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GunZ&SworD  作者: 聖庵
33/185

シーン 33

改稿済み:2012/07/29

僕を取り囲むように複数の敵の気配を感じる。

暗闇なので正確な数は把握できないが、二十名程度はいるだろうか。

どうやら先ほどの銃声で居場所がバレてしまったようだ。

幸か不幸か、僕に注目が集ったため、宿への襲撃は中止され、そちらに割かれていた戦力も集まってきた。

四方を囲まれているので、どの方角にも武器を持った敵が待ち構えている。

そんなことを考えている間にも、円形に広がった敵の包囲網はジリジリと詰められた。

この包囲が限りなく狭くなった時、僕は無事で居られるのだろうか。

考えるだけでも背筋が冷たくなる。


何か打開策はないか、そんな事を考えつつ、腰のポシェットに手を突っ込んだ。

中には火薬玉と煙袋と烈火石がある。

対人戦でどれほど効果が期待出来るのか、試してみる価値はありそうだ。

まず、火薬玉を一つ取り出し、出来るだけ手薄な方角に向かって力強く投げてみる。

すると、狙い通り闇夜に爆音が響き渡った。

同時に、一瞬だが相手側の注意が削がれた。

そんな隙を見逃さず、着火した煙袋を真下に投げ、爆音のした方向へと駆け出した。


途中、動揺する傭兵の男へ、すれ違いざまの銃撃を放つ。

目的は殺しではないので、機動力を奪えればいい。

足を狙った弾は太ももを貫通した。

この男も痛覚麻痺の薬物常用者だったらしく、悲鳴は上げなかった。

太ももに風穴が空いても声一つ上げないところを見ると、亜人を相手にするよりも気味が悪い。

ただし、痛みを感じないと言っても、足に空いた風穴のおかけで立っていることが出来ず、そのまま地面に倒れ込むのを確認した。


「北だ、北に逃げたぞ!」


倒れた男は声をあげ、僕の位置を仲間に伝えた。

やはり命を奪っておくべきだったか。

もはや手遅れなので、男に一瞥して一目散に駆け抜けた。

先ほど僕が居た場所には大量の白煙が上がっている。

敵も煙に翻弄されて僕の姿を見失ったようだ。

おかげで武装した男たちは怒鳴りながら闇雲に探し回っている。

位置が把握出来ていないのであれば、こちらとしても好都合だ。


続けて烈火石と火薬玉を取り出し、導火線に火を着けて、駆け出した方向とは別の方角に投げた。

爆発しない程度の力で投げているので、導火線の炎が引火するまで数秒のタイムラグがある。

その間に物陰に身を隠すと、狙い通り火薬玉が爆発して、再び傭兵たちは浮き足立った。

しかし、一度目に比べて効果が薄く、敵はすぐに平静を取り戻した。


「逃がすな!この辺りに居るはずだ!!」


火薬玉が爆発した方へ武装した男たちが駆けていく。

確認出来る限りでは三十人くらいだろうか。

先ほどより数が増えているものの、数だけで言えばバレルゴブリンの時よりも少ない。

今回は一人だが、慎重に対処すれば活路は見いだせるだろう。


僕は闇夜に紛れながら気配を殺し、敵が群がる塊に向けて移動しながら弾を放っていく。

暗闇のためあまり命中精度は高くないが、それでも何発かは当たったようで、バタバタと倒れる音が聞こえた。

今が夜で良かったと心から思う。

相手の姿をよく確認出来ない今なら、人を殺すと言う罪悪感も少し薄らぐ気がした。

あぁ、僕は何て卑しいんだ。

あれほど抵抗があった人殺しは、すでに罪悪感さえ失われつつある。

同時に、僕は薄ら笑いを浮かべているのに気が付いた。

何故こんな状況で笑っているのだろうか。

殺人狂の異常者にでも堕ちてしまったのだろうと、心の中に巣くうもう一人の僕が笑う声がした。

もはやこれは生前に楽しんでいたサバイバルゲームの延長だ。

また、撃たれた相手が悲鳴をあげない事も、冷静な感覚を鈍らせるのに一役買っている。


絶え間なく続いた銃声が途切れた頃、半数程度の傭兵が事切れていた。

しかし、そんな中でも平然と立っている者もいる。

その理由はすぐにわかった。

頭の天辺から爪先まで重厚な鎧を纏い、半分が隠れるほど巨大な盾を持つ者がいた。

どうやら守りに特化した傭兵らしい。

その後ろには、銃撃を免れた指揮官がいる。


「このまま陣形を乱すな!相手はたった一人だ」


暗闇に男の指示が飛ぶ。

仲間がやられても士気は下がっていないらしい。

こんな時、この銃が特別な事に感謝する。

弾切れの心配はないし、射撃時の反動もないため、長く撃ち続けても疲れる事はない。

長期戦になればなるほど、この効果を実感した。

やはりこの武器無しではこの世界で生きていくのは難しいだろう。


あと、最近気が付いた事もある。

普通、銃と言うものは、よく狙って撃たなければ当てる事は難しい。

しかし、この銃は狙いが大きく離れていない限り、例え照準が少しズレていて自動的に弾道を修正して命中する事がある。

銃身の長いライフルなら話は別だが、拳銃の場合は距離が伸びれば命中精度は落ちるものだ。

しかし、この銃に限っては弾が届く範囲であれば、勝手に反応して命中する仕組みになっていた。

ただし、今回のように目標を視認できていない状況では、その限りではない事もわかった。


民家を焼いた炎は夜風に煽られると、火の粉を散らして隣接する建物に延焼した。

その炎によって、残った傭兵たちの姿が明らかになった。

残りの勢力は十名程度だ。

その中にリーダー格と思われる人物の姿がある。

それを見て僕は強く奥歯を噛んだ。

盾を持った男の後ろに居たのはメイリーンだった。

そして、先ほどまで指示を飛ばしていたのは宿の亭主だ。


「…メイリーン、これはどういう事だ!?」

「ふふッ、私はメイリーン何て名前じゃないよ。私はオルトロスの長、エキドナさ。アンタの銃、私がもらい受けるよ!」


メイリーン、いや、エキドナと名乗り直し、炎のスポットライトを浴びて怪しく笑みを浮かべた。

手には自慢の鞭を携えている。


「くッ、バドックさんを殺ったのもお前か!」

「そうさ。あの男は薄々私がエキドナだと気付いていた。だから作戦の邪魔にならないよう殺したのさ」

「じゃあ、キャラバンに参加したのも、俺に近付くためか!」

「そうだよ。アンタの武器、あれは素晴らしい。あれこそ私が求めていた究極の武器だ。だからアンタを殺して私の物にする。大人しく死にな!」


エキドナは近くの仲間に指示をして矢を放ってきた。

空を切る切っ先は、よく見れば避けられない事はない。

これも転生時に幼女がくれた能力の一つだ。

今の動体視力なら、飛んでいるハエを箸で摘む事もできるだろう。

身体能力の高さもあって、避けた矢は後方の闇に吸い込まれていった。


「…アレを避けるのかい。アンタ、銃がなくても大した化け物だよ」

「俺に言わせればお前の方がずっと化け物だ。人を食い物にする化け物め!」

「おやおや、これだけ私の仲間を殺しておいて、よくそんな事が言えたものだよ」

「うるさい!先に仕掛けて来たのはお前たちだろう」

「先に…まぁ、それは間違っちゃいないさ。ただ、物事の順序がどうあれ、アンタは私の仲間を殺した。言ってみれば私らと同類さ。化け物は化け物らしく、殺し合おうじゃないか!」


エキドナは手で合図を出し、再び仲間に矢を射掛けるように指示をした。

今度は一本ではなく、同時に何本も飛んでくる。

目で追える数だけでも三、四本はあった。

それを寸でのところでかわし、銃で弓手を狙い撃った。

しかし、それを予期していた最前列の重装兵が防御の体勢に入り、弾は盾に阻まれてしまった。


「なるほどね。思ったとおりだ。アンタの銃、鋼鉄の盾さえあれば防げるようだね」

「…そこまで読んでいたのか。厄介なおばさんだ」

「今、おばさんって言ったかい?私をおばさん呼ばわりするヤツは誰であろうと殺すよ!それが例え皇帝であってもねッ!」


そう言ってエキドナは逆上した。

女性は歳を気にする生き物だが、彼女はその典型のようだ。

昼間、一緒に行動していた時はおしとやかな女性に見えたが、今の彼女はまさに神話に登場する怪物のエキドナそのものだ。

彼女の眉間には皺が寄り、炎に照らされた横顔は般若のように見えた。


「おっと、おばさんは禁句だったかな?」

「うるさい!お前たち、アイツをやっちまいな!!」


やられ役の大根役者よろしく、悪党のテンプレート的セリフを吐きながら指示を飛ばした。

今は完全にエキドナが敵方の指揮権を掌握しており、先ほどまで指示を飛ばしていた元宿屋の亭主は、配下の一人として手足のように動き回っている。

名前の由来になった、二つの頭を持つ怪物オルトロスとは言うものの、今は片方の頭だけが吼えまくっていると言った様子だ。

神話になぞらえて名を名乗っているとすれば、もう片方は“テューポン”とでも言うのだろうか。


敵勢力は三方向に分かれて陣形を広く取った。

真ん中で指揮を取るエキドナは、相変わらず盾を持った傭兵の後ろに居る。

そして、彼女が合図を送ると、左右に分かれた部下たちが一斉に弓を構えた。


「撃てッ!」


合図と共に、左右から同時に矢が射掛けられた。

しかし、僕にしてみれば、どこから攻撃を仕掛けられようとも、見えているものであれば避けられることができる。

同時に、弓を射掛けた瞬間は隙が生まれるため、上体を反らしながら素早く銃口を向け、左翼に展開していた弓手を射殺した。


「よ、避けながら撃ったっていうのかい?やっぱり化け物だよ、アンタは!」

「俺を殺りたいなら軍隊を連れて来な。アンタらみたいなザコが相手じゃ勝負は見えてる」


正直、ここまで立ち回れるとは思ってもみなかった。

今のところ身体に疲れはなく、このまま夜明けまで戦えと言われても、生き残っている自信がある。

身体の底から無尽蔵に力が沸きあがって来るイメージだ。


「…お前たち、コイツは私が殺る。邪魔するんじゃないよ!」


そう言うと、しびれを切らしたエキドナは最前線に立った。

これがどれほど危険な行為なのか、彼女にはわかっていない様子だ。

盾さえなければ撃ち殺す事は容易い。

どれだけ自分の腕に自信があるのかはわからないが、これでは交通量の多い交差点を、歩行者信号が赤のまま渡るようなものだ。

奇跡でも起きない限り生き残る事はできない。

それでも仲間たちは彼女を信頼しきった様子で、今まで帯びていた殺気を収めた。


「まさか、アンタが自殺志願者だとは思ってもみなかったよ」

「ほざきなッ!余裕で居られるのも今のうちさ」

「じゃあ、そのまま死んでくれ」


乾いた発砲音が夜空に響き渡る。

それと同時に、銃弾が何かに弾かれた。

撃たれたはずのエキドナは平然と立っている。


「どうしんだい?驚いたような顔をして」

「お前…今、何をした!?」

「特に珍しい事はしていないさ。ただ、この鞭が意思を持って攻撃を防いだ。それだけの事さ」

「鞭が勝手に防いだと言うのか…?おいおい…冗談にもほどがあるぞ」

「冗談なものか。これはエルフから奪った特殊な鞭さ。持ち主に向けられた攻撃を無効化する能力がある」

「攻撃を無効化…だと?」

「さあ、アンタに手はもうないよ!諦めなッ」


エキドナは鞭を片手に駆けながら距離を詰めてきた。

彼女の言うように、鞭が意志を持って攻撃を防いでいるのであればかなりの脅威だ。

弾が効かなければ打つ手がない。

それでも、その言葉が嘘だと信じて弾を撃つしかなかった。


一発二発と狙いを定めて発砲する。

その度に鞭が生き物のように動いて弾を防いだ。

これは相対してわかった事だが、エキドナの身体能力はサフラより少し劣る程度らしく、走るスピードはあまり速くない。

それでも、攻撃を防ぎながら間合いを詰められれば、いつか鞭の有効範囲に入ってしまう。

僕は後ろに下がりながら弾を撃ち続けた。

このまま主人公無双状態かと思いきや相手も簡単には倒れてくれません。


それはそうと、戦闘シーンを描くのって難しいですね…。これから少しずつ精進していきます。



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