第43話 エカーリアとミナ
エカーリアの精神的問題点は…
その同じ日、ミナはフィルベラに呼び出され、城を訪れていた。一つしかない豪華なドレスと、リドリーに手伝わせたヘアスタイルと化粧で城を夫人と歩いていると、もうすっかり貴族の令嬢のようだった。
「エカーリアが、やっとあなたに会ってくれるというので、わたくしもホッとしたわ。わたくしは案内をしたらすぐに部屋を出るので、あとはよろしくお願いね」
そう前置きして、フィルベラはエカーリアの部屋のドアに立つ。
侍女が扉を開けて「侯爵夫人がお越しでございます」と告げた。
ミナは夫人の後ろについて、部屋の中に入っていった。
ソファには人形のようなきれいな娘が座っている。やわらかな金色に近い髪の毛は、サイドをみつあみにして、後ろでひとつに束ねられ、流れる金髪はカールにしてまとめられていた。色白の肌に、母親譲りの大きな緑の目だ。あまりしゃべらないせいか、唇は小さく、しっかりと結ばれていた。
(全然黒髪じゃないし…)
ミナはまったく似ても似つかぬ外見にあきれていた。
(本当に、城から出たことがないってことか…)
「エカーリア。こちらが前にお話ししたミナよ。今日は、あなたに興味のある話をしてくれるわ。楽しんでちょうだいね」
「ミナにございます。はじめまして、エカーリア様」
ミナはドレスの端をつまんで一礼した。
「ええ、こんにちは…」
エカーリアはほとんど聞こえないくらいの声で挨拶をした。
「では、わたくしはこれで失礼するわ。あとはお願いね。何かあったら、侍女のリラに声をかけてちょうだいね」
そう言って、フィルベラは部屋を出た。
リラと呼ばれた侍女はスカートの端を持ち、軽く会釈する。
ミナは緊張していた。人とほとんどしゃべらないという子に、何を話しかけていいのかわからない。
「あの…」
なんと、エカーリアから話しかけてくれそうだ。
「ミナさんは神隠しにあったとお母様とお兄様がおっしゃっていたわ。それは本当ですの?」
「え、…ええ。本当ですわ」
「それ、どんなふうに起きたのですか? それをお聞きしたかったのです」
「まあ、そんな話でよろしいのですか? わたくし、おもしろい話はいろいろ存じておりますけど」
ミナは少しラクになった。にっこりと笑う余裕ができた。
「ええ、まずはそれをお話しください」
「かしこまりました。では最初からお話ししますね」
リラとその部下の侍女たちがお茶を運び、テーブルの上にティーカップとお菓子の皿が並べられた。
「わたくしは、もともとアメリカという国の中の、カリフォルニアという場所で働いていたのでございます…」
ミナは最初から詳しく話すことにした。どうせネトフリの話をするつもりで来たので、エカーリアにとっては、どれもこれもファンタジーに思えると思ったからだ。
「…で、アイという人工知能の友人がいまして…」
「”じんこうちのう”とはなんですか?」
「それは、人間の考える力を再現した、魔法のようなものでございますね。姿はないのですが、話しかけるとまるで賢者のような答えが返ってくるのです。
とても便利なのですよ。1か月に4ポルを払うだけで、この賢者を誰でも使えるのです」
エカーリアは目を見開いた。
「で、ミナさんはどのようなことをその賢者に聞くのですか?」
「わたくしが聞くのは、自分の担当している商いの手順や予測に間違いがないか、ということです。
賢者はどんな人よりも賢いので、未来予測をしてくれ、起こりうる危険性や、得られる利益などを計算してくれるのです。どこをどう直せばもっと良くなるかなど、いつも答えてくれます。賢いでしょう?」
ミナはだんだんとエカーリアと友達のように話せるようになった。
「それからどうなったのですか?」
「同僚が、窓の向こうの飛行船を見ていました」
「”ひこうせん”…とは?」
「空に浮いた巨大な風船のようなものです。それは、人間が乗ることもできますが、あまり実用的ではないので、広告…お知らせに使われます。『今夜はおもしろいお楽しみがありますよ。早く帰ってきてね』などというお知らせです」
「まあ…。空を飛ぶのですか?」
エカーリアは信じられないというふうに目を見開いている。
「はい。でも、わたくしたちが普段空を飛ぶのに利用するのは、飛行機と申しまして、もっと速く飛べる巨大な鷲のような形をした乗り物でございます」
「まあ…。巨大な鷲のような乗り物? それはどのようなものなのでしょうか。詳しく教えてください」
エカーリアはだんだんと声も大きくなって、ミナの話を真剣に聞いていた。
ミナも話すのがおもしろくなって、すっかりと話にのめりこんでしまった。
「エカーリア様、ミナ様、もうそろそろ、お時間でございます」
侍女のリラが止めるまで、なんと3時間も話してしまっていた。
「まあ、いくらなんでも、初めてお邪魔いたしましたのに、長居をしてしまいました。エカーリア様、わたくしはこれで失礼いたします」
そう言って、立ち上がって礼をすると、エカーリアも立ち上がって、
「ミナさん、また明日も来てくださいますか?」
と心配そうに言った。
「あ、…明日は参上できませんが、5日後ならば…」
とミナもつい言ってしまった。
「まあ…それは残念です…」
「でも、そんなに喜んでいただけるならば、次はもっと、仕事を早く切り上げて、またお話に伺わせていただきますわ。今回はまだ準備ができておりませんでしたから…」
「わかりました。約束ですよ。ぜひまたお話を聞かせてくださいませね」
エカーリアは泣きだしそうな顔をして別れを惜しんだ。
ミナは侍女に連れられて、フィルベラの部屋にもどっていく。
「どうでしたか? ミナ」
「はい、大変喜んでいただきました。また5日後に、来させていただくことになりました」
「まあ、それはよかったわ! あの子はあなたが気に入ったのね!」
そう言うと、心配げな様子から一挙に笑顔になった。ミナはエカーリアの家庭教師として正式に夫人から仕事を依頼された。最終目標は、エカーリアが他の貴族と交流できるようになることだ。
一通り打ち合わせが終わると、夫人はパンパンと手を叩き、侍女を呼ぶ。
「お針子をここへ」
「はい、かしこまりました」
そう言うと、侍女はお針子をミナの前に連れてきた。
「ミナ、ドレスがそれだけでは不自由でしょう。城にいくつか服を用意しましょう。そして、城に来たら、これからはリドリーではなくて、わたくしの侍女、リラがお世話させていただくわ。
だから、あなたは普通の服で来て良いのよ。いつもリドリーが案内していたあのお部屋をあなたの控室にして、必要なものを用意しておくわね。靴や化粧品、飾り物なども準備しておくわ」
夫人はとても気が利いていた。エカーリアとミナが話すことをとてもうれしく思って、目が輝いている。娘の未来の可能性が広がって、顔が明るい。
「まあ、侯爵夫人、ありがとう存じます」
そう言いながら、(母親だなあ…)とミナは思った。
(化粧品が手に入る!)
それもかなりうれしかった。化粧品は貴族か豪商でなければ手に入らないのだ。
お針子はミナの採寸をして、そして、ミナは城から帰って行った。
役場では、新しく派遣された3人の農産部の役人が、リントンの指導を受けている。
アンドリオンの言う通り、3人が来てからミナはかなり楽になった。
(私としては、時間が減ったのに給料はそのままだし、フィルベラ様から別の仕事で報酬をもらうし…。これでいいのかしら?)
ミナは、自分の生活が紙を買うのも苦労していたときに比べて、かなり裕福になってきたのを感じる。個人的にもヨーカのお古ではなく、服を買うようになった。家庭教師は定期なので、今後、城に行くときには二頭立ての馬車で送り迎えされるのだ。
家に帰ると、カイルがミナを待っていた。
「ミナ、話がある」
「ん? なに?」
いつものようにカイルはミナの部屋の椅子に逆向きに座った。
「俺、タンブリーに住むことにした」
「え、そうなの?」
「依頼を受けた。その都合だから、終わったら帰ってくるけどな」
「そうなの? いつから行くの?」
「明日から。騎士団の宿舎に泊まる」
「いつまでいるの?」
「わからん。今の問題が片付くまでだ…たぶん」
「そうなんだ…。騎士団の宿舎って、お城の中よね?」
「そうだ」
「ふうん…。だったら、お城で会うかもね?」
「ミナも城に行くのか?」
「うん、住むわけじゃないよ。控室をいただいたの。週に2回は行くから」
「そっか…。街に引っ越すかもって言ってたけど、それはどうなった?」
「ああ、バンリオルさんね。まあ、部屋を貸してくれるって言ってくれただけだから、決めてはいないの」
「バンリオル? そこに住むのか?」
「うん、離れがあるって」
「ふうん…」
カイルは何かを考えているようだったが、特に何も言わなかった。
「カイルに会いたいとき、どこに行けばいい?」
「そうだな…。騎士団に連絡くれればいい。ミナは城の中に入れるんだから」
「わかった」
「ま、めし、行くか」
「うん」
(カイルと、もう毎日は会えないのか…)
ミナはちょっと寂しかったが、エカーリアが寂しさを紛らわせてくれそうな気がした。
エカーリアの症状の直し方、第70話で出ますので、気になる方はぜひ追ってください!
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