シーン 14
2012/04/27 改稿済み
翌朝。
町は異様な雰囲気に包まれていた。
昨日、ハンターギルドから派遣された勇士の一団が、バレルゴブリンの討伐に向かったところ、今朝になって“全滅した”という情報が流れたのが原因だった。
派遣されたメンバーは五人で、それぞれがキャリアを積んだベテランだったらしい。
町の人たちはハンターギルドにかなりの信頼と期待を持っていたため、大きな衝撃が走った。
ちなみに送り込まれたメンバーは、ゴブリンよりも上位種であるオーク十数体を討伐できる程度の戦力があったらしい。
ギルド側もバレルゴブリンの実力を低く見積もっていたわけではなく、想定していたよりも強力な相手だと言うだけのことだ。
同時に、バレルゴブリンの強さはオーク十数体よりも強いと言うことになる。
「レイジはどう思う?」
「情報が本当ならかなりヤバい相手だな。正直、戦いたくはない」
「…そうだな。ただし、こんな情報もあるぞ。討伐時の報酬をさらに金貨十枚分上乗せするそうだ」
「ギルド側もこの件に本腰を入れたという事か。それで、討伐に向かおうっていう動きはありそうか?」
「表向きは落ち着いている。いや、私が知る限りは…という範囲だがね」
ニーナは早起きをして情報通の知り合いに接触して仕入れたようだ。
情報の信頼性もかなり高いらしい。
「レイジ、もう一度だけ聞く。私とバレルゴブリンを討伐しないか?」
「…言っただろ、サフラを危険な目に遭わせたくない。そりゃ、報奨金は魅力だが、リスクが大き過ぎる」
「ふむ…じゃあ、そのリスクが少なければ話を呑むと?」
「事と次第によっては…だがな」
これは僕に出来る最大限の譲歩だ。
ニーナが提示する条件によっては考えなくもない、という意味でだが。
「分かった…少し気が進まないが、一人あてがある。ソイツを仲間に入れるというのはどうだ?」
「気が進まないヤツを仲間に入れるのか?それは問題だろう」
「いや、実力はかなり高い。それこそ、私に近い実力の持ち主だ。それに、ギルドでBランクに指定されていたエルフを倒した男でもある。ただ、私が気に入らないのはヤツの性格でね。コミュニケーション能力に少し難があるんだ」
「それは実力以前の問題じゃないのか?」
「まぁ、そうとも言えるな。それでも、ヤツの力を借りれば、私たちだけでも十分にバレルゴブリンと渡り合えるだろうさ」
隣で黙って聞いていたサフラは少し不安そうだった。
自分よりも強い相手と対峙するということは、そのまま命の危険に直結する。
戦うにしても相応の準備がなければ犬死にに行くようなものだ。
ニーナもその事は理解しているため、即戦力になる僕をどうにか仲間に引き入れたいという意図は、痛いほどわかった。
ただ、怪物の名にふさわしい怪力と巨躯という情報だけでは、想定外の事態も起こるかもしれない。
論理的に考え、相手をどう討ち取るかを議論する必要がある。
「とりあえず話を聞こう。参加を決めるかどうかは、内容次第だな。あてのあるハンターはどんなヤツなんだ?」
「うーん…見た目には細身だが、オークを一振りで倒す程度の実力…と、言ったところか?」
「それは凄いな。具体的にはどんな武器を使う?」
「一見、何の変哲もないショートソードだ。ただし、刀身には古代のルーン文字が刻まれている。何でも魔法を操るエルフ族から奪った剣らしい」
刀身に文字と言われ、思い出した顔がある。
初めてこの町に来た時、ハンターギルドの前で絡んできた男のことだ。
名前は聞いていなかったが、ニーナの言う特徴と一致している。
「…ソイツ、背は俺より少し高いくらいで、俺より少し年上じゃないか?あと、やたらと目つきが悪いヤツだった」
「うーん、そうだな。付け加えれば髪は薄い青色で短髪のヤツだ」
「そうか。ソイツなら前にケンカ…いや、ヤツにしてみれば本気だったと思うが、一度襲われたことがある。俺の実力を知りたかったらしい」
「それで?」
「バカそうなヤツだったんで、コイツで牽制したら逃げて行ったよ」
そう言ってホルダーから銃を抜いた。
恐ろしく軽いが、質感は本物の金属と変わりはない。
この銃には何度も世話になったが、これから先もずっと付き合っていくことになるだろう。
文字通りの生命線だ。
「ふむ…それが銃というヤツか。そんな小さな物でゴブリンを殺せるとは…実際に見ても信じられないな」
「まぁな。初めて見る物だから疑っても仕方ないな。そうだな、一度どんなものか見せておこう。その目で見て効果を実感してくれればいい。気に入らなければ他を当たってくれ」
僕らは宿の裏庭へ向かった。
ここならばまず人目にも触れる事もなく、流れ弾で被る被害も少ないだろう。
僕は的の代わりになる物がないかと辺りを見渡し、薪の束が積まれているのを見つけた。
炊事や暖房に使うために保管されているもので、一つくらい拝借しても問題はないだろう。
事が終わればまた元の場所に戻しておけばいい。
僕はそれを手にとって地面に立てた。
円柱状なのである程度の安定感があり、少し風が吹いたくらいでは倒れない。
僕は薪から少し距離を置いた。
「簡単なデモンストレーションだからあまり期待しないでくれ」
「それで、今から何をする?」
「コイツでここからあの薪を撃ち抜く」
「ふむ…まぁ、やってくれ」
サフラとニーナに少し離れるように言って銃口を薪に向けた。
距離は数メートルほど離れているが、この程度ならまず外すことはない。
特に気負うこともなく、呼吸を落ち着かせて引き金を引いた。
乾いた発砲音と同時に、一瞬で標的を捉えた弾は見事に命中し、衝撃で薪は後方へと跳ね飛んでいった。
「なッ…何が起こったんだ!」
「今、音が聞こえて…薪が急に跳ねたね」
ニーナは何が起こったのか分からないといった表情で目を見開いている。
サフラはと言えば、こうして銃を使うところを見たのは二度目だが、まだ仕組みをよく理解していないらしい。
こんなとき、どんな風に説明したらいいのだろう。
回りくどい説明を省いた方が、かえって分かりやすいということもある。
思案した結果、見たままを説明することにした。
「これが銃だ。この穴から金属の弾が飛び出して、目標物に穴を開けるんだ。そうだな…人の頭なら簡単に貫通するくらいの威力がある」
「俄かに信じられんな…」
「疑いたい気持ちはよくわかるよ。うーん…そうだな、お前が知ってる火薬を使った攻城兵器、あれを誰でも扱えるよう、小型化したのがコレだと思えばいい」
「ふむ…実際にどれほどの破壊力がある?この目で見てみないと納得はできないな」
「お前もなかなか用心深いヤツだな。そうだな…じゃあ、アレを撃ってみよう。そうすれば、どれくらいの威力か理解できると思う」
僕は近くに積まれていた赤レンガを見つけた。
近くには花壇があり、そこで使われるものだろう。
これを撃ちぬいてしまえば、一つ減ってしまうため、あとで困ることがあるかもしれない。
どうしても必要に迫られれば弁償すればいいだろう。
僕はレンガを先ほどと同じように地面に立てて置き、再び距離を取った。
薪よりも的が小さいため、慎重に狙いを定める必要がある。
実際、これほど低い位置にある的を狙うことはほとんどない。
ただ、今回はデモンストレーションなので考えるだけ無駄だ。
「行くぞ、破片が飛び散る可能性があるから離れるんだ」
そう言って、二人に距離を取るよう伝えた。
安全を確認すると一呼吸置いて心を落ち着け、引き金を引いた。
発射された弾は見事にレンガを捉え、その衝撃で的の上部が粉々に吹き飛び、辺りに破片が散乱した。
撃ち抜いた弾もシッカリと貫通して、地面の奥深くまで潜り込んでいる。
「これくらいの威力はある。納得したか?」
「あ、あぁ。それにしても恐ろしい兵器だな。あんなものが頭に当たったら即死だろう」
「だな。コイツでゴブリンも即死だった。人なら同時に何人殺せるか…恐ろしくて試す気にもならない」
「銃については理解した。だから改めて問う。私と共に討伐へ向かわないか?」
「それについては仲間に入れるハンター次第だ。実際、俺は一度やりあっているから、あまりイイ印象はない」
「それについては私に任せてもらいたい。いや、何とかするという意味でだがな」
「期待しないようにしておくさ。とりあえず保留にさせてくれ」
ニーナは必ず話をつけると言い残し、慌てて駆けて行った。
取り残される形になった僕らはニーナが戻ってくるまでの間、これからのことについて話さなければならない。
特に重要なのは参加すると決まり、戦闘になったときの対処法だ。
サフラはそれなりには実力があるとはいえ、前線に立たせて戦わせたくはない。
もちろん、後ろに控え必要な時に力を振るう方が安心できる。
サフラに確認したところ意思は固く、積極的な戦闘への参加を希望していた。
「…サフラ、お前が強いのはよくわかった。だけどな、無理をすることが勇気じゃない。それだけは忘れないでくれ」
「うん。大丈夫、お兄ちゃんを悲しませるようなことだけは絶対にしないよ」
「分かった…」
結局、ニーナが戻ってきたのは、話し合いが終わり昼食を食べ終わった後だった。
書き溜めたストックがなくなってしまいました(汗
一日に時間を決めて執筆していますので、何とか毎日連載のペースを守っていこうと思います。
ご意見・ご感想・誤字脱字の指摘等がありましたらよろしくお願いします。




