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GunZ&SworD  作者: 聖庵
128/185

シーン 128

ノースフィールドへ向かう当日。

アルマハウドは約束通り準備を済ませて我が家にやってきた。

準備と言っても、いつもの装備に旅の携行品が入った革のカバンを一つ持っているだけだ。

ちなみに、食料や医薬品など必要な物はこちらで揃えている。

そのため、彼が持つカバンの中身は、防寒具や着替えなど最低限の物しか入っていない。


「待たせたな。準備は出来ているか?」

「あぁ、さっき終わったところだ。あとは馬車に乗り込むだけだよ」


こんな日が来る事を見込み、厩務員には馬の体調を万全に整えるよう頼んであった。

馬は鼻を鳴らし出発の時を待っている。

荷台に積み込んだ荷物の最終確認し、御者台に腰を降ろす。


「じゃあ…行くぞ!」


全員に言い聞かせるよう声をあげ、手綱を握って馬を走らせる。

目指すは不干渉領域にあるドボォイの入口だ。

だが、入口がある場所はおぼろげに覚えている程度なので少し不安がある。

そんな姿を見て、ニーナはナビゲーター役を申し出てくれた。

何でも、今回は頼りになる“あるモノ”を持参したそうだ。

荷台から御者台に移ったニーナは、隣の席に座って地図に目を落とした。

横目に見ると、まるで航空写真のように地形が細かく描写されている。

どうやらこの地図が頼りになる“あるモノ”のようだ。


「ニーナ、その地図どこで手に入れたんだ?」

「これか?ペオに探してもらったんだ。細かく書き込まれているから、位置関係がハッキリわかるだろ」

「紙の質も違うみたいだな。高かったんじゃないのか?」

「フフフッ、聞いて驚け!何とか銀価一枚だ。凄いだろう?」

「え…マジ?」


久しぶりに素の驚きが出てしまった。

一般的に“紙”が高価なのは誰でも知っている事だ。

理由は供給量に対して需要が大幅に上回っているから。

前世の世界のように、工場で大量に生産する事ができず、“手漉き和紙”のように、一枚一枚時間をかけて作らなければならない。

特に、真っ白な“上白紙”は飛び抜けて高価なため、“A4”程度の大きさなら金貨一枚ほどの価値だ。

ちなみに、ニーナが持っているのは新聞紙ほどある上白紙なので、紙だけの価値なら、少なく見積もっても金貨三枚以上だろうか。

それに加え、精細な描写の地図が書き込まれているため、地図そのものの価値はいくらなのかまるで検討がつかない。

それを“銀貨一枚”と言われれば驚いて当たり前だ。


「さすがに私も驚いたよ。それに、こんなに細かく書き込まれた地図は初めてだ。まるで空から見て描いたようだろ?」

「かなり手間のかかった一級品だな。まったく…ペオのする事は驚く事ばかりで言葉に困るよ」

「まったくだ。だが、この地図はいい。これを使えば不干渉領域までの最短ルートが割り出せそうだ」


そう言ってニーナは地図に釘付けになった。

地図を読み解いた結果、予定していた行程が最大で半日近く短縮出来る事がわかった。

ニーナは地図を頼りに進む方角を見定め、僕に指示を飛ばしていく。

僕はそれに従いながら、馬車を襲う亜人や魔物の警戒をするだけでいい。

そんな時、地図を眺めていたニーナはあるモノを見つけて声をあげた。


「レイジ、ちょっといいか?これを見てくれ」


そう言って眺めていた地図を見せてきた。

指で示されたところを見ると、林の中にある岩場だった。


「岩場か?」

「あぁ、よく見てくれ。少し不自然じゃないか?」

「林の中の岩場だろ?言われればそう見えなくもないが、それがどうした」

「キミなら察しがいいと思ったが…まあいい、端的に言う。私の勘ではドボォイの入口じゃないかと思うんだ」


ニーナはそう断言した。

しかし、勘を頼りにしているため確証はない。

それでも、“女の勘”は時として超能力のように働く事があると、幼い頃に母親から聞いた覚えがある。

彼女が自信を持っているところを見ると、“勘”だけではない何かを感じているようだ。


「とりあえず聞くが、どうしてそう思う?」

「理由は二つある。一つは地形だ。この林は、我々がよく使う街道から離れていて人目に触れにくい。二つ目は位置関係だ。この林と我々が目指す不干渉領域の入口、これを線で繋ぐと、ほぼ一直線になるんだ。これは、以前ドボォイの中を歩いて気付いたんだが、トンネルは地下を真っ直ぐ延びていた。だから、このドボォイと繋がっている可能性が高いと思うんだ」

「なるほど…」


つまり、地理的な要因だけではなく、ドボォイの構造も考慮して判断をしたらしい。

言われてみればその通りだろう。

もし、僕が入口を作るとすれば、人目に触れない場所を選ぶはずだ。

改めて地図を見ると、この岩場が怪しく見えてきた。


「どうだ、一度立ち寄ってみないか?もし入口じゃないとしても、この距離なら半日くらいのロスだろう」

「わかった。そこまで言うなら行ってみよう。勘違いならすぐに軌道修正すればいい」


地図を頼りに場所を進めると、遠くに目的の林が見えてきた。

林は針葉樹の木々で構成されているようだ。

近くに亜人や魔物の気配はない。

林の中に目を凝らすと、岩を組み合わせて作った構造物を見つけた。

近くには動く人影が見える。

その姿は人間より少し小柄で、よく見るとドワーフだとわかった。


「見ろ、ホント居たぞ」

「ニーナ…お前の勘、凄いよ」

「フフンッ、たまには私の勘も頼りになるだろ?」


ニーナは鼻高々に微笑んだ。

しかし、疑問な点もある。

いくら林の中に隠れているとは言え、ここはまだミッドランドの領内だ。

そのため、まったく人間が近寄らない地域と言うわけではない。

獲物を追って通りかかる猟師やハンターと鉢合わせをする可能性がある。

それなのに、ここに居るドワーフは姿を晒し、武器を携行して辺りを警戒していた。

その様子は、良く知るドワーフの姿とは違っている。

戦いを好まない彼らが、進んで武器を手にしている姿は異質に映った。

よく見ると、警戒中のドワーフは表情が険しく、眉間にはシワまで寄っている。

一見した感想は、あまり余裕が無いようにも見えた。

僕らは下手に刺激しないよう、ゆっくり馬車を進めた。


「…何者だ!?」


僕らに気付いたドワーフの男は武器を手に駆け寄ってきた。

武器は鉄製のショートソードだが、柄の長さが短く、狭い場所で使いやすいよう工夫されている。

長剣に比べてリーチは短いため、間合に入らなければ恐れることはない。

僕はニーナに手綱を預けて御者台を飛び降りた。


「話がある。ドボォイへの道を開けてほしい」

「貴様、何故その事を…」

「俺たちはコルグスの知人だ。彼に話がある」

「コルグス様の…もしや、アナタはレイジ殿では?」

「そうだ。俺を知っているなら話は早い。通してはくれないか?」


男は僕の身体をくまなく観察すると、持っていた剣を鞘に収めた。

どうやら本人だと確認できたらしい。


「これは、コルグス様のご友人と知らず、大変失礼な真似をいたしました。お許しください。しかし、よくこの場所がわかりましたな?」

「ここを見つけたのは単なる偶然ですよ。まさか本当に入口があるとは思ってもいなかった」

「そうでしたか。それにしても、このタイミングでこちらを訪れるとは、これも何かの縁ですかな?」

「このタイミング?」


男は妙な事を口にした。

突然訪れたのは事実だが、特にタイミングを計っていたわけではない。


「…なるほど、ご存知ないのですね」

「何の話だ?」

「先日、ドボォイの中に魔物が侵入するという前代未聞の事件が起きました。しかし、幸いな事に、町に侵入する直前で対処が出来たため、ほとんど被害はありませんでした」

「ドボォイというのは安全な場所と聞いていたが…一体どこから魔物が?」

「はい。ですから前代未聞だったのです。調べてみたら、不干渉領域内にある入口から侵入した事がわかりました。そこを警備していた仲間は、侵入した魔物に殺された状態で見つかり、現場は凄惨なものでした…」

「不干渉領域の入口…まさか、俺たちが案内された場所か?」

「えぇ、ですから私も驚いたのです。今、あの入口は完全に封鎖されています。あれ以来、ドボォイの中は平穏が保たれていますので、危険はありません。ですが、あのような事態が二度と起こらないよう、こうして我々が入口を積極的に警護しているのです」


ようやく彼が表に出て警戒していた理由がわかった。

しかし疑問もある。

これまで一度も魔物の侵入を許した事がないドボォイに、何故魔物が侵入したかという事だ。

そして、侵入したタイミングが帝都の襲撃と合致する。

それこそ、偶然という言葉で片付けてしまうのは少々乱暴だ。


「…実は、俺たちの住む帝都も大量の亜人や魔物に襲われたんだ。アンタの言う魔物が侵入した日が正しいなら、この両者は無関係とは思えない」

「大量の魔物に襲われた!?本当ですか!」

「あぁ、本当だ。幸い何とか町を守る事は出来た。しかし、被害は甚大だ。あまりイイ状況とは言えないがな」

「そうでしたか…」


男はまるで自分の事のように衝撃を受けている。

他人を思いやる心を持っているのは、彼も他のドワーフと同じだった。


「今は急ぎコルグスに会いたい。ドボォイの道を開けてもらえないか?」

「わかりました、すぐに扉を開きます。皆様はこの奥へお進みください」


男は建物に詰めていた仲間を集め、ドボォイに繋がる扉の開閉作業に移った。

扉を開けるには二箇所に設置された開閉レバーを同時に操作する必要がある。

しばらく待っていると、鋼鉄製の分厚い扉がゆっくりと開き、目の前に道が現れた。


「では、お気をつけてお進みください。一本道ですので、道に迷う事はないでしょう」


警備するドワーフたちに見送られ、ドボォイの中に入った。

トンネルの中は以前と同様、光苔のおかげで明るさが保たれている。

また、トンネルの中は説明の通り分岐がないため、道に迷うことはない。

周りの景色が変わらない単調な道のりだが、危険と隣り合わせの地上より遥かに安全だ。

敵に襲われないというだけでも精神的な負担はかなり軽減される。

ニーナは地図を折り畳み、カバンの中へ丁寧に詰め込んだ。

いくら安く手に入ったと言っても、高価な品であるため乱雑には扱えないらしい。

ドワーフの世界でも主人公は有名人になりつつあります。

本当なら通行証を提示しなければなりませんが、今回は“顔パス”でした。

同時に、新しい入口を見つけたおかげで、“彼”に出番なく空気になっています…。(汗)

でも、きっと、たぶん大丈夫です!(苦笑)




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