シーン 2 / 登場人物紹介 1
【主要人物紹介】
狭山 令二
本作の主人公。高校卒業後、父親の進めで進学した私立大学で経営学部を専行していた大学一年生。選択授業で履修していた体育の授業中、不慮の事故で命を落とし異世界に迷い込む。
転生時に幼女声の神(死神)によって人間離れした身体能力と、チート仕様の拳銃を駆使しながら異世界で生き方を模索していく。
性格は基本的に義理堅くマジメだが、「ロリコン」と「S」属性も併せ持つ、自称“変態紳士”。
使用武器:M1911(コルトガバメント)幼女オリジナルチート仕様(現在、弾数無限、メンテナンスフリー、異常軽量、射撃時に無反動が確認されている)。主人公は使用弾薬を“.45ACP弾”と認識してるが、こちらも通常とは異なる仕様になっており、詳細は今のところ不明。
死神
主人公を異世界に転生させた張本人。本人曰く、死を司る神(死神)らしい。姿は広く認知されている“大鎌を手にする髑髏風の風貌”ではなく、感情が寄り集まった“意識体”と呼ばれる球状の小さな光をしている。詳しいことは分からないが、主人公は“幼女”と呼んでいる。
冒頭部で主人公について語られていなかったので、ここで一部情報開示して補足しました。
また、随時登場する主要キャラクターのプロフィールは登場回後の前書きで紹介をしていく予定です。
2012/03/08 改稿済み
2012/03/13 再改稿済み
目を覚ますと柔らかい布団に包まれていた。
眠りから目が覚めてもここは住み慣れた自宅ではない。
正確には分からないが、きっと銀河のどこかにある別の惑星だろう。
窓の外は暗くなっていた。
時計がないため詳しい時間は分からない。
部屋の中は薄暗いが月明かりが差し込み、見えないということはなかった。
ベッドから身体を起こし、窓際に立って外を見る。
町の中は松明が灯され歩きやすいようになっていた。
家々にも明かりが見えるため、人々が寝静まる深夜と言うわけではなさそうだ。
僕は軽い好奇心から外に出てみることにした。
夜の散歩というのも悪くないだろう。
一階に降りると受付にアルトラが居た。
「これはこれはレイジ様。お部屋を気に入られたそうで、ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ立派な部屋を用意していただき恐縮です。これから少し町を散策してこようと思います」
「そうでしたか。町の中であれば明かりもあるので安全でしょう。お気をつけて」
一階には一般客も利用できる酒場が併設されている。
酒場と言ってもレストランのようなもので、大人から子どもまで思い思いに食事をしていた。
それぞれに異なった顔立ちや服装をしているので、利用客の多くが旅人なのだろう。
中には鎧を着た男もいる。
武器は携行していないが威圧的な風貌は見せるだけで抑止力の効果があった。
現代社会で言うところの警察官と言ったところだろうか。
それらを横目に表へ出た。
外は暗いといっても等間隔に松明が置かれ歩くのに支障はない。
宿場町というだけあり、宿の他にも馬を休ませる厩舎、旅に必要な装備や保存食を売る雑貨店があった。
これから本格的に旅をするなら最低限の荷物くらいは準備しておきたいところだ。
ただ、今は持ち合わせがないため外から見ているだけしか出来ない。
散策を続けるうち、昼間にマリーナが襲われていた現場にたどり着いた。
現場には戦闘の痕跡が残っておらず、誰かが死体の処理をしたらしい。
あのまま放置しておくのも不気味だが、片付ける方も大変だろう。
現場から町の入口の方へ歩くと、甲冑で身に包んだ男が二人居た。
酒場で見た甲冑の男と同じデザインだったので同業者か関係者なのだろう。
どちらも手には槍を持ち、町の外に睨みを利かせている。
「…ん?アナタはもしやレイジ殿ではありませんか?このような場所へはどのようなご用でしょう」
二人のうち年長者の中年の男性が声をかけてきた。
名前を知られているのは気になったが、大方昼間のことで噂にでもなっているのだろう。
小さな町では噂は驚くほど早く広がるものだと聞いたことがある。
「いや、特に用というわけでは。町を散策していて、たまたま通りかかっただけです」
「そうでしたか。あぁ、自己紹介がまだでしたな。私は自警団で隊長を勤めるマリオンと申します。先ほどは姪のマリーナを助けていただきありがとうございました」
「マリーナさんの叔父さんでしたか。困っている人を助けるのは当然のこと。あまり気にしないでください」
「いやいや、なかなか出来るようなものではありませんよ。特にあのゴブリンを前にしてはほとんどの者が萎縮をする。レイジ殿は勇敢でお強いからこそ助けることが出来た。マリーナは運がいい。私はそう思います」
そう言ってマリオンは深々と頭を下げてきた。
感謝されることは気持ちがいいものだ。
「私からも礼を言います。マリーナは私の従兄妹ですから」
今まで黙って警備を続けていた男も頭を下げてきた。
従兄妹ということはマリオンとも親族ということだ。
小さな町だから近くに親類が住んでいてもおかしくはない。
顔立ちもマリーナに少し似て美男子で、体格もそれなりにいい好青年だった。
現代の日本に生まれていれば、きっと雑誌の読者モデルでもなれるだろう。
礼儀正しい性格もあって、悪い印象はどこにも見当たらない。
「つかぬ事をお聞きしますが、お二人はハンターですか?」
自警団ということはそれなりに腕に覚えがあると言う事だ。
ハンターならゴブリンを一人でも倒せると聞いていたので、この二人もそうなのではと思った。
「私は正式にハンターのライセンスを持っています。これが紋章です。こちらのルミオンはまだ駆け出しの身ですがハンターギルドへは登録を済ませています。この町にはハンターの数が少なく、夜間の見張りは正規のハンターと見習いの二人体制で行っているんですよ」
「なるほど。そういうことでしたか。ではマリオン殿は相当にお強いのでしょうね」
「いやいや、まだ修行中の身…と申しておきましょうか」
マリオンは謙遜したが、隣に居るルミオンは微笑んでいた。
きっと、ゴブリン程度なら簡単に屠れる実力をもっているのだろう。
能ある鷹はではないが、下手に自慢をされるより印象がいい。
「遠い異国の出身のため、ハンターについての知識に疎いのでお聞きしたいのですが、ハンターにはどのように就くのですか?」
「ハンターは帝都に拠点を置く組織です。正規の職員として認められるにはギルドが定めた試験に合格しなければなりません。登録を済ませただけの者は“見習い”と呼ばれます」
「試験というのは具体的に?」
「二つの方法があります。一つは基礎から武具の知識や敵の急所など、講義を受けながら実戦を積んで行く方法です。具体的には先輩のハンターをサポートしつつ、実践経験を積みます。もう一つはギルドが指定する討伐対象を討ち取る方法です。討伐対象というのは、ギルドへ駆除の依頼があった魔獣やゴブリンなどの亜人です」
ブレイターナに魔獣や亜人が数多く存在いているのは、幼女から説明があった通りだ。
昼間のようなゴブリンの襲撃は決して珍しい事ではない。
町の中に居たとしても決して安全ではないため、彼らのようなハンターが常に見張りをしているというわけだ。
「討伐というのは、一人で行うのですか?」
「そうですね。ただし、討伐対象が徒党を組んでいる場合などは例外になります」
「なるほど…」
「ちなみに討伐対象はギルドによって格付けされた難易度が定められています。難易度は全部で六段階あり、AからFランクに区分されます。一人前のハンターとして認められるにはC難度以上の討伐対象を倒すのが条件になります」
「なるほど。ちなみに昼間のゴブリンはどの程度です?」
「一匹だけでしたので、D難度相当と言ったところでしょうか。ただ、ハンターでない者なら数名が武器を持ち、取り囲んでやっと倒せるという程度。決して容易な相手ではありませんな」
「そうでしたか。それは知りませんでした」
つまるところ、ハンターは誰でも就けるモノではないということだ。
ハンターに就くには帝都にあるギルドへ申請する必要があるので、情報を得るためにもやはり帝都へは向かわなければならないようだ。
「あぁ、そうでした。昼間倒されたゴブリンには懸賞金が掛けられておりました。この町のギルド支部で申請をすれば懸賞金の支払いがあるでしょう」
「懸賞金?それはハンターでなくとも貰えるんですか?」
「はい。本来、ハンターギルドとは治安維持のために組織された組合です。ハンターという職位は治安維持活動を公式に認めると、皇帝陛下が承認するものです。ですが、ハンターでなければ討伐対象を倒してはならないという取り決めはありません。中にはギルドに加入しない賞金稼ぎもおります」
「なるほど…そういう事でしたか」
「レイジ殿は長旅の途中で賞金首と対峙されたことがありませんでしたかな?」
「いえ、幸いなことに今日まで一度も」
「なるほど。では路銀を稼ぐ良い機会になりましたな」
「そのようです」
それからしばらく雑談をしていくつかの情報が得られた。
まず、帝都と呼ばれるヒューマン族の中心地は大陸の中ほど、『ミッドランド』という地域にあるらしい。
ちなみにこのロヌールは『ウエストランド』に位置している。
ロヌールから帝都までは人の足で十日間程度の道のり。
馬車なら三日ほどで到着できるらしい。
また、街道の途中にはロヌールのような宿場町が二カ所といくつかの農村があるようだ。
また、『イーストランド』には巨大な交易都市があり、帝都に次ぐ人口が集まるようだ。
大陸中から多くの商人が集まり、様々な交易品を売買する市も開かれている。
必要なものは交易都市に行けば何でも揃うらしい。
他にも敵対するドワーフは大陸の北部『ノースフィールド』と呼ばれる極寒の地に住み、エルフは『サウスフォレスト』と呼ばれる森林地帯に住んでいる。
ゴブリンなどの亜人は大陸の至るところに分布しているので、特定の居住域はないらしい。
例外として“ジャイアント”と呼ばれる巨人族は亜人の中でも特に集団行動を好み、普段は北方の外海に位置する『ジャイアントランド』と呼ばれる島に住んでいる。
ただ、集団行動を好まない個体も中には居るため、ジャイアントランドを離れ単独で大陸中を移動する亜種もいるのだとか。
魔獣についても亜人とほぼ同様の行動パターンだという。
詳しく話をしてくれたマリオンたちに礼を言い、今日のところは宿へと戻った。
翌朝、昨日の客室係が部屋に食事を運んできた。
スイートルームの利用者にはモーニングサービスがついているらしい。
一般客の場合は一階にある酒場での食事となる。
ブレターナでは朝と晩の二食が一般的で、一部の皇族や貴族だけが三食の生活をしているのだと客室係が教えてくれた。
食事が終わると身支度を済ませ、アストラに礼を言って宿を出た。
向かうのは昨晩話に聞いたギルド支部だ。
マリオンの話では懸賞金が貰えるらしい。
受付には小柄で初老の男性が座っていた。
皺の深い強面の顔にはいくつかの傷痕があり、彼もハンター経験者だろうと予想がつく。
「アンタ、昨日ゴブリンを倒したっていう旅人かい。懸賞金を受取りに来たんだろう?」
「えぇ、その通りです」
「準備なら出来てるよ。報奨金は金貨が二枚と銀貨が五枚。残りは銅貨での支給になる」
「構いません」
「では、これが報奨金だ、受け取んな。あと、これが明細の証書だ」
そう言って革袋と明細書を渡された。
受け取りを済ませ外へ出ようとすると、壁に張り出された賞金首の情報と似顔絵や特徴などが書かれたポスターを見つけた。
昨日倒したゴブリンの他にもオーガやコボルトといった亜人の手配書が張り出されている。
中にはドワーフやエルフのものもあった。
ポスターを見て気が付くのは、亜人よりもドワーフやエルフの方が難易度も懸賞金の額も高いという点だ。
特にエルフの手配書にはBやA難度のモノがあり、ゴブリンやオーガのEやD難度よりも数が少ない。
ここへ来て初めて会った商人も言っていたが、ヒューマン族の中にはエルフ族に対する私怨を持つ者もおり、そうした人たちが依頼するのだろう。
一通り見終わるとギルドを出てマリーナの家に行ってみることにした。
家では畑へ向かう準備をしていたマリーナと朝食の後片付けをする母親の姿があった。
「あら、レイジ様。おはようございます。昨日はよく眠れましたか?」
「あぁ、おかげでゆっくり休めたよ。今から仕事かい?」
「はい。今はその準備をしておりました。レイジ様は、この後のご予定は?」
「今日からまた帝都に向けて旅に出ようと思う。だからその前に一言挨拶をと思ってな」
「そうでしたか。それはお気遣いありがとうございます。またロヌールにお越しの際は声をお掛けください。母も喜ぶと思います」
マリーナは深々と頭を下げた。
女性に感謝されるのは男冥利に尽きる。
それに、人助けをして生活の糧を得られるのなら、この世界で生き延びる手段としてハンターを選ぶというのも一つの手だ。
幸いゴブリン程度なら銃を使えば簡単に倒すことができる。
ハンターにならずとも賞金稼ぎとして生計を立ててもいいだろう。
「そうか。では、そうさせてもらおう」
「あ、そうでした。町長より連絡を受けております。町を出る際は一度お寄りくださいとのことでした」
「なるほど。町長にも世話になったので挨拶に向かうところだ。ちょうどいい、さっそく向かうとしよう」
「レイジ様、お気をつけて旅をお続けください。ご武運をお祈りしております」
「ありがとう」
マリーナに別れの挨拶を済ませて町長の家に向かった。
町は徐々に活気を帯びており、次の町へ向かう旅人の姿も見える。
町長の家は宿のすぐ近くにあり、簡単に見つけることができた。
「アスリムト殿はご在宅でしょうか?」
戸口に出てきたのはメイド服姿の中年女性だった。
奥さんという雰囲気はなく、下働きをする使用人のようだ。
中へ入るように案内されると応接室に通された。
革張りのソファーが対面に並ぶ応接室は、調度品こそスイートルームには劣るがなかなかの名品揃いだ。
部屋の雰囲気に恐縮していると奥から町長が現れた。
「これはレイジ殿。ご足労いただき申し訳ない。昨晩はよく眠れましたかな?」
「えぇ、旅の疲れを癒すことができました。感謝いたします」
「それは良かった。レイジ殿は今日よりまた旅をお続けになられるのでしょう?」
「そのつもりです。急ぐ旅ではありませんが、帝都に行かねばなりませんので」
「さようですか。少々で申し訳ないのですが、旅の道具を用意させましたのでお持ちください。きっと旅の役に立つでしょう」
そう言って先ほどのメイドを呼び出し、用意していた荷物を持って来るようにと伝えた。
運ばれてきたのは革製のリュックサックだ。
中には非常食の干し肉や止血剤、鎮痛効果もある乾燥した薬草が収められていた。
他にも何かと便利な果物ナイフやロープ、木製の食器や水筒など、旅をする上で必要なものが揃っている。
「これは…宿の件といい、誠に申し訳ない限りです」
「いやいや、これくらいのことしか出来ず、こちらこそ申し訳ない。それよりも、レイジ殿は剣の腕前に自信はありますかな?よろしければ昨日のゴブリンが所持していたサーベルを修理しておきましたが」
「剣ですか。お恥ずかしい話ですが、剣の腕前は自慢できるものではありません。それよりも、頂けるのであれば持ち運びに便利で扱いやすいナイフの方が助かります」
「さようですか。ではそちらの準備をさせていただきましょう。こちらの書状を持って鍛冶屋にお越しください」
アスリムトは書状に新しく何かを書き加え手渡してくれた。
「ありがとうございます」
「それとこちらは通行証になります。検問にあった際ご提示ください。きっと役に立つでしょう」
「重ね重ねありがとうございます。またこちらへ寄る機会があればお会いしたいと思います」
「その節は歓迎いたしますので、故郷へと帰ってきた気持ちでお越しください」
町長に別れを告げて外に出た。
書状を手に、教えられた鍛冶屋を探すとすぐに見つけることができた。
目印は高い煙突で、先端からは白い煙が伸びている。
店内に入ると、ねじりハチマキをした色黒の男性が剣を砥石にかけて研磨していた。
「あの~町長からのご紹介で来ました、レイジといいます」
仕事中の男性に恐縮しつつ声を掛けた。
男性は作業の手を止めて快く応じてくれた。
「らっしゃい。町長のいっていた旅の方だね」
「はい。それで、こちらを渡すようにと言われて来ました」
そう言って先ほどの書状を手渡した。
それを読んだ男性は頷いて承諾したらしい。
「なるほどなるほど。では、アンタにあった短剣を見繕わせてもらうよ。そこに掛けて少し待っててくれ」
工房の片隅に置かれた丸椅子に腰掛け男性の帰りを待った。
店内には様々な形の剣や槍などが置かれ、一部はそのまま販売されている。
数は少ないが甲冑も置かれていた。
他に従業員が見当たらないので一人で切り盛りしているようだ。
感心していると男性が革製の鞘に入った短剣を持ってきた。
短剣と言っても刃渡りが三十センチ近くある。
分類としては短剣と長剣の間、ショートソードに分類されるだろうか。
「お待たせしました。こちらになります」
「これは?」
「マインゴーシュという短剣です。斬るという目的より剣戟を受け流すのに使い易いよう、長さを調節してあります」
「剣戟を受け流す…。なるほど、護身用に良さそうですね。気に入りました」
「それは良かった。鞘は腰に装着しやすいよう革のベルトと一体化しておきました。長さも調節できるので、ご自由にどうぞ」
説明の通り腰にベルトを巻き付けて携行するらしい。
マインゴーシュは日本刀で言うところの“脇差”とは異なり、左手で扱えるよう鞘が腰の右側についている。
右手は銃を使うため左手仕様なのはありがたい。
万が一、間合いに入られて時もマインゴーシュで剣戟を払えるだろう。
実戦で使うには慣れが必要なので、これから時間を見つけて修練していけばいい。
鍛冶屋を出て次は雑貨店を探した。
銃を収納するガンホルダーの代わりを探している。
出来れば西部劇のように腰にぶら下げる形がいいだが。
無ければオーダーメイドという手もある。
今はポケットに収めているが、やはり見た目は大事だろう。
腰にぶら下げられなければ腰骨の辺りにガンホルダーを取り付けでもいい。
マインゴーシュが腰の右側に装備されているので、動作を円滑にするならやはり腰骨あたりだろうか。
考え事をしていると雑貨店を見つけた。
雑貨店といっても生活用品から食材、旅に使う携行品まで多様に扱っている。
現代で言うホームセンターのような品揃えだ。
店番をしていたのは中年の女性で、目当てのモノがないかさっそく聞いてみることにした。
「すみません、これに合うようなケースや鞘のようなものはないでしょうか?出来れば革製の丈夫な物で」
拳銃を見せながら聞いてみた。
女性は不思議そうな顔をしたが、思い当たる商品があるのか、待つように言って奥へと引っ込んでいった。
しばらくすると両手にいくつかの革製品を持って戻ってきた。
「ウチにあるものでご要望に沿えそうなのはこれたけだね。良かったら買っていってくんな」
並べられたのは短剣用と思われる皮製の鞘がほとんどだ。
どれも拳銃が収納できる厚みはない。
変わりに一つ目に付くものがあった。
革のベルトだが幅が手のひらほどあり、コルセットのような形をしている。
女性の説明によればまさしく腰を支えるコルセットで、馬に騎乗する際、疲れを和らげるために身につけるようだ。
本来の用途とは違うが、これに手を加えれば使えそうだと直感した。
「では、このベルトを」
考えが決まるとベルトを購入して店を出た。
ちなみに代金は銀貨で一枚分。
銀貨の十倍が金貨に相当するのであまり安い買い物ではない。
詳しい物価はまだ把握できていないが、先ほど店に置かれていた卵一つが銅貨一枚だったのでそれなりに高価ということになる。
ただ、必要な物を買ったので後悔はない。
それよりも、今はこれをどうやって使い易く細工しようか楽しみで仕方がなかった。
素人の僕が何か細工すればそれなりに味のある物ができるかもしれないが、ここは出来栄えを考えればプロに任せて見るべきだろう。
町を歩いていると革の加工を専門に行う店を見つけた。
店主に相談したところ、普段は業者との取引しか受け付けていないと言われたが、銃に興味を持ったらしく、悩んだ末に了承してくれた。
「少し時間が欲しい。型を取らなければならないから、それなりに時間がかかると思う」
「それでは、型を取るまでの間でいいので近くで見ていてもいいですか?革職人の仕事ぶりに興味がありますので」
「了解だ」
興味があるとは言ったものの、それ以上に銃が心配だった。
人手に渡すとなれば慎重になって当然だ。
特にこのブレイターナで生きていく上では生命線であり、命の次に大切なものと言っても過言ではない。
職人気質の店主は兵器としての銃に興味があるわけではなく、独特な形に興味を惹かれているようだ。
今までに見たことのない品を扱うというのは、職人にとって腕前を試す絶好のチャンスといったところだろう。
型紙に下書きが終わったところで銃が返ってきた。
あとは型紙通りに革を切り抜いて縫い合わせ、持ち込んだコルセットと組合せるらしい。
注文の品が完成するまでの間、昼食を食べに行くことにした。
昼食を食べる習慣のない人々は昼になっても食事をしている様子はない。
客が来ないため飲食店はどこも閉まっている。
諦めつつも町の中を歩いていると、一軒のパン屋が店を開けていた。
藁にもすがる様な思いで勢いよく扉を開け放つ僕がいた。
売っていたのは固い食感が特徴のバゲットを専門に扱う店だ。
よく知る菓子パンや惣菜パンなどは置いていない。
この世界ではパンといえばバゲットが一般的で、手間のかかる菓子パンや調理パンは田舎町では手に入らない高級品のようだ。
よく焼いてあるため長期の保存にも適していると教えてもらい、先々のことを考えて三本購入した。
ちなみに一本が銅貨二枚。
この値段は基本的にどこの町でも違いはならしい。
パンをかじりながら歩いていると、あることを思い付いた。
町長から貰った荷物の中に保存食の干し肉があったはずだ。
さっそくリュックから赤レンガほどの大きさがある干し肉を取り出し、パンに挟みやすいようナイフで薄く削いだ。
中は生ハムのように瑞々しいが、塩をよく擦り込んでいるため腐りにくくなっている。
温度や湿度に気をつければ半年ほど保存できるようだ。
干し肉をリュックに戻し、バゲットにナイフで切れ目を入れて干し肉をサンドした。
野菜不足だが空腹を満たすには十分だ。
これからの昼食はこのサンドイッチの世話になることも多いだろう。
簡単な昼食を食べ終えると、リュックの中から水筒を取り出して喉を潤した。
先ほど真上にあった太陽は少し西へ傾いている。
買い物と食事を済ませただけで一時間近くは暇を潰せただろうか。
問題がなければそろそろ注文の品が出来上がっている頃だろう。
店に戻ると店主が満足そうな表情をしていた。
カウンターの上には出来上がったばかりのガンホルダーが置かれている。
「おや、ちょうどいいところに戻ってきたな。たった今完成したところだよ」
「そうでしたか。うん、思っていた通りの出来みたいですね。さっそく試着していいですか?」
「どうぞどうぞ」
カウンターに置かれたコルセットを腰に巻き、新たに取り付けたホルダーに銃を差し込む。
元々着けていたマインゴーシュ用のベルトに干渉するのではという不安は、コルセットと一体化できるよう施された細工で解消されていた。
銃の取り出しについても、少し不便かなと思う程度に一回り小さく作ってあるが、馴染んできた頃に革が伸びて最適なフィット感になる狙いがあるようだ。
こうした配慮は経験豊富な革職人だからできる気遣いだった。
感覚を確かめるように、銃を抜いては元に戻すを繰り返す。
初めはぎこちなさがあったものの、何度か繰り返すうちに違和感を感じなくなった。
「ありがとうございます。思った通り素晴らし仕上がりですね」
「そうだろうそうだろう。自信作だからね。大事に使ってくれ。珍しい仕事が出来て私も嬉しいよ」
代金を支払って外へ出た。
支払ったのは銀貨で三枚。
オーダーメイドでお願いをしたため、もっと高い金額を予想していたが、いくらか値引きをしてくれたらしい。
感謝をしつつ礼を述べておいた。
これでようやく旅支度が整ったことになる。
振り返れば何日もこの町で過ごした気持ちだ。
しかし、現実はこの世界へ来てまだ二日目。
何をして生きていくかも決まっていない状況には変わりない。
それでも不思議とネガティブな気持ちにはならなかった。
まずは次の町へ向かう。
それが今の最優先事項だ。
ここまでお楽しみいただきありがとうございます。
連載ペースは未定ですが、極力投稿間隔が開かないように心がけていきます。
引き続き、お楽しみください。
2012/03/27 間違いを校正。