監禁
あたりが、暗い。たぶん、廃墟になった建物の中だろう。エミリオはうずくまって寂しさを紛らわせていた。
閉じ込められるのなんて、慣れている。強がりではなく、本当に。
ただつらいのは、そばに昴がいないこと。きっと、今頃、追手と凄惨な戦闘をしているんだろう。好きな人の一大事に、自分がいないことが嫌だった。エミリオも、戦闘経験は浅いにしろ、銃撃に関してだけは一級品だった。二人で戦えば、きっとなんとかなる。そう説得した。
でも駄目だった。
追手がいきなり強くなるなんて、反則だ。今までは昴の足元にも及ばなかったくせに、大将は追手をいつの間にか強靭にしておいたらしい。もちろん、そんな程度でやられるわけもなく、二人は善戦したつもりだ。
だが、ここで初めて追い込まれた。相手の数と質が上等すぎた。単純な数からして、勝てるはずもなかった。
たぶん、修羅場をなんども潜り抜けてきた昴は正攻法での勝ち目がないことをわかっていた。だから、エミリオをとっさの判断でここに監禁した。
帰ってくるまで、おとなしくしてろと、念を押されもした。それを破ったくらいで絶交するような昴ではない。が、昴の頼みとあれば、それを受け入れなければならないのも確かなのだ。
昴との約束というか頼みのようなものを、自分一人が破っていいわけないのだ。
でも、一番近くにいて彼を助けたいのも本心だった。エミリオは、ずっとそうして矛盾した心と葛藤していた。
「早く、追手が全滅すればいいのに……暴風に巻き込まれるとかして」
エミリオはすねたようにつぶやいた。実際、そう願ったところでかなうはずないのは痛いほどにわかる。
「暴風だけじゃダメかな。しぶといから。……うーん、悪魔にでも捧げたらいいのかな」
建物の崩れかけた窓から、光が差し込む。月の光が、廃墟内を淡く照らしてくれていた。もう、夜だったのだ。
そういえば、昴が自分をここに監禁して出て行ったのが昼ごろ。もう帰ってきてもいいはずなのに。
……もしかして、捕まっちゃった?
不安でつぶれそうになる胸を、エミリオは落ち着かせる。
出ていくとき、昴はなんていった?
「大丈夫。すぐ帰ってくるさ」
すぐっていつなんだろう。夜が明けてもすぐのうちに入るのだろうか。
エミリオは膝に顔をうずめた。ただ守られるだけじゃなく、守りたい。なのに、それすら許してくれないなんて、少しだけ昴が恨めしい。
「僕だって、強いんだよ」
昴や追手ほどには遠く及ばないが、昴の敵を撃ち殺すくらいには、強いんだ。だが、いまさらそれを毒づいたって、昴が聞いてくれるはずもない。彼はこの場にいないのだから。
神様、いるなら助けて。
あの人を、死なせないで。
神様なんて教義上の産物だとしか思っていなかった自分が救いを求めるのも都合がよくておかしな話だ。だけど、エミリオは本気で祈った。
僕の代わりに、あの人を守って。
神を描いた絵画も彫刻もない。その代わりに、エミリオは月にひたすら祈っていた。
どこまでいくんだろうこのシリーズ。そろそろ佳境かと思うのですが、エンディングが多すぎてわけわからなくなりそうです。作者なのに。