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GunZ&SworD  作者: 聖庵
35/185

シーン 35

改稿済み:2012/07/29

「サフラ、無事か!」

「…来たか。まったく、よくも私の計画を邪魔してくれたものだな。いやはや、完全に君の実力を低く見積もり過ぎていたらしい…」


暗い部屋の中でラトキフが僕の渡したマインゴーシュを手に立っていた。

しかし、一緒にいたサフラの姿は確認出来ない。


「…ラトキフさん…何を?サフラは、サフラはどこに居るです?」

「騒がれては困るのでね、少し眠ってもらったよ。何、人質というヤツだ」


ラトキフは不敵な笑みを浮かべた。

そして、手にしたマインゴーシュを傍らのベッドに向けた。

そこには、横になって眠るサフラがいた。

規則正しい静かな寝息が聞こえるので、言葉の通り眠っているようだ。

今の彼には、先ほどまでの温和な印象はどこにもなく、表情からは悪意がにじみ出ていた。


「何を言って…サフラに何をした!」

「特に何も。ただ、薬で眠ってもらっただけさ。彼女は大事な商品になるのだから」

「商品だと?貴様…ヤツらの仲間か!?」

「ご明察。申し遅れたな。私はテューポン。テューポン・ラトキフ。傭兵団オルトロスの長だ。と、言っても君のおかげで今は私一人になってしまったがね…」

「貴様…初めからこのつもりで!」

「心外だな。元々私が直接手を下すつもりはなかったのだよ。だが、こうなったのは君のせいだ。まあ、成り行きというヤツだが。私はただ、君に興味を持ったのさ。いや、君の持つ武器にと言うべきかな」

「貴様もエキドナと同じか!」

「同じ…か。それはそうだ。彼女は私の妻だった。最愛の者を奪われた気持ちが君にはわかるかい?」


テューポンは眉間にシワを寄せ、高圧的な態度と共に、刺すような視線を投げかけてきた。

先ほどまでのラトキフとはまるで別人だ。

化けの皮を剥がせば化け物が現れる、そんな状況だった。


「先に仕掛けてきたのはお前たちだろう!」

「先、か。君は勘違いしている。思い出せ、私は見ていたぞ。君が私の部下を気絶させたところを。仲間の証と武器を奪い、仲間に成りすまして先に攻撃を仕掛けたのは君だ」

「あれは正当防衛だ」

「過剰防衛の間違いじゃないのか?」

「そんなものは結果論だ。それに、元々銃を奪う事が目的だったんだろう?俺を襲うという明確な動機があったはずだ」

「なるほど。君と口論していても不毛のようだ。腕も立ち頭も回る…面倒な男だな」


テューポンは気が変わったのか、サフラに向かってマインゴーシュを突き付けた。


「き、貴様、サフラを解放しろ!」

「よく吠える男だ。その気になればこの娘の命を奪う事くらいワケはないのだよ。状況をよく理解したまえ」

「くッ…」

「やはりな。君の弱点はこの娘か。人質にして正解だった」

「…お前の目的はコイツだろ」


テューポンの目的が最初から銃ならば、気を惹くには十分な効果があるはずだ。


「そう、それだ。おっと、下手な真似はするなよ?この娘の命が惜しければだが」

「わかった…取引だ。コイツを渡す代わりにサフラを解放しろ」

「ほう…なかなか悪くない条件だ。いいだろう、銃と鞭を床に置いて両腕を上げたまま後ろに下がれ」

「…わかった。その代わり、取引には応じてもらう」


銃と鞭を床に置き、指示された通り両手をあげて後ろへ下がった。

数歩下がるとすぐに壁があり、それ以上は後ろへ下がれない。


「利口だな。まあいい。そこを動くなよ」


テューポンはマインゴーシュの切っ先を僕に向けたまま落ちていた銃を拾い、不敵な笑みを浮かべた。


「素晴らしい。これが銃か。思ったよりも軽いな。これで人を殺せるとは到底思えないが…」

「…取引は成立だ。サフラを解放しろ」

「ん?取引とは何のことだ。身に覚えがないな」

「貴様…」

「君は青いな。そんな取引を私が応じると思ったのかね?」

「くッ…」

「私は君を恨んでいるのだよ。妻や仲間たちの仇だ。死んで償え。確か、これはこう使うのだったな?」


そう言って引き金に指を掛けた。

もはや身体をどう反転させようと避けられるのは不可能な間合いだ。

そして、真っ暗な室内で乾いた発砲音が響き渡った。

同時に腹部に感じた事もない傷みが走る。

撃たれたと確信すると全身から力が抜け、そのまま膝を突いた。


「素晴らしい。この程度の力で人を殺せるのか。まるで神にでもなった気分だよ」


高笑いが聞こえる中、僕はそのまま前のめりに倒れこみ、そのまま意識を失った。

これが二度目の死だと受け入れたその時、僕の中で何かが弾ける音が聞こえた。

ちょうど、よく乾いた小枝を折ったような、小気味のイイ音。

次の瞬間には、暗転していた視界に光が戻った。

同時に、腹に感じていた痛みが嘘のように引いた。

身体には力が戻り、意識もハッキリとしている。

例えるなら、寝覚めのいい朝を迎えた気分だ。

理由はわからないが、僕はまだ死んでいない。

それが今わかっていることだ。

そうなればやることは一つ。

油断しているテューポンから銃を奪い返す事だ。


「死んだか。本来ならもっと惨たらしい死をくれてやるつもりだったが、興が醒めたな」


テューポンは手にした銃に酔いしれていた。

もはや僕への興味を失い、初めて手にした銃を興味深げに眺めている。

そして、その興味すら失って、ベッドで眠るサフラの値踏みを始めた。

彼が完全に背中を向けたところで僕は音もなく起き上がり、一度だけ床を蹴って飛び上がった。


「!?」


テューポンが気付いた時には、僕の放った飛び蹴りが首筋に決まり、そのままの勢いで顔面から反対側の壁に吹き飛んでいった。

期せずして、プロレスの延髄切りに相当する技が決まり、テューポンは動かなくなった。

プロレス経験はなかったが、無我夢中で蹴りを出した結果だった。

体重を乗せていた事もあり、意識を奪うのは余りある一撃だ。

我ながら自分の身体能力が恐ろしい。

しかし、何故か息が切れている事に気が付いた。

この息切れは緊張からくるものだ。

あと一瞬遅れていれば殺されていたかもしれない、そんな状況だったのだから。


呼吸が落ち着いたところでテューポンを縄で縛り上げ拘束した。

このまま命を奪うこともできるが、エキドナと同様に罪を償わせる必要がある。

仮に目覚めて暴れだしても再び気を失わせればいい。

それがダメなら命を奪うのはその後でも遅くないだろう。


ここで疑問が浮かぶ。

何故僕は生きているのだろうか。

痛みを覚えた腹部を触ると服に穴が空いていた。

それが前後にあり、背後の壁には弾痕が残されている。

しかし、貫通したはずの身体には傷跡が残っていなかった。

まるでタネのわからない手品を体験した気分だ。


しかし、腹部に感じた痛みは本物だった。

床には血痕も残されているが、何故か傷がない。

意識を失った直後、僕の中で聞こえた音を思い出した。

小気味のいい音だが、部屋の中には音を出しそうな小枝などは見つからない。

音がした箇所を思い出して身体をまさぐると、ポケットの中から二つ割れたコインが出てきた。

これは魔具商人から買ったミスリルのコインだ。

よく見ると、身代わりを示すルーン文字が消えている事に気が付いた。


「コイツが身代わりになったっていうのか?」


半信半疑ではあるが、事実として二つに割れたコインがあるのだから信じずにはいられなかった。

たった金貨二枚で購入したものだが、これで命が助かったのなら安い買い物だ。


「そうだ、サフラ!」


慌ててベッドに駆け寄り、眠っているサフラの様子を伺った。

規則正しい寝息を聞けば、眠っているのだとわかるものの、呼びかけても返事がない。

頬を叩いて刺激をしてみたが目覚める気配はなかった。

同時に脳裏には「もう目覚めないのでは…」というネガティブな言葉が浮かんだ。


「嘘だ。おい、サフラ、起きろよ!なぁ!!」


肩を強く揺すると、微かに反応があった。


「う…う…ん…もう少し…もう少しだけ…」

「ね、寝言?おい、サフラ、朝だぞ!起きろ」


いつものように肩を揺らして呼びかけてみると、ゆっくりと目が開いた。


「え…あ、あれ?真っ暗だよ?」

「よ、良かった…。いや…実はまだ夜なんだ。何も覚えてないのか?」

「うーん…お兄ちゃんが出て行ってから、ラトキフさんが綺麗なスカーフがあるって言って…それがすごくイイ匂いで…あれ?この後の記憶がないよ」


その状況を聞いて、脳裏にぼんやりと映像が浮かんだ。

テレビドラマや推理小説にあるような、ハンカチにクロロホルムを染み込ませ、意識を失わせるアレだ。

ただ、クロロホルムが使われたのであれば、目覚めた時に頭痛や吐き気などの症状があるはずだ。


「体調はどうだ?頭が痛いとか、吐き気がしたりはしないか?」

「うーん、少し眠たいけど、起きてられないほどじゃない…かな?」


様子を見る限り体調は悪くなさそうだ。

どうやら使われた薬物はクロロホルムではないらしい。

元々、クロロホルムは中世以降、フランスとドイツの学者などが発見したものだから、この世界で発見されている可能性は低い。

だとすれば別の薬物ということになるが、今のところ弊害になるような症状は見られなかった。


「そうか。もし、体調が悪くなったらすぐに言うんだぞ。あと、今日はここでは寝られない。別の場所に移ろう」

「何で?事件は解決したんだよね?」

「あぁ。明日コイツらをハンターギルドに引き渡せば完全解決だ。それより、まだ他にも残党が居るかもしれないから、用心のためにここを離れるんだ。少なくとも、この宿はコイツらの根城になっていたいみたいだから、安全そうな場所を探す」

「うん、わかった。この人は?」

「捨て置く。このまま朝まで放置しても問題はないだろう」


僕らは荷物をまとめて外へ出た。

まだ延焼を続ける火事は続いているが、すでに風が凪いでいるため、これ以上の被害は広がらないだろう。

朝まで燃え続けるだろうが、今さら火を消したところで手遅れなので放置するしかない。

焼け残った家々は風上に集中している。

その中で明かりのついた家を探し、玄関のドアを叩いた。


「すみません、どなたかいらっしゃいませんか?」


しかし中からの反応はない。

ドアに手を掛けると鍵はかかっておらず、悪いとは思いながら中に入ってみる事にした。

室内は家財道具が散乱し、その中で血を流して倒れている住民の姿が見えた。

現場の状況から、傭兵たちに蹂躙された後のようだ。

幸いな事に、サフラは僕が邪魔で中の様子を見ていなかった。


「…人、亡くなってたの?」

「あぁ、お前は見なくてもいい」

「そっか…」


村のあちこちには僕が撃ち殺した傭兵が転がっているものの、暗くて死に顔が確認できないのは不幸中の幸いだった。

しかし、朝になれば嫌でも目に付くようになる。

それでも、今は身体を休めるのが先決だ。

別の家に移動して中を覗いてみたが、先ほどの家と同じく蹂躙された後だった。

辺りに人の気配は感じないので、生き残っているのは僕らだけなのだろう。

諦めず村の中を歩き回ったが、ついに誰も見つけることができなかった。


その中で被害が少ない建物を見つけた。

建物は農具や収穫した作物を収納しおく倉庫だったが、屋根があるので一夜を明かすのに十分だ。

中には馬に与える干草が積んであり、棚には馬車用の幌布を置いてあった。

干草の上に布を被せればベッドになるだろう。

急いで寝床の準備をすると、壁を背にして肩を寄せ合った。

実は、これを書いている途中で二度消してしまい、始めから書き直すという事件がおきました。(涙)バックアップ、大事、絶対!



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