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GunZ&SworD  作者: 聖庵
134/185

シーン 134

町の被害は思った以上に深刻だった。

町中を徘徊する魔物が無差別にドワーフたちを襲い、すでに多くの死傷者が出ている。

被害にあった住民のほとんどは、王宮で起きた爆発に驚き、状況を確認しようと建物の外に出て襲われている。

元々、彼らは争いを好まないため、建物の外で鉢合わせした魔物に驚くばかりで、適切な対処出来ずに被害が拡大したようだ。

特に、地下世界から一度も外に出たことがない住民は、魔物を見るのも初めてだ。

それでも、王宮から派遣された兵士たちの活躍で、少しずつ治安は回復している。


王宮ではまだ煙があがっていた。

必死で消火活動に当たるドワーフたちがせわしく廊下を走り回っている。

廊下には侵入した魔物の死体が転がり、数日前に起きた帝都襲撃の情景が脳裏に甦った。

僕らはコルグスの案内で廊下を駆け抜け、国王の寝室の前にたどり着くと、入口の前に大勢の兵士が集まり、部屋の警備を固めていた。

近くには戦死したドワーフや攻めてきた魔物の死体が転がっている。

現場の片付けが終わっていないところを見ると、ここで激しい戦闘が行われたのだと容易に想像がついた。

特に目を引いたのは廊下の壁に開いた巨大な穴だ。

大きさから推測するに、ここからゴーレムや魔物が出入りをしたのだろう。

コルグスは人垣をかき分けて室内に入った。


「国王、ご無事ですか!?」

「…戻ったか。見ての通りだ。この者たちが私を守ってくれたおかげで何とか助かった」


国王は椅子に座り落ち着いた様子で僕らを迎えた。

その傍らにはサフラとニーナが武器を携え立っている。

少し疲れた顔をしているが無事だったようだ。


「二人とも、無事だったか!お前たちがゴーレムを退けたのか?」

「あぁ…恐ろしいヤツだった。それに、ヤツからセシルの声が聞こえた。アレは一体何なのだ?」

「どうやら魔具の一種らしい。操作していた当の本人はフォレストメイズに居るそうだ」

「魔具…か」


ニーナは渋い顔をしてポツリと呟いた。

サフラもニーナもまだ魔具の能力は封じられたままだ。

そんな状況で国王を守りながらよく戦えたと感心してしまう。

話に聞くと、以前から二人で取り組んでいた連携プレーが実戦で役に立ったらしい。

具体的にはニーナが敵を抑えつつ、素早く動き回れるサフラが短剣で正確に急所を突くというもの。

前衛を務めるニーナの負担は大きいが、役割分担をする事で自分たちよりも強大な相手とも戦えるようになったようだ。

ここに魔具の能力が加われば、連携の幅がさらに広がるだろうと教えてくれた。


「じゃあ、ゴーレムの腕を破壊したのはサフラなのか?」

「うん。弱点を見つけて攻撃するのは得意だから」


サフラは遠慮がちに笑みを浮かべた。

戦い方さえ理解していれば、非力な彼女でもゴーレムを相手にする事ができるようだ。

むしろ、大きな力で直接硬い装甲を破壊するより、構造的に弱い場所を突いた方が効率はいい。

これは今回のゴーレムだけでなく、他の敵にも当てはまる事だ。


「…それより、ペンダントが奪われたようでしたが、アレは…」

「私の物は無事だ。奪われたのはヨルムントの物だ…」

「では、大臣は?」

「魔物に襲われて命を落とした…。まさかこんな事になるとはな…」


国王は亡くなった大臣を思い出して自分を責めたて頭を抱えた。

自分の世話役であり、国政の一翼を担う彼の死は大きな痛手だ。

ここで思い出した事がある。

ホリンズの口振りからすれば、今回の目的はペンダントの奪取だったように思う。

本人も自分は陽動役だと言っていたし、実行犯はセシルと魔物たちだったのだから。

問題は何故ペンダントを狙ったかという事だ。

他にも、彼らはミュージアムに通じる入口を破壊している。

それがわかれば、彼らが今後しようとしている事を予測できるかもしれない。


「一つ質問してよろしいですか?あのペンダントは何なんです?」

「そうだったな、そなたらにはまだ教えていなかった。アレ“鍵”なのだ」

「鍵?」

「あぁ、魔具よりも精度は劣るが、エーテルを媒介にして、アルマたちが作り出した物を動かす事ができる。ここにある物で言えば、ミュージアムの扉や装置などだな」

「では、何故ホリンズたちはそれを狙ったのか、理由はなんだったのでしょう?」

「その答えはペンダントの用途にあるだろうな。おそらく、ヤツらはどこかでアルマたちが残した遺物を見つけたのだろう。それを動かすために使うのではないか?」

「…なるほど」


国王の話によれば、ペンダントに使われている鉱物は、魔具を構成する物質の原料になっているそうだ。

しかし、鍵の役割をするペンダントだけでは意味がない。

そのため、ドワーフたちは希少な鉱石という理由から、地位や権力の象徴として利用している。

希少価値で言えば、人間の世界で流通する金よりも遥かに珍しく、ノースフィールドでしか採掘する事はできない。

もちろん、ミッドランドはもとより、ホリンズが根城を構えるフォレストメイズにも無い物だ。


「ゴーレムを操っていた女はこうも言っていた。“これで揃った”と」

「揃った?」

「それ以上は語らなかったから、何を意味しているのかは不明だ。だが、ヤツらが行おうとしている計画に関係しているのは間違いないだろう。私はそう思う」

「つまり、計画の実行は差し迫っていると見て間違いはなさそうですね」


これまで計画の進行状況については明らかになっていないが、今回の出来事であまり時間が残されていないだろうと想像できた。

正確な残り時間がわからない以上、あまりゆっくりはしていられない。

すぐにでも計画を止める手立てを考える必要がある。

それには、ドワーフの力が必要だ。

彼らが協力してくれれば、こちらの戦力は大きく底上できる。

問題は、国王が首を縦に振るかだ。

先ほどの話し合いでは、和解に向けた交渉は平行線に終わった。

しかし、ホリンズの脅威を肌で感じた今なら、気持ちにも変化があるかもしれない。

僕は一歩前に進み出て国王の前で跪いた。


「…今一度お願いします。我々は過去の過ちの清算に努めます。ですから、和解していただけないしょうか。そして、共にホリンズを止める協力を要請いたします」


そういって跪いたまま頭を下げた。

これが今の僕に出来る精一杯だ。

国王はしばらく沈黙してゆっくり口を開いた。


「…先ほども申したであろう。和解には時間が掛かるのだ。だから、私の一存でそなたの気持ちに応えてやる事はできぬのだ…。だが、我々もホリンズという男が企てようとしている計画を肌身で感じた。このまま放っておくわけにはいかん。そこで私からそなたに提案がある」

「提案ですか?」

「そなたを信頼に足りる者だと見込み、共同戦線と行こうではないか。根本的に問題が解決したわけではないが、敵だ味方だと騒ぐ前にやるべき事があるだろう?」

「それでは…」

「うむ…そなたらに力を貸そう。ただし、全面的に協力ができるわけではない。こちらが協力できるのには限りがある。理解のある者だけを集める事になるだろう」

「いいえ、少しでも協力していただけるのなら、これほど心強い事はありません。ご理解いただきありがとうございます」


国王の提案によって、共にホリンズを打倒しようという意識が高まった。

ただ、本来の目的であった、双方のわだかまりを解決するには至っていない。

それでも、この提案は大きな前進だ。

どれだけの協力が集まるかは未知数だが、僕を信頼して戦力を貸し与えてもらえるらしい。

黙って話を聞いていたコルグスは目を閉じて大きく頷いた。


「…私がお前たちに協力しよう。あの男の非道をこれ以上許すわけにはいかない。それに、私は理解したのだ。小さな力でも寄り集まれば大きな力になるという事を」

「コルグス、ありがとう。お前が協力してくれれば心強い」

「ふんッ、私はまだ人間を許したわけではないが、お前は特別だ。初めて会った時からそう感じていたよ。お前は我々に対する偏見に疑問を持ってくれた唯一の人間だからな。そして、私は友だとも思っているよ」


この日、僕らはホリンズの打倒を強く誓った。

その中で、今後の協力体制にもいくつか提案があった。

その一つが、コルグスを帝都に派遣するというもの。

彼が王宮を離れるのは戦力の面から見てもかなりの痛手だが、それを補うための戦力を新たに配備する計画がある。

コルグスの役割は、ミッドランドで起きたホリンズに関わる案件をノースフィールドへ正確に伝えること。

彼から伝わった内容によって、兵士の増援や王宮の守りを固めるなど、スムーズな対応が期待された。


実際、コルグスが帝都を訪れるという事は、それなりに準備が必要だ。

特に、ドワーフに対する私怨が強い者も居る中で、彼が町中を歩けば事件に発展する可能性は十分に考えられる。

その対応策として、国王はコルグスにローブの着用を提案した。

フードを目深に被れば全身を隠す事ができるため、ドワーフの特徴でもある筋肉隆々な身体も十分に隠す事ができる。

もちろん、一目見ただけで、すぐにドワーフだと気付かれる事はないだろう。

帝都の中には様々人が居るため、ローブを纏った者が一人くらい歩いていても気付かれる心配はない。


また、コルグスは信頼できる部下を一人連れて行きたいと申し出た。

寡黙な人物だが、腕は確かなので戦力としても期待ができるそうだ。

あとは本人への意思確認次第と言う事になる。

この辺りが人間と考え方が違うところだ。

帝都に住む人間であれば、皇帝や貴族など、地位の高い者が下の者に一方的な指示を出すことが出来る。

これは、それぞれの序列がハッキリしているため、よほどの理由がない限り命令された者は、それに従わなくてはならない。

その点、ドワーフたちの考え方は、表面的には“君主制”であるにも関わらず、一方では“民主主義”のような考え方も取り入れられている。

これは元々、命令の遂行を円滑に行うために取り入れられた考え方のようだ。

つまり、命令を受けた者が納得していなければ、感情が邪魔をして目標達成の達成率に影響してしまう。

そのため、実力はもとより、本人の“やる気”も重視している。


この話を聞いたアルマハウドは興味深そうにしていた。

彼は男爵という立場なので、指示に従わなければいけない人物は二人いる。

一人は皇帝だ。

もちろん、命令者が皇帝の場合、いかなる身分の者でも逆らう事はできない。

また、彼はハンターという顔も持っているため、基本的にギルドマスターの命令にも従わなければならない。

彼はそれが当たり前だと信じて育ってきたため、彼らの考え方には衝撃を受けたようだ。

ちなみに、バウンティーハンターのニーナは、組織に所属していないため、直接彼女に指示を出す者はいない。

彼女の場合は、“彼女が思うように行動をする”と言うのが基本的な行動原理だ。

そのため、バウンティーハンターという身分は、帝都の中でもかなり特殊な存在になる。

その反面、特定の組織に所属していないため、何かミスが起これば全て自分で背負わなければならない。

情報収集をするにも、自分の足と人脈が頼りになるため、彼女のようにフットワークが軽くなければ、一人前のバウンティーハンターにはなれない。

そのため、自称でハウンティーハンターを名乗る者も多い中で、ニーナは自他共に認める数少ない存在だ。

誰か…睡眠時間をください。




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