シーン 132
間近で見ると、ゴーレムは生き物ではない事に気が付く。
全身を硬質な金属に覆われ、動物特有の息遣いは感じない。
顔の真ん中に一つだけついた目のような部分は、ソフトボールほどの大きさがあり、半円が表面に顔を出している。
それがギョロギョロ動き回り、僕たちを観察し始めた。
また、基本的に動く時は、足の裏に付いたローラー状の突起が回転し、地面の上を滑るように移動している。
見れば見るほど、最初に感じたロボットと言う表現が正しく思えた。
「…またキミたちか、何回僕の邪魔をすれば気が済むんだい?」
突然、ゴーレムから聞いた事のある男の声がした。
その声は頭に内蔵されたスピーカーから聞こえている。
同時に、首筋に違和感が走った。
「ホリンズ!?」
「まったく、驚いているのは僕も同じだよ。何でこんな所で出会うのかなぁ」
「お前、そいつの中に居るのか!?」
「ふふッ、残念、僕はフォレストメイズにいるよ。遠隔操作と言うヤツさ。原理はラジコンみたいなものだよ。どうだい、面白いおもちゃだろう?」
そう言って手足を動かして見せた。
フォレストメイズからノースフィールドまでは直線距離でも百キロ以上離れている。
それなのに、会話の反応や動きをみる限り、ほとんどタイムラグを感じない。
彼はラジコンと説明しているが、原理はもっと別なもののように思う。
「コイツを操っているのがホリンズと言う男か!貴様…我々の町をここまで破壊して無事に済むと思うなよ!!」
「へぇ、ドワーフの割に血の気が多いヤツも居るんだね。もしかすると、キミも転生者なのかい?」
「転生者?貴様が何を言っているのかは知らんが、これ以上先へ進ませるわけにはいかん!」
「そうか、僕らと同じ臭いがしたからもしかしたらと思ったんだが、もしや記憶を引き継がなかったのかな?」
「私はコルグス=エルエミオン。それ以上でもそれ以下でもない!」
「ドワーブ無勢が…ナメるなよ?」
ホリンズはゴーレムを操って先制攻撃を仕掛けてきた。
腕の先に取り付けられたら鋭い爪を振りかざし、地面を滑るように移動して体当たりをしてくる。
巨体が移動した跡にはローラーが作った溝が残った。
全身が金属で出来ている事もあり、重量は乗用車くらいあるだろうか。
正面からぶつかれば、一般道を走る乗用車に跳ねられるくらいの衝撃があるはずだ。
「コルグス、逃げろッ!」
咄嗟に声をあげたが、コルグスは斧を振り上げて雄叫びをあげた。
次の瞬間、力強く斧を振り下ろし、真正面から攻撃を受け止めた。
斧と腕は激しくぶつかって火花が散る。
両者の力が互角なのか、どちらも譲らず拮抗していた。
「バ、バカな…ゴーレムの一撃を止めただと!?なんてバカ力だ…」
「力比べには自信があってな。この程度、跳ね返せぬと思ったか!」
コルグスは両腕に意識を集中すると、肩から手首にかけて筋肉が異常に膨れ上がった。
腕の太さは倍近くになり、両者の間で拮抗していたバランスが崩れた。
次の瞬間にはゴーレムの身体が押し戻され、そのまま尻餅をついた。
「す…凄い…なんて力だ」
「あれがヤツの実力か…」
僕とアルマハウドが呆気にとられている間に、コルグスは再び斧を振り上げてゴーレムに襲いかかった。
しかし、ゴーレムは巨体である事を感じさせないほど、軽い身のこなしで体勢を立て直すと、斧の一撃をギリギリでかわした。
「…ふぅ、危ない危ない。今のはさすがにヒヤリとしたよ」
「フンッ…少しはやるようだな」
「少しは?それは何を見て言っているんだい?」
「強がっても無駄だ。お前に勝ち目はない」
「そうか…では、これはどうだ!?」
ゴーレムは右腕を前に突き出すと、手のひらに炎の球が現われた。
大きさはボーリングの球くらいあるだろうか。
炎の塊である事を差し引いても、直撃すれば無事では済まないだろう。
それでも、コルグスは眉一つ動かさずゴーレムを睨みつけている。
「…死ねッ」
ホリンズは叫びながら火球を放り投げた。
全身を使って投げているとは言え、矢や銃弾よりは遅く、目でも十分に追えるスピードだ。
それでも、プロ野球のピッチャーが投げる硬球と同じくらいの速さはあるだろう。
しかし、コルグスは動じる事もなく、反復横飛びをするように右側へ大きく飛び退いた。
標的を見失った火球は僕とアルマハウドの間を通り過ぎ、後方にあった建物にぶつかって壁を破壊した。
建物は岩と土を組み合わせて作っているため、幸い火事にはならずに済んだ。
それでも、直撃すれば身体がバラバラになるほどの威力がある。
攻撃をかわしたコルグスは、涼しい顔をして斧を担ぎ攻撃の体勢に入った。
「…さすがに驚いた。初見でアレをかわしたのはキミが初めてだよ」
「初見か。貴様は勘違いしているようだな。私はゴーレムの事をよく知っている。アルマたちが造った“守護兵”だろう。そして、魔具の一種でもある」
「そうか…キミは初めから知っていたのか。だから避けられたと。なるほど、納得がいったよ。手の内がバレてしまっていると言うわけか」
一見すればコルグスが優勢のように見える。
しかし、僕の首筋に感じた違和感は痛みに変わり始めていた。
あまりの痛みに首筋を押さえずにはいられない。
それを見たアルマハウドは剣を抜き、警戒態勢に入った。
僕の異変からただ事ではないと察したらしい。
「ほう…口で言う割に随分と余裕だな。だが、お前はこれ以上先へは進めん。終わりだよ」
「キミは短気なのかい?まあいいや、その余裕、粉々に打ち砕いて苦しむ顔が見たくなった」
「まったく、よく喋る男だ…」
コルグスは担いだ斧を天高く掲げた。
その姿はまるで勝利を確信しているようにも見える。
そして、頭上で斧を大きく回転させはじめた。
コルグスを中心に周りの空気が集まっていく。
「なんのつもりだい?」
「貴様にはわからぬよ。知ったところで、この技はかわせない」
「へぇ、面白いじゃないか。やってごらんよ」
「言われなくても…そのつもりだ!!」
コルグスの周りに集まった空気は渦になり竜巻を発生させた。
今日の投稿は時間が足りなかったので短めです…。
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