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GunZ&SworD  作者: 聖庵
127/185

シーン 127

黙って容態を見守っていると、皇帝はゆっくりと目を開いた。

そして、ベッドサイドに並ぶ顔ぶれを眺めていく。

それが済むと右手を額に当てた。


「陛下、気が付かれましたか?」

「うむ…不思議だ…倦怠感が嘘のように消えた」

「良かった…薬が効いたんですね」

「そうか…そなたらが尽力してくれたのか、礼を言う」


そう言って僕に目礼をした。

だが、実際の功労者はペオとガウエスだ。

どちらかが欠けていたら、ここまで早く回復しなかっただろう。

その旨を説明すると、皇帝は改めて二人に礼を述べた。


「陛下…もったいないお言葉をいただき、心より感謝いたします」


そう言ってペオは片膝をつき敬意を示した。

すぐに対応出来たところを見ると、以前の職場での経験が生きているとわかる。


「…ほう、若いのに大した子だ。将来が楽しみだな。それと…そちらの者、そなたは見覚えがある。確か、以前の大会に参加していた者だな」

「覚えていていただき、恐縮です」


ガウエスもペオに習って片膝をついた。

こちらはペオほど自然ではないが、体裁は取れている。


「この者が陛下の治療をしました。ルーカス殿の弟子だそうです」


アルマハウドの説明を聞くと、皇帝は驚いた顔をした。

しかし、すぐに納得した表情を浮かべてガウエスを見た。

どうやら皇帝もルーカスと言う人物を知っているらしい。


「ほう、ルーカスの弟子か。なるほど…あの者の技術が次の世代に受け継がれていたのだな」

「師匠をご存知とは、弟子ながら恐れ入ります」

「いやいや、ルーカスと言えば数々の治療薬を開発する名医。ハンターの顔はその一部に過ぎんさ。王族や貴族なら知らぬ者はいないだろうな」


皇帝の話を整理すると、ルーカスという人物は、ハンターよりも医者として認知されているらしい。

まだ会った事はないが、話の内容からドワーフのコルグスと似たような印象を受ける。


「…陛下、あまり喋られるとお身体に障ります」

「アルマハウド、心配は無用だ。大分楽になった。そう言えばレイジ、そなたに頼んだ件、アレはどうなっておる?」

「はい、出発に向けた準備は進んでいます。あとは、彼をお借り出来れば問題ないかと」


そう言ってアルマハウドを横目に見た。

セシルが居ない今、不干渉領域を越えるにはどうしても彼の力が必要だ。

だから、彼が首を縦に振らなければ出発は出来ない。


「…レイジ、申し訳ないが、私は陛下の側を離れるつもりはない。ヤツらがいつ攻めてくるかわからないからな」


アルマハウドは突然そんな事を口にした。

言い切っているところを見ると、おそらく、悩んだ末に出した答えだろう。

きっと、一晩中ずっと考えていたに違いない。

確かに、今、彼が帝都を離れる事は戦力的に見て大きな痛手だ。

だからと言って、彼無しでノースフィールドに向かうのは厳しいものがある。

その意図を理解した皇帝が口を開いた。


「…アルマハウドよ、そなたはレイジに着いてノースフィールドへ行くのだ。彼にはお前の力が必要だからな」

「へ、陛下、何故です!?私がお側を離れたら…」

「アルマハウド、良いのだ。それに、そなたの気持ちは痛いほど理解しているつもりだ。しかし、心して聞け。彼に協力してやるんだ。これは皇帝と言う立場ではなく、そなたを思う友としての願いだ。それが聞けぬと言うのなら、皇帝としての立場で依頼するとしよう。どうかな?」

「陛下…」


皇帝はこれまでに見たことのない穏やかな表情を浮かべた。

時より見せる険しいイメージはどこにもない。

それに対して、アルマハウドは今にも泣き出しそうな顔だ。

よく見れば目には光るモノが微かに浮かんでいる。


「私の事は心配するな。それに、明日には仕事を終えた“フランベルク”が帰ってくる。皆精鋭揃いなのは良く知っているだろう?」

「確かに…ですが!?」

「大丈夫だ。私もバカではない、他にも考えがある。明日、各大臣を通じて国中に号令を出す。退役した兵やハンター、それに武具や食料を国中から集め、帝都の守りを強固なものにする。これでもまだ不足はあるか?」

「いや…異論はありません。陛下がお考えになられた事ですから」


アルマハウドは皇帝の説明を聞いて大人しくなった。

話の内容だけ聞けば、彼の抜けた穴を埋める対応策としては十分過ぎる。


「レイジ、そう言うわけだ。アルマハウドを連れ、ノースフィールドに向かってくれ」

「わかりました。では、明日の夕方までに準備を済ませ、翌日には出発します」

「わかった、頼んだぞ」


皇帝はそれだけ伝えると再び目を閉じた。

同時に規則正しい寝息が聞こえてくる。

解毒が出来たと言っても、体力的は疲弊まで癒えたわけではない。

こう言う時はゆっくり身体を休めるのが一番の薬だ。

僕らは眠ったばかりの皇帝が目を覚まさないよう、静かに寝室を後にした。

廊下に出ると、アルマハウドは申し訳なさそうに頭を下げてきた。


「…すまなかった、礼を言う」

「気にするな。俺はやれる事をやっただけだ。それに、礼を言うならこの二人だろ?」

「そうだったな。二人とも、感謝する」

「頭をあげて下さい、アルマハウド様。僕はレイジ様のお遣いを果たしただけですから。それに、初めて宮殿に入れて、いい経験になりました」

「僕にも礼は結構です。僕は無理を言ってここへ連れて来てもらいました。それに、とても貴重な経験が出来ましたから」

「そうか…陛下も喜ばれていた。あのような笑顔を見たのはいつぶりだろうか」


アルマハウドは再び瞳を潤ませた。

普段は気丈に振舞っているが、皇帝の事となれば話は別だ。

先ほどの話でも触れられていたが、皇帝とは無二の親友という繋がりがある。

彼が一生懸命になるのは、親友のために尽くす友情からだった。


「そういえば、あれから怪我の具合はどうだ?腹はまだ痛むか?」

「いや、少しずつ痛みが引いてきている。一晩寝れば全快するだろう」

「そうか。では、明後日の出発に間に合いそうだな」

「あぁ、それまでには本調子だろう。お前の方の準備はどうなんだ?」

「こっちは必要な荷物を馬車に積み込めば終了だ。明日には何とか出来ると思う」

「そうか。では、明後日の朝、準備を整えて家を訪問するとしよう」


アルマハウドはそれだけ言うと家に戻っていった。

その背中からは安堵が伺える。

一晩中不安だった思いから開放されたのが原因だろう。

彼の背中が見えなるまで見送り、僕らも宮殿を後にした。


「ガウエス、見事な働きだった。助かったよ」


別れ際、城門の前で彼の働き振りを讃えた。

彼の機転がなければ、今頃不安な時を過ごしていただろう。


「いえ、お役に立てて光栄です。それにしても、男爵は貴族が板についてきましたね。大会の時とは見違えました」

「そうか?これでも普段通り振舞っているつもりだけどな。それを言うならお前も同じだろう?」

「お互い様ということですね」

「また助けを借りる時があるかもしれない。その時はよろしく頼む」

「わかりました。その時は何なりとお申し付けください」


ガウエスは深々と頭を下げ、僕らの前から去っていった。

空は夕焼けから夜の黒へと塗り潰されようとしている。

いつもなら夕食を食べる時間だ。

食事の事を思い出すと、空気を読まない腹のムシが泣いた。


「レイジ様、お腹空きましたね」

「そうだな。ペオ、一つ提案があるんだが、どうだ?」

「何でしょう?」

「家まで競争!」

「いいですよ」


僕は童心に帰って無心で駆け出した。

ペオも置いていかれないよう必死で後を着いてくる。

元々、逃げ足が速いと自称するだけあって、顔色一つ変えずに走っている。

こうして何も考えず無心で走るのも悪くない。

家に着いた頃にはすっかり真っ暗になっていた。


「いちば~ん」

「レ、レイジ様…速すぎです…」


さすがのペオも家までの体力はギリギリだったらしい。

その辺りは歳相応の男の子というところか。

その気になればペオを置き去りにする事もできたが、そこは大人の良心というものがある。


「あッ、おかえり、二人とも」

「ただいま」

「ただいま戻りました」


リビングに戻るとサフラが迎えてくれた。

キッチンではマオとエールが夕食作りに夢中になっている。

いつもはペオが夕食を作っているが、今日は代わりに二人が担当していた。


夕食が終わり、みんながリラックスしたのを見計らって、今日の出来事を説明した。

特に注目を集めたのはペオの働きぶりだ。

彼の持つ情報収集能力は常識を逸している。

才能という言葉で片付けてしまうには少し乱暴だろう。


「なぁ、ペオはどうしてそこまで優秀なんだ?」

「僕が優秀ですか?それは何かの間違いでしょう。僕は出来る事をしているだけですから。能力以上を求められても、僕にはどうする事も出来ませんよ?」

「だけど、俺が頼む要望を簡単に応えるじゃないか。情報を集めたりするのに何かコツでもあるのか?」

「コツ…ですか。それは難しい質問ですね」


そう言ってペオは腕を組んだ。

難しい顔をしているところを見ると、回答に困っている事がよくわかる。


「そんなに難しく考えなくてもいいんだぞ?」

「いえ…僕は特別“何か”をしているわけではないんです。自然に情報が集まってくるとう方が正しいかもしれません」

「集まってくる?」

「はい。そう言う体質なのかもしれません。あッ、一つだけ思い当たる事がありますよ」

「何だ?」

「僕の見た目です。普通、大人は子どもを無知な存在と錯覚しています。ですが、必ずしも全員がそうと言うわけではありません。僕はそのギャップを利用して、あえて何も知らない子どもを演じます。すると、大人は親切に情報を教えてくれるんですよ」

「つまり…子どもと言うデメリットを逆手に取っているのか。なるほどな」

「あとは、そうして得られた情報を対価に、新しい情報と交換します。それを無数に繰り返せば、いつの間にか情報が集まってくるようになるんです」


ペオの話を黙って聞いていた四人は驚いて目を丸くした。

理由を聞いてみれば、特に特別なテクニックを使っているわけではない。

むしろ、自然体でいながら、情報に触れる環境を自ら作り出し、その中に身を置いている。

あとは、必要な情報を必要な時に取り出せばいい。

彼は同じ年頃の男の子より少しばかり記憶力が高い。

また、応用力も利くため、一を聞いて十を知ることが出来る典型的なタイプだ。

誰もが彼の真似をして同じことが出来るとは限らない。

そう言った意味で、彼の才能は家族の中でも輝きを放っている。

どこに出しても恥ずかしくない子、それがペオです!(笑)




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