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ep5:資格

店の中は薄暗く、奥のカウンターに人の気配がする。

痩せたハゲ頭の店主が、聞き取れないうめき声を上げる。「いらっしゃい」か「おかえり」のどちらかだろうか。


補給にアーミーショップに来たのには意味がある。ゼンのホバーは多機能で快適だが、アシストがあってもライフルの威力は対虫火力としては控え目で、さらに実弾も欠くことができない。


店内が暗くとも、おおよその位置は把握している。壁の棚からオイルと充填剤を乱暴につかみ、カウンターの横にある椅子に腰かけた。

麻袋を店主に渡す。中には納品しなかったランク2のコアが入っている。小ぶりだがそこそこの値段にはなるはずだ。


「オヤジ、弾くれ」

「お客さん、もう夜中だよ。CLOSEが見えないのか。…お前、背ぇ伸びたか?」


いくつかの袋を受け取る。軽口は無視だ。

この男はゼンの後見人だ。引退した狩人で、銃と機体いきかたを与えてくれた人物でもある。

ゼンにとっては数少ない、安心できる相手だ。今日は泊まっていくと言ったら喜ぶだろうか?


「そうか。メンテナンスしてるのか。クジラ10発で仕留められれば、前線にも出られるだろう」


オヤジが淹れた、何の葉かよくわからないお茶をもらいながら、今回の任務の顛末を話す。


「火力だけじゃないぞ。技術で戦術の選択肢を増やせ。虫の行動特性を考慮すれば、すぐにできる。早く一人前になれ」


ここで言う一人前になる、というのはものの例えではなく、明確な基準がある。


 砦たるもの、ホバーを使いこなせ。

 砦たるもの、ホエール5体を単独で処理せよ。

 砦たるもの、天堕ちスカイフォールの討伐を経験せよ。


実は、狩人の中でもホバーを駆って戦闘可能な適性者自体が稀である。ゼンはそのホバー狙撃の技術によってホエールを数多く処理し、スカイフォール未経験ながら砦となった。


天堕ちスカイフォールとは長く生きたホエールで、群体としてではなく一個体となったものを指す。30mでコアが一つ、チップ一つならば与し易しと思えるのだが、実態としては「バケモン」と言われる。記録によると討伐率は低く、相対した者は砦であろうと砦候補であろうと死傷することが珍しくない。なお、クラス5コアはスカイフォールからしか獲得できない。


スカイフォールの討伐難度が高いのは、特性にバラつきがあり、事故が起きやすいためとされる。ゼンは積極的に遠慮したいと思う。


「僕はいいよ。今のやり方でも戦えるし、街の役に立てる」


そう、危険に飛び込まなくても、みんなを守ることができるんだ。できれば、天堕ちの相手はベテランやリーダーライルに任せたい。

それに、他の砦たちはもっと年上で、経験を重ねている。今もゼンの調整は続いているし、あせらなくてもいずれ機会が来る。そういうものだろう?


「だといいがな」


オヤジの言いぶりは小馬鹿にしたようにも取れるが、少しだけ寂しさも感じられた。



カウンターの中から流れるざらついたラジオの音声を聞くともなく、鎮痛剤の調達をどうしたものか思案していると、突然オヤジが窓を指した。

ちょうどタワーの方角に開いた窓から、ホバーがポート付近を周回しているのが見える。さらに別のホバーが帰着したのも見えた。思わず、顔をしかめてしまう。


「なんて顔だ」

「オヤジ、弾追加だ」

「お客さん、お代が足りねえよ」

「それはホントごめん」


ホバーに通信機能はない。待機しているはずのホバーの動きは、ロスルからの「戻れ」のサインであり、聞くまでもなくバッドニュースに決まっている。街、あるいはゼンの双方にとって。

また司令室へと逆戻りだ。今回はつくづくハズレだ。


「また来る」

「気張れよ」


オヤジの激励を背に、慌ただしく店を出た。


* * *


商店街からタワーへは街の四分の一ほどを走り抜けなければならない。

深夜に疾走する姿は、客観的にはだいぶ怪しいが仕方がない。


人気のないルートを駆け抜け、タワーに到着しても速度を緩めずにラボに駆け込む。少しだけ息が上がった。

ゼンの来訪を認めたジェリが手を止めずに言う。


「緊急みたい。今テストしてるところだから、すぐだよ」


まだ一時間ちょっとしか経過していないというのに、さすがだ。

待つ間、ラボの隅に雑多に置かれている使い古しの装備品を物色する。ゼンがタワーに入ったことはロスルが認識し、司令にも伝わっているはずだ。

グローブとゴーグルを拝借したところで、ジェリがチップを渡しにきた。

礼を言って司令室へ向かう。


「実はキミのメンテナンスデータは、成長パターンを想定していくつか事前に作ってあるの。できるっぽく思わせてごめんね!」


室内の光に照らされたジェリが、廊下を走るゼンに呼びかける。

そういうのを「できる」と言うんじゃないか。ジェリの謝罪にズレたものを感じ、またそれを微笑ましく思う。

ここからは、ぼくらの仕事だ。

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