知っているものの見るのは初めてらしい。

それだけ貴重な品ということだ。


「それは…ダマスカスのネックレス。そなた、何故それを?」

「私は以前、ハンターギルドの依頼でドワーフのコルグスと言う男と対峙しました」


ニーナには口止めされているが、僕の信念を信じて当時の経緯を説明した。

ドワーフが故意に人を襲わない事、話が通じる事、故人を偲ぶ思いやりを持つ事など、ヒューマンが持つ常識とは違う存在だと告げると皇帝の表情が一変した。


「…それで、そなたはドワーフをどう考える?」

「敵対するのではなく理解し合える。そう思っています」

「今さらそんな事が可能と申すか?」

「時間は掛かるでしょう。それでも、彼らを滅ぼしてしまうよりは早いかもしれません」

「では、そなたにはそれが出来ると?」

「再びコルグスというドワーフに会うことが出来れば可能性はあるでしょう」


偽らず思いを伝えると皇帝は黙って目を閉じた。

皇帝という立場ではすぐに考えを覆すわけにはいかないらしい。

それでも悩んでいるのは、僕の言った可能性を完全に否定できないからだろう。

しばらく沈黙が続くと背後で気配がした。


「…失礼。悪いとは思いながら話を聞かせてもらった。陛下、私はレイジの言うことは一理あると思います。大遠征は仮に彼が失敗した時にでも行えばいいでしょう」


扉の前でアルマハウドがそう進言した。


「お前もそう思うか。そうだな…旧知の友の勧めとあれば断る理由もなかろう」

「それでは?」

「うむ、そなたに北方の先遣隊を命ずる。交渉が決裂した際はわかっておるな?」

「もちろんです。その時は彼らに攻勢をかけ、私を煮るなり焼くなりご自由にどうぞ」

「面白い男だな。アルマハウドが気に入るわけだ」


皇帝は声をあげて笑った。

いつもは威厳を保って生活しているためか、家臣の居ない王の間で一人とても楽しそうにしている。

僕は気の引き締まる思いだが、次の目標が決まった。


宮殿を出る際、アルマハウドに礼を言うと驚いた顔をした。

まさか礼を言われるとは思っていなかったらしい。


「おかげで助かったよ」

「礼などいらないよ。私もお前と同じことを思っていた」


アルマハウドは過去を回想しながらこれまでの疑問を話してくれた。

アルマハウドは過去に何人ものドワーフを斬り伏せている。

もちろん自分から望んで行ったわけではなく、ギルドからの依頼によってだ。

その際、ドワーフは先制攻撃を仕掛けて来なかったらしい。

中には一部の例外もあったが、仲間が手傷を負い、正当防衛が成立すると武器を手に取っていたそうだ。

初めはそれが偶然かドワーフたちの美学だと思っていたが、僕の話を聞いて合点がいったらしい。

彼らは必要に迫られないと戦わないという事実が本当なら、対話によって分かり合える日が来るのではないかと、アルマハウドも僅かに期待を持ち始めているようだ。

ようやく物語が動き始めました。最近は日常パートを書くのが楽しくて忘れていましたが、この世界は人間とドワーフとエルフが敵対する世界です。




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