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GunZ&SworD  作者: 聖庵
1/185

シーン 1

挿絵(By みてみん)


この作品は未発表のオリジナル作品になります。

作中には一部、流血等の過激な表現が含まれる場合がありますのでご注意ください。


登場する人物・団体等はフィクションですが、一部、使用する道具等は実際の名前をそのまま流用しています。これはよりリアリティーを出すたのめ演出です。


著作等実害を及ぼす影響のある事柄を発見された場合、内容を変更することがございます。

発見された方は速やかにご連絡ください。


最後に、原則、転載は禁止です。

使用する場合は必ず許可を取っていただくようお願いします。




尚、この作品は“ド”素人の作者が綴る物語です。

読んでいる最中、読みにくい言い回しや誤字誤用が見つかるかもしれませんがご了承ください。

また、原稿を事前に携帯で起こしているため、「予測変換」により、まったく不自然な文字等が含まれる場合があります。

注意して投稿をしていますが、見つけられた場合はご連絡ください。


作者も人間です。褒められて伸びるタイプですので、中傷的な批判にはご注意ください。

作者ならびに他の読者に不快を与える内容の感想が見つかった場合、感想を削除させていただくことがあります。(原則2012/03/12以降のモノ)


本作は娯楽作品です。プロが書くような本格的な文学小説をご希望の方はご注意ください。

ただし、作者もプロが書いたような作品に近づけるよう努力をしています。

不定期に改稿も行っていきますが、原則としてストーリーを改変するような大幅な変更は行いません。読みやすい作品になるような変更が中心になります。



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2012/03/07 改稿

2012/03/12 前書き変更・再改稿

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例えばの話、この世界がおとぎ話やゲームの中のような剣と魔法が支配する世の中だったら、僕は真っ先に死んで誰の記憶にも残らないだろう。

元々僕にはそんな資質は備わっていないのだから。

だから僕は剣と魔法が支配するファンタジーの世界に興味などはない。


ただ、現実は理想とは違っていた。

僕は何故か見知らぬ異世界の片隅、毛足の短い草原地帯に一人で佇んでいる。

手には鈍色に光る小型の拳銃が一丁に、普段から着慣れた体操服のジャージという出で立ちで。

手にしている銃には見覚えがあった。

そう、仲間たちとサバイバルゲームに興じていた際に愛用していた“M1911”、通称『コルト・ガバメント』と呼ばれる自動拳銃だ。

しかし、元々は遊び道具として購入した物とは違い、実際に手にしているのは紛うこと無き実銃。


この拳銃には不可解な点が三つある。

まずは重さ。

手にした事がない実銃はもとより、愛用していたモデルガンの重量よりも遥かに軽かった。

その重さは愛用していた携帯電話とほぼ同等か少し軽い程度。

もう一つは本物の“.45ACP弾”、つまり実弾を発砲すること。

おまけに弾倉には特別な魔法がかかっており、何発撃っても弾切れになることはない。

かいつまんで聞いた説明によると、銃身そのものに反重力と時空間を歪める魔法がかかっており、無制限に弾を発射できるのだとか。

銃身に使われている素材は『オリハルコン』と呼ばれる宇宙一硬い金属で、その特性上、オリハルコン同士でなければ加工や破壊することが出来ない。

つまるところ、ゲームの世界で言うならチート武器というべきか。

使用するにあたってはリロードを必要とせず、メンテンナンスフリーかつジャムる心配もないという優れものだ。

また、何故ジャージ姿なのか、この点については情報が少ないためよく分かっていない。


ここで僕がこの世界に迷い込み、何故拳銃という物騒なものを手にしているのか、今一度思い返してみる。

記憶に残っている範囲で言えば、アレは体育の授業中だったはずだ。

選択科目のソフトボールの真っ最中で時刻は正午過ぎ。

僕は試合中で二度目のバッターボックスに入りバットを握っていた。

元々、小学生の頃に地元の軟式野球チームに所属していたので、腕にはそれなりに自信もある。

前の打席も一塁打を放って出塁していたので、手応えも感じつつ心地いい緊張感が満ちていた。


そんなこともありこの打席でも出塁してやろうと、甘い球を待ちながらフルカウントを迎えた。

相手チームのピッチャーは僕を打ち取ればチェンジという場面で、先ほど被安打を浴びていることもあり配球は慎重だ。

そして何度かの投球で苦手なコースも把握したらしい。

ちなみに苦手なコースはインコースの高め。

何故か手が出てしまい空振りをしてしまう。

思い切り振り抜いているので当たればヒットだが、当たらなければ無様にバットが空を切るだけだ。

ピッチャーは緊張した面持ちでキャッチャーとアイコンタクトを交わし、ボールを握り直して投球の姿勢を見せた。

投じられたらボールは寸分の迷いもなく顔面に向けて一直線に飛んでくる。

きっと普段なら避けるなりして直撃だけは免れていただろう。

本能が危険を察知すれば避けるのは当然なのに、その時は何故か向かってくるボールがスローモーションに見えた。

咄嗟に逃げようと試みたものの、身体は金縛りにでもあったように微動だにしない。

次の瞬間には顔面に激痛が走り、視界が暗転して意識がなくなっていた。


辺りが真っ暗な場所で意識を取り戻した僕は、もがくように光を探した。

元々暗いのは苦手だし、何より今の状況を把握したい一心だった。

辺りは妙に静かで、まるで世界で一人ぼっちになった気分だ。

不安な気持ちで居ると、闇の中を漂う小さな光を見つけた。

ちょうど闇夜を漂うホタルの光のように光っては消えを繰り返す光は、弱々しく光るばかりで消え入りそうだ。

すると光はフラフラと漂いながら僕のすぐ近くまで寄ってきて制止した。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」


突然、光から謝罪の言葉が何度も紡がれた。

僕は訳が分からずパニックの一歩手前で何とか踏みとどまり、この光が何者なのかを確かめるために様子を窺った。

ただ、待てど暮らせど謝罪の言葉しか聞かれず、ますます意味が分からない。

一つだけ分かるのは謝罪の声が若い女性によるものだと言うこと。

声の感じから十代かそれより若い印象。

一言で表すなら幼いと言うべきか。

もしかしたら幼女なのかもしれないが、今のところそれを確認する術はない。

だからと言うわけではないが、謝罪を続ける光に対して横柄な態度ではなく、恐怖心を植え付けないように心掛けることにした。


「…あの、何で謝るんです?」


聞いたのは簡単な質問だ。

まずは何故謝られているのかを問いたださなければ話が前に進まない。

問いかけた言葉も敬語だし、日本語が通じるのであれば最適の言い回しだろう。


「…ごめんなさい。私の手違いでアナタを死なせてしまいました。ごめんなさいごめんなさい…」


光の説明が確かなら詳しい話はこうだ。

声の主は“死を司る神”、つまるところの“死神”だと名乗った。

そして、この光があらゆる生物の寿命を決めているとも。

死神と言っても、おとぎ話やファンタジーの世界に登場するような、髑髏を模したおどろおどろしい人相をしているわけではないらしい。

実体は感情が集約した“意識体”というのが正式な呼び名だという。


ただ、死神として活動を始めたのが最近のことらしく、不慣れから何かの手違いで今日亡くなるはずの他人の寿命が僕にすり替わってしまったのだとか。

ちなみに僕の死因はソフトボールが頭部に当たり、脳挫傷から脳内出血へと至り…ということのようだ。

だから現実世界にある僕の肉体は死に、魂だけがあの世とこの世の狭間であるこの真っ暗な空間にいる、と言うことを丁寧に教えてくれた。


「…なるほど。手違いで僕が死んだ?バカな。今は肉体がなくなって魂だけ?信じられるはずがない」


疑いたくなる気持ちは誰でも理解してくれることだろう。

現に僕という意識はこの場所にあってこうして会話もしている。

真っ暗で上下左右の感覚も分からない空間には居るが、自らの手で身体を触ることだってできた。

この認識が間違っているとすれば、あとは夢を見ていると思うのが普通だろうか。

だから何をもって死んだというのか、死因だけを説明されただけでは理解に苦しむ。


「…では、こちらをご覧ください」


そう言って一瞬眩い光が放たれると、小型テレビほどの薄っぺらい画面が空中に浮かんだ。

画面には集中治療室と思われる病室で横たわる僕の姿があり、眉間の辺りにはボールがぶつかって出来たと思われる大きな丸いアザも見える。

ただ、本来なら繋がれているであろう人口呼吸器は取り付けられてはおらず、傍らの心電図は電源が入っていない状況だった。


ベッドサイドには白衣を着た老齢の男性医師が沈痛な面もちで立ち尽くし、続けて一報を受けたと思われる母親が画面の外から駆け込んできた。

母親は昼間近所にあるスーパーでレジ打ちの仕事をしているはずだし、今日もその予定だったと記憶している。

よく見れば大手スーパーが支給する制服姿だったので、仕事を放り出して駆け付けたようだ。

医師は動揺する母親を諭すようにゆっくりと状況を伝えると、それを聞いた母親はベッドに塞ぎ込む形で僕の手を取り涙した。


「…何だよ、これ…」

「これがアナタの現実に起きてしまったことです。残念ですが…肉体が死んでしまったため、あちらの世界へは戻れませ」

「…ふざけるなッ!」


気が付くと頭に血が登り声を荒げていた。

誰かに怒りを向けたのはいつぶりだろうか。

いつか思い出せないほどだ。

自慢ではないが、よほどの事がない限り怒ったりはしない。

もちろん理不尽なことであればその話は別だ。

たった今ここで見せられたら光景は冗談でも許されるものではない。

特に母親が泣いている姿を見せられては平然としていられるほど冷徹ではなかった。

突然怒りをぶつけられたことで光は弱々しく瞬き、ロウソクの炎を吹き消す程度の吐息でも消えてしまいそうなほど弱っている。


「…本当にごめんなさい。私の不注意でこんなことになってしまって…」

「謝って済む問題じゃないだろ!何とかならないのか!!」

「ごめんなさい…私ではどうしようもありません…」

「ふざけてる…。おい、元の世界に戻せよ!お前、死神って言うからには神様なんだろ?何とかしろよ!なぁ、ハッキリ言えよ」


たたみかけるような見幕に気圧され光はさらに萎縮してしまった。

今は虫の息といった僅かな光を放つだけだ。

光が言うように不慮の事故というなら、相応の弁済や補填があってしかるべきだ。

相手が紛いなりもにも自らを神を名乗るなら、人智を超えた奇跡によって救済されるべきだと期待しても余りあるほど。


「…ごめんなさい。それは出来ません。だから…こうして謝っているのです」


すでに何度目か分からなくなった「ごめんなさい」だ。

実のところこうして息巻いてはいるが、言葉とは裏腹に心底腹を立てているわけではない。

世間体があるので公には伏せているが、それなりに幼女趣味がある。

具体的な守備範囲を追求されれば返答に困ってしまうが、幼ければ幼い方がいい。

あえて言えば赤ん坊以上、中学生未満といったところか。

だから、現実世界に戻れないという説明よりも、幼女(仮)の謝罪をもっと聞いていたいと思っていた。

これが俗に言う「ドS」という属性らしい。

萎縮してだんまりを決め込んだ幼女(光)を見据えながら、次に起こる状況を期待している僕が居た。


何故そう思えているのかと言えば、この状況があまりに突飛で現実感がないからだ。

加えてベッドに横たわる僕の肉体も、死んだと言われなければただ寝ているのと変わらない。

この冷静さの中で、ふとボールがぶつかった瞬間のことを思い返した。

本当に避けれなかったのだろうか。

僅かでも身体を反らしていれば致命的にはならなかったかもしれない。

事故とは言え不意な出来事に対応できなかった僕のミスと言えなくもない。

そう考えれば誰だってミスはあるのだ。

その相手がたまたま神様で、死という取り返しのつかないミスを犯し、それに巻き込まれてしまったという話だ。

人間同士の世界なら車の運転を誤り接触事故に…といったところだろうか。


決してそれだけで納得できるはずもないが、生物である人間はいつ死ぬのか分からない。

今回は死因が事故だったけれど、病気でも簡単に死んでしまうことだってある。

普段の生活が当たり前すぎて生きているのが普通だと思い込んでいたが、冷静に考えればいつも死と合わせだと気が付いた。

元に戻れないのならば僕はこの先どうなるのか、気になるのはそこだった。


「…で、俺はこの先どうなる?」


出来る限り低い声でゆっくりと言葉を紡いだ。

気分は昭和の匂いがする映画俳優。

イタリア製の高価なスーツにサングラスを掛け、葉巻でも咥えていれば絵になるだろうか。

もちろん、頭に「や」の付く怖いお兄さんたちを意識していないと言えば嘘になるが、ここは敢えて触れないでおく。


「…そうでした。アナタをこの空間に留めていたのはその理由です」

「…ほぅ?言ってみろ」


もはや自分でも恥ずかしくなるくらいのなりきり振りに少し寒気がした。

それでも、当の幼女は不審に思う様子など一切ない。

努めて冷静さを保とうとする心遣いが言葉から伝わってくる。

神様とは言え精神構造は人並みなのだろうか。

それを計り知ることはできないが、出来る限りの期待と下心を込めて見守ることにした。


「…それでですね、元の世界には戻れませんが、別の世界でならやり直すことは可能です」

「別の世界でやり直す?」

「そうです。アナタが望むなら、ですが。それが叶わぬ場合、本当の死を迎え、ココに残っている自我が失われます。それらを踏まえた上で、こちらとしては可能な限りの要望に応える用意があります」

「じゃあ何か、金持ちの家に生まれて人生をやり直したいと言っても叶うのか?」

「それをアナタが真に望むのであれば」

「ふむ…」


つまり要望を言えば可能な限りの条件を叶えてくれるということらしい。

気分は世界中に散った不思議な玉を集めて空と飛ぶ爬虫類の神にお願いを…みたいな話だが敢えて触れないでおこう。


「何でもいいんだな?」

「可能性な範囲であれば何なりと」

「少し時間をくれ。話が急すぎて冷静な判断が出来ない」

「わかりました」


しばらく考える時間を確保した。

まず最初に思い付いたのは現実的な要望だ。

今まで能力も才能も中の中で生まれ育ってきたのだから、それ以上を望むのは自然な流れだ。

次の人生は博学多彩なんて言うのも悪くない。

出来れば頭の回転がよく、運動神経が抜群で器量も良ければ文句はない。

それでいて異性にもモテるとなれば最高だろう。

要望の一つはこれにしよう。


次は世界観だ。

物質文明が発達した現代も捨てがたいが、現代社会は経済が煮詰まってきている感がある。

それよりも発展性が見込める時代背景を選ぶのも手だろう。

特に中世のヨーロッパには以前から興味があり、肌身で感じてみたいと思う時期もあった。

それらを考慮して時代背景は中世頃のヨーロッパとしたい。

ある程の要望が決まったところで幼女に伝えることにした。


「要望が決まった。俺を中世頃のヨーロッパで転生させてくれ。あと、身体能力は今より飛躍的に向上させてほしい。そうだな、今ある能力の数倍程度がいいだろう。あまり飛びぬけていても化け物だからな。あとは今まで身に付けてきた知識と技術をそのまま引き継いで欲しい。出来ればお前が考え得るボーナスもつけてくれると助かる」

「ふむふむ…。なかなか面白い要望のようですね。特に私が考えるボーナスという部分が気に入りました。分かりました、それでは極力条件に合うよう、アナタの記憶を頼りに転生する世界を構築してみましょう」


そういって幼女は力強く輝いた。

まるでカメラのストロボのようで、直視していた僕は思わず目を背けてしまった。


「…構築が終わりました。できる限りご要望通りの世界へ案内することができそうです」

「何か、簡単に言うんだな?まぁいいや。その条件通りに頼む」

「分かりました。では、次に目覚めた時、アナタは二度目の人生を歩むことになるでしょう。末永くお幸せに…」


そう言い終えると幼女の声がする光は闇に溶けていった。

次の瞬間には外から胸を強く叩き付けられるような感覚に襲われ、すぐに意識が遠くなった。

これが死というものなのだろうか。

深い眠りに落ちていく感覚に似ていた。


ここまでがこの世界に迷い込んだ経緯だ。

そして今に至る。

直後に脳裏で声が聞こえた。

内容からこの世界の状況を断片的に説明した自動音声のようだ。

補足するように幼女自身が言うのだから間違いはないだろう。

説明によるとこの世界は『ブレイターナ』と呼ばれ、中世頃のヨーロッパをモチーフにした場所だとのこと。

つまりこの場所は中世のヨーロッパではない。

中世のヨーロッパとよく似たまったく別の世界だ。

むしろ、今まで暮らしていた地球とは違う惑星だろう。

そう実感させるのは、昼間だというのに空には二つの月が浮かでいたからだ。

太陽は一つだったが、見慣れているものより一回り大きい印象。

理系の知識にはあまり精通していないが、きっと地球よりも大きな惑星だと思う。

ただ、重力については地球と変わらず、身体に掛かる負担も同じだった。


続いて幼女はとんでもないことを伝えてきた。

ここ『ブレイターナ』は戦争が絶えない世界。

特に十数年前から三つの種族が対立し、戦火は大陸中に及んでいるという。

三つの種族とはヒューマン族、ドワーフ族、エルフ族の三者。

特に精霊の加護を受けるエルフ族は魔法を操り、原始的な武具のみで戦うヒューマン族とドワーフ族は覇権争いから一歩後退しているようだ。

他にもゴブリンやオークに代表される亜人族が大陸中に分布している。

この他にも野生動物とは別に魔獣や魔物と呼ばれる怪物も多く存在しているらしい。


ここまでを聞いて思い出したことがある。

この世界観は数年前に発売された家庭用ゲーム機向けのRPG“Magic&Saga”、通称『マジサガ』と酷似していた。

世界の名前こそ違うが、ストーリーのコンセプトも“三つの種族が争い…”というものだった。

ストーリーとしてはよくありがちだが、全世界を巻き込んだ大戦『悠久の刻』と呼ばれる終末戦争を終わらせることが目的の王道RPGだ。

プレーヤーは最初に三つの種族からプレイする種族を選び、それぞれのストーリーを経て成長するキャラクターを操り種族の繁栄のために戦いを繰り広げていく。

つまり、これまでの話を整理するとここはゲームの世界観を元に構成された異世界ではないかと推測できる。

ただし、現時点ではそれを確認する術はない。

一つ気掛かりなのは、幼い頃から望んでいた平穏な世界ではないということだ。


最後に幼女は特典要素として、神の金属『オリハルコン』で創られた拳銃を用意していた。

この拳銃は前述の通り魔法が掛けられてはおり、俗に言うチート武器だ

また使用者の精神に感応してさまざまな力を与えてくれるのだとか。

ただし、このオリハルコンという特殊なアイテムは『マジサガ』の世界には存在していなかった。

これについてはこれから検証が必要だが、身の助けになるのは間違いなさそうだ。

説明を終えた幼女は最後に「ごめんなさい」と言って何も聞こえなくなった。


まだ状況を飲み込めたわけではなが、五感がこの世界を現実だと訴えてくる。

立ち尽くしたままでは状況が変わらないので、この場所から移動をすることにした。

まずは町を見つけるのが先だ。

食料も寝る場所もない今の状況は危機的と言っても過言ではない。


しばらく歩くと石畳でできた道が現れた。

明らかに人の手によるものと分かり、道の先には町があるのだろうと想像できた。

この惑星の自転方向が地球と同じなら、太陽は東から昇り西へ沈むはずだ。

その確率は二分の一だが、直感を信じて東と思われる方向を目指すことにした。

しばらく進むと道の前方に荷馬車の後ろ姿を見つけた。

第一村人発見と言ったところか。

僕は慌てて駆け寄ろうと後を追った。


ここで初めて気が付いたことがある。

身体が異様に軽いのだ。

まるで月面を飛び跳ねるような感覚。

力強く地面を蹴れば一歩で数メートルも先へと進んだ。

幼女にお願いをして身体能力を高めるようにと伝えたがまさかこれほどとは思ってもみなかった。

妙な感動を覚えているウチに荷馬車のすぐ後ろへたどり着くことができた。

そのまま横へ回り込み御者台に座る男の顔を確認する。

見た目は三十代半ばの中年男性。

ドワーフ独特の小柄で筋肉質な体格やエルフのみが持つ尖った耳という特徴はないので、僕と同じヒューマンに間違いはないだろう。

戦争が絶えないと言っても、種族が同じなら敵視される心配ないだろう。


「…あぁ、すまない。少し待たれよ」


キャラにもないヘンテコな言い回しで御者台の男に話しかけた。

さっきの映画俳優気分がまだ抜けていないらしい。

今さらキャラを変えるのもおかしいので、このまま通すことにした。


「えッ…?何者だい、アンタ!」


馬は人が歩くよりも少し早いペースで進んでいたため、男は慌てて手綱を引いて馬を止めた。

馬がいななき、車輪が僅かに土煙をあげる。


「私は旅をする者。道に迷ってしまい、近くに町か村があれば教えていただきたい」

「アンタ、旅人かい。武器は持っていないようだが、この草原を一人で渡るとは無謀なことを…」

「この草原には何かあるのか?」

「あぁ、たまにゴブリンが出るんだ。時にはオークだってが現れやがる。まぁ、運が良ければ出会うこともないだろうが…」

「そう言うアンタはどうなんだ?馬車には乗っているが、一人のようだが」


一見するとこの男も武器を携行していない。

荷馬車にあるとしても咄嗟の対応は難しいだろう。

しかし、男はニヤリと笑みを浮かべて見せた。


「心配ない。今日はハンターと一緒だ。荷馬車の中に居るよ」


『マジサガ』の世界観では、ハンターとは護衛役を意味する職業の者たちだ。

主に敵対種族や魔物との交戦を専門にする戦闘集団で、ハンターギルドという組織に加入している。


「なるほどな。それでは心配に及ばないだろう。それよりも最寄りの町について教えていただきたい」


脱線した話を本線へと戻した。

今にして思えば日本語が普通に通じていることは驚きだが、これも幼女の特典によるものだろう。

通じるに越したことはないので敢えて疑問に思う必要はない。


「この道を真っ直ぐ、人の足なら半日ほど歩いたところに『ローヌル』という田舎町がある。街道の宿場町のようなものさ。見てくれはボロだが飯の美味い宿もある」

「ローヌルか。主人、急ぎのところを邪魔をしたな。礼を言う」

「何、ヒューマン族同士なら助け合いは当たり前さ。他のヤツらなら話は別だがね。特にエルフなら八つ裂きにしてやりたいくらいだ」


男の目が怪しく光った。

どうやらエルフ族に私怨があるらしい。

詳しく聞くのは野暮なので敢えて聞かないことにする。

触らぬ神にというヤツだ。


「では、私は先を急がせてもらう」


それだけ言って教えられたローヌルを目指した。

驚くほど軽い身体は軽く足に力を入れるだけで周りの景色が目まぐるしく変わっていく。

草原にジャージ姿というのはなかなか絵にならないが、今はそんなことよりも身体を休める場所にたどり着きたい。

時計は持っていないので詳しい時間は分からないが、恐らく二時間ほど走っただろうか。

視界に町らしき家並みが見えた。

全速力ではなかったが、長距離の移動だというのに身体は思ったほど疲れてはいない。

体力は以前に比べて何倍も強化されているようだ。

今ならフルマラソンの世界新記録を塗り替えることだって簡単だろう。

こればかりは幼女に感謝をしなければならない。


町に着くなり突然若い女の悲鳴が聞こえた。

声の方を見ると全身が緑色の鬼のような化け物がサーベルを振り上げ、今まさに若い女を襲おうとしていた。

体格は一般的な成人男性と変わらないが、筋肉の付き方が異常で『筋肉達磨』のような風体だ。


僕は反射的に銃口を化け物に向け引き金を引いた。

発砲と同時に音速を超えた弾は、衝撃音を伴って化け物の利き腕の肩口に風穴を開ける。

化け物は持っていたサーベルを落とすと、奇声を上げて僕の方を睨み付けてきた。

本能的に攻撃を仕掛けた相手だと認識したのだろう。

口からは涎を垂らし、弾が貫通した右肩を左手で押さえながら全速力で突進してくる。

まさに捨て身の攻撃に対し、僕は躊躇わず頭に向けて弾を放った。

見事に眉間を撃ち抜いた弾は化け物の頭をザクロのように粉砕し、紫色の不気味な血液と脳漿を撒き散らして果てた。


思えばこれがこの世界に来て初めての殺しだ。

戦いというよりは一方的な暴力。

化け物は僕に敵意をもって攻撃を仕掛けてきたため、一応は正当防衛になるだろうか。

足元に転がる肉塊は人の形はしてるが、化け物に違いはなく不思議と殺してしまったことへの嫌悪感はない。

変わりにこみ上げてくる高揚感から少し興奮状態にあった。

この時初めて僕の中に巣くうドス黒い感情を知った。


「あ…あの…助けて頂いてありがとうございました」

「あ…あぁ、無事で何よりだ。怪我はないか?」

「えぇ、ゴブリンから逃げる途中にかすり傷を少し。この程度で済んで良かったです」


よく見ると二の腕に切り傷があったが、致命傷というわけではなさそうだ。

しっかりと手当てをすればすぐに傷口も塞がるだろう。

ちなみに化け物はゴブリンだったらしい。

亜人族に分類される野蛮な種族で知能は低いが好戦的でよく人を襲う。

というのは記憶に残る『マジサガ』の設定資料集より参照したもの。


「そうか。とりあえず無事で良かった。では、俺はこれにて」

「ま…待ってください。助けていただいたのですからお礼を…」

「ん?どうしてもと言うのであれば断る理由はないが、別に大したことはしていないぞ?」


与えられたらチート武器でモンスターを屠っただけ。

引き金を引くだけの簡単な仕事と言うヤツだ。

これがゲームの世界ならクソゲー確定になる。

ただ、あくまでもこの世界は現実だ。

頬を撫でる風も草原の匂いも、暖かい日差しも、紛れもない本物だった。

だから、この世界でいつかは遭遇するであろう命のやり取りをこの場で偶然行っただけだ。

言ってみれば思っていたよりも早くに経験したに過ぎない。


「いえ、命の恩人へのお礼です。お気になさらないでください」

「そうか。では厚意に甘えさせてもらおう」


助けたのはマリーナという女性で農家を営んでいるという。

歳は僕より二つほど年上。

世話好きの働き者という印象だった。

顔はどちらかと言えば綺麗で、髪型を変えて化粧をすれば男どもにチヤホヤされるだろう。

マリーナがゴブリンに襲われたのは町の外にある農園だったらしい。

農作業に向かった矢先、偶然居合わせたゴブリンと鉢合わせになり、突然襲われたのだとか。

今回は一匹だったため捕まる前に逃げることができたが、複数居れば殺されていただろうということだった。

あんな化け物が複数居たらと思うと背筋が冷たくなる。

僕もマリーナのように丸腰だったら全力で逃げるだろう。


案内されたのは木造の小さな小屋だった。

この世界に住む農民にとっては標準的な住居らしい。

家のすぐ隣には納屋があり、農作業に使われる道具が収納してあるようだ。

マリーナは年老いた母親との二人暮らしで、父親は彼女が幼い頃にオークに襲われたという。

今では母親を助けるためにマリーナが一人で農作業を行っているのだとか。


娘に経緯を聞いた母親は頭を下げると、急いで夕食の準備に取りかかった。

用意されたのは豪華とはいえないが腕によりをかけたという自慢の料理だ。

メインディッシュは野菜をふんだんに使ったポトフで、主食のパンは何故か二種類ある。

聞けば使われている小麦が違うらしく、一つはよく見る白いパンで、もう一つはライ麦を使った黒っぽいパンだった。

食感はどちらも食べ慣れた柔らかい感触ではなく、フランスパンのように固い。

見た目や食感からバゲットと呼ばれる種類のパンだと分かる。

ポトフはよく味が染みていて美味しかった。

この世界の味覚が現代社会に慣れた僕には合わないのではと少し心配していたが、これならば十分に満足できそうだ。


「如何でしょう?」

「美味い。久しぶりに美味い料理を食べた気がする」


もはや前世となってしまった現代社会が遠く思える。

あちらの世界ではコンビニ弁当やカップ麺が主食になっていた。

母親が仕事ということもあり、食事くらいは自分で済ませるようにしていたが、自炊には向いていなかったのが原因だ。

だから、工場で作られたものではない料理を食べたのは久しぶりだった。


「そうでしたか。重ね重ね娘を助けていただき、ありがとうございました」

「いやいや、礼には及ばない。ゴブリン程度なら何匹居ても問題はないだろうな」

「それは何とも心強い。レイジ様は見慣れぬ身なりをされていますが、異国からお越しでしょうか?」

「そうだな。日本というところだ」

「ニホン?それはどちらにあるのでしょう。帝都よりも遠いのでしょうか」

「あぁ、とても遠いところだ」


嘘は言っていない。

帝都がどこにあるのかは知らないが地球にある日本に比べれば近所くらいのものだろう。

帰ろうにも帰れない場所だから遠いと言っても嘘にはならない。


「レイジ様は不思議な武器をお持ちでしたね。あれは何という武器なのでしょう?」


マリーナは食事の手を止めて不思議そうに見つめてきた。

知的好奇心が旺盛なのか、それとも話が好きなのかは分からない。

どちらにしても会話のある食事は楽しいから、答えない手はなかった。


「これは銃という。引き金を引くと弾が飛び出して相手を撃ち倒す武器だ」

「弓やボウガンのようなものでしょうか?」

「まぁ、そんなものだ」


どういう機構なのか、素材は何かなど詳細を説明しても理解してもらえないだろう。

そうなれば、この世界で一番近い武器に例えておくのが当たり障りない回答だ。


「なるほど。そのようなものがあるとは知りませんでした。レイジ様はお強いのですね」

「強いという程でもない。たまたま相手が良かっただけだろう」


あまり自分を誇示してもボロが出るだけなので謙遜して損は無いだろう。

下手に目立てば怖いお兄さんたちに目を付けられないとも限らない。

前世では長いものには巻かれろの精神で生きてきたので、その習慣が抜けていないということもある。


「いえ、ゴブリンといえばハンターでもない限り数人掛かりで相手をする怪物にございます。見たところハンターの紋章をお持ちではないようですね」

「あぁ、ハンターではない。とある理由で旅をしているのだ。とりあえず帝都に向かおうと思っている」

「帝都でございますか。それは長旅になりましょう。ニホンに戻られるよりは近いとは思いますが」

「そうだな。急ぐ旅ではないからゆっくり向かうつもりだ」


旅と説明はしているが特に理由があるわけではない。

帝都に向かうと説明したのにも理由はなく、適当な理由として相手から得た情報をそのままオウム返しにしただけだ。

旅という理由も、闇雲に歩き回るよりは何か目的があった方がいいだろうと思ったから。

他人に説明するのも理由付けが簡単だ。

それに帝都であればいろいろな物や情報が集まるに違いない。

そこで新しい目標を見つけられればと思っている。

今、優先するべきは当面の生活に必要な資金と装備を集めること。

現代社会の常識を当てはめるなら、どこかで就職をしてとなる。

ただ、せっかく異世界に転生したのだからのらりくらりと生活をしたい気持ちもあった。

それをするにも何を生活の糧とするべきかが問題だ。

そんなことを考えていると扉をノックする音がした。


「はーい」

「ワシじゃ、アスリムトじゃ」

「あら、町長様。どうぞお入りください」

「邪魔をする。ここに先ほどゴブリンを倒した異国の者が居ると聞いてな、一度挨拶をと思ったのじゃ」


町長と呼ばれた男性はかなりの老齢らしく、頭髪も口髭も真っ白だった。

マリーナたちに比べて仕立ての良い服を着ているが、決して威張り散らすような印象はない。

どちらかと言えば人の良さそうな顔付きをしている。


「町長様、こちらの方が娘を救ってくださいましたレイジ様でございます」

「どうも」


僕は食事の手を止めて会釈をした。

こちらの礼儀についてはよく分からないが、頭を下げておけば誠意は伝わるだろう。

下手に横柄な態度を取るより印象は遥かにいい。

そういえば、さっきから“昭和の匂いがする映画俳優”の気分を引きずってマリーナたちに接している事に気が付いた。

無意識だったとは言え、さすがに村長にもタメ口で話すのはまずいだろう。


「これはまたお若いお方だ。おっと、申し遅れました。私は町長のアスリムトと申す者。町の者を

助けていただきありがとうございました。近頃、町の近くをうろついていたゴブリンには困っておったところでございます」

「そうでしたか。お役に立てたのならこちらも幸いです」

「レイジ様はニホンという異国からお越しで、旅をされておられるようです。町長様はニホンをご存知でしょう?」

「ニホン…申し訳ない。それはどちらにあるのでしょう?

「帝都よりも遠い場所…といったところでしょう」


町長も日本についての知識はないようだ。

ただ、二人とは違い特に驚いた様子は見せなかった。

町の長たる者、多少のことでは動じないといったところか。


「そうでございましたか。それはそれは長旅でお疲れでしょう。お疲れと言えば今宵の宿はお決まりでしたかな?よろしければ私どもがご用意させていただきたく思います」

「いや、ここへはまだ着たばかりで決めてはおりません。ご紹介くださるのでしたら幸いです。ただ、今は持ち合わせの方が…」

「その点でしたら心配に及びません。宿には私から話しておきましょう。では、お食事が済みましたら宿へお越しください。宿の場所はマリーナが知っております」


町長が親子のどちらかへアイコンタクトを送ったのが見えた。

たぶん町に宿は一件か二件、その程度の数しかないのだろう。

そうでなければ何か目印になるものがあるのかもしれない。


食事が終わりマリーナの案内で宿へと向かった。

宿は四階建てと立派な佇まいで、一階は酒場になっている。

途中、この宿の経営者が町長の親類なのだと教えてくれた。

町長がマリーナなら知っていると言っていた理由はこれだと分かると妙に納得してしまった。

受付には町長によく似た男性が立っていた。

ただし町長よりかいくらか若い印象で、彼が宿の主なのだろう。


「こんにちは、アルトラさん。レイジ様をお連れしました」

「おぉ、アスリムトから連絡を受けているよ。あなたがそうでしたか。いや、お若いのにお一人でゴブリンを倒すとは信じられませんな」

「何、ゴブリンに後れをとるようでは一人旅などできませんからね」

「そうですな。あぁ、申し遅れました。私はこの宿の主をしておりますアルトラと申します。以後、お見知りおきを」

「私はレイジ。訳あって旅をする者です」

「そうでございますか。長旅でお疲れでしょう。部屋の準備は出来ておりますのでごゆっくりおくつろぎください。今、係の者をお呼びします」


そういうと主は受付を離れて奥へと消えた。

しばらくすると客室係と思われる若い娘を連れて戻ってきた。

フリルのあるメイド服を着ている。

宿の制服なのだろうか。

見ているだけで目の保養になる。

ただ、あまり見つめていると不審に思われるので、平常心を心がけた。

気分は紳士と胸の中で何度もつぶやきながら。


「この者がお部屋にご案内いたします。ご不便があれば何なりとお申し付けください。尚、お代は町長より頂いておりますのでお気になさらず」

「すまない。ではご厚意に甘えさせてもらおう」


客室係の後について階段を登り四階へとやってきた。

上へと登るたびに室内の造りや調度品が豪勢になっていき、最上階である四階はさながら高級ホテルの一室といった造りだ。


「スイートのお部屋になります。では中へどうぞ」


客室係の言葉が本当ならスイートルームで間違いはないらしい。

スイートというだけあり、天井が高く丁寧な細工を施したシャンデリアがら下がっている。

四階という高さは町を一望できとても見晴らしがいい。

町中にはこの宿より高い建物もなく町を見渡すことが出来た。

調度品も素人目ながら高価そうな物ばかりで、贅の限りを尽くしているといった印象だ。

ベッドに腰を下ろすと程よい反発があり、ぐっすりと眠れるのではと思える感触がある。

枕も羽毛が詰まっていて気持ちよかった。


「…ご満足いただけましたでしょうか?」

「えぇ、とても。素晴らしい宿だとアストラさんにお伝えください」

「かしこまりました。では、ごゆっくりおくつろぎください」


そういって深々と頭を下げると客室係は去っていった。

もはや前世の話ではあるが、人生の中でホテルに泊まった経験は数えるほどしかない。

下手をすれば両手で数えられる程度のはずだ。

そんな数少ない経験の中でもスイートルームに泊まった経験などあるはずがなく、この先もずっと無縁なのだろうと思っていた。

客室係が去ったのを見計らい、僕は再びベッドにダイブした。

まさかジャージ姿でキングサイズのベッドに横たわるなど夢にも思っていなかったし、ましてや夢の中でもあり得なかっただろう。

それが今、見知らぬ異世界で現実になった。

無料で泊まれるとなれば少し身構えもするが、これも人助けをしたご褒美といったところか。


ふと気になってポケットの中に入れていた拳銃を取り出してみた。

よくよく観察すれば引き金に使われるバネの強度も細部に至る細工も本物と同じように造られている。

本来、この程度の小型拳銃であれば弾倉を含めると一キログラムはあるだろう。

それがこの銃にはない。

質量がないわけではないがとても軽いのだ。

ただ、これが玩具でないことは先ほど倒したゴブリンでも実証されている。

銃身から飛び出した際に聞こえたソニックブームの音は明らかに本物のそれと同じだ。

破壊力も申し分ない。


それに幼女の話では時空間をねじ曲げる魔法が掛けられてはいるという話だった。

具体的には何発弾を撃っても元の状態に戻るというものらしい。

試しにマガジンを抜き残りの弾を確認してみることにした。

この手の実銃は十発前後の弾を内蔵できるが、比較的グリップのサイズが小さいこの銃では八発が上限だった。

残った弾を数えて見ると八発あり、使用したはずの薬莢にも弾頭が残っている。

つまり幼女の言葉通り何発撃とうともリロードが必要でないというのは事実のようだ。

まさにチート武器の名に恥じない仕様といえる。

旅の途中でゴブリンや野党に襲われる可能性は十分にあるのだから尚更便利な代物だ。


マガジンを元に戻して再びポケットの中にねじ込むと、ベッドの上で大の字になり天井を見つめた。

ある日突然この世界で生きていくという現実を突きつけられたが実感はまだない。

ただ、今は満腹になった満足感と柔らかなベッドの感覚が眠気を誘い、そのまま意識が遠くなった。

2012/03/08

本文全体を改稿。(内容の変更はナシ)

2012/03/12

前書きを含めた全体を改稿。(内容に変更はナシ)

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