シーン 16 / 登場人物紹介 4
【登場人物紹介】
クオル=レスター
ハンターの青年。歳は主人公よりも二つ上。
ハンターとしての腕は一流だがコミュニケーション能力に難アリ。常に強い者を求める傾向があり、相手を腕っ節の強さで判断する面がある。
ニーナには頭が上がらず、彼女の前では借りてきた猫の様になることもしばしば。
“エルフキラー”の二つ名を持つ。
性格は一途で、一匹狼っぽい。
使用武器:ブレイズソード(エルフから奪ったミスリル製のショートソード)使用者は筋力が増幅し炎を操ることができる。
少し面倒臭そうなヤツが出てきました。強いけど性格が…って微妙な立ち位置ではありますが、“バカとハサミは使いよう”というので、今後の絡みに期待したい一人です。
2012/04/27 改稿済み
翌朝。
準備を済ませゴブリンが徘徊するトンネルに入った。
トンネルという閉鎖された空間は息が詰り、異様な雰囲気に包まれている。
討伐に向かったメンバーは一人増え、五人になっていた。
内訳は僕とサフラ、ニーナとクオル、それにハンターギルドから派遣された“ダイド”という男性だ。
ダイドはクオルの先輩にあたり、歳は三十代の半ばらしい。
クオルによればギルドの中でも“中堅”の実力派だという。
性格はあまり口数が多くはないようだ。
仕事熱心で情に厚いため、仲間のハンターはもとより、町の人たちからの信頼も厚いらしい。
クオルとダイドが前衛を務め、トンネルの奥へと進んでいった。
トンネル内には“発光石”と呼ばれる珍しい鉱石があり、ホタルほどの淡い光を放っている。
自然の照明器具のようなものらしい。
おかげでトンネル内は真っ暗ではなく、薄暗い程度だった。
発光石が放つ光はとても幻想的だ。
トンネルの奥から微かに“腐臭”が漂ってくる。
まるで“ドブ川”のヘドロの臭いのようだ。
この臭いはゴブリンが放つ一種のフェロモンらしい。
刺激の強い臭いに釣られ、仲間のゴブリンが集まってくるようだ。
ただし、この臭いには普段、人間が認識出来ないほど微量などもので、認識できるほど強く感じられるのは異常だという。
トンネルという閉鎖された空間と言うのもあるが、この奥には相当な数のゴブリンが居ることを示唆している。
「…酷い臭いにだな。鼻がもげそうだ」
「これほど臭うというのは他に例がない。念のためにマスクを持ってきて正解だったな」
ダイドはトンネルに入る前、ギルドから支給されたバンダナを一人ずつに手渡していた。
これで顔の半分を覆い、マスクのように使うそうだ。
ただ、ビジュアルが“マフィア”や“ギャング団”のようにしか見えない。
町で出会ったら間違いなく距離を置きたくなる集団だった。
バンダナにはミント系のハーブから抽出したエキスを染み込ませてあり、嫌な臭いを中和する効果もある。
トンネル内に巣食うコブリンたちは、平原で出会う個体とは違う特徴があった。
ゴブリン自体は集団で行動する事は珍しくないが、訓練されたように統率された動きを見せる個体は過去に発見された例がないそうだ。
ダイドの話で狡猾なバレルゴブリンが、仲間に戦い方を教えているのだろうと言っていた。
一体の強さは並みのゴブリンと変わらないが、連携の取れた動きで攻められれば多少手強く感じられる。
それでも、僕らくらいの実力になれば、ゴブリンが何匹集まろうが相手にはならない。
特に、クオルやダイドは涼しい顔でゴブリンを斬り伏せていった。
「…それにしてもレイジ君、キミの持っている武器は凄まじい威力だな。あんな武器は初めて見る」
「きっと、ゴブリンの着ている革の鎧なら、弾が貫通すると思いますよ」
ハンターという職業上、他人が使っている武器は気になるのだろう。
ダイドは道すがら、銃について興味深げな様子で何度も質問を投げかけてきた。
そんな彼はハンターとしては標準的な装備に身を包んでいる。
鉄板を張り合わせて作った“プレートメイル”を身に付け、手には“ブロードソード”と“バックラー”を装備している。
この組み合わせは攻守のバランスに優れ、ハンターの間でもポピュラーな仕様だ。
特に、小型の盾であるバックラーは攻撃を受け流すのに優れ、取り回しの良さから攻勢に転じやすい。
ブロードソードも一般的なサーベルより肉厚で、“斬る”というよりは重さを利用して“叩き斬る”という表現が似合う武器だ。
それに対し後輩のクオルは盾や鎧といった重装備は身につけていなかった。
代わりに、布製の服の下には鎖を編み込んで作った“鎖帷子”を装備している。
これは刃物による“斬撃”に強く、プレートメイルよりも軽快な動きに向いている。
クオルのような、剣術に自信のあるハンターが好んで身に付けるもののようだ、
ただし、鋭利な刃物による“突き攻撃”には弱いため、先端の尖った“レイピア”や“スティレット”、それに弓矢による攻撃は天敵らしい。
ニーナもクオルとほぼ同じ装備で、身軽さを生かした連続攻撃を得意としている。
特にニーナはクオルよりも俊敏性に優れ、戦闘時には非力を補うに十分な身のこなしで剣を振るう。
先ほどゴブリンとの戦いで見せた動きも、まるで重力を感じさせず、踊っているようだった。
「…気配がする。数は多くないが気をつけろ…来るぞ!」
前衛のすぐ後ろを歩いていたニーナが敵を察知し、剣を抜いて陣形を取るように指示を出した。
前方には二体のゴブリンが武器を持ち、醜い顔を歪ませている。
僕は後方から一体の眉間を撃ち抜き、一瞬で息の根を止めると、動揺しているもう一体をダイドとクオルが同時に一閃した。
出遭ってから僅か数秒の出来事だった。
「ふむ…私の出番はナシ…か」
「私の出番もありませんでした」
「いや…女性陣の手を汚すまでもないよ。特にサフラちゃんはね」
「えっと…ありがとうございます、ダイドさん」
「うむ、では気を引き締めていこう。そろそろヤツも近くに居るはずだ」
年長者であるダイドは紳士的に女性陣のフォローをしている。
こういうところは見習わなければならない。
クオルはまだ戦い足りないのか、そんな事はお構いなしに先へ行ってしまった。
ここでもコミュニケーション能力の低さを露呈し、先輩のダイドは何も言わず苦笑していた。
少し進むと悪臭の酷いフロアにたどり着いた。
ここは採掘した鉄鉱石を一時的に山積みにしておく広場のようだ。
ただ、すでに廃鉱になっているため、鉄鉱石は見当たらなかった。
歩いてきた通路とは違い、天井が五メートルほどあり、広さも畳み換算で四十畳以上はあるだろうか。
その中に無数の緑色をした亜人が蠢いている。
数にして五十体近くいるだろうか。
どうやらここがゴブリンたちの“ねぐら”になっているようだ。
先ほどよりも臭いが強く、バンダナの上からでも鼻を押さえたくなるほどだった。
「…いやがるな。こんな数のゴブリンは初めてだ。みんな、一気に斬り伏せるぞ!」
ダイドは雄叫びを上げ、気合を入れると、真っ先にゴブリンの集団へと駆けていった。
それに続けとクオルも剣を抜き、真っ赤に燃え上がる刀身を振りかざして、敵陣に突っ込んでいった。
まず、ダイドが放った一撃で数体のゴブリンは肉塊へと変わり、続けてクオルが炎を帯びた剣で斬り伏せていく。
続けてニーナは三日月状のショーテルを構え、二人をかわして迫ってくるゴブリンの首を素早く斬り落とした。
ショーテルはその独特な形状から、首に引っ掛けて使うと効果的のようだ。
僕は集団から離れたゴブリンを狙い撃ち、最前線の二人を援護した。
サフラは事前の打ち合わせ通り、背後から敵が来ないか注意しつつ、短剣を握って待機している。
これまでは作戦通りだ。
数に勝るゴブリンも自分たちより強い相手には歯が立たず、ものの数分で半分近くが肉塊へと変わった。
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