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GunZ&SworD  作者: 聖庵
42/185

シーン 42

改稿済み:2012/08/01

食事を食べながら今後の事について話し合った。

まず、優先すべきは家の確保だ。

この町の規模から、どの町よりも人と物と情報が集まる集積地と言う事がわかる。

帝都があるミッドランドは、東西に長いヒューマン族が支配する領土においても中間に位置しているため、移動をするにも便利だ。

他にも、町を囲む高い城塞は、外敵から身を守る盾になり、ハンターギルドの本部もある事から、どの町よりも安全だろう。


物件を探すには、町の事情に詳しい人物を探さなければならない。

立ち止まっていては先へ進まないので、誰かに声を掛けて情報収集を始めるのが早そうだ。

出来れば、町内会や商人の組合のような組織があれば話は早いだろう。


ほぼ食事を終えた頃、店の入口に見知った顔を見つけた。

目つきの悪い長身の男だ。

よく見ると、バレルゴブリンを討伐する際に戦ったクオルだった。

誰かを探しているのか、店内を見回している。

そして、僕と目が合った。

どちらかと言えば、この場合は、合ってしまったと言うのが正しいだろうか。

クオルは僕を見つけると笑みを浮かべて近寄ってきた。

普段から無愛想な男が笑っているのを見ると、何か良くない事を運んでくる使者の様に見えてしまう。


「レイジ、久しぶりだな。探したぞ」

「…何だよ、笑みなんか浮かべて気持ち悪い。探したって、どうして俺がここにいる事がわかった?」

「ギルドでお前の噂を聞いてな。おそらくこの町に居るだろうと思って、酒場を一軒一軒回ってきたところだ。で、お前を見つけたと」

「…いつになく饒舌だな。気味が悪いぞ」


僕の知っているクオルは寡黙で無愛想な男だ。

戦いにしか興味が無く、常に強者を探して周りに目を光らせるタイプ。

だから、目の前に居るこの男が本当に僕の知る人物なのか、少し疑問に思うほど別人に思えた。

無愛想な彼の姿しか知らないため、笑みを浮かべながら饒舌に話す姿は想像もできなかった。


「お前って酷い事をサラッと言うんだな。まあいい、回りくどい話は俺も好きじゃない。折り入って相談に来たんだ」

「相談?」

「あぁ、お前、ハンターにならないか?」

「断る」


即答だった。

いや、始めから答えが決まっていたので、迷う余地はどこにもない。

そのため、それを聞いたクオルも少し動揺したような表情をしている。


「…即答か。とりあえず、断る理由を聞かせてもらおう。話はそれからだ」

「理由か。俺は元来、人に指図をされるのが嫌いなんだ。ハンターってのは、招集があれば問答無用で昼夜を問わず危険な場所に向かうんだろ?そんなものは俺が求めている平穏な生活とはかけ離れている。だからハンターにはならない、そういう事さ」

「…なるほど。確かにお前の言う通りだ。ハンターたる者、召集があれば常に危険の中に飛び込まなくてはならない。それは義務だからだ。だが、俺はお前が安穏とした日々を求めているようには見えなくてな。だから声を掛けたんだよ」

「俺は最初から平和主義者だよ。守る者だってある」


そう言って、隣に座っているサフラの手を取った。

彼女は驚いた様子だったが、すぐに目を細くして笑みを浮かべた。

よく見ると、頬の辺りが少し紅潮している。

繋いだ手は微かに熱を帯び温かかった。


「守る者…か。俺にそんな者は居ないから、その気持ちはわからないな」

「そのうち出来るだろうさ。それで、話は済んだんだろう?」

「いや、今のはあくまでも前振りで、本題はこれからだ。何、お前が断る事なんて最初から予想していたさ。それで、本題って言うのはな、ギルドからの正式な依頼だよ。お前の実力を見込んで、上役が直々に決めたらしい」

「ギルドから?依頼じゃなくて、厄介事の間違いじゃないのか?」

「そんな事は無いさ。俺も、お前が傭兵団ケルベロスを壊滅させた話は聞いた。一人でやったんだってな」

「まあ、おそらく聞いた通りだ」

「バレルゴブリンでの働きぶりといい、今回の事といい、俺はお前が選ばれても何ら不思議には思わなくてな。とりあえず、話だけ聞いてみたらどうだ?」

「…とりあえず、話だけな」


このまま無下に追い返してもいいが、あちこち探し回ってわざわざ訪ねて来た彼の苦労を買う事にした。

それでも、話の内容によっては断るつもりでいる。

どちらにしても、話を聞いてみなければ始まらない事だ。

それに、この町にはハンターギルドの本部もあるので、内容次第では顔を売る機会にもなる。

しかし、気になるのはその依頼内容だ。

僕にしてみれば、彼が来た時点であまり良い予感はしていない。

むしろ、厄介事を感知するレーダーが反応を始めていた。

ここは少し警戒して話を聞いた方が良さそうだ。


「依頼ってのは、ここから東の町、交易都市シャルネードで行われる武術大会の参加要請だ」

「武術大会?」

「あぁ、国中のハンターや腕に覚えのある者が集まって行われる競技大会だ。まあ、相手を制圧する際、生死は問わずってルールもあるけどな」

「…人前で殺しをしろと?」

「警戒するなって。この大会は皇帝陛下が主催している。実力が認められれば、そのまま陛下直属の騎士団に入隊する事もできる栄誉ある大会なんだよ」


クオルの話を整理すると、皇帝が主催して競技大会を開き、国中から腕自慢たちが集って実力を競うらしい。

その中で、勝ち残った者を配下に従えようと言う選考会の意味合いもある。

皇帝を専門で守護する騎士団は、知力と武術の双方が秀でていなければ入団する事ができない。

しかし、騎士団に入隊できれば相応の待遇も用意されている。

つまり、皇帝を専門に警護するセキュリティポリスで、警察庁の皇宮警察のようなものだ。

入隊する事が出来れば、貴族と同等の地位を与えられるため、大会に参加して優勝を狙う参加者が後を立たないらしい。

しかし、今の僕には興味など一切ない。

地位や名誉よりも何よりも、平穏無事な日々をサフラと二人で営む事が望みなのだから。


「話はわかった。だけど、やっぱり答えはノーだ。何より騎士団に興味は無い。大会は出たいヤツが出ればいいさ」

「騎士団にも興味なしとは…お前は変わってるな」

「興味も何も、俺は元々旅人だ。安住の地を探し、ようやくここにたどり着いたんだよ」

「お前、ここに住むつもりなのか?」

「あぁ、そのつもりだ。明日から物件探しを始めるさ」

「なるほどな。では、尚更この大会に参加した方がいい」

「何故だ?」

「大会で優勝をせずとも、いくつか勝ち残れば帝都での暮らしが保障される。つまり、お前が希望している帝都への定住も敷居が低くなるわけだ」

「…ふむ。その話が本当だとして、大会はいつ行われる?」


参加するかは別にして、情報を知っておいても損はないだろう。

この世界の事は何一つわからないため、知れる情報は知れるウチにと言うスタンスだ。


「二週間後だ。一応、毎年行われている行事ではあるから、あえて公に募集は出されていない。エントリーするには最寄のキルドで申請を済ませ、試合開始の前日までにシャルネードにある寄宿舎に集合すればいい。ちなみに、使用する武器に制限は無い。武具の持ち込みは、持ち運べるものまでと比較的制限は少ないんだ」

「前日までに集合、そして何でもありか。それはそうと、お前は参加するのか?」

「もちろんそのつもりだ。俺は元々騎士団志望でな。ハンター家業も嫌いじゃないが、やはり強大な相手と戦うなら、騎士団をおいて他にないと思っている」

「そうか。まあ、今のところ参加するか、回答は控えさせてもらうよ。それに、大会に参加しなくとも物件は探せるんだろう?あえて無理をする必要もない」

「まあいい、用件は伝えた。俺はお前が参加してくれる事を楽しみにしている」


クオルはそう告げると、何も食べずに店を出て行った。

本当に話をしに来ただけらしい。

サッパリしていると言えば聞こえがいいが、本質的に人付き合いが苦手と言うのは間違いないらしい。

話をしている最中も、あまり目を合わさなかったのが動かぬ証拠だ。


「…レイジ、武術大会、参加するの?」

「いや、今のところは考えていないよ。お前は心配しなくていい」

「ホント?」

「あぁ、大丈夫だ。安心しろ」


サフラの頭を撫でてやると、安心したように目を細くした。

まるで子猫のような可愛らしい表情だ。

ずっと愛でていたい気持ちをどうにか抑えつつ、クオルの言っていた事を思い返した。

表向きでは参加表明をしていないものの、多少なりとも気になっている。

むしろ、優勝や騎士団などには興味はないが、帝都への定住権が公式に獲得できる機会と言う点への興味なのだが。

この世界では、実力主義と言うわかりやすい評価体系を採用しているので、実力を認めさせるには相応の努力をしなければならない。

その一つとして、武術大会はそれなりに魅力的な舞台だ。

しかし、やはり問題になるのは、勝敗に関して生死を問わない点だろう。

参加者の中には血気盛んな猛者も居るはずだ。

勢い余って殺されてはたまったものではない。


他にも、武具の持ち込み制限について考えてみた。

僕が参加した場合、銃を使ってもいいと言う事になる。

反対に、相手はどのような武器を使ってくるのかはわからない。

クオルの持つ特殊な剣やエキドナが使っていた鞭など、エルフが用いる武具が持ち込まれれば、どんな危険があるのかわかったものでない。

それらを考慮した上でも、今のところ不参加の意思は変わらなかった。

ご意見・ご感想・誤字脱字の指摘等がありましたらよろしくお願いします。

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