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GunZ&SworD  作者: 聖庵
64/185

シーン 64

外に出るとサフラが待っていた。

どうやらかなり待たせてしまったらしい。

遅くなった理由を交えつつ詫びを言って家に帰った。


翌日、早朝から取り掛かろうと思った作業がある。

昨日から考えていた水を便利に使うための給水システムだ。

主な利用目的は浴槽への給水だが、工夫すれば二階のキッチンにも引き込めるかもしれない。

朝食を終えたらまずは庭に出て頭の中の構想を膨らませていく。

イメージは昔ながらのアパートやマンションの屋上にある給水タンク。

落差で各部屋に水を行き渡らせるものだが、これに似たものが作れないかと考えている

ただ、家の屋上に設置するとタンクへの給水方法が問題だ。

そのため出来れば極力労力を使わず、手軽に利用できるものがいい。

現実的なのは僅かでも落差を出すために浴槽より高い位置にタンクを設置するプラン。

低い櫓を組んでその上にタンクを置き、直接中へ引き込むのが無難だろう。

そうなると二階へ水を運ぶのはこれまで通り手作業になる。

今は構想段階だからいろいろ考えて後から修正しようと思う。


ちなみに貯水タンクと送水パイプについては鍛冶師に頼んで特注する予定だ。

相手もプロだろうから、おおよそのデザインと機能を説明すれば形になると思う。

これは生活を便利にする知恵なので、予算がかかろうと投資しても損にはならないだろう。

イメージが膨らんだところで鍛冶屋を目指した。


「鍛冶屋に何の用?」

「風呂に水を引き込むためのシステム作りさ。出来上がったら便利になるぞ」

「昨日言ってたのかな?」

「そうそう。説明はあとでするからな」


サフラと一緒にたどり着いたのは町の北部にある鍛冶屋だ。

見つけたのは主に鉄製の武具から生活小物まで製造する工房だった。

店の中に入ると異様な熱気が充満していた。

鉄の火入れをする炉が高温になり、室内の温度を上げているようだ。

炉が設置してある一画に近付くだけで汗が吹き出してくる。

店内には三人の男性が汗まみれになりならがら作業していた。


「すみません」

「あ、いらっしゃい。どのようなご用件ですか?」


応対してくれた店員に事情を伝えると少し困った顔をされた。

隣で話を聞いていたサフラも想像がつかないのか、こちらも困り顔だ。

応対した店員では分からないということで、店長を呼びに行くと言って奥へ引っ込んでしまった。

しばらくするとよく日に焼けた色黒の男が現れた。

他の店員たちとは違い仕立てのいい服を着ているため、店長で間違いなさそうだ。


「お待たせしました。えぇ…ウチのヤツから簡単に説明は聞いたんですが、詳しくお話を聞かせてもらえませんか?」


しきりに僕の表情を伺っているところを見ると、胸の勲章から爵位持ちと判断してのことだろう。

見た目がいかにも職人という店長だが、権力者には弱いらしい。

こんなところでも爵位という地位が役に立つのだとしみじみと思った。


とりあえず頭に思い描いたイメージを口頭で伝えると店長は意外そうな顔をした。

ただ、先ほどの店員とは違い落ち着きがある。


「なるほど…落差で水の管理…ですか。私どもでは思い付きもしませんでした」

「実際、話を聞いてみてどうです?不可能なら別の手段を考えなければいけないので、判断を伺えますか?」

「率直に申し上げれば可能です。ただ、なにぶん携わった事のない仕事ですから、お時間をいただければ何とかと言ったところでしょう」

「そうですか。ちなみにアナタの見立てではどれくらい掛かりそうですか?」

「一度現場を拝見して、それから図面をいて…ですので、早ければ二週間、遅ければ数ヶ月単位でしょうな」


納期に開きがあるのは言葉の通り経験のない仕事だからだろう。

普段手がける一般的な武具一式の製作では、二人の職人が同時に作業して一週間ほど。

武具は細かな細工があるため、それくらいは必要になるらしい。

ただ、今回製作を依頼しようとしているのは巨大な水槽と送水用の配管だ。


「納期については出来るだけ早いほうがいいですが、特にいつまでと言う事はありません。可能ならお願いしたいんですが、どうでしょう?」

「分かりました。最終的な判断は現場を拝見してから決めようと思います」


思い立ったが吉日という言葉の通り、僕はそのまま店長を連れ出して自宅へ案内した。

店長は工房の二階で寝泊りしているため、東の居住区画へ来るのは初めてだと言う。


「わ、私みたいな者がこんなところへ来るのは恐れ多いですな」

「身構えなくて結構ですよ。少し居心地が悪いかもしれませんが、すぐに慣れると思います」


店長を伴って三人で歩く姿は住人から視線を集めた。

僕は気にしていないが店長は気になって仕方がないらしい。

確かに煌びやかな服を着たセレブが多い路地では、店長のような職人は浮いてしまう。

ただ、店長も仕事と割り切って途中から堂々としていた。


自宅へたどり着くと店長は驚いた様子だった。

家とだけ伝えていたので、もう少し小さな建物を想像していたらしい。

下手をすれば田舎の宿ほどある佇まいのため、驚かれても仕方がないと思う。

そのまま店長を裏庭に案内した。


「ここです」

「なるほど。で、井戸から建物の浴槽を繋ぐ…と。これはなかなかの仕事になりそうですな」

「出来そうですか?」

「出来なくはない、と言ったところでしょうな。ちなみに貯水タンクというのはどれほどの規模を想定でしょう?」

「そうですねぇ…できれば浴槽より大きなものですね。無理なら可能な限り大きいものでお願いします」

「浴槽ですか。そちらも一度見せていただけませんか?言葉ではなかなかイメージが沸きませんので」


風呂を見るとまた驚かれてしまった。

浴槽は大人が足を伸ばして浸かれる程度の大きさがある。


「なるほど…これほどとは思いませんでした」

「どうでしょう?」

「工夫をすれば…と言ったところでしょうな。まぁ、想定より少し小さくはなると思います」

「そうですか。配管の方はどうです?結構距離があると思うんですが」

「そちらについては問題ないでしょう。我々も手がけるからには手を抜きたくはありません。配管は庭から落差を保ったまま建物を這わせるようにすればよいでしょう」

「そうですね。では、お願いできますか?」

「分かりました。これから工房に戻って図面を引きます。そこでおおよその経費が計算できるので、契約はその後と言う事にいたしましょう」


店長は後日契約書を作成して持ってくると説明して帰っていった。


「ちゃんと伝わったかな?」

「たぶん大丈夫だろ。図面を作るらしいから、そこで一度イメージを確認できるからな。問題があればこちらから指摘すればいい」

「そっか。レイジはどうしてこんな事を思いついたの?」

「うーん、生活を便利にするための工夫だからな。必要に迫られたってことだ」


実際、毎日井戸から水を汲んで運ぶとなれば、浴槽と井戸を何往復もしなければならない。

ただ、このシステムが完成すれば、時間があるときにタンクへ水を溜め、必要なときに水を引き込むことが出来る。

今回の計画では二階まで水を引き込むことはできないが、そちらの問題については何か解決策が見つかれば対応したいと思う。

気が付くと時刻は正午を過ぎていた。

僕らは昼食を済ませ、今晩の食材を探しに町へ出かけた。


「今晩は何を作るの?」

「うーん、サフラの好きな料理って何だ?できればそれを作ろうと思うんだが」

「私の好きなもの?うーん…ポトフかな」

「ポトフか。作ったことはないけど、食べたことはあるし中に入ってる物は知ってるな」

「作れるの?」

「やってやれない事はないと思うぞ」


実際、食べたことはあっても作った経験はない。

中に入っているものから調理法を想像すれば出来なくないだろう。

まぁ、出来上がったのもが“よく似たもの”になる可能性は否定できないが。


まずは材料を買うために露店を回る。

確かジャガイモや玉ねぎ、人参や大根などの野菜が入っていたはずだ。

味付けは塩とコショウ、それにコンソメと具材から出る出汁で足りるだろう。

スープからは微かにオリーブオイルの香りがしていたから、材料の一つとして必要だ。

肉はベーコンかウインナーが入っていたと思う。

見つからなければ干し肉を入れても代用できそうだ。


まずは野菜を選び目的のものを買う。

次にオリーブオイルだが、サフラによれば食用油を専門に扱う店があるらしい。

専門店はすぐに見つかりオリーブオイルを一瓶買った。

残るは肉だ。

この世界には冷蔵庫というものがない。

だから常温で肉を保存することが難しいため、燻製や乾燥させた食品がほとんどだ。


「燻製屋さんだよね。スモークの匂いがするからすぐに見つかるよ」


サフラの言葉通り、ウインナーを象った特徴的な看板の店を見つけた。

店内からは微かにスモークの香りがしている。


「ここか」

「あ、ウインナーもあるよ」


店に入ってすぐに目的のものを見つけた。

ついでなので干し肉のストックも購入しておく。

これで当分サンドイッチの具材にも困らないだろう。


さっそく家に帰って調理を開始する。

まずは昨日使った土鍋に水を張り沸騰させる。

沸騰したところで野菜を入れ、火が通ったところでウインナーとベーコンを投入。

煮立ったところで塩とコショウ、それにコンソメを入れて味を調節する。

味見をしてみたが何か足りなかったのか、“よく似たもの”が出来上がってしまった。

まぁ、これはこれで食べられなくはないため、このまま食卓の中心に据える。

今日は土鍋を使ってしまったため主食はバケットだ。

サフラはご飯を希望していたが、これでは調理できないため仕方がないと納得してくれた。


「うん、美味しいね」

「それはよかった。おかわりするんだぞ」


気付くと鍋は空になっていた。

料理を作った身からすれば全て食べてもらえると作った甲斐があるというものだ。

また作ってやろうという気にもなる。

次は何を作ろうか、そんな事を思いながら夜が更けていった。

水が自由に使えるって、普段は気が付かないけど、キャンプへ行ったりするとありがたさを実感します。海外では水道の水を飲むとお腹を下すこともあるので、水道の水を直接飲める日本ってイイ国だなって思いますね。




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