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GunZ&SworD  作者: 聖庵
49/185

シーン 49

改稿済み:2012/08/12

帝都への帰り道はすこぶる順調だった。

目的地だった岩山は、トロールの生息域の近くにあったため、襲撃に備えて準備をしておいたが取り越し苦労だったらしい。

岩山の近くあったトロールのコロニーらしき跡を見つけたが、すでに気配はなく変わりに数体の死体を見つけた。

一様に首を掻き切られていたため、犯人の目星はおおよそついている。

おそらく、亜人に襲われたビルが返り討ちにしたのだろう。

彼にしてみればトロールでも相手にならないらしい。


「…レ、レイジはさ、不思議なところがあるよね」


不意にサフラが声を上げた。

帰り道は単調な移動が続いていたので、会話がないと退屈な時間が続くだけだ。

待ってましたと言わんばかりに、彼女の横顔を見た。


「どうしたんだよ、急に」

「私、改めてレイジの事を考えてみたの。そしたら、やっぱり普通じゃない、不思議なところがあるって、そう思ったの」

「普通じゃない…か」

「ち、違うの。変って意味じゃなくて、何て言うか神様みたいで、捉えどころないって言うか…言葉にするのは難しいね」

「捉えどころ…ね」


言われた言葉を噛み砕いて反芻してみる。

捉えどころがないと言う言葉は、ポジティブにもネガティブにも解釈できるが、この場合はおそらく後者だろう。

これは主観だが、多くの人間は理解を超えたモノを敬遠するように思う。


「言ったよな。俺はさ、この国の人間じゃないんだ。だから、本質的にはサフラたちと違うのかもしれない」

「ニホン…だよね。レイジがみんなと違うって言うのはわかるよ。考え方も価値観も、どれも私たちの常識とは違うから…。でもね、レイジが考えたり思ったりする事って、私は凄いと思うの。だって、誰も考えない事をするのってとっても難しいから」

「なるほどな…。俺はそれが普通だと思って生きてきたけど、この国って環境も文化も何もかも違うんだよ。きっと、それが原因だな」


サフラに僕が転生者だと告げたらどう思うだろうか。

きっと理解するのは難しいだろう。

何より、以前の世界を証明するものは何もない。

むしろ、僕と言う存在だけが唯一の証明になる。


「そう言えば、ニホンの話、聞いたことがなかったよね。詳しく聞かせてほしいな」

「いいけど、聞いても面白い話じゃないと思うぞ?」

「そんな事ないよ。ね、ダメかな?」

「わかった。じゃあ…どこから話そうかな」


説明には順序立てが大切だ。

出来れば簡潔に伝えたいところだが、常識が違い過ぎているため、丁寧に説明しなければならない。

仮に、目の前に現れた人が「未来から来た」や「宇宙人だ」と言ったとして、よほど感性が柔軟でもなければ納得できないだろう。

いろいろ思案した結果、まずは僕の家族構成から話す事にした。


「じゃあ、まず俺の家族の話をしよう。ウチは父親と母親、それと俺の三人家族だった。両親は共働きで、俺は鍵っ子だったんだよ」

「鍵っ子?」

「学校から家に帰っても両親が仕事で居なかったんだ。だから、家の鍵を持たされてる子を鍵っ子って言うんだよ」

「学校…行ってたんだね」


急にサフラの声のトーンが落ちた。

見ると少し俯きながら歩いている。


「どうしたんだよ?」

「うん…ちょっと、羨ましいなって。ほら、学校に通えるのは貴族と一部の子どもたちだけだから…」

「お前、学校に行きたかったのか?」

「うん。いっぱいお勉強したかったの。そしたら、もっとお父さんやお母さんを助けてあげられたから…」


サフラの瞳に光るものを浮かんでいる。

亡くなった両親の事を思い出してしまったらしい。

元々、この話題を持ち出した時点でこうなることはわかっていた。

それでも、どうしてもこの話をしておかなければ、僕という本質を伝えるのは難しいと思った。

もちろん、サフラが悲しい思いをするのは見ていて辛いが、本当の自分を伝えるには必要な事だ。

僕は何も言わないで彼女の手を取ると、無言で握った手を握り返してくれた。


「悲しい思いをさせてごめんな…」

「大丈夫…本当なら、私もあの時死んでるはずだったから…。レイジのおかげで今の私は居るんだよ」

「…そうだな」

「うん…大丈夫。もう平気だから」


サフラは涙を拭って前を向いた。

気持ちの整理がついたのか、心なしか足取りも軽く見える。


「まあ、続きだ。両親はいつも家に居なくてさ、俺は極力迷惑にならないようにって思って生きてきた。学校の成績も悪くなかったし、そう言う意味では親孝行だった気がする。だけど、自分らしく生きてきたかと言われれば微妙だ。親の顔色を伺って生きてきたのは事実だからさ」

「それ…いけない事?」

「どうだろうな。親にしたら楽だったと思うぞ?一人で飯作って、家事もある程度こなして。とにかく、邪魔者になりたくない一心だった。だけど、それが俺の本当の姿だと言われればどうだろうって事さ」

「じゃあ、レイジの本当って何?」


サフラに言われてハッとした。

昔の自分が偽りなら、本当の自分とは何だろうか。

そう問われて混乱している僕がいる。

しかし、今の僕には“それ”が見えていない。

正確には、見えているがモヤが掛かってハッキリしないと言うべきだろうか。


「本当の自分…か。正直、俺にもよくわからないんだ」

「わからない?どうして?」

「何でだろうな。きっと、自分を抑えて生きてきたから、本当の姿を見失ったんだろうな。だから、今もそれを探してるんだと思う」

「それが旅をしてる理由?」

「いや、旅をしてるのはもっと別な理由だ。これについては説明が難しいな」


旅の理由は、僕がこの世界に転生した根幹に関わる事だ。

それこそ、神の存在や前に暮らしていた世界を詳しく説明する必要がある。

ただ、それらに触れない形で説明するのであれば、自分探しと言い切ってしまえばいい。

しかし、そうやって割り切ってしまえるほど簡単な理由ではないのは事実だ。


「でも、レイジが旅に出たおかげで私は助かったんだよ。こうして生きていられるのはレイジが居てくれたおかげだから」

「そう…だな。あの時は無我夢中だったし、あの晩までまさかこんな事になるとは思ってもいなかったよ」

「私も…。不思議だよね。でも、そんなところも含めてレイジはレイジなんじゃないか?もちろん、私が知ってる範囲で、だけれど」

「そうか…そうだよな。きっと、今の自分が本当の自分に近いんだと思う。何ていうか、自然体だし、世の中のしがらみから開放されてる気分だ」


前の自分と今の自分、両者の違いは気持ちの在り方にある。

当時の僕は親の為、周りの為、将来の自分の為、いろいろな期待を背負って生きていた。

だけど、今の僕はそういったモノから開放されている。

守るモノと言えば、自分とサフラの命だけ。

これだけを守り抜けば、何をしていても心が安らかでいられると気が付いたのはごく最近の事だ。


この他にも気が付いた事がある。

戦いの中でたまに顔を出す“もう一人の僕”の存在だ。

言葉にするのは難しいが、生き物の醜悪さを象った僕であって僕でないモノ。

現時点では、感覚的に“そこにある”と言う事くらいで、いつかは正面から向き合わなければいけないような気がしている。


「レイジはよく笑うし、楽しそうだもん。戦ってる時の顔は…ちょっと怖いけど。でも、それを含めて全部レイジだから」

「そうかもな。俺もそう思う。おッ、帝都が見えてきたぞ」


前方に一日ぶりの帝都が見えた。

今日も大勢の人たちが帝都を目指してやってくる。

人、物、金、情報など様々なモノが行き交って経済が成り立ち、帝都も絶えず変化し続けていく。

きっと、昨日の今日とでは町の雰囲気も少しずつ違うのだろう。

さすがは人間界最大の都市と言うだけの事はある。


帝都に着いてまず初めに行うのは、ギルドに討伐の達成を報告する事だ。

戦利品として持ち帰ったグリフォンの尾羽は二匹分ある。

時刻は夜へと移り変わる時間帯だが、ギルドは深夜まで開いているので、この時間から顔を出しても問題はない。

確認したわけではないが、昨日の朝も夜明け前からギルドが開いていたのを見ると、おそらく二十四時間体勢なのだろう。

特に帝都のギルドは本部の機能も兼ねている。

おかげで帝都は安全と言う見方が一般的だ。


受付には、すでに顔見知りになった男性が座っていた。

いつも同じ人が担当しているため、代わりの人員はいないのかもしれない。

だとすれば、この男性はいつ休んでいるのだろうか。

疑問は尽きないが、質問するだけ野暮なのであえて触れないでおく。


「おや、アンタら無事だったのかい」

「おかげさまで。グリフォン討伐の報告に来ました。これがヤツから切り取った尾羽です」


カウンターに尾羽を差し出した。


「おぉ、確かに。ん?二つあるが…もしや?」

「えぇ、ツガイだったので、両方討伐したんですよ」

「二体同時にか…?」

「いえ、一体ずつです。別々に巣へ戻ってきたところを仕留めました」

「なるほど…。コイツらが二体同時となればアンタらでも命はなかっただろうな」

「まあ、そうでしょうね。とりあえず、これで討伐達成ですか?」

「あぁ、尾羽の模様も違うし、アンタの言った通り二体分だ。確かに確認させてもらった」

「そうですか。では俺たちはこれで」

「ちょっと待ちな」


立ち去ろうとしたところで再び声が掛かった。

男性の手元には何やら見覚えのあるモノがおかれている。

よく見るとエキドナが使っていた鞭だった。

身柄を拘束した三人と共にギルドへ引き渡したものだったが、何故ここにあるのだろうか。


「ウチのオサから特例だそうだ。これをアンタらに渡してくれと託っている」

「渡す?」

「そうだ。アンタらの働きを評価し、特例措置というヤツだ。ギルドを管轄するラグズ公爵からも許可が下りている。なかなか無い措置だから、心して受け取るように」


基本的に、討伐対象が持っていた装備品は可能な限りギルドへ提出する義務がある。

しかし、相手が人間の場合は特別で、生け捕りにした場合は本人が証明となるため、持ち物の提出義務はない。

その場合、持ち物を自分の物にしてもいいため、通常は報告者の所有物となる。

今回、僕はその事をよく理解していなかったため、馬車の中に置いたままだった鞭もそのまま証拠品として提出していた。

それが今回、特例処置という名目で報告者である僕に返還されたというわけだ。


「つまり、自分のモノにしていいと?」

「あぁ、後は使うなり売るなりするんだな。それと、裏手に馬車がある。あれも引き取れとの事だ」

「え…?馬車もですか、それはありがたい」

「アンタ、何かと入用だろう?遠征するなら馬車を持っていたほうが便利だ」

「確かに。馬車は以前から欲しいと思っていたんで助かります」


建物の裏手に回ると、馬が取り外された状態の荷台が置かれていた。

馬は近くの厩舎に預けられているようだ。

必要があれば厩舎へ迎えに行けばいい。

ただし、一度受け取ると次回から預かりが有料になるため、自分で管理できる場所を見つけるようにとも説明を受けた。

誰かに必要とされると頑張れる気がします。自分の代わりなんて居ない!オンリーワンの個性で自分らしく。でも、似た役割の人ならたくさん居ますけどね(汗




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