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GunZ&SworD  作者: 聖庵
67/185

シーン 67

「レイジ、アレ!」


馬車が急停車して御者台のサフラが声を上げた。

急いで御者台に行くと進行方向に先ほど話していた亜人フォーモルの姿が見える。

山羊の目を思わせる真一文字の瞳孔と馬の蹄を思わせる足をもった亜人だ。

顔付きはゴブリンと変わらず醜悪だが目や口、鼻先を覗いて三センチほどの毛に覆われ、それが全身に及んでいる。

手には巨木の枝から作った棍棒を持ち、口からは醜く涎を垂らしていた。


「…間違いない、フォーモルだ」


遅れて御者台に移動してきたニーナが眉をひそめた。


「思ったより早かったな。まぁ、攻撃さえ受けなければ平気なんだろ?」

「そうだな。だが、出来るだけ一撃で仕留めたい。下手に生かせば鳴いて仲間を呼ぶぞ」


今回現れたフォーモルは一体だけだが、鳴き声を上げれば近くにいる仲間を呼ぶことができるらしい。

一体ならCランクの相手だが複数集まればそれ以上の難易度に跳ね上がる。

僕は外に飛び出して対峙した。

改めて見るとその巨大さに驚く。

身長は二メートル以上あり、巨漢のアルマハウドより大きい。

腕も見てもこれまで対峙してきたゴブリンやオークよりも太かった。

オークと対峙した時にも思ったが、確かにこんな怪物に殴られればひとたまりもないだろう。

相手との距離は数メートルほど。

この距離なら頭を撃ち抜いて終わりだ。

僕はホルダーから銃を抜き銃口を向けた。


「相手が悪かったな」


無慈悲に引き金を引くと、額に当たった弾は頭を貫通していった。

フォーモルは悲鳴をあげることなく仰向けに倒れた。


「ふむ…さすがに一撃か。改めて見ると銃というのは恐ろしい武器だな」

「いくら強力な亜人とは言え頭を撃たれれば即死だろうさ」

「まぁ、そうだな。この分なら今回の討伐も問題なさそうだ」

「油断はできないさ。お前の活躍にも期待してるぞ」


ニーナは小さく笑って馬車に戻っていった。

道の真ん中で倒れるフォーモルをかわして先を急ぐ。

敵が現れなければ穏やかな馬車旅だ。

安全の保障さえあれば春の日差しを受けて昼寝をしたくなる。


「…レイジ、一つ聞いておきたいことがある」

「何だ?」

「サフラちゃんのことだ。彼女、あれから変わりはないか?」

「あれから?」

「バレルゴブリンと戦った時だ」


ニーナはあれからサフラがどう過ごしていたか気になるようだ。


「そうだな…特に変わりはないと思うぞ。あぁ、そう言えばオークを一人で仕留めた事もあったな」

「一人で?それは凄いな」

「全く相手にしていなかった。一応、相手は手負いだったけどな」

「ほぅ…それは興味深いな」


ニーナの目が怪しく光った。

何か企んでいるいたずらっ子の雰囲気がある。


「…お前、よからぬ事を考えてないか?」

「な、何のことだ?」


明らかに動揺をしているのがわかる。

目が泳ぎ焦点が定まっていない。

あまり嘘や隠し事が出来ないタイプのようだ。

むしろポーカーフェイスで何を考えているのか分からない相手よりは助かる。


「レイジ、またさっきの亜人が!」


御者台からサフラの声が聞こえた。

急いで移動して敵を確認する。

今度は二体のフォーモルが行く手を阻んでいた。

先ほどと同じように棍棒を手に持っている。


「今度は二体だ。私も出よう」


ニーナは剣を取って外へ飛び出した。

僕は先ほどと同じように一体を銃で撃ち倒す。

この程度の相手なら何体集まろが問題ではない。

ニーナは素早く距離を詰めてフォーモルの胸に剣を突き立てた。

しかし、致命傷になったとは言えまだ息絶えず、フォーモルは悲鳴を上げた。


「ニーナ!」

「いいんだ、これでいい」

「お前、何を言って…」


普通に考えればニーナが仕損じるはずはない。

だとすれば言葉通り思惑があってのことだろう。

近くの林から仲間の叫び声を聞きつけた別のフォーモルが現れた。

他に姿はなくこの一体だけのようだ。


「ほら、お出ましだ!」

「チッ」


僕が慌てて銃口を向けるとニーナがそれを遮った。


「何のつもりだ!」

「私に考えがある。サフラちゃん、こっちに来るんだ!」

「えッえッ!?」


突然呼ばれてサフラは動揺している。

今まで馬車の運行だけが彼女の仕事だったのだから仕方がない。

むしろ、サフラにはニーナの意図が汲み取れていないようだ。

スティレットを手に持ち、サフラはこちらへやってきた。


「よしよし。サフラちゃん、あの化け物を倒すんだ。出来るかい?」

「え…?」

「できないのか?」

「えっと…出来ると思います」


サフラは思っても見ないことを口にした。

聞き間違いでなければ、サフラは一人でもフォーモルを相手に出来る、そういうことだ。

サフラの目は透き通っていた。

迷いはない、そんな目だ。


「ま、待て!」


サフラはすでにスイッチが入っていて僕の声が聞こえていない。

気付いた時には駆け出していた。

普通の女の子に比べて身軽な体捌きは、本当に十四歳の少女なのかと不思議に思う。

姿勢を低くしたまま矢のように素早く距離を詰めると、反応の遅れたフォーモルの脇腹に短剣を突き立てる。

しかし、浅かったため致命傷にはならなかった。

フォーモルは痛みを堪えながら思い切り棍棒を横に薙ぐと、サフラはそれを涼しい顔をして避けた。

メジャーリーグのホームラン打者よりも素早く振りぬかれた棍棒は、並みの人間が避けられる速さではない。

まともに当たれば身体中の骨がバラバラに砕けるだろう。

それを見てニーナも驚きながら手を叩いた。

余裕のあるニーナに比べ、僕にはそんな余裕はない。

いつ加勢しようかと銃を握る手に力が入る。


「レイジ、止めておけ。サフラちゃんを信じるんだ」

「お前…自分がしてることが分かってるのか!」

「分かっているさ。これはサフラちゃんのためなんだよ。見てみろ、彼女、楽しそうに戦っているだろ?」


よく見るとサフラは笑っていた。

決して余裕がなく闇雲に戦っている様子はない。

どちらかと言えば次に来る攻撃を予測し、隙を突いて攻撃を加えている。


「アイツ…あんなに動けたのか?」

「レイジ、サフラちゃんはキミが思うほど弱くはないよ。オークの一件、あれを聞いた時に気が付いたんだ。サフラちゃんは本当の実力を隠しているんじゃないかって」

「実力を隠す?」

「まぁ、最初に感じた違和感は、宿の裏庭で手合わせをした時だったよ。彼女の本気があの程度ではないと感じたのは間違いではなかったらしい」


僕らが話している間に勝負が決まった。

サフラはフォーモルの視界から消えると、一瞬で背後を取り心臓に向けてスティレットを深く突き立てていた。


「バックスタブか。それも恐ろしく精確な突きだ…」


ニーナが驚くのも無理はない。

あの技はオークを屠ったのと同じ技だった。

これで見るのは二度目だが、以前よりも精度が上がっているようにも見える。

サフラはニーナが傷を負わせて動けなくなっていたフォーモルにも短剣を突きたてた。

これで敵勢力は完全に沈黙したことになる。


「ふぅ…」

「サフラちゃん、お疲れ様」

「ニーナさん、今の戦いどうでした?」

「素晴らしい。ただ、まだ本気というわけではなかったね。あれはどういう事だい?」

「えっと…倒すのに必要な力を使っただけ…ですよ?」


謙遜しているが僕の目にもサフラが本気でないことは明らかだった。

特に以前戦ったオークよりも強敵で、手負いでもないフォーモルを屠れるほどの実力を目の当たりにすれば驚かずには居られない。

サフラは血の付いた短剣を素早く振って払うと、静かに鞘に収めた。


「サフラ…お前…」

「隠しててごめんなさい。でもね、私も戦えるっていうところだけはレイジに知ってて欲しかったから」

「いや…正直驚いたぞ。その動き…本当に父親から教えてもらったのか?」


サフラの父親は短剣の扱いに長けていたと聞いたことがある。

クローラー程度の魔物なら相手にならなかったとも。

ただ、今回のフォーモルはクローラーとは比べ物にならないほど強敵だ。

それにサフラの父親はゴブリンの襲撃で命を落としている。

つまり、複数現れたゴブリンには敵わない実力だったはずだ。

だから、その父親を超える実力を幼くして身に付けたとなれば、どのようにして得た力なのかと知りたくなった。


「えっと…基本を教えてもらったのはお父さんだよ。でもね、こうして強くなれたのはもっと別の理由。何ていうのかな…身体が勝手に動くの。さっきの亜人もね、まるで止まっているようだったから…」

「止まって見える…?」

「なるほど…サフラちゃんから感じた違和感はコレか。合点がいったよ」


一人で納得するニーナとは対照的に僕はワケが分からなかった。


「ニーナ、俺に分かるよう説明してくれ」


分からなければ聞く、これが疑問を解決する近道だ。

ニーナは大きく頷いて説明を始めた。

ニーナによればサフラは人並みはずれた動体視力を持っているらしい。

だからサフラの身体能力を超える攻撃でなければかわす事も可能で、視覚から得られた情報の分析能力にも長けている事から、戦闘を有利に進められるようだ。

先ほども棍棒を空振りしたフォーモルに対して、無駄のない動きで攻撃を加えていた。


「動体視力…か」

「私の見立てでは動体視力だけなら私以上だな。体捌きはこれから身体の成長が止まった時がスタートラインだと思っていいだろう。きっと数年後には私を超える戦士になっているよ」

「数年後って…ニーナさん、それは言い過ぎですよ」

「いや、お世辞でもなんでもないさ。サフラちゃん、キミはちゃんとした師匠の元で修行をした方がいい。それがキミのためだ」


ニーナの言うことはもっともだ。

基本的な短剣の扱い方を理解している彼女が、本格的な戦闘術を学べば化けるかもしれない。

そうなればニーナを超える日もそう遠くはないだろう。

ただ、疑問なのはサフラの持つ身体能力の高さだ。

まだ十四歳の女の子がこれほど動けるということは何か秘密があるのだろう。

もしかすれば転生者という線も疑わないわけではない。

ただ、それを隠している理由があるとすれば、これもまた疑問が残るところだ。

仮に前世の記憶を引き継いでいないとすれば一応は説明はつくだろうが、そうなれば転生者と確認する術はどこにもない。

結局、サフラはサフラだと理解しておく他に、今の僕を納得させる方法はなかった。

今回はサフラ回といってもいいでしょう!(笑)

実際、彼女は謎が多いんですよねぇ…。と言うか、書いている作者が言うのも何です…(汗)

ストーリーが進む事に明らかになるので、その間に予想を立ててみるのも面白いと思います。




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