シーン 104
「予言だと?知っている事を全て話せ。そうすれば命は保証してやる」
出来る限りの殺意を込めて教皇を睨み付けた。
僕がこうして誰かを問い詰める事は珍しい。
普段、そうした事案に遭遇しないのが主な理由だが、自分から積極的に尋問の真似事をするのは、性格上それを“良し”としていないからだ。
ただ、必要に迫られれば逃げてばかりはいられない。
今の僕は心を鬼にしてこの場に臨んでいる。
「わ、わかった…だから殺さないでくれ」
教皇は命の危険を感じて態度を一変させた。
先ほどまでの威厳のある雰囲気は一切感じられない。
まるで人格が変わってしまったように、肩を震わせて僕を見ていた。
人の命を粗末に扱う彼でも自分の命は大切らしい。
「預言者だ。我々に叡智を授けてくれる神の申し子…。我々の運命はそのお方に握られていると言っても過言ではない。だから、我々は逆らうことは出来ないのだ。私とて、それは同じこと」
「運命を握られる?そいつの名前は?」
「ホリンズ様と言う。そなたが大会で戦ったのと同じお方だ」
「やはりそうか…」
これで調書にあった“ホリイ”と“ホリンズ”が同一人物と判明したことになる。
残るはホリンズの思惑だ。
教皇はこれまでの経緯を話し始めた。
まず、彼が先代の教皇に接触したのは、事前の調べ通りで間違いないらしい。
ただ、それらは全てホリンズと先代の教皇が取り決めたもので、詳しい思惑については知らされていないようだ。
ホリンズは教皇に“知恵”と“力”を与える代わりに、ある条件を提示してきたそうだ。
それは信者を奴隷として“ある場所”へ移送すること。
ただし、その理由については一切知らされていないと断言した。
「ある場所とはどこだ!」
「帝都より南にある森だ。“フォレストメイズ”という。ミッドランドとサウスフォレストを隔てる深い森だ」
フォレストメイズという名前は、ホリンズから直接聞いた地名だ。
彼に興味があれば来るようにと誘われている。
おぼろげながらに、ホリンズに関わる情報が集まり始めていた。
彼の思惑を知るには直接フォレストメイズに行くほかはないだろう。
ただ、南へ向かうのは北へ向かうのと同じくらい危険が多い。
特に、南の場合は動物よりも虫に注意が必要で、中には毒を持った“蜂”や“サソリ”が徘徊する地域を越える必要がある。
「他に知っていることはないか?隠すとロクな事にはならないぞ」
「わ、私がしているのはこれくらいだ。いや…すまない。もう一つだけある。“終末の日”についての話だ」
「終末の日?」
「ホリンズ様から告げられた約束の日だ。近いうちに世界が終わり、新しく作り変わる。そのように聞いている」
「具体的にはどんな内容だ?」
「詳しい事は聞いていない。ただ、選ばれし者だけが次の扉を開くだろうとだけ聞いている。本当だ!」
教皇の様子を見る限り嘘は言っていないだろう。
つまり、ホリンズの思惑は教皇が目指す“国の支配”とはまるで別のモノだと言うことだ。
その気になれば、すでにキメラを使って世界の支配構造を変える力を得ている可能性もある。
そして、彼に従順な者だけが生き残るとすれば、“終末の日”以降の世界の扉を開く事が出来るのではないか。
これはまだ仮説だが、そう考えられなくもない。
「ホリンズについてはわかった。ヤツを追いフォレストメイズに行くしかなさそうだ。では、ここから本題に入らせてもらう。布教している“教義”についてだ。あれは誰が考えた?」
「…教義を考えたのはホリンズ様から知恵を授かった先代の教皇様だ。私はそれに従って現在まで布教を続けているだけだ」
「じゃあ、ドワーフやエルフが人間の敵だと言うモノもか?」
「そうだ。そうするよう、先代の教皇様から地位を受け継いだ時に教えられた」
「わかった。じゃあ、質問を変える。教義そのものを変える事は可能だろ。つまり、今までの常識が間違いだったと、信者たちに周知する事も可能だな」
「そ、そんな事をして何になる?」
「決まっている。間違った常識を取り払い、ドワーフたちと和解するためだ」
それこそがここへ着た最大の理由だ。
だから、影響力の強い教皇には協力をしてもらわなければならない。
それがダメなら別の手段を考える必要がある。
具体的には皇帝の影響力を利用する方法だ。
これについてはセシルから話を進めてもらう方がいいだろう。
もちろん、教皇が協力しないという意志を表明した時の話ではあるが。
「レイジ、とりあえずコイツの身柄は私が預かる。改めて尋問しよう。明日、宮殿の執務室に来てくれ」
「わかった」
翌日。
町は不思議と穏やかだった。
昨夜、爆発まで起きた事件があったというのに、気にする者は一人として見当たらなかった。
不気味に感じるほどの事態だが、その理由はすぐにわかった。
今までほとんど人前に姿を表す事がなかったセシルが、フランベルクのメンバーを引き連れて町中を、隊列を組んでパレードをしているのを見つけた。
彼女の思惑は自分たちが一目を集める事で、昨夜の出来事よりも多くの話題を集めようと考えたようだ。
その思惑は予想通り的中し、彼女らの周りには人集りが出来るほどだった。
セシルはあまりの人の多さに僕には気付かず、そのまま宮殿に戻っていった。
時間を見計らいセシルの居る執務室に向かった。
僕はいつの間にか宮殿で知らない者が居ないほど有名になり、入口の門番にも顔パスで中へ案内された。
途中、貴族や使用人たちとすれ違ったが、僕より先に最敬礼の挨拶をされるほど。
「おッ、遅かったじゃないか。待っていたよ」
執務室に入るとセシルはデスクワークの手を止め迎えてくれた。
「今朝の騒ぎ、お前のアイデアか?」
「ん?見ていたのか。私はあまり気が進まなかったんだがな、陛下のアイデアさ。おかげで昨晩の出来事はうまくもみ消せたよ」
セシルをよく見ると少し疲れた顔をしていた。
「どうした、疲れた顔をして?寝不足みたいな顔だな」
「みたいじゃなくて、実際にそうなんだ。実は、あれから教皇を一晩中尋問したのさ」
「一人でか?」
「いや、陛下と私の部下を交えた三人だ。部下は尋問のエキスパートでね。いろいろ話を聞けたよ」
「教皇はどうしてる?まさか、牢屋の中じゃないだろうな」
「大丈夫だ。今は宮殿内の客室だよ。軟禁状態ではあるがな」
セシルは昨日得た情報を教えてくれた。
一番の収穫はやはり教義についてだ。
ドワーフが敵だという間違った話の出所は、供述の通り先代の教皇とホリンズが関与している事が明らかになった。
決定的な証拠になったのは、初期の頃に作られた改訂前の“経典”だ。
見付かったのは大聖堂の地下にあった図書室で、今朝早くに回収されたらしい。
中には現在の内容とはまるで異なる文面が見つかり、皇帝は酷く衝撃を受けていた。
また、現在の形に至るまでには、少なくとも三度の改訂が行われ、ドワーフたちを憎むよう、徐々に動機付ける内容になっていた。
「なるほど…。それで、陛下は?」
「今は部屋で休まれている。相当ショックだったらしい。顔色も思わしくなかったからな」
「では、とりあえずこれでこの一件は解決か。あとはドワーフたちに事実を伝え、本格的な和解に向けた準備が必要だな」
「いや、その前にやる事があるだろう?もう一人の首謀者はいまだに健在なんだからな」
「ホリンズか。ヤツに会うためにはフォレストメイズに行く必要があるな」
「その件についても陛下には伝えてある。近いうちにキミへ要請があるだろう」
セシルはすでに手回しを済ませていたらしい。
おかげで寝不足になり、疲れた顔をしていたようだ。
「そっか。徹夜で頑張ってくれたんだな。ありがとう」
「いいや、私は自分の仕事をしただけさ。陛下を守り、国を守るのが使命だからね。それより、キミも何か情報を掴んだからすぐに知らせて欲しい。私はここに詰めているから、連絡を取るのも難しくないはずだ」
「わかった。俺なりに調べてみるよ」
自分なりに調べてみるとは言っても、フランベルクのように情報網を持っているわけではない。
調べられる範囲は足を使って知り合いに話を聞く程度だ。
今回は少し短めです。
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