ep31:幕間②
帝都ノラトルス。
軍事地区の一角、低い塔の一室で彼女は目覚める。
小鳥のさえずりが聞こえる。窓を開ける。
遠くの山々は白く覆われている。その景色を区切るように、針のようないくつも塔が立つ。
針は灯籠と呼ばれる尖塔で、この帝都の外周を囲う。その数、約600。
トーローの地下にはコアが埋まっており、ゆるやかだが途切れることなく熱を発している。
その範囲には川が流れ、湖があり、植物が茂る。
人間だけにとどまらず、小動物や虫の姿もある。
雪原地帯に帝国が築いた楽園のひとつだ。
しかし、彼女はのどかな景色に反して、頭にじんわりとした痛みを覚えた。
何か、懐かしい夢を見ていたような。
そんな曖昧な感触はすぐに霧散していった。
彼女は気持ちを切り替えて身支度を整える。
今日から新たな環境に身を投じる。いわゆる「出世」というやつだ。
棚の上に転がったコアをいくつか口へ放り込む。
食事という概念を失ってしばらく経つ。
そのまま階段を上がり、塔の上に出る。
彼女の背に半透明の突起が浮いたかと思うと、たちまち巨大な翼の形をとった。
その身体はゆっくりと浮上し、塔の先端を越えたあたりでひとつ大きく羽ばたくと、そのまま加速して飛び去っていった。
* * *
わずかに建物がきしんだような気がして、アライは飛び起きた。
しまった、寝過ごした。
昨晩、先生から、明日は早く出るからよろしくねと言われていたのに。
1階から螺旋階段をのぼり、先生の部屋のドアをノックする。
「おはようございます、先生」
小声で言いながらドアを開けると、案の定もぬけの殻だった。
さきほどの軋みは、先生が飛び立った音で間違いない。
「いってらっしゃい、ロスルピーク先生」
外を見れば、まだ陽は昇っていない。
帰りも遅いだろうか。
「夕飯は一緒にとりたいけど……」
先生は人間の食事をとらないが、食卓の準備があれば座ってくれる。
アライは、その時間が好きだった。
気を取り直して自室へ戻る。
頭の中でやるべきことを並べる。
まずは家事と、それから座学|(自習だ)、昼を回ったら訓練所に顔を出して、帰りに買い出しをして……
「今日も忙しいな。でも、やるぞ!」
なんたって、僕はあの親衛隊副隊長、梟先生の弟子で、秘書なんだから。
以上で第二章は終了です。ここまで読んでいただきありがとうございます。
続く三章も隔日更新を目指しますが、一定にならないかもしれません。
この世界の物語は続けていきますので、スナイパーと梟の旅を、引き続きよろしくお願いします。




