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GunZ&SworD  作者: 聖庵
106/185

シーン 106

帝都からフォレストメイズまでの距離は約二日。

トラブルがなければノースフィールドへ行くよりも一日短い。

ただ、手放しで喜べないのは目的地の状況だ。

名前の由来にもなっている“メイズ”、つまり“迷路”が大きく関係している。

文字通り、森林が作り出した自然の迷路になっており、一度迷い込むと二度と出られないと言われる場所だ。

中に入ると方向感覚が狂い、方位磁石も役に立たなくなるらしい。

また、背の高い木々で構成された森の中は昼間でも薄暗く、太陽や星の位置で方向を知ることもできない。


「アルマハウドはフォレストメイズに行ったことはあるのか?」


揺れる馬車の中で、いつものように目を閉じて休んでいる。

前回と同様、夜間の警戒は彼の担当だ。

目を閉じたまま頷いて応えてくれた。


「じゃあ、何か気を付けておくことはあるか?知ってる事なら何でもいい」

「そうだな…とりあえず暑さ対策は大切だ。北と違って南は温暖だからな。水分補給はこまめに行い、無理をしないことだ。それと、ミッドランドより湿度が高い。あまり厚着をするのは得策ではないな」

「ノースフィールドとは真逆だな。そういえば、南には危険な毒虫が居るって聞いたが、それはどうやって気をつければいい?」

「実際、致死量の毒を持った虫はほんの一握りだ。中には人の頭ほどあるサソリや蜘蛛も居るが、見つけやすいからすぐに追い払えばいい。毒虫は基本的に昼行性だから、それほど恐れるものでもないぞ」

「そうか…」


アルマハウドが以前フォレストメイズを訪れたのは単独での事だ。

その時は徒歩で片道約四日の行程だったらしい。


「心配するな。もしものために解毒剤を持ってきている。処置が遅れなければ死ぬ事はない」

「そうだな。考えても仕方ない。それより、この辺りには何が居るんだ?さっきから、馬車を襲ってくる亜人や魔物の気配がしないが」

「この辺りには“ジャイアント”の目撃情報がある。そいつが原因で、ゴブリンやオークどもの活動が鈍っているらしい」


ジャイアントは身長がおよそ三メートル以上ある大型の亜人で、この世界に住む亜人種の中では最大の生物だ。

ジャイアントという名称は、巨大な亜人種の総称で、外見や性格などによって分類されている。

現在確認されているのは“オーグル”、“ギガース”、“ヨツン”、“ネピリム”、“グランデ”の五種類のようだ。

特に身長が五メートルを超える“ネピリム”と“グランデ”は別格で、大木のような太い腕から繰り出される一撃は、“大地を割る”と言われている。

そのうち、“グランデ”は、性格が極めて凶暴で食欲も旺盛らしい。

アルマハウドによれば、五メートル以上のジャイアントは、目撃例は少なく、年間に数体といわれている。

その理由は、巨体を維持するために必要な食料の確保が難しいからだとか。


「そういえば、アルマハウドは以前、ジャイアントを討伐したそうじゃないか。そいつはどんなヤツだった?」

「三メートル級のジャイアントだ。オークに良く似た亜人で、“オーグル”という」

「三メートルか。バレルゴブリンと同じくらい巨大なヤツだな」

「ほぉ…バレルゴブリンと戦ったことがあるのか。だが、ジャイアントという亜人は“バレル”と名の付く亜人とはまるで別物だ。そもそも、地力が違いすぎる」


アルマハウドの話によれば、ゴブリンやオークが巨大化しても、能力や行動パターンは基本的に変わらない。

また、巨大化で得られる腕力の代わりに機動力が低下するため、攻撃さえ当たらなければそれほど恐ろしい相手ではないようだ。


「じゃあ、ジャイアントの中にも“バレル”はいるのか?」

「過去に一度だけ、バレルと名の付くジャイアントが確認されたことがある。そいつは“バレルギガース”という名前で呼ばれ、西にあった“サディーナ”という町を破壊し尽くした。当時の私はまだ駆け出しのハンターだったが、討伐作戦に参加することができたんだ。討伐には三十人の精鋭部隊で臨み、何とか倒すことが出来た。ただ、結果は凄惨なものだった。こちら側の損失は甚大で、生き残ったのは私を含めてたったの四人だったのだから」


バレルギガースが暴れたサディーナという町はすでに地図上から消え、廃墟が残る寂しい場所になっているらしい。


「そのジャイアント、大きさはどれくらいだったんだ?」

「全長は…そうだな、十メートルを超えていたはずだ。まるで山塊のような怪物だったよ」

「十メートル以上…考えただけで恐ろしいな」

「強さだけならマンイーターすら凌駕する。今のところ、私が出会った化け物の中で最強だった」

「バレルギガース…覚えておこう」


二人で話している最中、急に馬車が止まった。

同時に、御者台のニーナが慌てている。


「レ、レイジ、男爵、来てくれ!」

「どうした?」

「アレを見てくれ!」


急いで御者台に移り、ニーナが前方を見て動揺していた。

視線の先には巨大な二足歩行の化け物の姿が見える。

それがジャイアントと呼ばれる亜人だとすぐに気が付いた。

身長は五メートルくらいあるだろうか。

手には丸太で作った棍棒を持っている。

いかにも腕力が強そうで、筋骨隆々の身体は、それ自体が凶器と言っても過言ではない。

獲物を探しているのか、地面を見ながら徘徊している。

幸いまだこちらには気が付いていないらしい。


「ギガースか…。あれほど巨大な個体も珍しい。単独行動のようだ」


アルマハウドが冷静に状況を分析した。

通常、ジャイアントは群れを作って生活している。

ただし、それは彼らが住む絶海の孤島“ジャイアントランド”での話だ。

この大陸へ渡ってくるジャイアントのほとんどが、何らかの理由で単独行動をしているため、一度に複数体で現れるのは極めて稀なこと。


「レイジ、どうする?」

「簡単にやり過ごせる相手ではなさそうだな。仕方ない、邪魔者は排除する。セシル、万が一に備え、お前は馬車を守ってくれ。俺はアルマハウドと二人でアイツを片付けてくる」

「わかった。だが、無理はするなよ?」

「大丈夫だ」


馬車を飛び出してアルマハウドと二人で近付いていった。

近くで見るとその巨大さを実感する。

頭の位置はちょうど車両用の信号機と同じくらいの高さだろうか。

ギガースは僕らに気が付くと、棍棒を振り上げてきた。


「アルマハウド、気をつけろ!」


大振りの一撃は軌道が読みやすく避けるのは難しくない。

棍棒をかわし、隙が出来たところへ拳銃の弾を放った。

しかし、拳銃では大きなダメージは与えられず、ギガースもまったく動揺する様子はなかった。

巨体を持ったジャイアントが相手では、口径の小さい銃では歯がたたない。

銃を素早く“AK-47”に持ち替え、足に照準を合わせた。

バレルゴブリンとの戦いで得た経験を活かし、まずは動きを止めることにした。

足と言っても“脛”が目線とほぼ同じ高さで、銃を真っ直ぐ向けるだけでいい。

一発ずつのダメージは小さくても、自動小銃の利点を生かし、数を撃って非力を補うことが出来る。

一点に集中して弾を撃ち込むと、ギガースの動きが鈍くなった。


「レイジ、離れていろ!」


ギガースの動きが鈍くなったところでアルマハウドが斬撃を放った。

全長が二メートル近い大剣ならば、いくら巨大なギガースでも致命傷を与えることができる。

アルマハウドの放った渾身の一撃は腹部に大きな傷をつけた。

しかし、それだけは倒すことができず、ギガースは再び棍棒を振り上げて反撃を仕掛けてきた。

アルマハウドはそれをギリギリでかわし、再び剣を巨体にめり込ませる。

僕は援護射撃で散発的に撃ち続け、ギガースは次第に弱っていった。

そして、ついに膝から崩れ落ちると、アルマハウドは首に向けて剣を振り抜いた。

次の瞬間、ギガースの巨大な頭が地面に転がり、動かなくなった。


「さすがだな」

「お前の援護があったおかげだ。普通、この程度のジャイアントは倒すのに時間が掛かる。相手に近付かずに攻撃できる銃というのは脅威だな」

「強さのバリエーションもいろいろだけど、この銃は比較的扱いやすくてな。見ての通り威力もある」


現在あるラインナップの中で“AK-47”は総合力が優れている。

ただし、単純な破壊力については“ソードオフショットガン”が一番で、取り回しの良さでは拳銃に敵わない。

それでも“連射速度”という面で優位性が高く、威力もそれなり強いため、巨大な相手と戦う時に向いていると言える。

馬車に戻るとセシルの拍手に迎えられた。

屋根の上から僕らの戦いぶりを見ていたらしい。


「あのギガースをこんな短時間で倒すとは驚いたよ。なかなかのコンビプレーだった」

「止めを刺したのはアルマハウドだ。俺は特に何もしていないさ」

「謙遜するな。キミが戦いを有利に主動していたのは見ていたからね。この分なら、フォレストメイズへの道中で怖いものはなさそうだ」


ギガースを倒して以降、馬車を襲う敵の数が増えてきた。

どうやらギガースという抑止力がなくなり、隠れていた亜人や魔物が普段通りの活動を始めたらしい。

セシルは馬車に迫る危険をいち早く察知すると、素早く飛び出して亜人を狩っていった。

ゼロリンカーの彼女にとって、精神を疲弊しない“ライトニングソード”での戦いは、まるで呼吸をするように自然で、一切の無駄がない。

襲ってくる敵もゴブリンやオークがほとんどで、セシルにとっては地面を這う蟻を潰すのと同じくらい容易く仕事をこなしていく。

戦いの後に残るのは、電撃で黒く焦げた死体だけだ。


旅は順調だった。

ニーナの手綱さばきもなかなかのもので、馬車は心地よく揺れて、気を抜くと眠気を誘われてしまうほど。

サフラは空いた時間を使って短剣の手入れをしていた。

愛用しているスティレットは丹念に磨かれ、テイタン独特の黒色が際立っている。


「随分手入れの行き届いた短剣だな。赤いグリップとは珍しい」


アルマハウドはサフラの短剣に興味を示したらしい。

サフラはそれを聞いて少し驚いたようだったが、すぐに持ち前の笑顔を作った。


「はい。毎日手入れをしていますから。命を預けるものなので、妥協はしたくないんです。この短剣、銘を“夜桜”といいます」

「そうか、それはいい心がけだ。傍らの鞭もよく手入れされているな」

「これはレイジと共同で使っているんです。能力を使っても精神的な負担がほとんどなくて、すごく扱いやすいんですよ」

「ほぉ…では、その鞭に選ばれたリンカーというわけか。確か、レイジもそれを使っている時は平然としていたな。一つの魔具で“適合者”が二人居るのは珍しい」

「そうなんですか?」


アルマハウドによれば魔具に適合したリンカーは確認されている数が極めて少ない。

大きな理由として、魔具の流通量が極めて少ないという事情がある。

貴重な品のため、一度手にした物を他人貸し出す者は少ない。

下手をすればそのまま盗まれてしまう可能性もあるため、取り扱いには慎重になるようだ。

僕やサフラのように普段から一緒居る者同士でも、貸し出した相手と適合するのは珍しいと最後に付け加えた。

南への道中は北へ向かうより危険は少ないです。

問題は道中ではなく現地です。




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