覚醒
二人の密会は、割とすぐに発覚した。エミリオの両親は早くに気づいていたらしい。気づいたときになぜ問いたださなかったのかというと、確実な証拠を得るためにずっと泳がせていたのだという。ロックウェル兄弟もそれには気づかなかった。エミリオの密会が円滑に進むために、この兄弟はいろいろと根回しをしていた。間違っても密告はしていない。
その現場をつかんだ両親は、言い逃れできないところを武器にエミリオを処罰するつもりで彼のもとへ来た。
「おまえ、親に隠れてこんな……!」
おもに怒り心頭なのは母親のほうだった。密会のばれた本人はそれほど驚いていない。驚いているといえば驚いているが、何よりも両親至上主義だった自分がここまで冷静でいられることに驚いていた。
「こんな、なに?」
エミリオは落ち着き払った状態で、首をかしげる。
「こんな、どこの馬の骨ともしれない、得体のしれない東洋人にうつつをぬかして!!」
よくわからないが、昴をあらん限り侮辱しているということは、エミリオには伝わった。
ずっと一緒に、彼とずっと一緒にいたいという願いは、この両親がいる限りかなわない。それ以上に、自分の好きになった人をここまで侮辱されて黙っていられるほど、エミリオは大人ではなかった。
むしろ、彼は感情の高ぶりを収める術を知らない子供なみに、幼かった。
だから、彼が最悪の行動に走ってしまうことは、当然。
無意識に、持っていた拳銃の引き金を、恐ろしいほどにためらいなく、引いた。
乾いた銃声が部屋に、二度響いた。一発は母親に、もう一発は父親に。
肩が少しだけじんじんする。眉間を確実に打ち抜かれた二親は、おそらく即死した。
死体と化したその二人は、バランスを保つ意思も力もなくなり、その場に倒れ伏した。
「だって、昴のことを悪く言うんだもん」
誰に対していいわけなのか、少なくとも生きている人に対してではないだろう。ことの顛末を、昴も、ロックウェル兄弟も見ていた。見ていて、何もできなかった。母親のヒステリーにエミリオが逆上するなんて、誰が予想できたのだろう。ある程度のところまではわかっても、一線を越えた行動に走るなんて思ってなかったのだ。
「でもこれで、心配ないね。邪魔する人、もう動かないもん」
エミリオの無邪気さは、今この場ではただ恐ろしい。青ざめて何もしゃべれない兄弟より、昴のほうがまだ落ち着いていた。
「ねえ、昴。だから一緒に行こう?」
差しのべられた手を、昴は簡単にとった。
「びっくりしたー。お前、筋がいいどころじゃねーぞ。眉間ブチ抜いてんじゃねーか。もうこれ以上強くなったら向かうとこ敵なしだな」
この状態で、昴は笑っている。驚いたのは、エミリオが強行に走ったことではない。彼の、射撃の腕前に感嘆しただけだ。
つまるところ、昴の思考回路も常識人とは一線を越えていたのだ。
「あ、兄さんたち。死体は僕が片付けとくから、部屋に飛び散った血とかきれいにしておいてくれるかな」
「え、あ。……片付けって?」
「えー、決まってるでしょ。焼くんだよ。焼却炉で。このままだと虫とか湧いちゃうじゃん」
まだ放心状態の兄弟を現実に引き戻したのは、エミリオのおかしな言動だ。人を二人も殺しておいて、ここまで冷静でいられる弟分が、末恐ろしかった。
「というわけで、昴。これふたつ、焼いたらすぐにでも行こうか」
「おうよ」
ついでに、この狂った弟分に恐れを抱きもせず、平然と会話をこなしてみせるこの男にも一種の恐怖を抱いた。
ついにヤンデレ覚醒です。長かったー。もう一つの連載と並行したり、次々にぽんぽん思いつくネタを短編にアップして寄り道したり。なるべくこっちを進めたいです。