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GunZ&SworD  作者: 聖庵
130/185

シーン 130

隊長らと別れ、コルグスたちがいる王宮を目指した。

すでにドボォイの中に入ってから半日くらい経っただろうか。

腹時計が正確なら、外は夜になっている頃だ。

それでも、地下空間は光苔のおかげで四六時中明るいため実感はない。

旅の行程は、初めてここを訪れた時と比べ、驚くような速さで進行している。

時間の短縮に大きく貢献したのは、ミッドランドの領内にあったドボォイの入口。

敵に遭遇しない地下のトンネルを使えば快適な旅が出来る。

それに、敵を気にしてルートを迂回したり、安全な場所を見つけて休憩をする必要がない。

それだけでも精神的な負担は極端に少なくなる。


同じ風景が続くトンネルの中とは言え、まったく見覚えがないわけではない。

目印になるのは光苔の位置や特徴的な岩肌の様子。

ニーナはその僅かな変化も正確に記憶しているらしく、町まであと一時間ほどだろうと断言した。

その言葉が正しければ、このままのペースで歩き続ければいい。

信憑性については定かではないが、今回も女の勘というヤツを信じてみたいと思う。

それに、もし間違っていたなら、皆と相談して馬車を止めて休憩すればいい。

どちらにせよ、町に通じる道は一本しかないため、立ち止まっている暇はない。

町に着けば宿や厩舎もある。

休むのはそれからでも遅くはないだろう。

ニーナの判断が正しいと信じ、先を急いだ。


「どうだ、私の記憶力は?時間もピッタリじゃないか」


隣に座っていたニーナは、前方に開けた空間を見つけ、上機嫌になって鼻を鳴らしている。

そして、どうだと言わんばかりに胸を張った。

同時に、二つの膨らみがブルンと揺れ、目のやり場に困ってしまった。

ニーナは僕が不自然に視線を逸らしたのを見て、ニヤリと笑みを浮かべている。

それはさておき、時間についてはハッキリとはわからないが、きっと大きくハズレてはいないだろう。

それに、視線の先にある空間には見覚えがあった。

ドボォイの中で人の気配が集中している場所と言えば町しかない。


「あぁ、お前を信じて良かったよ」

「何、いつでも頼ってくれていいんだよ。たまにはお姉さんのリードも必要だろう?」


そう言って再び胸を張った。

もちろん、先ほどと同じように、張りのある二つの膨らみが揺れ、今度は視線が釘付けになった。

さすがに彼女もわかってやっているのだろう。

したり顔で笑みを浮かべ、僕の肩をバンバンと勢いよく叩いた。

こう言う時、僕のような健全で硬派なタイプは損だと思う。

ちなみに、硬派については自称だが、誰にも異論は言わせないつもりだ。

彼女にもてあそばれ、反撃の機会は一度も与えられなかった。

それでも、目の保養になったため文句はない。

一つ咳払いをして脱線した会話を元に戻した。


「…しかしだ、時間的に大丈夫か心配だな。まさか夜になるとは思っていなかったから、こんな時間に行って迷惑かもしれないな」

「確かに…。実際、前回と同じルートなら、今頃は不干渉領域の手前で馬を止めていただろうな。まあ、ここまで来たんだ、わざわざ時間を潰して明日会う必要もないだろう?」

「そうだな。とりあえず、一度行って状況を確かめてみよう。判断するのはそれからでいい。それと、町に居る者たち全員が俺たちの事を知っているとは思えない。さっきみたいな事もあるからな。間違っても無用な争いは起こさないよう細心の注意を払う。あと、必要なら俺が話をつけるから、そのつもりで頼む」


町の中に入ると、以前に比べて人影はまばらだ。

路地から見える酒場には食事をするドワーフたちの姿が見えた。

夕食の時間帯は人間とあまり変わらないらしい。

誰かに絡まれるのではと心配していたが杞憂に終わった。

そのまま王宮に向かうと、城門を守っていた門番の男が僕らを制止した。


「待て、ここは王宮だ。許可無き者は通せん」


僕は御者台を降り、王から貰ったペンダントを門番に見せた。

これは通行証でもあり、上流階級“ウェラ”の証でもある。


「うーん…これで何とかならないか?」

「…それはウェラの証!?し、失礼しました!!」


門番は掌を返したように、恐縮して非礼を詫びてきた。

この門番は以前来た時に見かけなかった人物だ。

それでも、僕が人間である事以上に、ペンダントを見ただけで震え上がっている。

僕らにはわからないが、彼らにとってこのペンダントは、存在そのものが重要な意味を持っているようだ。

門番はすぐに部下を伝令に走らせ、しばらく待つように言われた。

待っている間、門番が僕をマジマジと見ているのに気が付く。

どうやら僕らが人間だとようやく気が付いたらしい。

それでも、ペンダントを持っている事や国王やコルスグに用があるという理由から、特に質問は受けなかった。

しばらくすると、連絡を受けた大臣のヨルムントが現われた。


「やはりあなた方か。国王がお待ちだ。こちらへ」


王宮に入るためには武装を解除しなければならない。

武器は馬車の中に置いて大臣の後を追った。

ちなみに馬は門番が責任を持って厩舎に預けてくれるそうだ。

王宮の中は以前と変わらない様子で、時よりすれ違う使用人が頭を下げてくる。

それに一つ一つ応えていくうち、王の間にたどり着いた。


「私が案内するのはここまでだ。あとは好きにくれ」


ヨルムントはそれだけ言うと去っていった。

一応、彼の肩書きは大臣で国王の世話役となっているが、基本的に放任主義な様子が感じられる。

むしろ、コルグスの方が世話役のように見えて仕方がない。

そんな事を考えながら、扉を開いて中に入った。

王座には国王が座り、隣に控えたコルスグの姿が見える。


「待たせてすまなかった。話があるそうだな。近くに来るといい」


指示を受けて国王の前に立った。

彼と会うのはこれで二度目だ。

相変わらず威厳のある雰囲気は、無意識に緊張をしてしまう。

それでも、緊張が声や仕草に出ないよう、注意して口を開いた。


「…突然お邪魔して申し訳ないです。以前お話した件について、もう一度交渉に来ました」

「和解の件か。あれから何か進展があったのか、詳しく聞かせてもらおうじゃないか」


国王は少し警戒しながら僕を見ている。

実際、前回ここへ来てからそれほど長い時間が経っているわけではない。

そのため、国王は急激な進展があったとは考えていないようだ。

だが、この短い間でも交渉に足りる変化があったように思う。

裏でホリンズが糸を引いていた件も交えつつ、今後の対策など踏み込んだ話をすると、隣に控えていたコルグスが口を開いた。


「ホリンズ…預言者を名乗った男だな。そうか、ヤツが関わっていたのだな」

「あぁ、裏付けは取れている。それに、内通者が居たんだ」

「内通者?そんなものまで居たのか。しかし、よく調べられたものだな」

「…実際、調べたわけじゃない。ヤツの掌の上で踊らされていたようなものさ」


それを聞いてコルスグは不思議そうな顔をした。

ただ、理由を聞くとすぐに険しい表情に変わった。


「…あの娘が内通者だったということか。なるほど、周到に計画されたものだったらしい」

「こちらとしての被害も大きい。先日、帝都が大量の魔物に襲われた。その首謀者がホリンズだと断定している。もちろん証拠もある」

「その魔物に襲われたという話、詳しく聞かせてくれないか。それだけでは俄かに信じられなくてな」

「わかった。国王もお話にお付き合いください」


話が長くなる事を断って説明を始めた。

話す内容は順を追って一つ一つ丁寧に行う。

まずは、大聖堂に潜入した件からだ。

ホリンズに操られた教皇がドワーフならびにエルフを敵対するよう仕向けていた。

それはかなり古い時代から続いていたため、“負のイメージ”は人々の深層心理に深く刻まれている。

ただ、求心力のある皇帝が率先して意識改革を行う事が決まっているため、そう遠くない未来には彼らに対する敵対心も薄れていくだろうと付け加えておく。


次に、ホリンズを追ってフォレストメイズに行った件だ。

ここではキメラと呼ばれる魔物を研究、生産する施設を発見した。

それは“ミュージアム”と同じ時代に作られたアルマの遺跡であり、当時のままの機能を維持した貴重な場所だった。

また、信じていたセシルが裏切り、実はホリンズの娘であったことも伝えた。

これは衝撃的な事実だったため、皇帝が酷く心を痛めた事も合わせて話しておいた。


「…そこまで聞くと、そのホリンズと言う男はかなりの食わせ者のようだな」


国王は眉間にシワを寄せて口を挟んだ。

隣に控えるコルグスも同様に不満そうな顔をしている。


「それについては間違いなく食わせ者ですよ。ヤツはアルマの知識を使って世界の支配構造を変えようとしています。その一つが前回の襲撃ということでした」

「ふむ。その、支配構造というところが引っかかるな。具体的に何が行われる?」

「これは直接本人から聞いた話なので、かなり信憑性はあると思います。それは、“カルマの鍵”と呼ばれる計画に関係があるようです」

「カルマの鍵?」

「はい。ヤツは地上にいる全ての生命を“意識体”に変えようとしています」

「…まことか!?」


国王は感情的になり、突然椅子から立ち上がった。

それだけ衝撃的な事として受け止められたようだ。

国王は“ミュージアム”から得た知識で、アルマたちの事はある程度把握している。

その中でも“意識体”についてはコルグスよりも詳しい。

そして、何故アルマたちが地上から姿を消したのか、それについて個人的に研究も重ねている。

つまり、“意識体”という言葉には人一倍敏感になっている。


「本人がそう言っていたので間違いはないでしょう」

「…何という事だ。再びあの悲劇を繰り返すというのか…」

「悲劇?」

「…あれを悲劇と言わずに何という」

「さしつかえなければ教えていただけませんか?」


国王はアルマについて知っている事を教えてくれた。

それはホリンズが話していたエーテルにも通じる内容だ。

まず、“意識体”とは何なのかというところから説明が始まった。

国王が調査した限りでは、“意識体”とは“肉体のない永遠の生命”と呼ばれているそうだ。

言葉の通り、この宇宙空間にある限り、永遠に死ぬことがない究極の生命、それが“意識体”だと告げた。

そして、“意識体”とは、この宇宙ではない別次元の存在であるとも言った。


「別次元の存在?」

「今、この世界が“三次元”と呼ばれているは知っているか?」

「えぇ。それと何か関係が?」

「では、“四次元”という世界を知っているか?」

「空間に四つの次元が存在する世界…そういうことですか?」

「そうだ。私の認識では、四次元は我々が認知できない別の空間だと考えている。そのため、四次元の存在になった“意識体”は、本質的に我々とはまるで別の存在と説明が出来る。わかるかな?」


僕は前世の知識があるため、国王が言いたい事は何となくわかる程度だ。

むしろ、知識のないサフラたちにしてみれば、何を言っているのかまるでわからないだろう。

チラリと横顔を伺ってみたが、皆難しい顔をして話を聞いていた。

僕も実際に話の全てを把握できているわけではない。

それでも、“意識体”というモノが、僕らとはまるで別の存在という事はわかったような気がする。

自分なりに解釈すると、二次元であるテレビゲームのキャラクターが、三次元に存在するプレーヤーを認知する事という言葉で説明できないだろうか。

実際には、そんな事はありえない話だ。

だが、“意識体”という存在が、三次元の僕らより高位の存在であるとすれば、そう言った説明でも解釈できるはずだ。

何より住む次元の違う生命が、同じ空間に存在する事は可能なのだろうか。

国王はその続きを話し始めた。


「“意識体”とは、我々の脳が解釈できる形で認知したモノだ。つまり、本当の形は誰も知らないし、説明が出来ないのだ。わかるか?」

「では、“意識体”とは一体なんなのですか?」

「…実は私もそれを知ろうと努力しているところだ。そして、“意識体”になる要素に“エーテル”と呼ばれる物質が関係している。私が知っているのはここまでだ。ただ、これだけは言える。一度“意識体”になってしまうと、肉体が失われ、二度と同じ器に戻る事はできない。言い換えれば、ゆで卵が生卵に戻らないようなものだ。仮に戻せたとしても、まったく同じ物に戻る事はない」

「じゃあ…ホリンズはそんな恐ろしい事を計画していると言う事ですか…」

「そなたの話が確かなら、そう言う事になるな」


国王は説明を終えると深い溜め息を吐いた。

自分の知らないところで、そんな恐ろしい計画が進んでいたとは夢にも思っていなかったらしい。

そもそも、ホリンズという存在が歴史の表舞台に登場したのはつい最近の事だ。

それまで、ずっと水面下で存在を知られないよう、準備を重ねてきたモノが今になって知られるようになった。

今回はシーン111、112で登場した“意識体”についての補足をお届けしました。




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