シーン 48 / 登場人物紹介 6
【登場人物紹介】
ビル=ビリーズ
ゴブリンやオークといった亜人種と同列視されるウェアウルフの男(雄?)。カタコトの人語が操れるがサフラには通じない言語を話す。
子どもの敵であるグリフォンを追ってサウスフォレストからミッドランドへやってきた。
なお、ウェアウルフの特徴でもある俊敏性と牙・爪による攻撃は、並みのハンターでは敵わないほどの強敵とされる。サフラ曰く、無傷で勝つのは難しいとのこと。
使用武器:自前の牙・爪。
亜人種であるウェアウルフですが、このキャラだけを特別扱いするのか、それともウェアウルフだけが例外なのか。その辺りは今後の物語の中で明らかになっていくはずです。(たぶん)
改稿済み:2012/08/12
作戦通りと言えば聞こえはいいが、思っていたより呆気なく終わってしまった。
苦しまないよう頭を撃ち抜いたのが効いたのか即死だったらしい。
動かなくなったグリフォンを眺めながら奪ってしまった命に短い黙祷を捧げた。
「終わったの?」
「みたいだな。あとは倒した証拠になるものを持ち帰るだけか」
ハンター以外の者が討伐に参加する際、倒した相手を証明する“何か”を持ち帰らなければならない。
そうする事で、ギルド側が現場を確認すると言う手間を省略する事ができる。
ただし、中には討伐終了を偽って申告する者もいるため、ギルドから信頼を得ていない者は審査に時間がかかる。
僕らの場合は、すでにバレルゴブリンや傭兵団の一件で顔を売っているため、その心配には及ばない。
ちなみに、グリフォンは尾羽に特徴があり、金と銀の糸を寄り合わせた美術品のようになっている。
この特徴を持つ鳥類は他に確認されていないので、証拠品としての提出が認められているようだ。
また、尾羽は生まれてから一生抜け落ちることはないので、どこかで偶然拾う可能性は皆無に等しい。
そのため、必ずグリフォンを倒さなければ手に入らないため、証拠品として成り立つ仕組みだ。
貴族の中には尾羽を使った羽根ペンを愛用する者もおり、工芸品の素材としての価値も高い。
専門に扱う商人に売れば、それなりの価値があるようだ。
グリフォンから尾羽を切り取り、これにて依頼達成となった。
「そうだ、グリフォンは巣に宝物を隠す習性があるんだって」
「宝物?」
「うーん、私も実際に見たわけじゃないからわからないけど、一度巣を覗いてみる?」
「そうだな。こんな機会はあまりないだろうし、一度見ておこう」
僕らは岩山を登って巣を目指した。
地上から頂上まではビルの三階分に相当する高さがある。
あくまでも自然に出来た岩山なので、昇り降りに便利な階段やロープなどはない。
上まで登るにはロッククライミングの要領でよじ登るしかなかった。
「…ふう。登ってみると結構高いな」
「辺りが一望できるね。きっと、餌を見つけるのも簡単だったんだろうね」
「他にも、外敵から狙われ難くする工夫だったんだろうな。それより、巣ってこんなにデカイのか?」
巣は大きさは四畳ほどもある巨大なもので、木の枝や動物の骨を組み合わせて作られている。
よく見ると人骨のようなモノもあり、犠牲者なのだろうと容易に察しがついた。
他にも、犠牲者が見につけていたと思われる鎧や武器などを見つけたものの、宝石のような一目で価値がある代物は見つからなかった。
「…たくさん人を殺してきたんだね」
「グリフォンにしてみれば、人間はただの餌みたいなものなんだろ。だから討伐の依頼があった、わかりやすいじゃないか」
「うん…この人たちの供養、ちゃんとしてあげようね」
二人で黙祷をして死者の魂を弔った。
「ん?何だこれ?」
「なんだろう?」
犠牲者たちの装備品に紛れて光る物を見つけた。
手にとって見ると、赤い宝石のついたペンダントで、チェーンの部分は金で出来ている。
「ペンダントだね」
「誰か犠牲になった人の者だろう。こういう場合、ギルドへ提出するのか?」
「うーん、提出しちゃうと基本的にはギルドの所有物になっちゃうと思うよ。よほどのことがない限り、自分のものにしてもイイと思う」
「まあ、この場所に置いておくより持ち帰った方がいいか。提出するかは帰りながら考えよう」
用事を済ませ岩山から降りようとした時だった。
遠くの空に巨大な飛行物体を見つけた。
それがグリフォンと言う事に気が付いた瞬間、武器を手に取り戦闘態勢に入っていた。
「くッ、もう一体いたのか」
「繁殖期はツガイでいるから…きっと、さっきのグリフォンのパートナーだよ」
「ここに居たら殺られる。急いで下に降りるんだ」
猛スピードで向かってくるグリフォンに銃で牽制しながら退路を確保する。
しかし、飛んでいる相手に拳銃で狙いを定めるのはなかなか難しい。
それでも、身体が大きいため弾を外す事はほとんどない代わりに、どれも致命傷にはほど遠い程度の傷しか与えられなかった。
むしろ、攻撃を受けて逆上したグリフォンは、口を大きく開けながら激しく威嚇している。
その気になれば、全力で突進して僕らを岩山から突き落とす事も可能だろう。
「サフラ、俺が援護する。お前は急いで下に降りろ」
「わ、わかった」
岩山から地上までは約十数メートルある。
飛び降りるにしても、半分くらいは自力で降りなければ無事では済まない。
その間にも、グリフォンは上空を旋回して攻撃のチャンスを伺っていた。
先ほどの戦いでグリフォンの攻撃パターンは経験済みだが、今回は逃げ場がない高所だ。
下手をすればこのまま二人とも…と言う最悪のケースも想定される。
状況が状況だけに落ち着いていられる時間はなかった。
サフラは岩場を半分程度降りたところで意を決して下へと飛び降りた。
心配になって着地点を見たが、うまくいったらしく怪我もなさそうだ。
次は僕が降りる番だが、グリフォンを牽制しながらでは簡単にはいかない。
出来る事ならグリフォンの機動力を奪い、安全を確保するべきだろう。
問題はどうやって動きを封じるかだ。
旋回を繰り返すグリフォンの翼を狙うには集中力が必要になる。
「レイジ、煙り袋!」
不意に下から声が聞こえた。
煙幕を張ってグリフォンの注意を引けば、この場から逃げられる可能性もある。
物は試しにとポシェットから煙り袋を取り出し、着火して上空に放り投げた。
火の付いた煙り袋は猛烈な煙を上げ、視界は見る間にホワイトアウトしていく。
僕はその隙に岩山を降りた。
そんな時、急に猛烈な風が吹き荒れ、視界を遮っていた煙が晴れてしまった。
グリフォンが羽ばたいて起こした突風が煙を吹き飛ばしてしまったらしい。
強風によって僕もバランスを崩しそうになる。
「クソッ、ここまでとは予想外だ」
「レイジ、危ないッ!」
サフラの注意に気が付いた頃には、グリフォンの鍵爪が目の前に迫っていた。
僕は咄嗟に岩肌から手を離し、そのまま下へ飛び降りた。
ほとんど自力で降りていなかったため、地上までは十メートル近くある。
並みの人間なら生きていたとしても大怪我を負う高さだ。
「うおおおぉぉぉぉぉッ」
雄叫びと共に、目の前に迫ってきた地面に向けて受身の姿勢を取った。
身体を小さく畳んだおかげで着地と同時に地面を転がり、大部分の衝撃を逃す事に成功すると同時に、打ち身程度の軽症で済んだのは不幸中の幸いだ。
すぐに起き上がり、上空のグリフォンを睨み付けた。
「レイジ、大丈夫?」
慌てて駆け寄ってきたサフラに無事だと告げてすぐに武器を構える。
グリフォンはすぐに僕らの位置を発見すると、次の攻撃を仕掛けてきた。
今度は嘴を使った突進攻撃だ。
これは先ほど倒したグリフォンと同じ攻撃で、先端が鋭くなった嘴を受ければ身体はズタズタになるだろう。
それでも、真っ直ぐ突進してくるため行動は予測しやすい。
直線的な攻撃は、よく見れば避けるのはさほど難しくはなかった。
グリフォンは攻撃が外れると、再び空に舞い上がった。
しかし、背中を見せたのが運の尽きだ。
飛び去って行く背中に向け、弾を浴びせかけた。
弾の大部分は致命傷には至らなかったが、その中の一発が運よく翼の付け根にある急所に命中し、グリフォンは体勢を崩して地面に落下した。
こうなってしまえば命を奪うのはさほど難しくない。
「マテ」
不意に背後で声がした。
振り向くとウェアウルフのビルが昨日の子犬たちを従えて立っていた。
「ビル!」
「ソイツノ“トドメ”ハワタシガサス」
「え?」
「オマエハダマッテソコデミテイロ」
「ま、待て!」
咄嗟に声を掛けたが、ビルは制止を振り切ってグリフォンに向かっていた。
その動きは、昨晩対峙した時と違わぬ素早い動きで、僕とサフラの横を駆け抜けた。
次の瞬間、ビルはグリフォンの首筋に自慢の爪を突き立て、そのまま包丁を引く要領で肉を切り裂いた。
「な…一撃だと?」
「動きが見えなかった…。あのウェアウルフ…味方なの?」
「見方かどうかはわからないが…アイツの名前はビルっていうんだ」
「ビル…。ねえ、知ってる?ウェアウルフって、討伐難易度がトロールより上なの。ハンターでも一対一だったら、上位の限られた人しか太刀打ちできないんだって…」
その言葉を裏付けるように、ビルは涼しい顔をしてこちらへ戻ってきた。
「“カタキ”ガウテテヨカッタ」
「敵討ち?」
「アァ、ヤツニオソワレテナクナッタ、ワタシノコドモタチ。ソノトムライダ」
「そうか…お前の子どもが殺されたのか」
「ソウイウコトダ。レイジ、レイヲイウ」
ビルは頭を下げた。
亜人種に分類されるウェアウルフだが、心の在り方は人に近い存在のようだ。
そのため、人を好んで襲うゴブリンやオークと同列に見るのは間違っているように思う。
通じ合える心を持っているのなら、その誠意に答えるのも当然の事だ。
「レイジ…この人、何て?」
「グリフォンに子どもを殺されたそうだ。それで、敵討ちが出来た事を感謝されたよ」
「そっか…。だから、この人から恐怖は感じないんだね」
「ソノムスメ、ワタシノ“コトバ”ガワカラナイノカ?」
「あぁ、言葉がわかるのは俺だけだ。たぶん、他の人間にも伝わってない可能性がある」
「ナルホド…」
「とりあえず、俺たちも助かった。相手が魔物でも、止めを刺すのは気が重くてな」
「キガオモイ、カ。ヤハリカワッタニンゲンダ」
「お前、このあとどうするんだ?」
「“サト”ヘカエル。ココデノヨウハスンダカラナ」
「そうか。それなら気をつけて帰れよ。人間たちに見つからないようにな」
特に皮肉のつもりで言ったわけではないが、ビルは声を上げて笑った。
思えば僕もその人間だ。
この場合、ビルの言う通り、僕は人間であって人間でないのかもしれない。
元々、この世界の人間ではない時点で、本質的にこの世界の人間とは違うモノという見方も出来る。
この自問自答は、昨晩からずっと続いているが未だに答えは出ていなかった
「サラバダ」
「おう、気をつけてな」
ビルは一度だけ振り向くと、右手を軽く上げて原野に消えて行った。
「行っちゃった…」
「あぁ、故郷へ帰るそうだ」
「そうなんだ…。じゃあ、南へ帰るんだね」
「南?」
「うん。ウェアウルフの生息地は南の森林地帯だから」
「じゃあ、アイツはわざわざここまでやって来たのか…」
「そうなるね。でも、戦わずに済んでよかったよ。まともに戦ったら、無事じゃ済まなかったはずだし」
ビルの消えて行った方向を見ながらサフラは胸をなで下ろした。
彼の言葉を理解できないサフラにすれば、僕が一方的に喋っていたように見えただろう。ウェアウルフの恐ろしさを知っているサフラだからこそ、緊張をしていたに違いない。
確かに、あれだけの動きをするビルと戦えば無事では済まなかったかもしれないし、無用な戦いを避けられたのはありがたかった。
「世の中捨てたもんじゃない!」敵ばかりの世の中では生きているのが辛いですからね…。実は怖そうに見える人がイイ人だった、なんてことは珍しいことではないような気がします。もちろん、そうばかりではないので警戒もお忘れなく。
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