ep6:作戦
「天堕ちだ。この3名で組んでもらう。エラ、説明を」
「はい、対象は6時間前に浮上、現在は南西85km地点に位置しています。形状は山喰い。街方向へ直進しています。確かなことは言えませんが、街のコアを感知している可能性が濃厚です」
赤髪の少女が滑らかに報告する。司令が頷く。ゼンは再び直立の姿勢で壁に呪いを送る。フラグ回収が早すぎる。
エラとゼンの間にはライルが立ち、狭い司令室をさらに窮屈に感じさせていた。
エラは自身とホバー全体を巨大な刃とする突進型で、コアを直接抜き取るアサシンスタイルも併せ持つ。今は、ゼンと同じく資源回収を担当しているはずだ。
* * *
浮遊盤(刃)/搭乗者:エラ
コア:ランク5
高度:最大100m
速度:時速140km
ストレージ:
・操縦席(単座)
・格納庫(木造)
・合金刃(連結型)
チップ:
・浮遊盤
・防護服
・加速補助
武装
・突進
・射程:小、威力:大、範囲:小
・突進(連続)
・射程:小、威力:中、範囲:中
・奪取(コア限定対象)
・射程:小、威力:小、範囲:小
* * *
街から見て対象方角は山脈であり、砦による防衛線は築かれていない。山間部の防衛境界は20km地点とされており、これを超えた場合「街の防衛戦」とみなす。
防衛戦は記録上も数える程度だが、必ずランク5コア、砦、多数住民を失う結果となっている。
「山脈方角に出現したのは不幸中の幸いだ。虫の海に再度潜られて見失うリスクが低いからな。最優先は、対象の無力化。次点で撃退、つまり進行ルートの変更となる。防衛戦は絶対回避だ。25km地点を突破された時点でいずれの選択も不可能な場合、即時撤退し街の防衛に移れ。スカイフォールのコアはランク5と期待される。確保が前提となるが、30km地点からは破壊して構わん」
ランク5は街の維持・発展に欠かせない。性能次第ではホバー化することも可能だ。いずれも重要な資源だが、街の安全が最優先と理解する。
スカイフォールの特性にもよるが、ゼンの火力ではコアを打ち抜く以外の有効打がない可能性もある。ただし、コアが露出していれば破壊は容易で、その場合は安全弁を担うことになる。司令は出番がないことを祈っているだろう。
「作戦終了後はエラが報告に来ること。吉報を待つ」
* * *
3人がポートに揃う。移動に討伐、半日は彼らと行動しなくてはならない。
「取り巻きのホエールはいるの?」
ゼンが自ら話し始めるとは思っていなかったのか、ライルとエラが視線を交わす。応じたのはエラだった。
「すでに山裾から登り始めていて……、半分は高度を超えていると思う。こちらからのルート上は掃除してきたから直行できるはず」
虫の限界高度は通常50m程度であるため、山を越えている間、スカイフォールは結果的に単独行動になる。
優等生的回答にゼンが頷くのを見て、ライルが指を立てる。
「だからって働かなくていいってことじゃないぞ」
ホバーでも山脈を越えるためにはルート選びが必要であり、直進というわけにはいかない。邪魔は少ない方がいい。
「あとコアを感知してるって話、本当?」
「直進しているように見えるってだけ。たまたまかもしれない。けど虫の中には熱や音、エネルギーに反応する個体もいるから。説明をつけようとした場合の可能性の一つよ」
「ホバーコアを認識しているような動きをするヤツ、たまにいるね。今回のスカイフォールも同じなら、3人の立ち位置で時間稼ぎができるかも」
「確かに…。確認してみましょう」
「100km先から感知してるなら大した地獄耳だな」
ライルが話を引き取り、少しだけ間を置いて方針を示す。
「砦は基本的に個人戦闘だ。連携の訓練をしていない。互いの戦術はある程度わかっているな?道中、道草にならない程度に見かけたホエールで予行演習をするぞ。通常個体をいなせないようでは話にならん」
「「了解」」
あまり猶予もない。それぞれ機体に乗り込みタワーを離れる。うっすらと雲が出てきた。
ゼンは航行しながらサブチップをロスルに渡し、レーダーとスーツを展開する。
「調整は上々だ。間に合うとはさすがジュリだな」
「僕のバーストも削りの足しになるといいんだけど」
「不明。スカイフォールの特性はあまりに幅が広い。ストレージが硬化している個体に損壊を与えることは困難だろう。チップがその中に隠れている場合もある」
「パワーアップしたのに暗いこと言うなよ…、コアは格納されちゃってはいないはずだよね?」
「そのはずだ。だがホエールと同等以上の外装で、コアのサイズはさして変わらない。発見は容易ではない」
「夜のうちに始めたいけど。このままだと夜明けに会敵かも」
「少しでも眠るといい」
もっともだ。
はぐれ者が近づけばレーダーが教えてくれるだろう。
ライル、エラの追従はロスルに任せることにして、ゼンは目を瞑った。