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GunZ&SworD  作者: 聖庵
75/185

シーン 75

転生してから一ヶ月以上が経った。

同時に、最近生活を共にするようになったペオも我が家のペースに慣れてきたようだ。

家事のほとんどはペオが積極的に行ってくれるため、僕の付け入る隙は夕食の準備と風呂当番の時くらいになっている。

ペオは僕の作る和食が気に入ったらしく、今は洋食とは違う独特な味付けをマスターするのが目標らしい。


ちなみに今日は僕にとって待ちに待った日だ。

以前発注しておいた風呂の設備が出来上がり、午後には搬入作業を予定している。

今までは風呂当番になる僕かニーナのどちらかが井戸からバケツで何度も運んでいた。

そんな作業も今日でおしまいだ。

午前中に今日の予定を済ませ業者の到着を待つ。

しばらくすると数人の部下を従えた男性がやってきた。


「ご注文の品をお届けにあがりました」

「ご苦労様。では、早速お願いします」


荷車で三台分になる大量の資材が庭に運び込まれていく。

予想していたよりも大きいが、これでも最初に想定していた貯水タンクより小さい。

これよりも巨大なものとなると、さすがに庭が狭くなってしまうため、荷車で運べる大きさがギリギリだろう。

業者の男たちは手際よく作業にあたり、図面通りに設備を組み立てていった。

工房で作られた部材は運び込んで組み立てるだけなので、現地で大きく手を加える必要はない。

見事な連携プレーで設備の設置が終わった。


「作業が終わりましたのでご確認ください」


一つ一つ説明を受けて設備に不備がないか確認していく。

実際は大きな水槽に直径五センチほどの配水管が取り付けた簡素な作りなので、管との接合部がしっかりとしているか、タンクに水漏れはないかを確認する。


「一度水を流してみましょう。不備があればすぐに調節します」


言われて水を通したが水漏れは見つからなかった。


「問題はないようですね」

「ありがとうございます」


引き渡しが終了すると男たちは帰っていった。


「レイジ様、これはどのように使うものなんですか?」


作業を見守っていたペオが興味深そうに設備を眺めた。

初めて見るものだから知的好奇心をくすぐられたのだろう。


「そうか、これを頼んだのはペオが来る前だったな。簡単に言えば井戸から直接湯船に水を引き込む装置だ」

「水を引き込む?それは素晴らしい装置ですね。これはレイジ様がお考えになったのですか?」

「あぁ、細かいところはおまかせだけどな」


説明を聞くとペオは感心しきりの様子だ。


「今晩から風呂の用意が楽になるぞ」

「そうですね」

「そうだ、今晩一緒に風呂に入らないか?」

「い、一緒に…ですか?」

「あぁ、男同士、裸の付き合いだ」

「そ…そうですね。分かりました」


あまり歯切れの良くない返事だが遠慮しているのだろう。

きっと「主人と使用人が同じ風呂になど…」と考えているに違いない。

夕食が終わり風呂の時間になった。

着替えを用意してペオと風呂へ向かう。

脱衣場で服を脱ぎ先に湯船に浸かった。

しかし、いつもならテキパキと動き回るペオはまだ脱衣場にいる。


「ペオ~どうしたんだ?」

「は、はい、すぐに!」


声がしてペオが入ってきた。

タオルで前を隠しうつむき加減で掛け湯をする。

しかし、湯船には入らず黙って僕を見ていた。


「どうした?遠慮せずに入れよ」

「は、はい…すみません」

「別に謝る必要はないだろ?」

「そうですね…」


さっきからペオの様子がおかしい。

どこか体調が悪いのかもしれない。

いつも無理をしているところがあるから疲れが溜まったのだろうか。


「調子悪いのか?」

「いえ…体調は悪くないです」

「ならどうしたんだよ?」

「レイジ様に…不快な思いをさせてしまうかもしれません」


肩を震わせながらそう呟いた。



「不快?何か知られたらマズいことでもあるのか?」

「いえ…僕はあまり気にしないのですが、見られた方は驚かれるので…」

「驚く?何を隠してるのか知らないが、俺は大丈夫だ。相当なことでもないと驚かないぞ」

「で…では…」


そう言ってペオは背を向けた。

それを見て僕は言葉を失った。

背中には無数の傷跡があり、大きな傷は数センチに渡っている。

見たところかなり前に負った傷のようだ。


「その傷…」


傷を見て言葉を失っているとペオは傷の説明を始めた。

話によれば“教育的虐待”によってつけられたらものだという。

教育的と説明したのは、体罰によって物事を身体に教え込まれたからだ。

一方的な暴力とは違い、意味合いとしては動物の調教と同義。

特に使用人になった当初は毎晩のように鞭で打たれ、痛みで夜も眠れなかったそうだ。

現在は痛々しい傷跡だけが残っているが痛みはないらしい。


「虐待…か」

「あまり思い出したくはありませんが、もはや過去の出来事です」

「辛かったな…」


僕は無意識にペオの頭を撫でていた。

健気な彼を見ていたらとても愛おしく思えた。


「レイジ様…泣いていらっしゃるのですか?」

「…?!」


ペオに言われて自分が泣いているのに気が付いた。

慌てて顔を洗ったが、次から次へと涙が溢れ視界が霞んだ。


「…僕のためにレイジ様が悲しい思いをする必要はありません」

「ペオ…お前はもっと自分を大切にするんだ。俺たちは家族だから、嬉しいこと、悲しいことがあったら一緒に共有するんだぞ」

「…レイジ様」


今度はペオも泣き出してしまった。

風呂に二人のすすり泣く声が響いた。


「レイジ、湯加減はどうだ?」


突然、脱衣場の方からニーナの声が聞こえた。

僕らは慌てて顔を洗い、お互いに顔を見合って声もなく笑った。

ニーナに聞こえないよう、この事は二人の内緒だと確認し、何事もなかったように湯船で足を伸ばす。


「…あ、あぁ、ちょうどいい湯だぞ」

「そうか、私が丹誠込めて沸かした風呂だからな」


そう言ってニーナはおもむろに風呂の扉を開けた。

それを見て僕とペオは目を丸くし、慌てつつ目線を逸らした。

そこには生まれたままの姿をしたニーナが立ち、男らしくタオルを肩に掛けている。


「ん?どうしたんだ二人とも」

「お、お前こそ何しに来たんだ!」

「決まっているだろ、私も裸の付き合いをしに来たんだ」

「だ、だからって前くらい隠せよ!」

「隠す?気にするな、見られて減るものじゃない」

「お、お前が気にしなくても俺たちが気にするだろ!」


それを聞いてニーナはいたずらっ子のような笑みを浮かべた。

どうやら確信犯らしい。

ニーナは僕らの反応を見て楽しんでいた。

普通、ペオや僕くらいの男子は“性”に対して敏感だ。

前世で中が良かった同級生たちは、必死で稼いだアルバイト代を使ってお気に入りの成人向け雑誌を買い、他の仲間たちと交換して楽しんでいた頃が懐かしい。

あれはあれで青春のいい思い出だが、写真で見るのと実物を見るのでは大きく違う。

もちろんテレビの映像と比べても臨場感は比べものにならない。

真っ当な男子であればこうした状況を一度は夢見るだろうが、実際に体験すると対応に困ってしまう。

以前、混浴の露天風呂で一緒に入った経験はあるものの、入浴剤も入っていない湯船では隠す物も隠せない。


そんな僕らの様子を楽しみながら、ニーナはそのまま掛け湯をして湯船に浸かった。

幸い我が家の風呂は大人が同時に四人ほど入れる巨大な浴槽だ。

一人で入れば湯の無駄遣いではと思うほど広い。

だから三人で湯船に浸かってもまだ余裕がある。


「ふぅ…適温だな」


ニーナはタオルを頭に乗せて大きく伸びをした。

露天風呂ほどではないが足を伸ばして浸かれるため窮屈な思いをする事もない。


「…に、ニーナ…足が…当たってます」


ペオがうつむき加減で申し訳なさそうに声をあげた。

よく見るとペオのお尻にニーナの足が当たっている。

いや、故意に当てていると言うのが正解だろう。


「気にするな、スキンシップと言うヤツだ」


足が動く度にペオはアンニュイな表情を浮かべた。


「それ、一方的過ぎるからな」

「そうか?少年は喜んでいるように見えるぞ」

「べ、別に喜んでなんか…」

「そうか?じゃあレイジに…」

「やめろ!」


食い気味にニーナの発言を遮った。


「何だ、連れないなぁ」

「何だじゃない…まったく、せっかく男同士で親睦を深めてたのに。なぁ、ペオ?」

「は、はい」

「ほぉ…ではその親睦というヤツを聞かせてもらおうか?」

「言っただろ、男同士でって。内緒だ」


少しでも主導権が取れればこちらのペースだ。

ただ、この均衡を打ち破る気配を脱衣所に感じた。

摺りガラスの向こうで人影が動いている。

そして、ゆっくりと扉が開かれた。


「お、お邪魔します」

「さ、サフラ!?」

「おぉ、サフラちゃん、遅かったじゃないか。ほら、入った入った」

「さ、サフラさん…その格好…」


ペオが驚いたのも無理はない。

恥ずかしがり小さなタオルで前を隠しているが、小さく膨らんだ胸元がタオルの隙間から微かに見えて、全部見えているよりも色っぽい。

ニーナとは違いサフラは意図してやってはいないだろう。

もし、これが意図するところだとすれば、それはそれで問題だ。

いや、健全な男子としては願ってもないチャンスともいえる。

それでも、僕はサフラの保護者なのだから下手な気を起こすつもりはない。

何度も自分に言い聞かせ、膨張しようとする欲望を押さえ込んだ。


「うん…ちょうどいいお湯」

「だろう?私が沸かしたんだ」


女性人はのんびりと風呂に使って日頃の疲れを流している。

対する僕とペオは生きた心地がしない。

蛇の生殺しとはこの事だろう。


「ん?サフラちゃん、先週より少し大きくなったか?」

「や、やめてくださいニーナさん」


そういってニーナはサフラの胸を指で突いた。

今、僕の中にある感情は二つ。

“けしからん!”という父親の気持ちと、“いいぞ!もっとやれ!!”という応援の気持ち。

どちらが正しいという事はないと思うが、目のやり場に困るため、できれば止めてもらいたかった。

ペオは顔が真っ赤になっている。

長湯で湯あたりをしたのが原因か、それとも性的な刺激が強すぎたのか。

どちらにしてもあまり余裕はないだろう。

僕はフラフラになったペオを連れて一足先に風呂をあとにした。


「何て一日の終わりだ…。まぁ、役得といえば役得…か」


リビングのソファーに湯あたりをしたペオを寝かせ、濡れたタオルを額に乗せると、介抱をしながら窓の外に見える夜の街を静かに眺めた。

忘れた頃にやってくるお風呂回。最近のアニメでは視聴率UPのテコ入れで頻繁に使われるネタですね。(笑)


それにしても、どうも最近サフラが“ニーナ化”してきているような気がします。

ニーナを師匠と仰いでいるので仕方ないといえば仕方ない?




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