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GunZ&SworD  作者: 聖庵
101/185

シーン 101

作戦当日。

今夜、予定通り“夜襲”を決行する。

時刻はそろそろ日付が明日に変わろうかという頃だ。

大聖堂への侵入ルートはセシルの部下によって確保されているらしい。

作戦自体の説明も事前に受けているため、あとは滞りなく遂行するだけだ。

この作戦の主な目的は二つ。

一つ目は教皇から直接教義の内容が間違いであった事を認めさせる事。

二つ目は教義を改めて正しい情報にする事。

まず、一つ目がうまくいかない限り、二つ目には繋がらない。

それに、誤りを正しても、すぐに正しい情報が浸透するかは不透明だ。

どこまで予定通りに事が運ぶのかはわからないが、やれるだけの事をするしかない。


「…なぁ、この国で一番影響力のある人物ってやっぱり陛下だよな?」


隣で準備を進めるセシルに、思いついた質問をしてみた。

辺りはすでに暗くなっているため、彼女は烈火石の僅かな明かりを頼りに装備の確認をしている。


「ん?まぁ、そうなるな。その次が教皇、それから大臣、貴族たちと続くが、それがどうした?」

「最悪の場合を考えておこうと思ってな。勢い余って教皇を殺してしまうかもしれないだろ?」

「その辺りは何ともわからないな。ただ、極力作戦の遂行は穏便にやるつもりだ。あまり騒ぎを大きくしたくはない。夜を選んだのもそのためさ」


昼間は信者たちの出入りが多く、騒ぎになればパニックになる可能性がある。

夜は活動している衛兵やパルチザンの構成員も極端に減るため、二人で乗り込むにはこれ以上の時間帯はない。

万が一に備え、セシルが周囲の殺気に注意しながら潜入する事になった。


「バーサーカーに出会ったら躊躇わず殺せ。それと、銃は極力使うなよ。音で侵入したことがバレてしまうからな」

「その点は抜かりない。これを使う」


手にはサフラから借りてきた鞭がある。

殺傷能力は刃物に劣るものの、使い慣れているだけに心強い武器だ。

それに銃が全く使えないと言うわけではない。

僕はホルダーから銃を取り出して願いを込めた。


「…それは?」

「“消音器”を取り付け銃だ。それで、これが音を小さくする装置。試してみようか」


僕は空に向かって弾を三発放った。

いつもより半分くらい音が小さいだろうか。

銃身の先端につけた消音器のおかげで、通常より銃身が長くなっているが殺傷力は変わらない。


「ふむ…。まぁ、その程度なら多用しなければ平気か。だが、万が一の時に使う程度に留めておいてくれ」

「わかった。お前はどうするんだ?得意の二刀流でいくつもりか?」

「いや、今回は隠密行動だからな。もちろん剣も持っていくが、主に今回使う獲物はコレさ」


そういって右足の太ももに装備した短剣を取り出した。

どこかで見覚えのある形状をしている。

“櫛状”の細工が施された特徴的な短剣だ。


「それは…ソードブレイカーか。お前が短剣を使うとは意外だな」

「相手の武器を破壊して、無力化するにはちょうどいいからな。それに、これは私が使いやすいように長さを調節してあるんだ。大剣までは無理だが、鉄製のサーベル程度なら破壊可能だ」


よく見ると黒い金属で作られている。

特徴のある色から想像するに、テイタン製だろう。

長さもショートソードほどあり、刃渡りは五十センチほどある。


「…それを見ると思い出すよ。あのホリンズも使っていたものだからな」

「あぁ、私も見ていたよ。あの化け物じみた動き…ヤツは本当に人間なのか?」

「どうだろうな。仮に人間だったとして、俺がどうにか出来る類の相手じゃない」

「珍しく弱気だな。キミのことだから「任せろ!」とでも言うと思っていたが」

「一度実際に戦っているかな。ヤツが本気じゃなかったのは十分わかってるつもりだ」

「戦士の勘というやつか?まぁ、キミがそう言うのなら間違いはないんだろうさ」


準備が整い地下に潜った。

帝都の地下には大規模な排水施設が広がっている。

主に生活排水がそのまま流れ込むため、水は濁り悪臭している。

あまり長時間は居たくない場所だ。

鼻を押さえながらセシルの後についていくと、彼女は立ち止まって天井を見上げた。

どうやら内部へ侵入するための入口にたどり着いたようだ。


「ここか?」

「あぁ、この上はちょうど食堂だ。今は無人の時間帯だから忍び込むには最適だろ?」


セシルは慣れた様子で“鉤爪”の付いたローブを頭上に放ると、忍者のようによじ登りはじめた。

ロープの長さは地上から入口まで四メートルほど。

彼女は腕の力だけで器用に登りきり、内部の安全を確認すると手招きをした。

僕も彼女に習ってロープをよじ登った。


「…ここからは声の音量に気をつけろ。なるべく気配を消すんだ」

「わかった」


気分は忍者だ。

文字通りの忍び足で真っ暗な廊下を駆け抜けた。

窓から差し込む月明かりのおかげ足元までシッカリと見えている。

時刻は深夜なので周りに気配はない。

これなら教皇のところへすぐにたどり着けるだろう、そんな事を思った時だった。

前を走っていたセシルが立ち止まり舌打ちをした。


「…やはり簡単にはいかないか」


廊下の先に目を凝らすとぼんやりと人影が浮かんでいる。

距離は十メートルほどあるだろうか。

普通、この程度の距離なら気配を感じるはずだ。

それなのに僕は気が付かなかった。


「ネズミが二匹入り込んだか。生きて帰れると思うなよ、賊が!」


暗い廊下に声が響いた。

声の感じから中年の男性だろう。

その瞬間、闇の中から殺意が溢れ襲い掛かってきた。


「…レイジ、気をつけろ。ヤツはバーサーカーだ」

「いきなりか。セシル、気を抜くなよ!」


バーサーカーには特徴があるらしい。

それは笑い声だ。

理由はわからないが、痛覚麻痺剤を使用すると、副作用で笑い声が出るらしい。

耳を済ませると「ケヒケヒ」という下品な笑い声が微かに聞こえてきた。

セシルはこの声を聞き分けたようだ。


僕らは闇の中を駆け出した。

できる限り仲間を呼ばれる前に片付けてしまいたい。

先に飛び出したセシルは、短剣を男の喉元に向けて、勢いよく振りかざした。

きっと、並みのハンター程度の実力なら、何が起こったか理解する間もなく、胴から首が離れていただろう。

しかし、男は短剣が当たらないギリギリのところでかわし、難を逃れた。

僕はすぐさま鞭で追撃を加えると、甲高い金属音が響いた。


「短剣使いに鞭使いか。だが残念だったな、俺にそんなものは効かんぞ」


月明かりに浮かび上がった男は銀色に輝く鎧を着ていた。

鞭が捉えたのは男の着ていた鎧だ。

鞭は打撃武器のため、盾や鎧に対して大きなダメージを与えることができない。

やり難い相手だ。


「効かないかどうか…その身で確かめてみろ!」


セシルは身を低くして一気に距離を詰めた。

暗闇での戦いに慣れて居なければ距離感を取るのは難しい。

男は予防的に、持っていた槍を勢いよく突き出した。

槍はリーチがあり、短剣よりも優位に立つことができる。

しかし、槍が外れて懐に入られれば、形勢は一気に逆転してしまう。

セシルは冷静に槍をかわして男の懐に潜り込んだ。

だが、男は鎧を着ているため簡単にダメージを負わせることが出来ない。

それでもセシルは鎧の隙間に狙いを澄ませ、切っ先を突き立てた。


「…それがどうした?」


普通ならこれで勝負がついていただろう。

しかし、相手は痛覚が麻痺したバーサーカーだ。

この程度で怯むはずもない。

刺された傷口からは血が流れ出ているが、表情一つ変える事なく再び槍を構えた。

このまま時間が経てば失血死ということも考えられる。

それだけ傷は深い。

セシルは槍の届かないところまで下がって男の様子を伺った。


「バーサーカーとはまったく厄介な相手だよ。レイジ、ヤツの隙を作る事はできるか?」

「やってやれないことはない。だが、一瞬が限度だろうな」

「それでいい。その瞬間にヤツの首を切り落とす」


僕らはタイミングを合わせて同時に駆け出した。

男は僕らの動きを予測して槍を突き出した。

それを鞭でいなし、僕はそのまま勢いに任せ、体重を乗せたドロップキックを放った。

身体がフワリと浮きあがり、足の裏から金属の硬い感触が伝わってくる。

いくら鎧でも慣性の法則に敵うはずもなく、受身を取る暇さえ与えなかった。

後方へ吹き飛ばされた男はすぐに立ち上がる事ができず、セシルは素早く馬乗りになって、そのまま首を掻き切った。


「ふぅ…まさかあそこから飛び蹴りをするとは思わなかったよ」

「鞭で隙を作るのは難しいからな。奇をてらってみたんだよ。成功してよかった」

「まぁ、普通は手にした武器で攻撃してくると思うからな。コイツが反応しきれなかったのも無理はない」

「それより先を急ぐぞ。あまり時間を使いたくない」


幸いこの戦闘に気が付いた者はいなかった。

周囲の気配を探ったが誰も居ないようだ。

セシルにも確認してみたが、彼女も同様の答えだった。

ただ、時間が経てば敵に発見されるリクスが高くなる。

ここからは極力身を隠しながら進むしかない。


暗い廊下を駆け抜け、突き当りのT字路にやってきた。

セシルは迷わず右の道を選択し、再び駆け出した。

どうやら事前に内部の見取図を入手していたらしい。

地図が頭の中に入っていれば迷うこともない。

しばらく進んだところで前方に明かりを見つけた。

近くに人の気配を感じる。

手には槍を持っていることから、先ほどと同様の敵だろう。

耳を済ませると先ほどのような下品な笑い声が聞こえてきた。

彼もバーサーカーで間違いないようだ。


「…ヤツはまだ気付いていない。この距離なら気付かれる前にヤツをやれるだろう」

「どうやって?」


物陰に隠れながら気付かれないように作戦を練った。

小声で話しているため、敵には気付かれないだろう。


「コイツを使う」


そういいって、左足に装備した細長い筒を取り出した。

長さは三十センチくらいだろうか。


「それは?」

「“吹き矢”だ。先端に神経を麻痺させる毒を塗った矢を放つ事が出来る」

「届くのか?」

「あぁ、二十メートルくらいなら正確に当てることができるよ」

「わかった。やってくれ」


セシルは物陰から半分だけ身体を出し、気付かれないよう吹き矢を放った。

矢は空を切ると一直線に敵の首筋を捉え、叫び声をあげるまもなく動かなくなった。


「やるもんだな」

「知り合いの男から教えてもらったんだ。お前も知っている毒を使う男だよ」


“毒を使う男”と言って思い出すのは、以前大会で戦ったことのあるガウエスだ。

彼は南が原産の毒虫から自ら成分を抽出し、戦闘に応用していた。

当時はそれに悩まされたため、毒の効果は僕のお墨付きだ。


「お前、アイツと知り合いだったのか」

「まぁ、一方的な知り合いだ。特に親しいわけでもない。アイツは自分で採ってきた毒薬を売る商人の顔も持っているからな。客と商人の関係さ」

「そういうことか…」


僕らは動かなくなった敵を横目に先を急いだ。

気付かれなければ、セシルの吹き矢で無力化する事ができるため、極力気配を悟られたくはない。

まだ戦闘は二度だが、“銃”を使っていないのは不幸中の幸いだ。

狭い廊下では音が反響するため、いくら消音器をつけていても音が大きくなってしまう。

今はまだ一人ずつ相手をしているが、これが複数になれば対処は容易ではない。

その時は全力で迎撃する必要がある。

そうなれば“銃”や“ライトニングソード”で戦う必要があるため、穏便に事を済ませようという計画が全て水の泡だ。

敵の気配に注意しながら教皇の居場所を探した。

今回は異色(?)のコンビでストーリーが進行します。




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