シーン 60 / 登場人物紹介 7
【登場人物紹介】
ピュレー・マクレー
“ダブルバンド”と呼ばれる弦が二本ある弓を使う女性。レイピアと呼ばれる突き刺しようの剣も得意としている。
銃が存在しなければ、本作では事実上最速の遠距離武器使いだった。
ニーナと同じく今大会で予選を勝ち抜いた数少ない女性参加者だったが、身体を氷漬けにされ戦闘不能になる。
使用武器:ダブルバンド(弓)、レイピア(長剣)
ガウエス・エルウィッド
腰に四本の剣を差した自称“奇術師”を名乗る剣士。相手に触れず無力化する能力から“奇術”を自称していたが、実際は相手に毒を吸わせていた。
勝つためにはなんでもするため、そのための努力は惜しまない。毒虫から毒を採取する際も、自ら精製に携わるなど努力家の一面もある。
実際は四本持っている剣は見せかけで、実際に扱える数は二本まで。四本差しているのは、相手に自分を強く見せことと、武器が壊れた際の交換用である。
使用武器:サーベル(鉄製)四本、毒の詰まった皮袋、(別途、解毒剤も携帯)
バリージェイ・アイアス
戦斧使いの巨漢。腕力には絶対の自信を持っていたが、武器の能力で腕力を強化したクオルに破れ、愛用していた斧も溶かされてしまった。
グラウドンの兄である。
使用武器:戦斧
グラウドン・アイアス
バリージェイの弟で怪力自慢の巨漢。スイカほどある鉄球を軽々と振るい、全てをなぎ倒す戦闘スタイルが売り。しかし、対戦相手であるアルマハウドに鉄球を破壊され、腹部に致命的な傷を負った。ただ、身代わりのコインを持っていたため一命を取り留めた。
使用武器:鉄球
大会参加者の紹介を忘れていたためここで補足しました。
ただ、今回の中にホリンズとアルマハウドが含まれていません。彼らは後日改めて紹介します。
改稿済み:2012/08/23
本部へ引き上げる途中、ニーナに救護所へ行くよう促したが断られてしまった。
精神的な疲労は適度の休息と栄養補給ですぐによくなるらしい。
そのため、わざわざ救護所へ行かなくても平気なのだとか。
ただし、重度の場合は回復までに数日を要する事もあるそうだ。
本部へ戻ると、近くに居た運営委員に声をかけ、即席の休息スペースを作ってもらった。
横になって休めるよう三人掛けのベンチを置き、仮眠をとれるよう毛布も準備されている。
「大丈夫か?」
「あぁ…何とかな。少し休めばすぐに良くなるさ」
ニーナをベンチに座らせ毛布を手渡した。
「そうか。眠たかったら眠れよ」
「すまない、そうさせてもらうよ。そうだ、右手の具合はどうだ?」
「平気だ。凍傷にはならなかったからな」
「試合とは言え酷い事をした。すまなかったな」
「いや、気にするな。それに、元々どちらかが先に倒れるか降参するまで戦うんだ。お互いに大した怪我もなく終わったんだから、ここは素直に喜ぶべきだろ」
ニーナの精神疲労を除けば、お互いに外傷や装備の損傷がなかったのは不幸中の幸いだ。
「レイジ、私は少し休むよ。私に勝ったんだ、必ず優勝するんだぞ」
「次の相手はあの化け物みたいなオッサンだからな…まともにやって勝てる相手だとは思わないが、やれるだけやってみるさ」
「次に目が覚めた時、キミが生き残って居る事を期待している…よ…」
ニーナは目を閉じるとすぐに眠ってしまった。
よほど疲れていたのだろう。
エルフの武器は便利だが、こうした代償の事もよく理解しておかなければならない。
よく考えれば、僕の使う鞭もエルフが使っていたものだが、ニーナやクオルのように動けなくなるほど疲弊した事はなかった。
これは仮説だが、氷や炎を操るのと、武器その物が意志を持って動くのでは精神的な負荷に違いがあるのだろう。
特に、持ち主から離れた相手に影響を及ぼす場合は特別のように思う。
しかし、これはあくまでも仮説なので、それを証明するものは今のところ何もない。
つまり、“鞭を操っている最中に突然…”と言う事も無いとは言い切れないだろう。
本部内を見渡すと対戦相手であるアルマハウドの姿がなくなっていた。
会場を見ても姿はないので、トイレにでも行ったのだろうか。
しばらくすると、ギシギシという金属同士が擦れあう音が聞こえてきた。
振り向くと、頭の先から爪先まで重厚なプレートアーマーを纏った彼を見つけた。
左手には身体の半分を覆う巨大な盾を持ち、背中にはツーハンデットソードを背負っている。
全身真っ黒の装備はテイタン製だろうとすぐに察しが付いた。
お互いに一瞬だけ視線が合い、すぐに逸らした。
試合前の緊張から僅かに脈が早くなっている。
無事に生きて帰れるか、そこが問題だった。
運営委員たちが慌ただしく走り回り、決勝戦の開始が近付いていた。
「皆様、大変長らくお待たせいたしました。これより決勝戦を行います。これまでの激戦を勝ち残った勇者を紹介しましょう。前回、前々回大会の覇者、アルマハウド男爵。そして、本大会初出場ながら数々の死闘を演じた若き戦士、サヤマレイジ!それでは登場してもらいましょう。皆様拍手でお出迎えください」
運営委員の合図で僕らは会場へ向かった。
四方八方から聞こえる拍手に包まれつつ、お互いに所定の位置についた。
アルマハウドが纏う真っ黒な装備は禍々しいものに見える。
対する僕は、先ほどと変わらない鞭と銃の両手持ちだ。
彼に比べれば見劣りする装備だが、これ以上のものは持ち合わせていなかった。
「小僧、よくぞここまで勝ち残った。だが、貴様の命運もここまでだ」
「オッサン、随分大袈裟な装備じゃないか。これからドラゴンでも狩りに行くのかい?」
「ふん、これは貴様の使う奇っ怪な武器に対応したものだ。まあ、本来なら貴様の言う通り、ドラゴンを狩る時に用いる装備ではあるがな…」
どうやら本当に対ドラゴン用の装備らしい。
鉄よりも硬いテイタン製であれば、巨大なドラゴンの攻撃にも耐えられるのだろう。
全身を覆う装備の総重量は、少なく見積もっても平均的な成人男性と同じかそれ以上の重さはあるだろうか。
並みの人間なら、着ただけで身動きが取れなくなるだろう。
それを平然と着こなしているところを見ると、やはりこの男が化け物じみた力を持っていると実感する。
「それでは両者準備が整ったようです。これより決勝戦を開始します。両者…始めッ!」
運営委員長の合図で真っ先に飛び出したのはアルマハウドだった。
超重量の鎧をものともしない軽快な動きは、彼が人間かと疑いたい気持ちになる。
剣の間合いに接近されれば無事では済まないため、僕は拳銃を放って牽制した。
「無駄だ!」
しかし、弾は盾と鎧に全て弾かれてしまった。
銃への対策は先ほどの試合を参考にしたようだ。
事前に手の内が知られているだけで、これほど不利な戦いを強いられるとは思ってもみなかった。
「化け物かよ、アンタ!」
弾を無視して突っ込んでくるアルマハウドを罵ったが、彼は気にせず大剣を振り上げて迫ってきた。
身長は二メートル近くあるため、剣を振り上げると地上から頂点までの高さが四メートルほどに達する。
そこから振り下ろされる一撃は、風圧を伴って凶器へと変わった。
それをギリギリで攻撃をかわすと、剣は地中十数センチまで沈み込んだ。
「あぶねぇ…アンタ、バレルゴブリンかよ!?」
「私をあのような下賤の化け物と同一視とは…。そう言えば聞いた事がある。バレルゴブリンを倒したのはハンターの男たちとバウンティーハンターの女、それと少女を伴った異国の旅だったな。そうか…貴様がそうなのだな?」
「情報が早いな。さすが…と言っておこうか」
「なるほど、そうであったか。それは面白い、小僧、死にたくなければ全力で向かって来い!」
アルマハウドは素早く剣を振り上げ、再び攻撃の態勢に入った。
振り上げるところから振り下ろすまでのスピードは、時間にして約一秒弱だろうか。
その間だけ隙が生まれるのを見つけた。
しかし、全身を覆う鎧に阻まれて銃は無力化されてしまう。
何発弾を撃とうと、表面に僅かな傷を付けるだけでダメージには繋がらない。
他にもっと効果的な方法を見付けなければ勝つ事はできないだろう。
「オッサン…それ反則だから!テイタンの鎧とか酷すぎるって!!」
「反則ではない。どうだ、そろそろ降参してみるか?」
「降参か…それも悪くないな。命あってこそだからな。だけど、降参して負けるわけにはいかなくてね。俺を信じてるヤツのためにも負けられない!」
脳裏にサフラの顔がよぎった。
生きて帰るのは絶対条件だが、一撃も決定打を与えられないまま負けるのは、これまでの戦いで散った参加者の思いを踏みにじるようで許せなかった。
勝つ事は無理でも、善戦したと思ってもらえるような戦いをこの会場にいる人たちに見せなければならない。
「その心意気は買ってやろう。だが、この私は倒せんよ」
「それは勝ってから言うんだな!」
振り上げた大剣が一気に振り下ろされた。
見えないスピードではないため、避けるのは難しくない。
しかし、油断をして少しでも身体に触れれば、それだけで致命傷だろう。
まともに受ければ即死は免れない。
「さすがに素早いな」
「避けなければ死ぬからな。必死にもなるさ」
「ならば…当たるまで繰り返すだけだ!」
再び剣を振り上げた。
構えも同じだ。
この間に攻撃を仕掛けるしかない。
アルマハウドの動きを観察すると、あるモノが目に入った。
それは、鎧の継ぎ目にできた僅かな隙間だ。
よく見ると、腹部の隙間が一番大きく開いている。
しかし、剣が振られて体勢が元に戻ると、継ぎ目の隙間は隠れてしまった。
「うむ…素早さだけなら私以上か」
「オッサンも十分早いよ。まあ、ウェアウルフには劣るがな」
「ウェアウルフか。確かにヤツらは素早いが力は私に到底及ばない。動きを止めてしまえば造作もない相手だ」
「やっぱり、ドラゴン相手に商売をしてるヤツは言う事が違うな…」
話を交えながらも、攻撃の手は休まる事がない。
アルマハウドは再び剣を構えて振り上げた。
チャンスは今しかない。
「そこだ!」
盾の隙間を縫って弾を放った。
「こ、小僧…」
狙い通り、弾は隙間に命中した。
剣を振り上げた体勢こそ崩していないが、相応のダメージはあったはずだ。
これで倒れないところを見ると、やはり化け物並みの生命力を持っているのだろう。
「油断したな」
「まさか、隙間を縫って撃ち抜くとは…しかし、この程度では私は倒れぬぞ!」
鎧の隙間から僅かに血が流れ出している。
しかし、それでも気にせず剣を振り下ろしてきた。
おそらく、並外れた精神力で痛みを押さえ込んでいるのだろう。
「不死身かよアンタ!」
「この程度の傷、ドラゴンどもの攻撃に比べればかすり傷だ。骨身を砕く一撃でなければ私は倒れんぞ!」
全面を覆う盾に遮られ、表情までは見る事ができないものの、動きは攻撃を受ける前とあまり変化が無い。
むしろ、怒りで痛みを忘れているようにも見える。
振り上げた剣は、先ほどにも増して早く振り降ろされた。
「…あぶねぇ。どこにそんな力があるんだ!?」
「うぬ…また避けられたか。ちょこまかと鬱陶しい」
少しイライラしているようだ。
心なしか攻撃も正確さを欠いているように見える。
どうやら、腹部に受けた傷がジワジワと効果を上げているようだ。
「イラついているな?」
「…仕方がない。貴様が強い事は認めよう。だが、私の本気がこの程度だと思うなよ!」
アルマハウドは剣を振り上げて下ろすだけの攻撃から、一転して距離を縮めてきた。
巨体が地面を蹴るたびに砂煙が舞いあがり、ガシャガシャと言う鎧の音が聞こえてくる。
超重量の装備を身に纏っているとは言え、僕に迫るスピードで一直線に突っ込んできた。
そして、真横に振られた剣は僕の数センチ手前を通過すると、遅れて風圧が襲ってきた。
ちょうど、猛スピードの大型トラックがすぐ近くを通り過ぎた時の感覚だ。
大型トラックがぶつかれば生身の人間などひとたまりもない。
どうやら、彼の剣はそれに匹敵するほどの威力があるらしい。
「甘い!」
「!?」
剣戟を避けたところで、予想もしていない攻撃が飛んできた。
左手に構えていた盾をブーメランのように投げ付けられ、対応が遅れて直撃をしてしまった。
身体でまともに受けたため、受身も取れずに後方に吹き飛ばされ、全身に痛みが走った。
しかし、打撲程度のダメージを受けただけで、内臓や骨は無事のようだ。
「戦いと言うものは、常に優位に立つ者の独壇場だ。貴様はまだ戦士としては未熟だな」
「…言ってくれるぜ。まったく、盾ってのは身体を守るためのものだろ…」
痛みに耐えながら立ち上がったものの足に力が入らない。
受けたダメージは、猛スピードで突っ込んでくる原付バイクと正面から衝撃したのと同じくらいだろうか。
転生前の身体なら、全身がバラバラになるような痛みでしばらく動けないはずだ。
しかし、この身体でも、下手をすれば打ち所が悪くて死んでいたかもしれない。
頑丈に生まれ変わった身体とは言え、痛いものは痛い。
「まだ立ち上がるか。この程度では足りないらしい」
この身体では次の攻撃を避けるのは難しい。
剣で斬り付けられれば身体が真っ二つになるだろう。
同じように盾を投げつけられても起き上がれる自信はなかった。
そうなれば、次の攻撃を受ける前に倒さなければ僕の負けだ。
「悔しいな…あとちょっとなのに…」
「悔しがる事はない。貴様はよくやった。敬意を表し、私の最高の技で貴様を倒すとしよう」
そう言うと、アルマハウドの構えが変わった。
腰を低くし、剣先は地面に突き立てられている。
「何のつもりだ?」
「直にわかる。だが、わかった時はお前の死だ」
不気味な構えだった。
言葉の通り、近付けば簡単に殺されてしまいそうな凄みがある。
しかし、アルマハウドがいくら化け物じみた肉体を持っているとしても、不死身と言うわけではない。
銃弾が通用しないのは、彼が着ている鎧が問題だ。
鎧さえ貫通する強力な銃があれば撃ち倒す事ができる。
それさえあればこの状況は一変するはずだ。
僕は銃に願いを込めた。
求めるのはあの鎧すら貫く強力な銃だ。
銃は僕の思いに呼応するように、眩い光を放ってその姿を変えた。
現われたのは銃身の長い回転式の拳銃だ。
しかし、その大きさは通常のモノとは異なり、一回り大きく作られている。
そして、この銃には見覚えがあった。
世界最強の拳銃と言われる“M500”、つまりマグナム銃だ。
この銃は口径が大きく、“.500S&Wマグナム弾”と言う強力な弾を発射する事ができる。
ただし、この銃は射手の事を考えて開発されておらず、連続して十発ほど撃てば手が痺れ、文字を書く事もままならなくなると言う。
使用者に後遺症が残る事から欠陥銃と呼ぶ者もいるが、事実上最強の拳銃として、その筋では有名な化け物銃だ。
「また形が変わったか。だが、いくらやっても同じ事だ!」
「…アンタ、楽しかったぜ!」
鞭を捨て両手持ちで銃を構えた。
おそらく、オリハルコンの能力で発射時の衝撃は全て無効化されるだろう。
しかし、生前の記憶から、この銃を片手持ちで使うのはさすがに気が引ける面がある。
“ハンドキャノン”の異名を持つこの銃は、片手で撃てば手首を脱臼し、下手をすれば腕の骨が折れる事もあるのだから。
狙いを定め、走ってくるアルマハウドに向けて引き金を引いた。
予想通り発射時の反動はない。
さすがは幼女がくれたチート武器だ。
これまでと同様、重さも反動も弾の制限もない。
銃からは、発射時に噴出した火炎ガスがあがり、花火を打ち上げたような爆音が会場に響いた。
それと同時に、彼に向けられて放たれた一撃は、テイタンの鎧を貫いた。
「…き、貴様…」
「驚いたろ?いや…俺も驚いたが…」
実際、資料でしか知らない銃だったが、その威力は想像の遥か右斜め上を通過していった。
撃たれたアルマハウドを見ると、腹部の装甲に親指大の穴が開いている。
そこから噴出した血の量は、先ほど拳銃で与えたダメージとは比べ物にならなかった。
どうやら貫通した弾が内臓まで達したらしい。
背中には弾が貫通してできた穴もあった。
元々、この銃は熊を殺せる威力を持っている。
いくら鎧を着た人間とは言え、無事で済むはずがない。
ましてや、数メートルしか離れていない至近距離なら貫通力も凄まじく、腹部に受けた衝撃は想像を絶する痛みになった事だろう。
さすがのアルマハウドもこれには堪えきれず膝を突いた。
「わ、私が膝をつくとは…」
「アンタはよくやったよ。むしろ、コイツを受けて生きているなんて信じられん」
「…ちッ、身代わりのコインが割れたようだ。この試合、貴様の勝ちと言うわけか…」
アルマハウドは剣を背負い両手を挙げて降伏した。
「し、勝者、レイジ!優勝はレイジ選手です!!」
運営委員長が試合終了を告げると、会場にどよめきが広がった。
それと同時に、半数近い観客が立ち上がり、一斉にスタンディングオベーションが始まった。
それを聞いて、ようやく長い死闘が終わりを告げた事を知った。
これで大会の戦闘シーンは終わりです。大会を振り返ると、あんな風に戦わせればよかったとか、あのキャラの設定をもう少し深く練っておけば…と思うところもありますが、そのアイデアは次回に活かしたいと思います。
そういえば今日で60日連続の投稿でした。振り返れば、長いようであっという間だったように思います。あッ、もちろんまだ終わりませんよ?やりたいコトがいっぱいあるんです!
ちなみにゴールは見えているんですが、そこまでどうやって話を進めるか…そこが問題なんですよねぇ。
ご意見・ご感想・誤字脱字の指摘等があればよろしくお願いします。