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GunZ&SworD  作者: 聖庵
17/185

シーン 17

2012/05/16 改稿。

「…ふむ、歯ごたえがないな。本当にこんなヤツらにエヴァンスたちがやられたって言うのか?まったく、油断しやがって…」


エヴァンスとは、先のバレルゴブリン討伐で戦死したハンターの名前だ。

クオルより五つほど年上だが、ハンターに登録した時期が重なり、同期という扱いになっている。

ダイドにとっては後輩にあたる人物だ。

実績もかなりあり、ギルドからの信頼も厚かったらしい。

クオルも彼には心を開いており、いくつもの戦場を駆け抜けた同志だったようだ。


「クオル、余計なことを考えるな。悪い癖だぞ」


ダイドはゴブリンを斬り伏せながら彼に注意を飛ばす。

ただし、顔を見ることはなく、目の前の敵を黙々と斬り捨てている。

その振る舞いに隙はなく、相手にするゴブリンも一太刀も浴びせられないまま、断末魔の悲鳴を上げるばかりだ。

足元には無数の死体が転がり、足場はかなり悪い状況になっている。


「…ダイドさんは真面目だなぁ。こんな相手、目を閉じてても倒せますよ?」


そう言って本当に目を閉じ、ゴブリンを次々に斬り伏せている。

一見、無謀にも思える戦い方だが、彼は敵の動きを気配で察知し、事前に行動を予測できるらしい。

この方法なら例え暗闇の中でも戦うことができる。

ニーナもまるで背中に目が付いているような、独特の戦い方をしていた。

どうやら彼女も気配を察知して戦う事ができるらしい。

さすがに僕はそこまでの域に達していたいため、暗闇の中では戦うことができない。

そのため、確実に仕留められる相手だけに的を絞って引き金を引く。

サフラは、初めての実戦で震えているのかと心配だったが、手にした短剣を握りしめ戦闘を見つめている。

横顔を見ても緊張した様子はなかった。

きっと、身を守る武器を手にしたことで、恐怖よりも闘争心の方が勝っているのだろう。


実際、この戦いがここまでスムーズに運んでいるのには一つの理由がある。

戦闘が始まる直前、ダイドはポシェットから“テニスボール大の球体”をゴブリンの中心に投げ込んでいた。

これは炸裂すると、ゴブリンが嫌う匂いを撒き散らす“匂い玉”と呼ばれる道具だ。

この匂いを嗅いだゴブリンは動きが鈍くなり、注意力も普段より散漫になるらしい。

それを証拠に、ゴブリンたちは統制力を無くし浮き足立っている。

ちなみに匂いの主成分は、桧科の針葉樹から抽出したアロマオイルで、人間には無害な代物だ。

おかげでトンネル内に充満していた腐乱臭がいくらか浄化されたような気がする。


「…クオル、ヤツらの動きがおかしい、注意しろ!」


最前線で戦っていたダイドがすぐ近くのクオルに注意した。

ダイトの指摘通り、つい先ほどまで浮き足立っていたゴブリンたちの動きが、少しずつ機敏になっていた。


「ヤバい気配を感じる。コイツは…間違いない、お目当ての化け物だ!」


クオルが闇に目を凝らすと、並のゴブリンとは違うシルエットが浮かんできた。


「…くッ、ここまで巨大なゴブリンが居たとは…」

「なんだアイツは!大きさが尋常じゃない!」


ダイドは恐ろしさに身を震わせ、ニーナは自分の目が信じられないなと言った様子だ。

そう感じるのも無理はなく、身長がトンネルの天井に届くのではないかと言うほど巨大だった。

正確にはわからないが、身長は三メートルをゆうに超えているだろう。

また、“バレルゴブリン”の由来になった体型は、胴回りが風船のように膨れ、文字通り樽のように見える。

手には情報の通りツーハンデッドソードを携え、醜悪な形相でこちらを見据えていた。

その立ち姿は、日本のおとぎ話に登場する“鬼”のようにも見える。

虎柄のパンツや角こそないが、手にした剣を軽々と振り上げ、こちらを威嚇してきた。


「…来るぞ、避けろ!」


ニーナが周りに注意を呼び掛ける。

それとほぼ同じタイミングで剣が振り下ろされ、近くにいたゴブリンが数匹巻き添えになり、トンネルの中に断末魔の声が響いた。

他のゴブリンたちは、仲間が同士討ちになった事をあまり気にはせず、前線に立つ二人の元へ我先にと群がっている。

状況から察するに、バレルゴブリンに対する恐怖心から、我を忘れているのだろう。

バレルゴブリンに殺されるくらいなら玉砕する覚悟と言ったところか。


「仲間でもお構い無しかよ!」

「クソッ、雑魚が邪魔で近付けない」

「みんな、陣形を乱すな!雑魚を優先して倒すんだ」

「俺が援護する。群からはぐれたヤツは任せろ!」


それぞれ、バレルゴブリンの不意な攻撃に備えつつ、次々にゴブリンを狩っていく。

僕は全体を見渡しながら、集団から離れたゴブリンを狙い撃ち、牽制を兼ねてバレルゴブリンの腹に銃弾を数発撃ち込んだ。

しかし、弾は貫通せず、分厚い皮下脂肪が邪魔をして致命傷にはならなかった。


「レイジ、ヤツに弾は効かないらしい。私たちの援護に回ってくれ」


元々、人間用に開発された拳銃では、人智を超えた怪物には効かないようだ。

正確に急所を撃ち抜けば倒すことは出来るかもしれないが、周りにいるゴブリンが邪魔でなかなか集中が出来ない。

その間にもトンネルの奥から新たなゴブリンが湧き出してくる。

これではいくら精鋭のハンターを送り込んでも討伐は難しいだろう。

長期戦になれば数に利があるゴブリンが優位だ。

ただ、ゴブリン一体ずつの能力は低く、前線の二人に斬り伏せてられていく。


「…ハァハァ…切りがない…」

「ダイドさん、飛ばし過ぎだ!」

「…若いのに心配されるようじゃあ、俺もまだまだのようだな…」

「ダイドさん、危ない!」


僕が声を掛けた直後、バレルゴブリンが振り下ろした剣がダイドを襲った。

きっと、並みの攻撃ならば冷静に対応出来たのだろう。

いつものように、左手の盾で剣を受け流し、すぐさま反撃に転じる…そういう算段だったと思う。

ダイドは反射的に盾で剣戟を受けていた。

しかし、馬車すら両断する一撃は、盾の装甲をものともせず、そのままの勢いを保ったまま地面に向けて振り抜かれた。

ダイドは辛うじて即死を免れたものの、左腕の二の腕から下を切り落とされてしまった。


「う…うあぁぁぁッ」


洞窟の中にダイドの悲鳴がこだました。

腕が一瞬で切り落とされたため、すぐに痛みには襲われず、地面に落ちた自分の腕を見てようやく痛みを自覚したようだ。

切り離された腕からは大量の血液が流れ出している。

すぐに止血しなければ命が危ない、そんな状況だ。

戦場に言い知れない緊張が走った。


「ダイド!早く戦線を離れるんだ!」

「俺が援護する、クオル、ダイドさんを頼む!」

「うおぉぉぉッ」


クオルは叫びながら敵陣で孤立するダイドを救出に向かった。

動けないダイドに群がるゴブリンを僕が後ろから撃ち倒し、クオルは真っ赤に焼けただれる刀身を振るって活路を切り開いた。

ゴブリンたちは、真っ赤な刀身に身体を焼かれた仲間を見て危険を感じ、僅かに距離を取っている。

クオルはこのチャンスを見逃さず、ダイドを抱えて僕とサフラの方へと駆けてきた。


「クソ…出血が酷い。サフラ、止血する。それまでの間、援護を頼む」

「う、うん、わかった!」


サフラが盾になっている間に、僕は止血用の布で腕を強く縛り、鎮痛作用のあるハーブをダイドに飲ませてやった。

ハーブは即効性があり、痛みはすぐに引いたらしい。

問題は斬られた腕の方だ。

うまく止血ができているため、出血は止まっている。

それでも、このままでは容体が悪化する危険は十分にある。

傷口から細菌が入り込むことも予想されるため、何とかしなければならない。


「…ダイドさん、悪いッ」


クオルはそう言って、真っ赤に燃える刀身をダイドの傷口に押し当てた。


「ぐあぁぁぁッ」


トンネルの中に再びダイドの悲鳴が響く。

見ているのも辛く、目を背けたくなる光景だ。


「クオル、お前何やって…そうか、傷口を焼いて…」

「今はこれしか方法がないんだ。…ダイドさん、命があっただけでもラッキーだと思ってくれ」


傷口が焼かれたことで、布による止血がなくても出血が止まった。

あまり良い治療法とは言えないが、今はこれしかなかったというのも事実だ。

ダイドは苦悶の表情を浮かべ、辛そうに呼吸をしている。

それでも、喉の奥から搾り出した小さな声でクオルに礼を言うと、一時的に意識を失った。

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