シーン 24 / 登場人物紹介 5
【登場人物紹介】
コルグス=エルエミオン
ドワーフの男。ドワーフ族は人間の数倍ほど寿命があり、人間の実年齢に直すと三十歳半ばと推定される。
人間の持っている残虐なイメージとは異なり、あまり暴力に訴えるタイプではないため、必要に迫られなければ敵意を示すこともない。
ドワーフ族の中では希少な薬剤師の職位を持ち、薬草であるラベンディアから鎮痛作用のあるオイルを抽出する技術を持つ。
ドワーフの中でも中核的な地位に位置しているため、仲間からの信頼は厚いらしい。
初めてのドワーフです。彼が生き残ったことでストーリーが動き始めます。どのように絡んでくるか、それとも出番はもう無いのか…。
改稿済み:2012/07/19
コルグスを解放してやると、旅の支度を整えて北へと帰っていった。
僕らはここから半日かけて町まで戻らなければならない。
帰りの道中は、行きと同じように何度か亜人たちと戦闘になった。
こうして僕らに対し、明らかな殺意を持って向かってくる相手なら、心置きなく戦えてしまうのは不思議だ。
対峙してわかった事だが、コルグスのようなタイプはやりにくくて仕方がない。
帰り道中、ニーナは終始無言で、眉間に皺が寄りっぱなしだった。
僕がコルグスを助けた事に不満があると言うより、殲滅作戦について話た事を不快に思っているようだ。
同時に不信感も持たれた。
彼女の態度を見る限り、大方、殲滅作戦に参加するつもりだったのだろう。
帝都直轄の精鋭部隊に参加ともなれば、成功報酬はギルドで稼ぐ報奨金よりも割りがいいはずだ。
上手くすれば、皇帝が管理する部隊への入隊も視野に入れていたに違いない。
もちろん、これで戦争が回避されたと言う保証はなく、ニーナの取り越し苦労に終わる可能性だってある。
コルグスに伝えた言葉がどれだけ有効なのかわからないが、何も伝えないよりはマシだろう。
僕としては、あの場でコルグスを逃がした事も、殲滅作戦について伝えた事も後悔してはいない。
この微妙な温度差のおかげで、町に着くまで両者の間に無言が続いた。
何か話すことがあれば、仲介役のサフラを通すと言う奇妙な状況だ。
「…ま、町が見えて来ましたよ!」
「そうだな」
「あぁ、まずはギルドに報告だ…コレを見て納得するか…だがね」
ニーナは、コルグスから受け取ったペンダントを訝しく眺めた。
ドワーフだけが扱える金属とは言え、似たような色合いの金属や鉱石は他にもあるのだろう。
素人目に見れば、価値があるようには見えない。
これがダマスカス鋼だと言われ、納得する人間はどれほどいるだろうか。
誰にも理解されなければ報告しても意味はなく、下手をすれば虚偽の報告をしたと訴えられる可能性もある。
どちらにしても、この他に証拠となるもはないため、今さら騒いでも後の祭りだ。
「…まぁ、考えるよりギルドに行ってみよう。交渉は俺に任せてくれ」
僕らはハンターギルドへ報告に向かった。
受付の男に声をかけて事情を説明すると、奥の待合室に入るように言われた。
待合室と言っても、木製の丸椅子が置いてあるだけで家具や調度品はない。
壁には明かり取りの小さな窓が設けられ、鉄の格子が取り付けられている。
雰囲気は、刑事モノのドラマで見かける警察署の取調室と言うべきだろうか。
ただし、案内してくれた男の様子から、取調べではなさそうだ。
しばらくすると、若い男の職員が現れて別の部屋に案内された。
通されたのは支部長室だ。
ここへ来るのは二度目になる。
「おぉ、キミたち、また会えたね」
「どうも」
「受付の者から報告は受けているよ。ドワーフを倒したんだって?」
「あ、あぁ…これが証拠です」
そう言ってニーナはペンダントを差し出した。
「この輝きは…ダマスカス鋼…か?」
「わかるんですか?」
「あぁ、昔、前線で活動している時にドワーフから戦利品として奪った事があるんだ。確かにこれと同じ色をしていた」
「では話が早い。これは討伐したドワーフから奪った物です。証拠にはなりませんか?」
ここは、疑問に持たれる前に話を終わらせるに限る。
下手に疑問を持たれては、話がややこしくなるので長引かせるのは得策ではない。
「…なるほど。わかった、バレルゴブリンの事もあるから、キミたちを信じ討伐達成として受理しよう」
「ありがとうございます」
「係の者に報奨金を準備させる。キミたちは待合室に戻っていてくれ」
支部長は話を終えるとペンダントに目を落とした。
珍しい鉱石と言うだけあり、それだけで高価なもののようだ。
僕としてはコルグスから受け取った大切な物なので、出来るなら返してもらいと思っている。
しかし、証拠品として提出しているため、返って来る見込みは未知数だ。
それでも、このまま何もしないより、僅かな可能性に賭ける価値はあるだろう。
「あの…一つ確認なのですが、そのペンダントは返して貰えませんか?」
「ん?まあ、確認は終わっているからそれは可能だが…何故かね?」
「あのドワーフはとても手強い相手でした。自身の実力を証明するためにも、討伐した証を残しておきたいんです。…ダメでしょうか?」
「なるほど…そう言うことなら、これは返しておこう」
支部長は大きく頷いてペンダントを返してくれた。
彼はダマスカス鋼が珍しい事は知っていても、あまり執着がないようだ。
僕らは指示通り再び待合室へと移動した。
しばらくすると、先ほど僕らを案内した職員が革袋を持って現れた。
しかし、手元にいつもの書類が無いのが少し気になった。
「こちらが報奨金です。それぞれに振りわけてありますので、各自お受け取りください」
「ありがとうございます。そう言えば、いつもの書類は無いんですか?」
「証書の発行には少し時間が掛かりますので、必要でしたら後日お越しください。明朝には準備しておきます」
「私は頂きたい。用意してもらえるかな?」
「わかりました。レイジ様はどうされますか?」
「いや、アナタ方を信じているので遠慮しますよ」
「それではニーナ様の書類を用意しておきます。係の者にお申し付けください」
「わかった。またその頃にお邪魔しよう」
用件を済ませると職員は部屋を出て行った。
僕らも用事が終わったので長居をする必要はない。
職員の後を追うようにハンターギルドを後にした。
「ふう…何とか無事に済んだな」
「…私は肝を冷やした。バレルゴブリンの件が無ければこうもウマくいかなかっただろう」
「私もヒヤヒヤしました…。まだ胸がドキドキしてます」
「あの感じだと大丈夫そうだったけど、まさか気付かれたってことはないよな?」
「どうだろうな。私も支部長の変化に注意していたが、表情に変化はなかったから大丈夫だろう」
「今後は危ない橋を渡るのは止めようね」
「あぁ、当面はないだろうな。それよりもたくさん歩いて疲れた。宿に戻ろうか」
「私はここで失礼する。…また何かあればこちらから伺うからな」
それだけ言ってニーナは去っていった。
相変わらずと言えば相変わらずだが、今日の雰囲気には影があった。
偽りの討伐を終え、あまり納得がいかないと言った感じがする。
僕にしてみれば、予定通りに事が運び、ホッと胸を撫で下ろした。
サフラが言う通り、あまり危険な橋は渡りたくはない。
次も成功すると言う保証がない以上、こんな報告をするのは最後の手段と位置づけた方がよさそうだ。
連日連載…何とか間に合いましたよね…?
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