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GunZ&SworD  作者: 聖庵
183/185

シーン 183

あれからどれくらいの時間が経っただろうか。

一瞬だったのか、それとも長い間だったのかまったく見当がつかない。

そんな僕を現実に引き戻してくれたのは、目を覚ましたサフラが優しく肩を叩いてくれたからだ。

腕の中にはすでに冷たくなったホリンズの亡骸がある。


「レイジ…大丈夫?」

「あ…あぁ、俺は無事だ。だけど、コイツを救ってやれなかった…。何でもっと早く…出会えなかったのかな」


震える手でホリンズの身体を抱きしめた。


「レイジ…。私はね…上手に言えないんだけど、レイジの思いは伝わったと思うの。ほら…この顔を見ればわかるよ…」


そう言ってサフラは腕の中にいる亡骸を覗き込んだ。

安らかに眠るその顔は、呼び掛ければ目覚めるのではないかと思うほど自然に見える。

この顔だけ見れば、彼が世界中を巻き込んだ恐ろしい計画の首謀者だとは思えなかった。


「…コイツはさ、最後の最後までわがままなヤツだったんだ。それに、自分は間違ってないって思い込んでた。きっと、そんなヤツだったから進む道を間違えたんだろうな。頼れる相手をなくして、ずっと一人だったから…」


再び涙で視界が霞んだ。

僕も彼と同じ転生者として、似たような境遇を持つ者として、まるで他人ごととは思えなかった。

僕もサフラやニーナたちと出会っていなかったら、毎日に絶望して自暴自棄な第二の人生を歩んでいたかもしれない。

もちろん今の僕があるのは、献身的に支えてくれるサフラを始め、家族や仲間たちのおかげだ。


「レイジ…もう終わったんだよ。ほら、悲しそうな顔をしないで。レイジは間違ってなかった。私はレイジが正しかったって信じてるから」

「…ありがとな」


サフラに感謝を伝えると目を細くして笑った。

この笑顔を見るたびに救われた気持ちになる。

僕は彼の亡骸を部屋の隅に移動させ、彼が纏っていたローブをかけてやった。

これで今回の首謀者はいなくなり、“カルマの鍵”を進めようとする者はいなくなった。


僕はしばらく放心状態になり、その場に座り込んで呆けてしまった。

サフラは、何も言わないで僕と背中合わせで座り、身体を預けて天井を眺めている。

僕もそれに習って天井を見上げると、いろいろな思いが交錯して、今は何も考えられなくなった。

サフラはそれから黙ったまま僕が立ち直るのを待ってくれた。


「おーい、二人とも無事かッ!」


不意に階段の方からニーナの声が聞こえてきた。

それからたくさんの足音と共に、下の階で戦っていた仲間たちが姿を現した。

しかし、ハンターやドワーフの中には見えない顔もいくつかある。

それでも、ニーナ、アルマハウド、クオル、コルグス、ビル、セドアの姿が見えた。

僕は立ち上がると、サフラを連れてみんなに駆け寄った。


「みんな、無事だったか!と言う事は…セシルはどうなった?」

「あぁ、あれから下の階で戦っていたみんなが駆けつけてくれたんだ。総力戦にはなったが、何とか勝てたよ」

「そうだったのか。とにかく無事で良かった」


アルマハウドによれば、何度か危ないシーンがあったらしい。

特に、ニーナは能力を使い過ぎ、一時はエーテルが底を突いたそうだ。

しかし、エーテルドライブを使って失われたエーテルを回復させ、九死に一生を得たらしい。

アルマハウドはセシルが使う雷の能力を封じ、ニーナが遠距離から氷の能力を使って応戦した事が勝因に繋がったようだ。


「それにしても、その血は…」


コルグスは僕の姿を見て表情を曇らせた。

よく見ると、衣服についた血が膠のようになり、酸化して赤黒くなっている。


「あぁ…これは俺の血じゃないよ。アイツのさ…」


僕は部屋の片隅に移動させたホリンズを見た。


「なるほど…あんな化け物を相手によく無傷で済んだな」

「何度か危ないシーンはあったけど、奇跡的に勝つ事が出来たよ。次にもう一度戦えと言われたらさすがに勝てる自信はないさ」

「ほう…そこまで言うのであれば、ヤツは相当の手練だったのだな。とにかく無事でよかった」


コルグスは部屋の片隅を険しい表情で眺めた。

他の面々も同様に、ホリンズの亡骸に厳しい視線を送っている。

そんな姿を見て少し切ない気持ちになった。

仕方ない事とは言え、誰かが死ぬ姿を目の当たりにするのは気分がいいものではない。


「…そうだ、コルグス、頼みがあるんだ。ここの端末って操作できないか?」

「ん?それは可能だが…どうした?」

「調べて欲しい事があるんだ。ホリンズが計画していたカルマの鍵について、出来るだけ詳しくな。出来るか?」

「わかった…やってみよう」


コルグスは巨大なディスプレイ装置の端末の前に立ち、慣れた手つきでタッチパネルを操作した。

すると、画面にはホリンズが計画していたカルマの鍵の一部始終が表示された。

そこには、世界中のあらゆる生命からこの塔にエーテルを集め、星全体を巨大な魔具にする計画だと記されている。

また、集めたエーテルを貯蔵するために、この島で取れる特殊な鉱石を用いるとあった。

どうやら、ジャイアントたちが加工を施していた石材の事を言っているらしい。


他にも、アルマたちと同じ“意識体”になるプロセスも見つかった。

この塔に集めた膨大なエーテルを使い、地上にいる全ての生命を精神と肉体に分離、その後、精神だけを一つに集約するとある。

別の画面にはそれを補足する数学の公式と、専門用語が羅列されていた。

僕は理系の勉強が得意ではないため、一体どんな仕組みなのか理解する事ができなかった。

他の面々も同様のようだ。


「とりあえず、それらしい情報は以上だな。検索したい用語を入力すれば他にも何か見つけられると思うが、どうする?」

「うーん…他に気になるものはないか?」

「そうだな…気になると言えばこの塔に関する詳細な情報だろうな。あとはフォレストメイズで見た情報と差異はなさそうだ」

「じゃあ、それを見せてくれ」


再び端末を操作すると塔の情報が画面に表示された。

情報によれば、この塔はアルマたちの時代に建てられた最後の建造物と記されている。

また、アルマたちが“意識体”が姿を変えるために使用したものだと言う事もわかった。

その後、アルマたちが地上から姿を消した事で、この塔は地中深くに封印されたらしい。

ホリンズは、何らかの理由でこの塔の存在を知り、封印を解いて当時の姿を甦らせたようだ。

他にも、この塔自体が巨大な魔具の一種で、地熱を利用した半永久機関を搭載している。

つまり、地下の熱源さえあれば、何年でも何千年でも機能し続けると言うことだ。

ここまでのテクノロジーは前世にも存在しなかった。

それだけアルマたちの文明が先進的で突出していた事になる。


「…以上だな。他にも見るか?」

「いや、これで十分だ。助かったよ」

「礼には及ばない」


この塔での目的を達成した。

あとは皇帝たちの待つ砂浜に戻るだけだ。

出来ることならホリンズを人として埋葬してやりたかったが、僕のわがままでみんなを困らせるわけにはいかない。

あくまでも彼は犯罪者で、僕らとは違う存在なのだ。

後ろ髪を引かれる思いで塔を離れた。


ちなみに、塔は永久封印という機能が備わっていた。

永久と言うからには地中深くに封印するのではなく、塔自体を分子レベルまで分解する事を言う。

つまり、地上から完全に消し去ってしまう機能だ。

この塔が残っていれば、ホリンズのように悪用しようと考える者が現われるかもしれない。

これは僕の独断だが、今後の平和な日常が続く事を祈り、永久封印を決断した。

封印の開始はタイマーを利用できるため、安全に塔を脱出できる時間を考慮しておいた。


「…そろそろ時間だな」


塔から離れて十分に距離を取った頃、コルグスは振り向いてそう呟いた。

僕もそれに習って塔を見ると、最上階の部分から光の粒になって消えていく姿が見えた。


「終わったな…」

「あぁ、陛下もお喜びになるだろう。レイジ、お前はよくやったよ。感謝している」


アルマハウドはかしこまって深々と頭を下げた。

同時に救ってやれなかったホリンズの顔が脳裏に浮かび、そして消えて行った。


「…よせよ。みんなが協力してくれたおかげだ。俺はその手助けをしたまでさ」

「いや、お前がいなかったらこうはいかなかっただろう。これだけの面々を集めたのはお前の人望であり、素質だよ」

「俺はみんなを信じただけださ。特に大した事はしていないよ」


僕らは本部に戻って皇帝に一部始終を報告した。

皇帝はそれを黙ってじっくり聞くと、大きく頷いて僕らの活躍を賞賛してくれた。

同時に、ドワーフとウェアウルフたちにも感謝の意を伝え、深々と頭を下げた。

最後に、皇帝の号令で今回の作戦で失われた勇士たちに黙祷を捧げた。

ご意見・ご感想・誤字脱字の指摘等があればよろしくお願いします。

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