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GunZ&SworD  作者: 聖庵
158/185

シーン 158

旅はすこぶる順調だ。

昨晩は草原で一夜を明かし、いよいよフォレストメイズに侵攻をかける。

森の奥へと続く道の先に、ホリンズが根城にする施設の入口が見えた。

ここまで来る道中には、トラップやキメラの姿はなかった。

ビルに確認してみたが、僕と同じように敵の気配は感じなかったようだ。

遠目から見た施設の様子は穏やかで、敵が待ち伏せている様子はない。

計画が最終段階に近付いていると言う割には、あまりにずさんな警備だ。


「…どう思う?」

「罠だろうな。だからと言って、慎重になりすぎるのは得策ではないと思うぞ」


アルマハウドは施設の入口を見つめた。

話し合っている間も、中から敵が出てくる様子はない。


「レイジ、今のうちにコイツの準備をしたらどうだ?」

「わかった、その間の警護を頼む」


馬と荷台の連結を解除して準備を始める。

火薬の取り扱いに注意しながら手際よく作業を進めた。

イベールほどではないが、二度目にしては上出来だろう。


「…よし、完了だ。それにしても妙だな。まったく気配を感じないなんて変じゃないか?」

「あぁ、これは一体どういう事だ?」

「わからない。だが、確かめてみるしかないな。みんな、戦闘準備だ」


僕は先陣を切って施設に入った。

拳銃を持つ手に汗が滲む。

施設の中は、僅かな明かりがあるだけで人の気配は感じない。

以前なら中に入ってすぐにキメラと出会ったが、今回は入口付近に動く者はいなかった。

警備が手薄と言うより、警戒すらしていない感じだ。


「…変だ。明かりはついているのに誰もいない」

「どこかに隠れて私たちを見張っているのかな?」

「いや、それだったら気配は感じるはずだろ?これだと、本当に誰も居ない感じだ」


気配を感じないからと言って、ここで警戒を解くわけにはいかない。

ホリンズの事だから必ず何か仕掛けてくるはずだ。

アルマハウドとコルグスに荷車を引いてもらい、さらに奥を目指した。

次に入ったフロアは巨大な水槽がある場所だ。

しかし、水槽の中に水はなかった。

前のフロアと同様、ここでも気配は感じない。


「…ここもか。一体どうなってるんだ!?」

「落ち着けレイジ。焦れば相手思う壺だぞ」

「すまない…。だが、次のフロアからも気配は感じないな。確か、次は亜人や魔物が檻に入れられていたはずだが…」

「残り香のような臭いは感じる。しかし、生き物の息遣いは感じないな。レイジ、本当にここが敵の本拠地なのか?」


ビルの表情にも焦りが浮かんでいた。

彼はここに来るのは初めてなので、入口からずっと警戒し続けている。

レーダーのようにピンと立った耳が、周囲の音を敏感に聞き分けていた。


「それは間違い。現に、俺たち四人はここに来たことがある。だから、間違っているはずはないんだ」

「じゃあ、これはどう言うわけだ?」

「わからない。だが、今は気を抜かず奥へ進むしかないだろう?」


さらに奥に進み、次が一番奥のフロアだ。

この先には、ホリンズが操作していた端末と巨大なディスプレイが設置してある。

敵が待ち構えているとすれば、ここをおいて他に無い。

細心の注意を払って最後のフロアに侵入した。

しかし、そこにホリンズの姿はなかった。


「これはどう言う事だ!?」

「…逃げられたらって事?」

「クソッ、時間が無いって言うのに逃げられたのか?」

「…フフッ、やはり来たね。必ず来ると思っていたよ」


不意にホリンズの声が聞こえた。

振り向くと、ホリンズの姿が宙に浮いている。

良く見ると身体が僅かに透けて見えた。

僕らが動揺している中、ビルだけは冷静さを保ち、次の瞬間には、自慢の爪を立ててホリンズに襲いかかった。

しかし、ビルはホリンズの身体を通り抜け、そのままの勢いで反対側の壁に激突した。


「おやおや、血の気の多いウェアウルフも居たものだ。それにいつぞやのドワーフまで居るじゃないか。まったく、キミの周りはいつも賑やかだね」

「貴様…一体何をした!」

「狼男風情が怖い顔で睨むなよ。キミたちが見ているのは僕であって僕ではない。ホログラムを利用した立体映像さ」

「立体映像…?お前、どこに居るんだ!」

「キミの想像が及ばない場所さ。大丈夫、まだ計画は終わっていない。ここからが一番面倒なところでね。だけど邪魔はさせないよ?」


立体映像のホリンズは下品な高笑いをした。

しかし、この場に実態がないため、いつもの威圧感は感じない。

彼の言葉が本当なら、ここではない別の場所で計画を進めているということになる。


「隠れてないで出て来い!」

「隠れるも何も、そもそも僕はそこには居ないのさ。察しがいいキミにならわかるだろう?」

「…ここはダミーと言うわけか!」

「ご明察。キミたちの事だから必ず邪魔をしに来ると思っていたよ。それに、わざわざ攻めてくると知って、いつまでも同じ場所には居られないだろう?だから新居に引っ越したのさ。」

「クソッ、卑怯者!正堂々勝負しろ!!」


アルマハウドは怒りを露にして大声をあげた。

彼の苛立ちはもっともだ。

僕だって同じように叫びたい気持ちでいっぱいなのだから。

コルグスも鋭い視線を向けてホリンズを睨んでいる。


「卑怯者とは酷いな。それに、僕はキミたちと遊んでいるほど暇じゃないんだ。…ん?おっと、時間だ。これでキミたちと話すのも最後かな。レイジともこれでお別れだ。じゃあね」

「ま、待て!!」


ホリンズはそれだけ言うと姿を消した。


「き、消えた!?」

「一体どうすればいい…アイツの居場所がわからなければ計画を止めるなんて…」

「何か…何か手がかりはないのか!」


取り乱す僕とアルマハウドを横目に、コルグスは普段と変わらず静だった。

いや、心中は決して穏やかではないだろう。

拳が強く握られ、腕には青い血管が浮き出ていた。

それでも、僕らに比べれば随分マシだ。


「…ヤツの言葉に何かヒントがあるはずだ。よく考えろ、ヤツの気持ちになれば何かわかるかも知れない」


コルグスは大きく深呼吸をして心を落ち着けた。

感情的になってしまえば冷静な判断はできない。

僕も彼に習って苛立った心を何とか静めるよう努力した。


「あの人の気持ちになる…。もっと頭を柔らかくして考えた方がいいかもね?」

「頭を柔らかくって?」

「うーん…どうしたらいいんだろう?」


サフラは腕を組んでそう答えた。

彼女も頭ではわかっているが、どうすればいいのかわからないらしい。

ここで一度頭の中を整理してみる。

ホリンズは僕らに“想像がつかない場所”と言い、計画が一番面倒な局面に差し掛かっているという事も話していた。

つまり、誰にも邪魔されない場所と考えるべきだ。

居場所を特定するには、今までの常識を捨てた方がいいだろう。

想像がつかないという言葉には、いろいろな意味が含まれている。

ただ、考えれば考えるほど思考の渦に巻き込まれ、どんどん答えから遠ざかっていくような気がした。

実際、この星は地球よりも大きい。

現時点でわかっている世界は全てでなく、毎年新しい土地や生物の発見が続いている。


「計画が面倒な局面に差し掛かっているというのなら、誰にも邪魔されない場所を選ぶって事だろう。それなら、場所は限られるんじゃないか?」


ニーナがポツリと呟いた。


「邪魔されないって…具体的にはどんな?」

「そうだな…人間やドワーフ、それにエルフが近付かない場所だろうな。だとすれば、おのずと答えは絞られてくる」

「絞られるって、何か思い当たる場所でもあるのか?」

「そうだな…例えば、海の中や雲の上だろうな。だが、どうやってそこにたどり着くのか、方法を聞かれても答えられないがな」


想像がつかないという意味では、彼女の意見も捨てたものではない。

ただ、合理的に考えた場合、どの意見も現実的ではないだろう。

彼女が言った通り、それぞれの場所にたどり着く方法がわからないのだから。

仮に、潜水艦や飛行機でもあれば話は別だが、この世界には存在しない。


「えっと、空なら方法があるよね?」

「え?」


サフラが何かを思い出した。

それは、ホリンズが大会の会場から姿を消した時の事だ。

彼はワイバーンを使役して僕らの前から飛び去った。

つまり、飛行機がなくとも空を飛ぶ事はできる。


「なるほど…アイツならそれは可能か」

「でも、お空に隠れるようなところはないよね?だって、アルマの残した遺跡って地下に埋もれているところ以外、全部なくなったんだよね?」

「だけど、ユエの居た神殿は地上にあったじゃないか。全部が全部なくなったって事はないんじゃないのか?」

「…いや、その娘の言う事は正しい。あの神殿は元々地下にあったんだ。それを、我々の祖先が丁寧に掘り返し、神殿の周りに里を築いたんだ」

「そうなのか?」

「うむ」


ビルは大きく頷いた。

彼の言うことが事実なら、やはりアルマの残した遺跡は地上には残されていない。

つまり、もし空に浮遊する施設があったとしても、地上のモノと同様に消え去っている事になる。

この見解についてコルグスも同じ意見だった。

彼がそう思うのは、ミュージアムで見た記録映像によって補完されている。


「じゃあ、雲の上の説は消えたって事でいいのか?」

「断言はできないが、そう考えても問題はないだろうな。それに、元々アルマたちが作った雲の上の施設は、人の力では及ばない遥か天空にあった。それは暗く呼吸ができない世界だったらしい」

「…それ、宇宙って言うことか?」

「おそらく、そう言う事だろう。まあ、実際に行った事はないから、想像の域をでないがな」

「そうなると、一体どこなんだろう…?」


サフラは考えに行き詰まり頭を抱えてしまった。

おそらく、コルグスが話してくれた事は間違いないだろう。

仮に、ホリンズが地下に埋まっていた遺跡を掘り出し、コルグスの知らない技術を用いたという事も考えられる。

それでも、現時点では信憑性は限りなくゼロに近いだろう。

この問題を解決する決定的な証拠を見つけなければならない。


「うーん…困ったな。さすがに、この装置を動かしてアイツの手がかりを探すわけにもいかないしな…」

「ん?出来るぞ、そこの装置を動かすことくらい造作も無い」

『え?』


セドアを除いた全員が驚いてコルグスを見た。

コルグスに言わせれば、ここにある装置はミュージアムのモノと同じらしい。

つまり、動力源さえあれば動かす事は可能だ。

ご意見・ご感想・誤字脱字の指摘等があればよろしくお願いします。

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