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GunZ&SworD  作者: 聖庵
39/185

シーン 39

改稿済み:2012/08/01

深夜。

暗い部屋の中で目を覚ました。

窓からは月明かりが差し込んでいたので真っ暗ではなく、ぼんやりと人の顔がわかる程度の薄暗さだ。

闇に目が慣れてきたため、夜目が利くようになった。

あれから数時間ほど眠ってしまったらしい。

眠る前に感じていた悪寒も引いていたので、このまま身体を休めれば朝には良くなっているだろう。


ここであることに気が付いた。

身体の左半身が妙に温かい。

いや、それ以前に柔らかな感覚が肌を通して伝わってくる。

おまけに布団から外にでている右足がスースーした。

実際にこの目で確認したわけではないが、身体から伝わってくるこの感じは…。


この他にも、何故か服を着ていない事に気が付いた。

僕は裸じゃないと眠れない裸族ではない。

むしろ、ジャージのようなルーズな寝間着姿の方が落ち着くタイプだ。

それより何より、この温かく柔らかな感覚…。

僕らは生まれたままの姿でいた。

ただ、僕が服を脱いだ覚えはないので、眠っている間に脱がされたのだろう。

僕は無意識に息を呑んだ。

そして、耳を澄ませば小さな寝息が聞こえてきた。


これは夢だろう、そう現実逃避をして目を閉じるものの、感覚が鋭敏になって眠る事ができない。

寝返りをうつこともままならず、まるで金縛りにあった気分だ。

いや、実際は自分自身で故意に戒めているのだが。

そんな気持ちを知ってか知らずか、サフラは僕をまるで抱き枕のように抱きしめ、足まで絡めてきた。

きっと、世の男性から見ればこの上ないご褒美というヤツだろう。

僕も人から話に聞くだけなら“羨ましい”とか“リア充爆発しろ”などと罵るかもしれない。

しかし、実際に体験するのと聞くのでは大違いだ。

“据え膳食わねば男の恥”何て言葉もあるが、今は恥でもいいとさえ思ってしまう。

生前は年齢イコール彼女いない歴だったため、もちろん交際経験もない。

免疫が一切ない僕には、刺激が強いを通り越して生殺しの気分だ。


「…お兄…ちゃん…」


突然サフラの寝言が聞こえた。

一体どんな夢を見ているのだろうか。

うなされる様子はないので、きっと悪い夢ではないのだろう。

すっかり眠れなくなってしまったので、窓の外に見える夜空に視線を移した。

異世界とは言え、時間が来れば朝と夜が交互にやってくる。

時間の流れも前世とは変わらないので、自然に受け入れる事ができた。


ここで一つ疑問に思う事がある。

僕とサフラの関係についてだ。

僕にしてみれば、彼女は偶然命を救った少女で、サフラにしてみれば命を助けられたら恩人だろうか。

この関係は変わらないし、今後も続いていくものだと思っている。

何があっても守ると決めているので、少なくとも僕からこの関係を解消することはない。


むしろ、サフラが僕をどのように思っているのかわからない部分がある。

その前に引っかかるのが、サフラが僕を呼ぶ時に使う呼称だ。

自然に“お兄ちゃん”と呼ばれ、特に否定もしなかったので定着して現在に至る。

歳もそれほど離れていないし、妹が欲しいと思っていた時期もあったので、正直嬉しい呼ばれ方だ。

しかし、僕らは本当の兄妹ではない。

見た目も似ていないし、何より特徴的な髪や瞳の色が違う。

こうした違いは、他人から見れば兄妹ではないと気付くだろう。

サフラにしてみれば、歳の差から便宜上そう呼んでいるのかもしれない。

もちろん、本人に確認したわけではないので真相は文字通り闇の中だ。


ただ、今朝の事といい、今のこの状況は、兄妹の領分を超えているのではないだろうか。

中には、一部で近親者の恋愛話も耳にはするが、一般的な意見ではアブノーマルな関係だと世論は切って捨てる。

僕は僕で、サフラを養うと決めた時から父親のような気持ちで居たし、今もそうだと信じている。

可愛い子ではあるが、異性としてではなく、父性の延長で愛でていた…そう思っていたのだが。

こんな時だから、自分の気持ちに向き合ってみる事にした。

僕にとってサフラとは何か。

少なくとも今朝までは恋愛の対象ではなく、保護する対象だった。

保護と言っても、身を守る能力はそこいらの成人男性よりもずっと高い。

武器を持たない手負いのオークならば、瞬きする間に一蹴してしまうほどなのだから。


仮にこの先、サフラが自立を希望したら、その時はどう考えるだろうか。

父性を持って接する僕、きっと寂しく思うはずだ。

ドラマに描かれる頑固親父よろしく「娘は嫁にやらん!」とか言ってしまうだろう。

ただし、最終的には彼女の幸せを最優先に考えるので、本人の意思を尊重するつもりだ。


ここで、またしても新しい疑問が浮かんだ。

サフラに、女性としての魅力があるのか無いのかと言う点だ。

幼女の死神の時もそうだったが、はっきり言って少女趣味があるのは否めない。

しかし、父性を持って接するサフラについては、このまま変な気は起こさないだろう言う自信があった。

現に今、人生の中でも滅多にお目にかかることは無く、ちょっとエッチな漫画やアニメの中でのみ見られる突発的なイベントに巻き込まれている。

それでも、一切手を出さず、まな板の鯉のように微動だにしていない。

ここまで来ると、僕自身が不能者と勘違いされてしまいそうだが、決してそんな事はない。

人並みの男子学生よろしく、成人向け雑誌も読めばビデオも見る。

それに、美人が目の前を通れば、思わず目で追ってしまうのだから。

実のところ、この世界に来てからと言うもの、“アッチ”についてはすっかりご無沙汰なのだが。


それでも、身体と言うものは正直に出来ていて、しっかりと男性自身に血液が集中しているのだから申し開きが立たない。

いや、起っているのに立たないとは、おかしな話ではあるが…。

頭を冷やそうにも、身動きが取れないので対処のしようがない。

煩悩はすでに光の速さまで加速している。

いつ平常心を留めるタガが外れてもおかしくない状況だ。

一体、僕が何をしたというのか。

身の覚えの無い罪をきせられた気分だ。

これを冤罪と言うのだろうか。

誰か腕のいい弁護士を知っているのなら、今すぐに紹介してもらいたい気分だった。


「…うふッ…お兄ちゃん、起きてたんだ」


突然サフラの声が聞こえた。

どこか挑発的だが、決して嫌な気分ではない。

表向きはサディストを自称する僕だが、マゾヒズムの気持ちがわからないわけではない。

むしろ、たまには受身で…と言うのも新鮮で乙なものだ。


「…あ、あぁ。さっき目が覚めたところだ…」

「寒気はなくなった?」

「ん?あ、あぁ、おかげでよくなったよ」


“おかげ”などとは言ったものの、何が“おかげ”なのだともう一人の僕が影で笑っていた。

むしろ、ここは紳士を気取って“ごちそうさま”と言うべきなのだろうか。

紳士と言っても、変態紳士の間違いではあるが。

それに、そんな事を言えば軽蔑されてしまいそうなので、飲み込んで心の奥へ深く沈めた。


「お兄ちゃん、どうして外を見てるの?」

「つ、月が綺麗だからな」


言い訳としては苦しいが、そう伝えるしか方法は無かった。

間違っても、意識してしまうからなどとは口が裂けても言えなかった。


「お月様?私も見たいな」


そう言って、サフラは布団から身体を起こした。

その拍子に、まだ幼い二つの果実が窓から差し込む月明かりに照らされた。

やはりと言うべきか、想像通りサフラも生まれたままの姿だ。

同時に、僕も生まれたままの姿である事を理解した。


「な…なぁ、これは…どういうことなんだ?」


ここまで来れば状況を説明してもらうしかない。

僕が無実であることを立証すると同時に、こうなった成り行きを聞いておかなければこの先、夜になるたびに悶々と過ごす事になりそうだ。


「あ…うん…そう…だよね…」


さすがに、自分の姿を思い出して恥ずかしくなってしまったらしい。

サフラはおずおずと布団の中に引きこもってしまった。


「えっと…サフラ?」

「男の人の身体を温めるのは、女の子の役目…だから」

「え?」

「だ、だから、風邪を引いて寒がってる男の人が居たら、お、女の子がこうやって温めてあげるの」


恥じらいながら説明されたため、内容がまったく頭に入ってこない。

その仕草や言葉遣いだけで“キュン死”してしまいそうだ。

ここは強い気持ちで望まなければ、悶え死んでしまうだろう。

出家した僧侶の気持ちで、心の中を無にした。


「そ、そうなのか。わ、悪かったな」


言葉は明らかに挙動不審のそれだ。

それに、一体何が悪かったのかがわからない。

いや、世話をかけてと言う意味でなら言葉の通りだが、こちらからお願いしたわけではないので、素直に“ありがとう”で良かったような気もする。

風邪が原因で頭が働かないのか、それとも単純に動揺しているのか、それさえわからない状況だった。


「げ、元気になったなら、もう大丈夫だね」

「あ、あぁ。ありがとな」


お互いに目を合わせなかったのは、示し合わせたからではない。

同時に、雰囲気が気まずくなってしまった。


「…そ、そういえばさ、サフラは何で俺の事を“お兄ちゃん”って呼ぶんだ?」

「ふぇ?」


沈黙を破って質問したのは、先ほど疑問に思っていた内容の一つだ。

特に当たり障りはないだろうと思って投げかけたものだが、予想に反してサフラには寝耳に水と言った様子らしい。


「だからさ、お前っていつも“お兄ちゃん”って呼ぶだろ?何か理由があるのかなって」

「そ、そうなんだ。えっとね、うーん…何でだろう?お兄ちゃんはお兄ちゃんだから、お兄ちゃんって呼んでるんだけど、変かな?」

「いや、特に違和感があったわけじゃないんだけどさ。ほら、俺たち、本当の兄妹でもないのにお兄ちゃんなんて呼ばれたら、他人は不思議に思うんじゃないか?」

「うーん…そう言われればそうかも?」

「まあ、特に理由が無いのならいいんだけどさ」


月明かりに照らされたサフラの横顔は少し赤みがかっていた。

もちろん、僕の風邪がうつったわけではく、恥じらいの“それ”だ。

少しモジモジとしてサフラは口を開いた。


「えっとね…ホントはお兄ちゃんじゃなくて、レイジって呼びたかったの」

「え?それならそうと、最初からそう呼べばいいじゃないか」

「えっとね…でも、お兄ちゃんは私の大切な人だから…何ていうか…名前で呼ぶのは恥ずかしくって…」

「恥ずかしいって…」


そんな事を恥ずかしがっているのなら、今の状況はどうなのだろう。

布団の中に入っているため、素肌はさらけ出しているわけではないが、一糸纏わぬ生まれたままの姿には変わりない。

僕にしてみればこっちの方が恥ずかしい。

下半身もだいぶ落ち着いてきたとは言え、何かあれば再び起き上がる危険性がある。

何はともあれ、僕も健全な男子だったと言う事だけは証明されたようだ。


「俺もさ、お兄ちゃんって呼ばれるのは嫌いじゃないんだ。いや、昔は妹が居れば何て思った時期もあったら、正直嬉しかったよ。でも、ホントは名前で呼びたいと思ってるなら、遠慮なんてする必要はないんだぞ?」

「名前で呼んでいいの?」

「あぁ、好きに呼べばいいさ。まあ、変なアダ名は勘弁してもらいたいけどな」

「じゃあ…レイジって、呼んでもいいかな?」

「あぁ、俺はすでにサフラって呼んでるし、これで対等だな」

「嬉しい、レイジ…」


闇の中でサフラの目に光るものが見えた。

僕はそれをそっと指で拭うと、彼女は安心したように笑みを浮かべて目を細くした。

呼び名が「お兄ちゃん」から「レイジ」に変わりました。本当はもっと前に呼び方を変えようと思っていましたが、ここまで続いてしまいました。これで二人の距離が少しは縮まった…かな?

まぁ、今回のことで身体の距離は近付きすぎてしまったかもしれませんが…(汗




ご意見・ご感想・誤字脱字の指摘等があればよろしくお願いします。

あわせて評価も受け付けているので、よろしければどうぞ。

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