シーン 133
竜巻の影響で僕らの周辺には猛烈な暴風が吹き荒れている。
しかし、コルグスは振り回していた斧の回転を止めた。
すると、発生した竜巻が斧の中に吸い込まれ、暴風がピタリ止んだ。
「竜巻を吸収した?」
「…隙だらけだ!」
コルグスは放たれた矢のように駆け出し、超重量の斧を振り上げてゴーレムに襲いかかった。
ホリンズは咄嗟に腕を突き出して防御の姿勢をとったが、コルグスは構うことなく斧を叩き込んだ。
次の瞬間、斧から暴風が吹き出し、ゴーレムの身体がまるで木の葉のように舞い上がり十メートル以上吹き飛んだ。
身体はきりもみ状態になりながら地面に激突すると、激しく砂埃があがって姿が見えなくなった。
「凄い…圧倒的じゃないか!?」
「なんて男だ。ドワーフとはこれほどの力が使えるのか…?」
僕とアルマハウドが目を丸くしていると、コルグスは斧を肩に担いで砂埃の中にいるゴーレムを見据えた。
「いつまでそうしているつもりだ?この程度で終わらない事はわかっている」
「ふふッ、やっぱりバレてたか」
砂煙が晴れると、ゴーレムは何事もなかったように立ち上がり、ゆっくりとこちらへ近付いてきた。
しかし、その身体には僅かな傷しかついていない。
「…やはりこの程度では倒れないか」
「落ち込む必要はないよ、コイツの身体は特別なんだ。耐衝撃性に優れ、腐食にも強い特殊金属の集合体だからね。それに、このゴーレムを操っているのは誰あろうこの僕なのだから。知っているかい、強さの優劣は注がれるエーテルの量によって変わるんだよ?」
「…それがどうした。ゴーレムを動かすには膨大なエーテルが必要だ。動かし続ければやがてエーテルは底をつく。誰にでもわかる事だ」
「そう、普通ならね」
「…戯れ言も飽きた。動けなくなるまで何度も痛めつけてやる!」
「やってごらんよ。その自信、粉々にしてあげるからさ」
ホリンズは地面を滑りながら加速すると、鋭い爪でコルグスに襲いかかった。
この攻撃は先ほど見たものと同じだ。
コルグスは再び担いだ斧を振り上げ、攻撃のタイミングに合わせて迎え撃った。
お互いに激しくぶつかり合い火花が散る。
しかし、次の瞬間、今度はコルグスの身体が後方に吹き飛んでいった。
身体は五メートル近く飛ばされ、山積みにされていた木箱にぶつかってようやく止まった。
「アレアレ?少しやり過ぎちゃったかな」
「ば…バカな…」
「コルグス!?」
コルグスは力を振り絞って立ち上がり、ゴーレムを睨み付けた。
しかし、ダメージが大きかったのか、足元がおぼつかない。
木箱がクッションになったおかげで外傷は負っていないようだ。
いくらドワーフが丈夫な身体を持っているからと言っても、人間と同様に痛みは感じる。
内臓に受けたダメージは計り知れなかった。
「そんなに睨むなよ。簡単な事さ、リミッターを外したんだ。当然の結果だろう?」
「リミッター…だと!?」
「ん?あぁ、ごめんごめん。ほとんど知られていない隠しコードだよ。膨大なエーテルを消費する代わりに、通常の倍近い力が発揮出来るのさ」
ホリンズの説明が確かなら、力は先ほどまでとは比べ物にならない。
力自慢のコルグスでさえ押し負けてしまうほどだ。
「…アルマハウド、二人でヤツの動きを止める!出来るか?」
「あぁ、やってやるさ!」
僕は拳銃で牽制しながらホリンズの視界に躍り出た。
拳銃でのダメージは期待できないが、注意を引くには十分だろう。
「…おッ、僕とやる気かい?キミたちは見ているだけだと思ったんだがね」
「うるさい!貴様、何が目的だ!!」
「それはキミが仲間になったら話すよ。もっとも、今のキミはその気があるようには見えないけどね」
「当たり前だ!」
ゴーレムの装甲はグリーンドラゴンよりも遥かに硬い。
拳銃では何度撃っても傷を付けることが出来なかった。
それでも、僕に注意が向いていたため、背後から音もなく迫るアルマハウドに気付いてはいないようだ。
アルマハウドは自慢の大剣を思い切り振り下ろした。
コルグスの一撃ほどではないが、“不意打ちならば…”と言う期待がある。
それでも、甲高い金属音が聞こえただけで、目立ったダメージは与えられず、大剣は装甲に弾き返されてしまった。
「か、硬い!?」
「それで不意打ちのつもりかい?背後を取って満足してはいけないよ」
ゴーレムは腕を振り回してアルマハウドの腹部に一撃を入れると、彼の身体を軽々と吹き飛ばした。
それでも、攻撃を受ける直前に剣で受け止める事に成功したため、衝撃の大部分は受けずに済んだらしい。
身体を回転させながら受身を取って次の攻撃に備える余裕があった。
「アルマハウド!」
「心配ない、ヤツから目を離すな!?」
「いくら注意したって無駄だよ。キミたちに勝ち目はない。そろそろ諦めてもらえないかな?」
そう言って、ゴーレムは火球を作り出し、僕に向かって放り投げてきた。
リミッターが外れている影響か、先ほどよりも飛んでくるスピードが速い。
直撃するギリギリで身を屈めて火球をやり過ごす事ができた。
「へぇ、今のを避けるとはさすがだね。そうでなければ仲間にする意味がない」
「クソッ…一体どうすれば…」
「考えても無駄だよ。コイツの対処法なんてありはしない」
「…レイジ、騙されるな!弱点ならある。ヤツのコアを破壊しろ!!」
「コア!?」
「ちッ…死に損ないが余計な事を!?」
「顔にある目を破壊するだ!そうすれば動きを止められる」
ホリンズの声には演技ではない動揺が感じられる。
見たところ、金属に覆われていないのはコアと呼ばれた赤い眼の部分だけだ。
顔に向けて銃撃すると、彼は素早く腕を使って顔を覆った。
対処が早かったところを見ると、やはり急所である事は間違いないらしい。
自ら視界を狭くしたため、背中ががら空きになっている。
アルマハウドは大剣を真横から振り抜き、ゴーレムに思い切り叩き込んだ。
しかし、表面に小さな傷が着いた程度で、目立ったダメージはない。
「フンッ…いくらダメージはないとは言え、コアを守りながら戦うのは骨が折れそうだ」
「さっきに比べて随分余裕がなくなったじゃないか。諦めて降参したらどうだ?」
「急所がわかったくらいで勝った気で居るとは、キミはよほどの楽天家らしい。もちろん、嫌いな性格ではないけれどね」
ゴーレムはコアへの攻撃に注意しながら、僕らから距離を取った。
離れれば近接攻撃の脅威がなくなる反面、火球による遠距離攻撃のリスクが高まる。
どちらにせよ存在自体が凶器なのだから、一瞬たりとも気を抜くことはできない。
僕は拳銃から自動小銃に持ち替えた。
拳銃に比べ、自動小銃は両手が塞がってしまうため、身軽さが犠牲になってしまう。
それでも、ダメージな望めない拳銃よりは役に立つはずだ。
距離を詰められないよう気を付けながら、コアを狙撃するタイミングを待った。
「三対一か。しかし、急造のチームでどこまで戦えるかな?」
「やってみなければ…わからないことだ!!」
ゴーレムを中心据えて三方向から同時に襲いかかった。
僕はコアの破壊に徹しながら、アルマハウドとコルグスへの注意を削ぐのが主な役割だ。
力自慢の二人は二方向からタイミングを合わせて武器を横薙にした。
ゴーレムは大剣と斧に腹を挟まれ、金属がへこむ音を耳にした
音のした場所を見ると、腹部の装甲が大きく陥没している。
「ゴーレムの装甲をへこませただと!?貴様ら…」
ホリンズは顔を隠したまま左腕を大きく振り回した。
しかし、二人の位置が見えていないのか、腕は闇雲に空を切るだけだ。
「随分と焦ってきたな。三人掛かりなら何とかと言うところか?」
「まさかキミたちが連携プレーをするなんてね…。正直驚いたよ」
「驚くのはこれからだ!」
顔を守る腕の上から銃撃を加える。
ゴーレムとは言え、コアが狙われているうちは自由に動く事ができない。
アルマハウドとコルグスは目で合図を出すと、同時に斬撃を繰り出した。
横薙にされた大剣と斧は、胴回りや腕、足や頭部と正確に打ち込まれていく。
ホリンズはその度に腕を振り回して反撃をしてきたが、二人はそれを紙一重でかわして無傷だった。
このまま攻撃が続けばホリンズのエーテルがなくなるのもそう遠くはないだろう。
そんな時だった。
突然、王宮で爆発が起き、激しく煙があがっている。
煙があがった場所はミュージアムに通じる入口がある場所だ。
「ふぅ…どうやら僕の勝ちのようだ」
「貴様、何をした!?」
「ここへ来たのが僕一人だけだと思ったのかい?だとすれば、キミたちはおめでたい連中だよ」
煙があがった方向を見ると黒い影が見えた
それはホリンズが操るゴーレムと同じモノだ。
新たに現われたゴーレムは、乱立する建物の屋根や屋上を足場にしてこちらへ向かってきた。
「父上ッ!」
「セ、セシルか!?」
「その通り。どうやら成果があったらしい」
「成果だと!?」
「ふふッ、僕の役目は陽動だからね。本命は彼女さ」
ホリンズは足の裏にあるローラーを回転させ、僕らからさらに距離を取った。
そこへセシルが操るゴーレムが合流した。
「おかえり。成果はどうだったかな?」
「この通り」
セシルが操るゴーレムは手に何か光る物が見える。
よく見るとミュージアムの扉を開く鍵、“ウェラのペンダント”が輝いていた。
「それは…まさか国王の!?」
「いいや、残念ながら仕留め損なってしまったよ。予想外の抵抗を受けてしまったからね。あの二人を残したのはキミのアイデアか?」
「セシル、サフラとニーナに何をした!?」
「いいや、特に何も?それにしてもあの二人、こんな僅かな時間に随分と強くなったじゃないか…」
よく見ると、セシルが操るゴーレムの左腕の関節からは、切断されたケーブルがはみ出している。
おかげで左腕が自由に動かせないようだ。
サフラかニーナのどちらかが機転を利かせ、装甲の繋ぎ目を攻撃したのだろう。
弱いところを突いて大きな成果をあげるのは戦闘の基本だ。
「そう言うわけだ。僕らはこれで失礼するよ?」
「貴様、逃げるのか!?」
「ふふッ、キミたちをここで殺すのは簡単さ。でもね、こちらにも事情というモノがあるんだよ。何、いずれまた会えるさ」
そう言ってゴーレムたちは砂煙をあげ、呆気なく撤退していった。
残された僕らは去っていく後姿を黙って見ている他はない。
それでも、立ち止まっている暇はなかった。
急いで国王と残してきた二人の安否を確認するのが先決だ。
町の中を走っていると、マンティコアの姿を見つけた。
どうやらホリンズが一緒に連れてきたらしい。
しかし、マンティコア程度なら脅威とは程遠い相手だ。
自動小銃で眉間を撃ち抜いてすぐに退けた。
他にも地下トンネルの中には絶対にいないはずのゴブリンやオークの姿がある。
「…ヤツら、魔物どもを放っていったのか!」
「コルグス、落ち着け!城に戻り次第、兵たちに侵入した魔物の処理を急がせるんだ」
「わかった…」
心なしかコルグスは元気がなかった。
国王の安否が気になって仕方がないのだろう。
自分の大切な人が危険な目に合っていると知れば、それは普通の感想だ。
昨日は思いがけず時間に追われていたため、とても短い投稿文字数でした。
この忙しさはあと1週間くらい続きそうです。
それはさておき、本編では触れられていませんが、ゴーレムのイメージについて補足しておきます。
実名をあげるなら、“ガン○ム”に登場する"アッ○イ"に似ていると言えばわかりやすいでしょうか?
実際には、著作権的にアウトっぽい感じがしたので、実名は出しませんでしたが…。(汗)
ご意見・ご感想・誤字脱字の指摘等があればよろしくお願いします。




