シーン 18
2012/05/30 改稿済み
まずは状況を整理しよう。
一言でいえば状況は最悪だ。
パーティーのリーダー的存在だったダイドは今、生死の境をさまよっている。
今すぐに…という状況ではないが、早く医者に見せて適切な処置を行いたいところだ。
他の面々もそれを理解しているようで、どこか戦闘に身が入っていない。
上の空なまま剣を振るい本能だけで敵を倒しているように見える。
対するゴブリンは当初より確実に数を減らしているとは言え、特に士気が下がっている様子はない。
むしろ、バレルゴブリンの攻勢で士気が高まっているようにも見受けられる。
長期戦になればこちらが不利になるのは明らかだった。
どうにかしてこの状況を打破する必要がある。
それには群がる雑魚を素早く処理し、バレルゴブリンに致命傷を与える必要がある。
まず先に動いたのはゴブリンたちだった。
動きは先ほどにも増して統制が取れ、集団で各個撃破をしようとしている。
ただし、数体程度では相手にならないため、クオルに至っては群がるハエを潰す程度にしか思っていないだろう。
ニーナも、どう思っているかは分からないが、切っ先は的確にゴブリンを捉えている。
「…このままじゃジリ貧だ。ニーナ、何とかしてヤツの動きを止められないか?」
「それについては私も先ほどから考えている。だが、雑魚が邪魔をしてなかなか活路が見いだせないんだ」
「クオルはどうだ?」
「…手はなくはない。だが、少し集中する時間が欲しい。そうすれば、この状況を打破できるはずだ!」
「…ほぅ、アレをやりつもりか。わかった、しばらく私が前衛を務めよう。レイジ、私たちの援護を頼む!」
ニーナとクオルの間では、これから何をするのか互いに意志の疎通が出来ているようだ。
僕にはまだ何をするのか分からないが、援護射撃をしながら状況を見守る事にした。
ニーナはクオルの周りに群がってくるゴブリンを倒しつつ、的を絞らせないよう素早い剣裁きで翻弄している。
対するクオルは、両目を深く閉じ両手で剣を握りながら念を込めていた。
すると、次第に刀身から炎が沸き立ち、激しい火柱が上がった。
「ニーナ、避けてろ!」
クオルは叫びながらそのまま剣を真横に薙払った。
ちょうど、テニスのフォアハンドでフルスイグするのと同じだ。
片手で素早く振り抜いた刀身からは、炎が横一線に広がり、そのままゴブリンたちを飲み込んでいった。
激しい炎を浴びたゴブリンたちは、全身を焼かれ一瞬で燃え尽きてしまった。
しかし、炎を放ったクオルの様子がおかしい事にも気が付く。
今にも倒れてしまいそうな脱力感に襲われ、足元がおぼつかなくなっている。
「…ハァハァ…ニーナ…あとは頼む…」
そう言って彼はフラフラと歩きながら前線を離れてしまった。
しかし、炎によって近くにいたゴブリンは灰に変わり、残っているのはバレルゴブリンだけだ。
バレルゴブリンも多少の炎による攻撃を受けているものの、致命傷には至らず未だに健在だった。
クオルは最後の気力を振り絞り、後衛である僕らの方へ戻ってきた。
「どうしたんだよ、クオル!」
「これがあの技を使った代償さ…。精神的に酷く疲弊する。…レイジ、俺は少し休む…あとは頼んだぞ…」
それだけ言うとクオルは壁を背に座り込んでしまった。
まだ目は閉じていないが、すっかり覇気がなくなっている。
今なら子どもにも負けてしまうのではと思うほど弱り果てていた
おそらく、今の技は彼にとっては切り札だったのだろう。
代償が大きかった分、使うのを躊躇している様子だった。
むしろ、ダイドの負傷をきっかけに覚悟が決まったようにも見える。
おかげで敵勢力は討伐対象のバレルゴブリンだけとなった。
ただ、不気味なことにバレルゴブリンは動揺した様子もなく、振り上げ剣を無慈悲に振り下ろすばかりだ。
「あの炎を耐えたのか…厄介だな。レイジ、アイツは私が何とかして仕留める。キミはアイツの動きを封じて欲しい」
「あまり自信はないが…何とかしてみるさ!」
銃を構えてみたものの、普通に銃弾を撃ち込んだだけでは、怯ませることはおろか、動きを止める事もできない。
急所を狙うにも分厚い皮下脂肪が邪魔になって狙いを定めるのは困難だ。
「お兄ちゃん、私に考えがあるの。ちょっといいかな?」
「何だ?」
「ゴブリンの足の指、そこを狙ってみたらどうかな?」
「足の指…そうか、足には神経が集まってるから痛覚を感じるかもしれない。動きを鈍らせるには十分かもな!」
「うん。試してみる価値はあると思うの」
つまり、タンスの角に足の指をぶつけた時の状況を作れということだ。
身体の構造が人間と同じであればきっと効果はあるだろう。
試してみる価値はありそうだ。
幸い、身体の上部にある急所を狙うより足元を狙う方が照準を合わせやすい。
僕はすぐさま足元に向けて銃弾を放った。
発砲音と同時に数発の弾が目標物を捉えた。
「ぐぉぉぉぉぉおおおおおッ」
「レイジ、効いてるぞ!その調子だ」
「任せろ!」
今までとは明らかに違い、思い通りの効果を示していた。
それを証拠に、バレルゴブリンの動きが鈍っている。
神経が集中している足の指は、急所の一つになるらしい。
ただ、これが致命傷になるわけでもなく、一時的に動きを鈍らせる効果しかない。
絶え間なく続く発砲音がトンネル内にこだました。
そして、ついにバレルゴブリンは膝をついた。
「よくやった!あとは任せろ」
そういってニーナは洞窟の壁を一度だけ足場にして高く飛び上がった。
その高さはちょうどバレルゴブリンの肩と同じで、ニーナはそのまま剣を首筋に向かって全力で振り抜いた。
日に日に続きを書く時間がなくなっています(汗
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