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GunZ&SworD  作者: 聖庵
177/185

シーン 177

螺旋階段が途絶えたのは、一階のフロアから数えてちょうど十階目だった。

塔の高さと登ってきた階段の長さを考えれば、ここが最上階とは考え難い。


「行き止まり…だね」

「そんなはずはないだろう?どこかに何か手がかりがあるはずだ。それを探してみよう」


手分けをしてフロアを探索すると、ドワーフの一人が気になるモノを発見した。

調べてみると、壁だと思っていた場所が隠し扉になっており、開けてみると螺旋階段を配した階段室が姿を現した。

階段は上下に延びており、下から上へ空気の流れを感じる。


「隠し扉に階段室か。上に続いているところを見ると、ここが順路みたいだな」

「不気味だね。何だか誘われてるみたい…」

「だからってここで引き返すわけにはいかないさ。危険は承知だが進むしかない」


僕らは隊列を乱さないよう階段を登った。

そして、次の階に移動すると、階段室とフロアを隔てる扉をゆっくりと開いた。


「…やはりキミたちか。まさかこんなところまで追いかけて来るとはね。さすがに僕も驚いたよ」

「ホリンズ!?どこだ、出て来い!!」


姿は見えないがホリンズの声が聞こえてくる。

呼び掛けるとフロアの真ん中に立体映像が映し出された。

姿は空中に浮いているため、こちらからは見上げる格好だ。

ホリンズを初めて見る者たちは、突然現れた彼の姿を見て恐々としている。

僕はホリンズを睨み付けながら仲間たちに手で制止の合図を送った。


「それにしても、今日はずいぶんとお客さんが多いね。いくらか見知った顔も居るが、ほとんど知らない者ばかりだ。ドワーフにウェアウルフも居るのか。ふふッ、みんな怖い顔をしているね」


ホリンズは微かに笑みを浮かべて僕たちを見下している。

自意識過剰な性格は相変わらずのようだ。


「能書きいい!俺たちはお前の計画を止めに来た。大人しく投降しろ!!」

「投降か。キミは何もわかっていないね。ここをどこだと思っているんだい?キミたちの命なんて、僕のさじ加減一つで決まるんだよ?」


そう言うと、突然床に直径一メートルほどの穴が開き、二名のハンターが転落した。

二人の姿は、ポッカリと口を開けた穴の闇に呑み込まれ安否の確認ができない。

しかし、重たい物が落下したときに聞こえるドサッという物音と同時に、断末魔の叫び声が聞こえ、それが答えだと知った。

ホリンズは思い通りになって高笑いをすると、僕らを蔑むように見つめている。


「き、貴様!!」


怒りに我を忘れたハンターの一人がホリンズに斬り掛かった。

しかし、立体映像のため駆け出したハンターは勢いを保ったまま身体を通り抜けた。

斬り掛かった本人は元より、ほとんどの仲間は何が起こったのか理解出来ていない様子だ。


「ふふッ、驚いてるね。でも、頭に血が上るのはいいけど、足元はちゃんと確認した方がいいよ?」

「何!?」


斬り掛かったハンターは、足元に開いた穴に落ち、そのまま姿が見えなくなった。


「ホリンズ!貴様!!」

「そんなに吠えるなよ。第一、不注意にも程があるじゃないか。それに、冷静さを欠いた者の末路はあんなものさ。もちろん、キミだって他人事じゃないよ?その気になればいつだってキミたちを殺せるんだ。こんなものは僕に言わせればただの余興さ」

「余興だと…?貴様、余興で簡単に人を殺して何になる!!」

「理由かい?それだったら特に何もないよ。強いて言えば、これから始まる新しい世界の扉を開くまでの暇つぶしさ」

「新しい世界だと!?」

「すでにカルマの鍵は最終段階だ。いや、ほとんど終わったようなものさ。だから、キミたちがいくら足掻いたところで、もはや邪魔は出来ないんだよ」

「…そんなもの、やってみなければわからない!」

「へぇ…じゃあ足掻いて見せてよ。まあ、無駄だろうけどね。まずはウチの子たちに勝ってからだ。万が一にも勝つ事ができれば、実物の僕に会えるだろうさ。上で待ってるよ」

「ま、待て!?」


ホリンズは空気に溶けるように忽然と姿を消した。

いつもながら身勝手な男だとつくづく思う。

しかし、先ほどの言葉が正しければ、さらに上の階でホリンズが待っているという事になる。

すぐに僕ら全員をすぐに排除しなかったところを見ると、計画に支障がないと判断したのだろう。

今のやり取りだけでも、計画が実行されるまでにあまり時間が残されていない事が伺える。

静まり返ったフロアの沈黙を破り、仲間たちの顔を見た。


「…みんな、ここからが正念場だ。だけど、生きて帰れる保証はない。だから、これ以上無理に付き合わなくてもいいんだ。みんなにも帰りを待つ家族はいるだろう?」

「…ふん、キミはここまで来て怖じ気づいたのか?そんなセリフはみんなの顔を見てからにするんだな」


ニーナに言われて全員の顔を見渡した。

それぞれが覚悟を決め、引き締まった表情をしている。

決して怖じ気づいた顔をしている者は一人もいなかった。


「…みんな、本当にいいのか?引き返すなら…」

「くどいぞ。もちろん、みんな命は惜しいはずだ。だが、それ以上にそれぞれのこの星の行く末を案じているんだ。それは私も同じ事だ」


アルマハウドは力強く拳を握った。

彼も決心してここにいる一人だ。


「…そうか、そうだよな!みんな、あと一息だ。このまま駆け抜けるぞ!!」


先ほどの階段室まで戻り上を目指した。

ホリンズは上に居ると言っていたが、それがどの階層なのか、その点には触れていない。

面倒だが一階ずつ確認が必要だ。

次のフロアを確認すると空き部屋になっていた。

特に気になる物はないため、ホリンズが居るのはこの階層ではなさそうだ。

続けて次の階層を確認すると、ローブ姿の男たちが待ち構えていた。


「…ようやくお越しですか。ですが非常に残念です。ここでお別れなのですから」


ローブの男は指を鳴らすと、フロアの奥から十体を超えるマンティコアが現れ、自身も同様の姿に変化した。

放っている殺気を見る限り、塔の前で戦った者たちと同じのようだ。


「チッ…待ち伏せか!?」

「男爵様、ここは我々にお任せください!あなた方はヤツを!!」


ハンターのチームでリーダーを務める男性が声をあげた。

それを合図にチームのメンバーが武器を取り、敵勢力の迎撃態勢に入った。


「ま、待て!いくら何でも数が多い、俺たちも…」

「レイジ、彼らの気持ちを無駄にするつもりか!?ここは任せて先を急ぐぞ!!」

「しかし…」

「いいから、言う事を聞くんだ!時間がないんだぞ!!」

「くッ…いいか、無理はするなよ!」

「えぇ…善処しますよ」


リーダーが合図をして戦闘が始まった。

僕はニーナに促されてやむなく先を急ぎ、先ほどの階段へと走った。

戦闘を始めた彼らは、これまでの戦いで経験を積んでいる。

それでも、僕の見立てでは勝率は五分五分と言ったところだろうか。

敵の数が多いだけに不安は拭いきれない。

彼らの思いを無駄にしないよう、そして、無事を祈りながら階段を駆け上がった。

先ほどの階層から一つ上の階に移動をしてみたが、そこには誰もいなかった。


「クソッ、ここにも居ない!ヤツはどこに居るんだ!!」

「落ち着いて。まだ時間はあるから。大丈夫、絶対大丈夫だから」

「でも…」

「気持ちはわかるが、焦れば冷静な判断が鈍る。そうなればヤツの思うつぼだぞ」


サフラとアルマハウドに諭されて大きく深呼吸をした。

焦る気持ちが完全に晴れたわけではないが、さっきよりはいくらかましになった。


「落ち着いた?」

「…あぁ、すまない。しかし、この塔は何階まであるんだ?」

「わからないが…行けるところまで行くしかないさ」


ひたすら階段を駆け上がると、今度は異様な殺気が漏れるフロアにたどり着いた。

そこに居たのは、幾度も僕らを苦しめた怪物タラスクスだ。

タラスクスは僕らの姿を見つけると、大きな口を開けて全速力で駆け出して来た。

室内と言う事もあり、逃げられる場所はそれほど多くない。

隊列を乱し、散り散りになって最初の攻撃を何とかやり過ごす事ができた。


「コイツは帝都を襲った化け物じゃないか!何故ここに!?」

「そうか、クオルは知らないんだな。コイツはホリンズが飼っているペットだ。おまけに野生のヤツよりもずっと気性が荒い」

「…通りで。ふてぶてしい顔をした野郎だな」


クオルは状況を飲み込んだらしい。

そんな時、僕らの後ろに控えていたセドアが声をあげた。


「レイジさん、ここは我々がお任せを!あなた方は早く先に行ってください!!」

「せ、セドア!?お前、自分が何を言っているのかわかっているのか?冷静になれ!」

「わかっていますよ、コルグス様。ですが、あなた方が少しでも早く先へ行くにはこの方法しかないんです。それに、我々の実力はご存知でしょう?」


セドアの真剣な視線に負けたコルグスは、渋々了承すると無言のまま首を縦に振った。


「確か、こいつの弱点は炎だったな。だったら、俺にとっては好都合な相手だ。悪いが俺も加勢するぜ!」

「加勢って…お前、リンカーでもないのに能力を使えばどうなるか、自分でもよくわかっているだろう?」

「もちろん承知の上さ。だけど、彼らの男気を見て俺も燃えてきたんだ。大丈夫、事が済めばすぐに後を追うさ。行け!」


リーダーを務めるセドアは、ドワーフとウェアウルフの混合チームを率いてタラスクスを取り囲んだ。

クオルも隊列に混ざりながら自慢の剣に炎を灯し、臨戦体勢に入っている。

彼らの目はタラスクスに集中しているため、僕らの姿は視界に入ってない。

それほど集中していると言うことだ。

もはや何を言っても無駄なのだろう。

名残惜しい気持ちを抑えつつ、先を急ぐ他はなかった。

ご意見・ご感想・誤字脱字の指摘等があればよろしくお願いします。

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