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GunZ&SworD  作者: 聖庵
100/185

シーン 100

今日は朝から雨が降っている。

帝都は大陸の中心部あるため、沿岸部に比べて雨雲が発生しにくい。

降ったとしても月間に一、二回程度だと言われている。

今日の雨は小雨なので傘がなくても気にならないくらいだ。

ニーナによれば季節の変わり目、特に乾季から雨季へと変わる時期は頻繁に雨が降るらしい。

そろそろ雨季が近いのかもしれない。

こんな日は積極的に外出する人が少なくなるため、オープン以来繁盛している食堂も今日ばかりは閑古鳥が鳴くだろう。


そんな午前の穏やかな時間。

見慣れた大男が家を訪ねてきた。

町中でも一目で分かる甲冑姿は彼のトレードマークと言っていい。


「レイジ、セシルから言付かって来た。少しいいか?」

「久しぶりだな、アルマハウド。今ちょうどみんな出払ってるところだ、あがれよ」


雨具代わりのマントを預かりリビングに案内した。

どうやら急ぎの用件らしい。

大体の察しはついているため、結果がどうなったのか楽しみだ。

彼はソファーに着くなり本題を切り出してきた。


「お前の指摘した通り、やはり教皇が秘密を握っている事が分かった。そこからさらに調べを進めたところ、ある男の名前も一緒に浮上してきたぞ」

「ある男?」

「あぁ、“ホリイ”だ」

「…ホリンズの事か!」

「我々の調べた結果、このホリイという男はホリンズと同一人物だろうと結論付けられた。ただ、妙なのは教皇とヤツとの関わりだ。先代の教皇がヤツと初めて接触したのが今から七十年前。つまり、それが確かならヤツの年齢は百歳近くになる」

「確かに…百年近くも同じ姿を留めるのは変だな。人違いじゃないのか?」

「いや、帝国図書室の古い文献に、ヤツの特徴が書き記されていたんだ。『ローブの姿』、『“ニホン”という異国からの使者』、そして、『預言者」という文言が見つかったんだよ」


話を整理するとドワーフの王が会ったという“ホリイ”を名乗る男と特徴が似ている。

そして、ホリンズの本名は“堀井=ホリイ”だ。

この奇妙な符合が偶然とは考えにくい。

以上の理由からホリンズだろうと断定された。

彼が転生者という事を考えれば、仮に幼女の力で長寿化を図るという事も可能だろう。

それを確かめるには直接会って話してみるのが一番早いのだが、気軽に会える相手でもないのは言うまでもない。


「仮にだ、その男がホリンズだとして、ヤツの狙いは何だと思う?」

「セシルの話では国家を転覆させようと、裏で情報操作をしたのだろうと話していた。この仮説は教皇側の利害とも一致する」


昔から皇帝と教皇は対立関係にあったそうだ。

原因は権力争いで、どちらが国を治めるかでいがみ合っていたらしい。

そんな中、先代の皇帝は教皇にある権利を認めさせる代わりに、この争いを終結させるよう申し入れた。

その内容が教義の“改訂権”で、教皇はそれを承諾して争いは終わった。

しかし、解決したのは表面上の問題で、実質的な支配を望む教皇の野望が消え去ったわけではない。

むしろ、この権利を与えた事で状況が悪い方へと向かっていったと言える。


「教皇は宗教の力で人心を掌握するつもり何だろ?それとホリンズ、どう結び付くんだ?」

「今のところ詳しいところまではわかっていない。ただ、この百年近くの間、歴史の要所に“ホリイ”という名前が出てくるんだよ。これが何を意味しているか、少なくともこの男が良い結果をもたらしていないのは確かな事だ」

「以前、ヤツは俺に仲間になれと言った事がある。それも関係があると思うか?」

「もしそれがヤツの本心なら、強い者を集めようとしているとも考えられるな。私はお前の力を誰よりも認めているのだから」


最後にホリンズに会ったのはグリプトンを討伐した時だ。

あの時、キメラの研究をしていると言っていた。

その事をアルマハウドに伝えると、彼の表情が険しくなった。


「…これはあまり公になっていない事だが、近年、正体不明の魔物が各地に出没している。お前の言う事が本当なら、その黒幕がホリンズと言うことになるな」

「じゃあ、キメラ研究と教皇の思惑、この二つを結び付ける事は出来るか?」

「それこそ、両者が結託して国家を転覆させ、皇帝の座を自分のものにしようとしているんだろう。お前の言うキメラは国家を転覆させるだけの戦力になるかなら」


ただ、やはり分からないのはホリンズの思惑だ。

彼が教皇に荷担して得られる成果について、まだ腑に落ちていない。

仮に彼自身が皇帝の座を狙っているのであれば、わざわざ教皇と手を組む必要などないはずだ。

それよりも足りない戦力をキメラで補い、帝都を蹂躙する事も可能だろう。

それなのに何故彼は回りくどい事をするのか、それが分かれば問題は解決するはずだ。


「とりあえず話を本題に戻そう。ドワーフを敵だと主張したのは教皇で間違いないんだな?」

「あぁ、その通りだ。そして、ホリンズという男が何らかの理由で教皇に肩入れをしている」

「じゃあ、ドワーフとの和解に向け、教皇の悪事を暴く事が先決だな。回りくどいのは好かない。教皇を直接問い詰めようと思うが、お前はどう思う?」


アルマハウドは一呼吸置いて続けた。


「…あまり得策ではないな。教皇は私設の護衛組織を持っている。フランベルクとは違い、かなりの武闘派集団だと聞く。血の気の多い連中が待ち構える渦中へ飛び込むのは危険だろう」

「一体どんなヤツらなんだ?」

「自らを“パルチザン”と名乗っている組織だ。構成員の数は不明だが、個々の能力は下位構成員でもゴブリン以上だと言われている」

「じゃあ、上位だとどれくらいなんだ?」

「相手にもよるが、噂では幹部の中に“リンカー”が含まれているそうだ」

「“リンカー”…。つまり、少なく見積もってもニーナ以上の使い手と言うことか」

「そう言う事だ。出来れば直接戦うのは避けた方がいいだろう。まぁ、誰がリンカーなのか分からない以上、気をつけようがないとは思うが」


他にも注意点として、教皇の居る大聖堂は迷宮のような作りになっているらしい。


「…計画を練る必要があるな。セシルに会って直接話したい。面会はできるか?」

「あぁ、午後からなら予定が空いてあるそうだ」

「そうか。じゃあ、連絡を頼めるか?」

「わかった。私は午後から用事が合って参加できないが、ちゃんと伝えておくよ」


午後。

半日近く降り続いた雨は上がり、気温もいくらか下がっていた。

まだ雨が乾いていない石畳の路地を抜け、セシルの待つ宮殿の執務室を目指した。

セシルがいつも詰めている執務室は王座の間のすぐ近くにある。

衛兵に道案内を頼み、執務室に入った。


「…久しぶりだな。待っていたよ」

「お前も相変わらず元気そうじゃないか。アルマハウドから話は聞いているか?」

「あぁ、今、ちょうど私なりに計画を練っていたところだ。立ち話も何だ、掛けてくれ」


執務室の中は簡素な作りになっている。

彼女がデスクワークに使う大きな机と来客用の応接セットが置かれているだけで、他に目立った家具などは置かれていない。

僕は指示された席に座ると、セシルは対面のソファーに腰を下ろした。


「彼から話は聞いている。詳しいことは省いて本題に入ろうか。キミは教皇に会って直接真意を問いただそうとしているそうだな?」

「あぁ。そのための方法を探している」

「彼からも聞いたと思うが、“パルチザン”の連中が問題だ。ヤツらは話し合いが通じる相手じゃないからな」

「一戦交えろと?」

「あくまでも可能性の話だ。もちろん戦わないにこしたことはない。ただ、私が思うに、ヤツらはドワーフより厄介な相手なんだよ。まぁ、ドワーフは好戦的でないと分かった今では、比較の対象に出すのは間違っているがな」


セシルもパルチザンについてある程度の情報を持っていた。

彼らは常に教皇の側に寄り添い護衛をしているそうだ。

もちろん、教皇が眠る時も、必ず数名が寝ずの番をしているらしい。

つまり、どうしても彼らに接触するようになっている。


「…厄介だな。何とかならないのか?」

「ハッキリ言って、現時点では打つ手が無い。やはり倒すしかないんだよ。ただな…問題はこれだけじゃないんだ」


セシルは表情を曇らせた。

どうやら彼らについて何か知っているらしい。


「どうした、何かマズイ事でもあるのか?」

「キミは“バーサーカー”という者を知っているか?」

「バーサーカー?何だそれは?」

「痛覚麻痺剤の常習者の別名だ。文字通り、痛みを感じない戦士たちの事だ」


セシルによればパルチザンの構成員のほとんどが“痛覚麻痺剤”という薬を常用しているらしい。

つまり、僕が心掛けてきた“殺さず”という考えは捨てた方がいいと言うことだ。

彼らは腕が取れようが、腹に大穴が空こうが、攻撃の手を緩めない狂戦士として恐れられている。


「殺さずに制圧するのは無理か。相応の覚悟が必要だな」

「私は仕事で何人も殺めてきたが、ヤツらは別格だ。痛みを恐れない戦士ほど戦い難い相手もいない。それこそ、亜人や魔獣が可愛く見えるほどだよ」

「わかった。覚悟を決めよう。他に注意する点はあるか?」

「とりあえず以上だ。あと、これは一つ提案なんだが、今回は私と二人で行動してみないか?」


セシルは思ってもみない事を口にした。

むしろ、僕としてはノースフィールドへ向かったメンバーで大聖堂へ向かおうと思っていた。

しかし、彼女は自信あり気に笑みを浮かべている。


「何か策があるのか?」

「あぁ、私の部下が調べ上げた調書によると、地下の排水設備から内部へ侵入する経路が見つかったそうだ。そこから潜入しようと思うんだが、出来れば少人数の方が動きやすい。それに、キミほどの腕なら私も十分背中を預ける事が出来ると思ってね」

「買い被りすぎだ。俺だって万能じゃないんだぞ?」

「いや、ノースフィールドの一件で、キミの持つ恐ろしく冷静な一面を垣間見て、私は確信したんだ。それに、キミは慎重さと大胆さも併せ持っているだろう?そう言うタイプは作戦の確実に成功させる可能性が極めて高いと、私なりに分析しているんだよ」

「確かに、少人数の方が動きやすいのは確かだ。だが、そんな事で大丈夫なのか?下手をすれば殺されるかもしれないんだぞ?やはり戦力は多いほうがいいんじゃないのか?」

「その点はキミと私の働き次第だろう。まぁ、私は遅れを取るつもりはないがね」


セシルの目が妖しく光った。

それを見て、彼女が本気だということが良くわかる。

後には引けない状況と言うこともあり、彼女の作戦に同意することにした。

作戦の内容は全てセシルが決めてくれるらしい。

進入する時間、内部の経路、予想されるパルチザン構成員との戦闘など、彼女が部下を交えて試算とシミュレーションをするそうだ。

検討の結果、進入時間は深夜に決まった。

夜襲ということになり、正攻法でないのは気になるが、今回ばかりは綺麗ごとを言っていられない。

何が何でも成功させるという強い意志が必要だ。

残りは後から連絡があるらしい。

今日で100話です。つまり、投稿から100日経ちました。

すでに毎日の投稿はライフワークになったので、これからもこのペースを維持していきたいとおもいます。


また、物語はこれから大きく展開していく予定です。まだ登場人物紹介に出ていないキーマンの名前が出てきましたね。




ご意見・ご感想・誤字脱字の指摘等があればよろしくお願いします。

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