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GunZ&SworD  作者: 聖庵
23/185

シーン 23

改稿済み:2012/07/19

僕は相手を睨み付け、左手に短剣を握った。

銃を見た事がない相手では、これが武器だと伝わり辛い。

それを理解した上で、一目で凶器とわかる刃物をチラつかせ、相手の恐怖心を煽る事にした。


「手荒な真似はしたくない。その子を離せ。俺たちは殺し合いに来たんじゃない」

「ふん、人間風情が何を言う。お前たちは野蛮な種族ではないか!仲間も多く殺された」


ドワーフは憤り、サフラを掴む手を力いっぱい握った。

これにはサフラも苦しそうな表情を浮かべたが、相手を刺激しないよう声は出さなかった。


「待て!話し合えば分かるはずだ。だからその子だけは傷付けないでくれ」

「レイジ、ドワーフに何を言っても無駄だ!いいからヤツを撃て!」

「でも!」

「おっと、下手な真似をしてみろ、コイツの命はないぞ!」


ドワーフはサフラの首筋に刃物を突きつけ、目を細めて警告してきた。

やはり、彼女を人質としているため、すぐに殺すつもりはないらしい。


「…クッ、何が望みだ!」

「私に構うな!そして消えろ、野蛮な人間共め」

「俺たちは野蛮なんかじゃない。お前に危害を加えようとも思っていないんだ」

「ふん、そんな話が信じられるか!現にそこの娘、その位置からナイフを投げようとは思うなよ。コイツを盾にしてやる」

「お前…どこまで非道なんだ!サフラちゃんを離せ!」


言い争いは平行線のままだ。

下手に刺激すれば何をしでかすかわからない。

粘り強く説得するのも大事だが、時には武力行使も必要と言う事か。

これでは今まで繰り返されてきた歴史と変わらない。

その間にもサフラは精神的に疲弊しているらしく、徐々に息遣いが荒くなっている。

状況を打開するためにも、あまり長引かせる訳にはいかない。

仕方なく銃口を短剣を持っている手に向けた。


「何だ貴様、妙な物を向けよって」

「最後通告だ。その子を離せ」

「何を言う。私に脅しは利かないぞ?」

「一瞬で…終わるさ!」


そう言って短剣を持つ手を撃ち抜いた。

乾いた発砲音と共に、弾は狙い通り手の甲に当たり、ドワーフは短剣を投げ出し掴んでいた手を離した。

その隙にサフラは逃げ出し、僕らの方に戻ってきた。

恐怖で震えてはいるが、しばらくすれば落ち着くだろう。

ニーナはサフラを抱き締めて無事を喜んでいる。

対するドワーフは、何が起こったのかわからないと言った顔で、僕に鋭い眼差しを送っていた。


「き、貴様…何をした!」

「ただ引き金を引いただけさ。特別な事は何もしていない」

「ぬかったわい…奇っ怪な武器を操りおって…」

「その気になれば頭を撃ち抜く事だって出来るさ。抵抗するのは止めろ。出来れば殺したくない」

「…貴様、何が目的だ」

「言っただろう。話し合いに来たと。ドワーフとは何かをこの目で確かめに来たんだ」

「確かめる…だと?理解しようともせず、一方的に戦争を仕掛けてきた人間風情が何を今更…」

「俺たちはドワーフの事を野蛮な種族と聞いている。だが、お前は話に聞いているドワーフ像とは違った。お前たちは本当に野蛮な種族なのか?」


男はそれを聞いて表情を歪めた。

不服そうな顔付きで明らかに動揺をしている。


「野蛮なのはお前たちだろう。私たちは人間たちに命を狙われ、その報復でお前の仲間たちを殺す。それだけだ。それに、最初に危害を加えてきたのは貴様たちだ!」

「…ちょっと待て。我々の認識では、ドワーフは憎むべき存在。天敵のようなものだと教えられている。それは我々にとって共通の認識だ」

「娘、貴様たちはそうやって私たちドワーフを迫害してきたんだ。私たちはただ平穏で静かな暮らしを望んでいると言うのに…」


憤るドワーフの様子を見る限り、話に聞いていた野蛮な印象はない。

彼の言葉が本当なら、身を守るために仕方なく戦ってきたと言う事になる。


「もう一度言う。俺たちはお前を殺しに来たんじゃない。わかればゆっくり頷いてそこに座れ」


すると男は指示通りに動いてその場に腰を据えた。

しかし、その様子はどこか諦めにも似た雰囲気が漂っている。

僕は極力不信感を与えないよう、ゆっくりとした言葉で続けた。


「よし。では、コイツを使って止血しろ」


僕はポケットからハンカチ変わりの布切れを取り出すと、丸めて目の前に放ってやった。

それを見て、男と状況を見守っていた二人は驚きを隠せず目を丸くした。


「レイジ!何故そんなヤツに情けをかける?危険だ、いいから早く止めを刺せ!!」

「見ろ!野蛮なのは貴様たちの方だ」

「…ニーナさん、お兄ちゃんを信じてあげて。それに、あの人、私には悪い人には見えない…かな」

「サフラちゃん…」

「そう言うわけだ。ニーナ、この場は俺に預けてくれ」

「…わかった」


ニーナはサフラの説得によってひとまず落ち着きを取り戻した。

しかし、何かの拍子にスイッチが入る事もあるため、油断は禁物だ。

目でサフラに合図を送り、彼女が暴走する事がないよう伝えた。


「まったく…一番わけがわからないのはお前だよ。何故止血までさせる?」

「お前はサフラを捉えはしたが殺さなかった。その気になればすぐにでも殺せたはずだ。そこに疑問を持った」

「ふん…変わったヤツだ。人質を取ったのは戦いを有利にするためだ。多勢に無勢では分が悪かった」

「それならば一人でも確実に殺して戦力を減らすべきだろう?」

「ふん…人間というのは強欲な生き物だ。それをした仲間たちは、怒りに任せて殺されてしまった…」

「強欲…か。あながち間違いではないな。もし、あの場でサフラを殺していたら、俺は間違いなくお前を殺していた」

「…だろうな。お前の放つ殺気…あれは尋常ではなかった」


ドワーフは、話を続けながら傷口に布を巻いて簡単な止血をした。

それ以外では怪しい動作もなく、大人しく指示に従っている。

万が一、危険だと判断すれば、その時は躊躇わずに撃てばいい。

僕の甘い判断で、サフラの村で経験した悲しい思いをするのはたくさんだ。


「少し話を聞きたい。わかる範囲で答えてくれ」

「…わかった」

「まず、お前はここで何をしていた?」

「薬草の採集だ。それと、薬の精製。採集した薬草からオイルを蒸留していた」

「姿が見えなかったが、今までどこにいた?」

「…下だ。足元に穴を掘ってラボラトリーを兼ねた倉庫を造った。入口の穴はいくつかある。間違って踏み外すなよ?」


ドワーフの指差した先には、人が一人収まるほどの穴が見える。

ちょっとマンホールくらいの大きさだ。

中は暗くてよくわからないが、目を凝らすと近くにいくつか同じ穴が見つかった。


「では次の質問だ。ここに来る前に聞いたが、人を襲ったと言うのは本当か?」

「あぁ…何人か殺しもした。もちろん先に仕掛けてきたのは人間の方だ。俺はちょうど薬草を摘んでいた時でな。…これがその時受けた傷だ」


そう言ってドワーフは腕を捲り、包帯が巻かれた傷跡を見せた。

話によれば、背後から受けた矢傷らしい。

相手は二人だったが、そのうちの一人が逃げ出してハンターギルドに報告したようだ。


「遺体はどうした?」

「埋めたよ。私たちのやり方で埋葬しておいた」

「…信じられんな。ドワーフが埋葬などと…そんな話、聞いたことがない」

「娘、お前さんが思っている我々のイメージが間違っているんだ。我々は故人を偲ぶ。それが人間であろうとエルフであろうと変わりはない」

「わかった。最後に名前を聞きたい。質問はこれで終わりだ」

「…コルグス。コルグス=エルエミオンだ。薬剤師をしている」

「薬剤師のコルグスか。俺はレイジ。狭山令二だ。旅人をしている」

「レイジ…覚えておこう。それで…私はこの後どうなる?」

「こちらに危害を加えられない限り、お前の命を奪うつもりはない。このまま解放するつもりだ。ただ、この場所からは離れてもらう。出来ればノースフィールドへ戻ってもらいたい」

「…それだけか?」

「あぁ。不服か?」

「私は構わない。命が助かるならここを明け渡そう。だが、後ろの娘から殺気が漏れていてな…無事に帰れるか不安だよ…」


振り向くと、ニーナは眉間に皺を寄せコルグスを睨み付けていた。

殺気を感じ取れない一般人でもわかるほどの敵意が伺える。


「ニーナ、怒りを収めろ」

「しかし、レイジ!」

「心配ない。俺に考えがある。コルグス、俺たちはハンターギルドの依頼でここに来た。お前には多額の懸賞金が掛けられているんだ」

「…ふん、だから武装した人間が近くをうろついていたわけか…。で、お前さんはどうするつもりだ?やはり私を殺して首を持ち帰るのか?」

「さっきも言っただろう、ノースフィールドに帰れと。ここに居ればいずれまた命を狙われる事になる。だから、ギルドには俺たちがお前を退治したと報告させてもらうよ。変わりに、何か証拠になる戦利品をいただく。これが殺さない条件だ」

「…ほう、なかなか面白い事を考えるんだな。確かに、命あっての物種だ。それくらいは協力しよう」

「話が早くて助かる。ニーナもこれでいいか?」

「…まあ、それならギルドも納得するだろう。問題は何を証拠に持ち帰るかだな…」


新たな問題はそこだ。

証拠品として提出するには、説得力のあるものでなければならない。

コルグスの言うように、首を持ち帰れば間違いはないが、それ以外となれば熟慮する必要がある。


「それならば…コレを持っていけ。お前たちには過ぎたる物だがな」


コルグスは首に掛けていたペンダントを外した。


「これは?」

「ノースフィールドでしか採れない金属を加工したものだ。我々は身分を表す物として使っている。金属の名は“ダマスカス鋼”。鋼よりも固く、ミスリルにも劣らない堅牢な金属だ。一部は武具の材料として使われる。製法は門外不出。ドワーフの限られた鍛冶師のみが扱える貴重なものだ…」


つまり、ノースフィールドの出身であるドワーフしか身に着けていない物だから、説明が付くのではないかとの事だ。

この金属は、白金色のミスリル銀や黒色のテイタン、鈍色の鉄などとは違い、青と緑の中間の色合いをしている。

身近な鉱石で言えば、トルコ石の色に良く似ていた。


「それだけ大切な物と言うわけか。なら、代わりに友好の証として伝えておく事がある。近いうちにドワーフの殲滅作戦が行われるそうだ。規模は分からないが、確かな情報だ」

「レイジ!お、お前…自分が何を言っているのか、わかっているのか!?国家機密だぞ!!」

「ニーナ、すまない。だけど、俺は無益な戦いが嫌いなんだ。これで戦争が回避できるなら本望だよ」

「…その娘の慌てようといい、偽りではなさそうだな」

「そう言う事だ。そちらも準備を整えるなら、早く戻って伝えた方がいい」

「…まったく、レイジ…お前はバカなのか?」

「かもな。いや、平和を愛するバカだよ」

「…付き合いきれん。どうなっても知らんぞ!」

「苦労を掛けるな。これが俺と言うヤツの本質だよ」


呆れるニーナの傍らで、サフラは何故か微笑んでいた。

やはり僕はこの世界では異質な存在だ。

いや、異質だからこそ見える事もある。

きっと、コルグスとの出会いも何かの巡り合わせなのだろう。

今はまだこの世界に転生した意味が見出せていないものの、少しずつ前に進んでいる実感はあった。

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