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GunZ&SworD  作者: 聖庵
56/185

シーン 56

改稿済み:2012/08/18

四回戦の開始は予定よりも遅れていた。

先ほどの試合で、バリージェイによって破壊された地面の修復に時間がかかっていたためだ。

作業員に観衆の熱い視線が注がれる中、懸命な努力により会場の準備が整った。


「会場の皆様、大変お待たせいたしました。これより四回戦を開始いたします。両者、前へ!」


マリオンとホリンズはそれぞれ無言で会場へと向かった。


「それでは四回戦、始めッ!」


しかし、試合が始まっても両者はお互いに向き合ったまま動かなかった。

マリオンはトライデントを構え今すぐにでも戦える状態になっている。

対するホリンズは、丈の長いローブを纏ったまま武器を構えていない。


「ホリンズとやら、武器も構えず私と戦うおつもりかな?」

「…気にしなくていい。キミは普段通りにやればいいんだ」

「覚悟は出来ていると?」

「そうだね、好きに取っていいよ」

「…ならば!」

「どうぞどうぞ」


お互いに短く言葉を交わし、マリオンが攻撃を開始した。

トライデントは三つ叉の刃が付いた槍で、漁師が魚を捕る“銛”に似ている。

先端には、釣り針のような小さな“返し”もあり、一度刺されば抜くのが難しい。

対するホリンズは、微動だにせず、彼の攻撃を黙って見ていた。


「覚悟!」


素早い突きがホリンズを襲う。

僕やニーナなら避けられない速さではないが、実際に立ち合えば、三つ叉に付いた刃が恐怖心を煽るだろう。

ホリンズは、それに対し、僅かに身体を反らしてやり過ごした。


「なるほど…なかなかいい突きだ。だけど、それだけだね」

「何、今のはほんの小手調べ。余裕で居られるのも今のうちだ」


マリオンは素早く槍を引き戻し、息もつかせぬ早技で連続突きを繰り出した。

決して一点だけに集約しているわけではなく、ホリンズが避ける位置まで予測している。

並みの人間であれば、一瞬で串刺しになるだろう。

相手が亜人や魔物であっても無事では済まないはずだ。

これだけ見ても、マリオンが高い実力を持っている事がわかる。

しかし、そのどれもがホリンズを捉えきれず、虚しく空を切るばかりだった。


「なるほど。恐ろしく正確で素早い突きだ。なかなかの実力者と言ったところかな?」

「…私の突きを全てかわされたのは初めてだ」

「そうなのかい?ねえ、もっと他の技を見せてくれないかな。まだ他にもあるんだろう?」

「…いいだろう。私の持つ最高の技でお相手しよう」

「それは楽しみだね」


ホリンズはローブの中で何やら手を動かしている。

ようやく武器を構える気になったのだろうか。

マリオンはそんな事は気にせず槍を握りなおした。

一見すればただの平凡な“突き”の前に見せる構えだ。

ただし、どこから見ても隙がない。

迂闊に近付けば一突きにされるだろう。

眼光は鋭く、獲物に襲いかかる前のライオンのようだ。


「これから見せるのは“ハジメの突き”。最も基本的な技だが、同時にこれ以上の技を私は知らない」

「能書きはいいよ。さっさとやってくれないかな?」

「あくまでも構えないつもりか。仕方がない…」


マリオンは一瞬深く目を閉じると、辺りの空気が冷たく張り詰めた。

息苦しいほどの殺気が会場を包んでいる。

この張り詰めた空気は、遠く離れた大会本部まで伝わってきた。


「…あのマリオンと言うハンター、結構強いぞ。殺気の圧力が尋常じゃない」


ニーナもマリオンの実力を認めたらしい。

それでもホリンズは構えを取る気配はなかった。

ただ何もせず立っているその姿は、不気味にさえ見えた。


「これで…終わりだッ!」


大気そのものを切り裂くように、勢いよく突き出された槍は、最初に見せた“突き”とはまるで別物だった。

単純な速さだけなら、ボウガンが放つ矢よりも上だろう。

並みの人間なら、目で追えるスピードではない。

それなのに、ホリンズは避けるでもなく、真っ向から胸に槍を受け止めた。


「へえ…思ったよりやるじゃないか。僕が身を守ったのはいつぶりだろう?」


よく見ると、槍がナイフに受け止められていた。

ナイフと言っても家庭で使う果物ナイフだ。

刃渡りは十センチほどで、槍の先端よりも短い。

彼はその小さなナイフを使い、ギリギリのところで受け止めている。


「ナイフで…止められただと!?」

「驚いているね。まあ、無理もないか。元々、このナイフは酒場から拝借してきたものだし。そう言えば、これがキミの最高の技だったね。つまり、これがキミの実力か。少し残念かな。まあ、初めから期待はしていなかったから、よくやった方ではあるけどね」

「お、お前…何者だ!?」

「僕はホリンズ。それだけ覚えておいてくれればいいよ。まあ、生きていればの話だけれど…」


ホリンズは、受け止めていた槍をいなして強く地面を蹴った。

小さく砂埃があがると、ウェアウルフと同等の動きで移動し、一気に距離を詰めた。

突然の出来事に、マリオンは理解できなかったのだろう。

受身を取る事ができず、気付いた時には胸からナイフが生えていた。


「…ば、バカ…な…」

「楽しかったよ、マリオン君」


離れたところで見ていた僕には、その状況がよく理解できた。

恐ろしく速いスピードでマリオンに迫り、胸にナイフを突き立てる現場が。

速さだけなら僕よりも速いだろう。

本気でないとすれば、底知れない実力者だ。

そして、ホリンズに感じていた違和感の正体を知った。

単純な強さだけなら僕と同じかそれ以上だろう。

しかし、それを感じさせる雰囲気や殺気も帯びていない。

一見すれば、どこにでもいそうな旅人と言う印象で、それが余計に違和感と不安を煽ってくる。


「勝者、ホリンズ!」


あっと言う間の試合だった。

先ほどの三回戦よりも早く、特に見せ場の少ない戦い。

それなのに、観衆はホリンズと言う得体の知れない勝者に賞賛を送っている。

見せ物としての価値は低かったが、同時に彼に興味を持ったらしい。

観衆と同じ目線に立てば、本気で戦うところが見られれば、素晴らしい試合を演じてくれるだろうと期待してしまう。

しかし、実際は参加者である僕にとって、突然現れた未知の敵に警戒せざるを得なかった。


「…レイジ、ヤツをどう見る?」

「あのローブの中に真実を隠している…そんなところか?」


質問に対して適当な答えではないが、これが思ったままの感想だ。

目に見えるものが全てでは、そう言った印象を受けた。


「私が思うに、本当の強さまではわからないが、間違いなく中身は化け物だろうな。あんなヤツが居たとは…」


さすがのニーナも少し弱腰だった。

彼女もかなり実力のある戦士なので、相手の事を見ただけでおおよその実力がわかる。

そんな彼女ですら、ホリンズと言う男の力量を計りかねていた。

会場では、胸を刺されたマリオンが応急処置を受けている。

ナイフをゆっくり抜かれると、止血を施されて救護所へ搬送されていった。

身代わりのコインを持っていれば助かるだろう。

参加者の多くは常に携帯しているため、マリオンも例外ではないはずだ。

しばらくすると、ベッドの上で意識を取り戻し、胸の傷が塞がっていた。


「それでは五回戦を行います。両者、前へ」


次は優勝候補の筆頭が出場する試合だ。

前回、前々回の覇者と言うだけあり、落ち着いた雰囲気のまま会場へ向かっていった。

対する挑戦者は、先ほど敗れたバリージェイの弟だ。

兄に劣らぬ巨漢で容姿もよく似ていた。

手にしている武器は、鎖の先に鉄球がついた“モーニングスター”と言う打撃系の凶器だ。

しかし、兄とは違って今回初出場と言う事もあり、知名度はほとんどない。

それに対し、今大会で最有力候補のアルマハウド男爵はかなりの有名人だ。

自分の背丈ほどあるツーハンデットソードで戦う姿は、男女を問わず人気がある。

身長も二メートル近くあり、長身から繰り出される攻撃の数々は、対戦者に恐怖を植え付けていく。


「それでは両者お互いに構え…始めッ!」


先に仕掛けたのはグラウドンだった。

ビルの解体工事で使うような鉄球を軽々と振り回し、アルマハウドに近付いていく。

モーニングスターは風切り音を伴って凄まじい回転を見せた。

先ほどのバリージェイと同様、回転で威力を高めた技が得意のようだ。

触れただけで身体がバラバラになりそうな鉄球を前に、アルマハウドは剣を構えて立ちはだかった。


「死ねぇ!」


掛け声と共に鉄球が襲いかかる。

おそらく、並みの人間なら死を覚悟するだろう。

しかし、アルマハウドは一歩も引かず、剣を鉄球に向けて振り下ろすと、鉄球は空中で勢いを失い後方へ弾き飛ばされた。


「…ぐぬぬ、やはり生ける伝説。“竜殺し”の名は伊達ではないか」

「命が惜しければ引け。降伏すれば命までは取らん」

「…さすがは男爵。実に寛大だ。だが、ここで引くわけには行かん!兄者の仇を取るまでは!」

「引かぬか。ならば仕方ない…」


アルマハウドは両手で持っていた剣を片手に持ち替えた。

彼の持つツーハンデットソードは、一般的なものより肉厚に作られている。

そのため、振り抜くことさえできればドラゴンの硬い外皮さえ切り裂くほど強力な武器だ。

しかし、その巨大な剣は、並みの人間が持ち上げることすら難しいほど重い。

それを簡単に振り回す姿は、文字通り怪物だった。

おそらく、過去に多くのドラゴンを討伐してきた彼にすれば、グラウドンは取るに足らない相手に映っているだろう。

剣術は素人同然の僕が見ても、実力の違いは如実に現れていた。

実際、グラウドンは少し萎縮しているらしく、本来の実力を出し切れていないように見える。

むしろ、本気で戦っても勝てない相手だと頭で理解しているため、奇跡でも起きなければ勝利は絶望的だろう。


それでも引かないのは、戦士としてのプライドによるものだ。

しかし、それが無謀だと知りながら、戦いを止めない彼の気持ちまでは理解出来なかった。

そう言った意味では、僕はまだ戦士ではないのだろう。

もちろん、戦士にはなるつもりはないため、気にする必要もないのだが。


アルマハウドは片手で大剣を軽かると振り上げ、グラウドンの脳天に目掛けて振り下ろした。

剣の重さは、軽く見積もっても三十キロ以上はあるだろうか。

それを片手で振るうだけでも脅威なのに、顔色一つ変えていなかった。

グラウドンは、咄嗟に身体を反らしながら一撃をかわし、モーニングスターで反撃を試みようと鎖を持つ手に力をこめた。

次の瞬間、激しく交錯する剣と鉄球は火花を散らし、グラウドンの表情が徐々に歪んでいった。

それでも、何度も武器と武器がぶつかり合い、その光景は全てを破壊する竜巻の様に見えた。


「ほう…これほど持ちこたえるとは。だが、息がきれているようだな。長くは保つまい」

「…ば、化け物め…」


一瞬の隙を突き、アルマハウドは鉄球に向けて渾身の力を込めた一撃を叩き込んだ。

すると、スイカ割りのように鉄球が砕け散り、その一部がグラウドンを襲った。

悲鳴をあげるグラウドンに対し、アルマハウドは容赦なく大剣の切っ先を腹に突き立てた。


「…終わりだ」


グラウドンは、身体を貫かれ大量の血の固まりを吐き出し、言葉もなくそのままうつ伏せに倒れこんだ。

それを目の当たりにした観衆の間には、どよめきと悲鳴が支配していった。

目の前で起きた凄惨な最後に、会場の誰もが目を覆った。


「…そ、そこまで!勝者、アルマハウド」


運営委員会も言葉を失っていたが、我を取り戻して試合終了を告げた。

駆けつけた救護班は、貫かれた傷口を見て目を覆っている。

内臓まで達した傷は、一目で致命傷だとわかる。

マリオンの刺し傷が可愛く見えるほど、もはや手遅れと救護班の誰もがさじを投げた。


そんな絶望的な状況の中、グラウドンの手が僅かに動いた。

同時に致命傷だった傷口がゆっくり塞がっていく。

どうやら持っていた身代わりのコインが砕けたらしい。

その光景は、まるでビデオの逆再生のようにも見えた。

一命を取り留めるところを見ると、少しくらい高価なコインでも買っておいて良かったと思う。

グラウドンはゆっくり身体を起こし、塞がった傷口に手を当てた。

観衆のほとんどは、コインの事を知らない者が多く、中には復活した彼を見て悲鳴をあげる女性もいた。


これを見て思うことがある。

コインを持った相手を確実に制圧するには、複数回殺す必要があると言う事だ。

特に、エルフと戦う時には注意が必要だろう。

もちろん、ドワーフの中にも同じ物を持つ者がいるかもしれないので注意が必要だ。

自分が助かる事はありがたいが、同時に厄介な道具でもある。

ご意見・ご感想・誤字脱字の指摘等があればよろしくお願いします。

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