ep26:対策
研究所の作戦室は、重い沈黙に支配されていた。半透明の壁モニターには、先ほどの戦闘の様子を捉えた静止画と、海中を照らし出す映像が流れている。
集っているのは四人。副所長、主任、そして戦闘を終えたばかりのレシオとソルヴェだ。
「無茶苦茶だ」
最初に沈黙を破ったのはファンブだった。彼は頭を抱え、こめかみを揉み、天井を仰いだ。この副所長はいつも大仰な身振り手振りが特徴だった。
彼はモニターに映るホバーを睨む。ソルヴェ機と敵機のひとつだ。研究所からは遠く、画像はぼやけていた。
「ホバーがダメになった今、狩人が出せないのは痛いな。……ソルヴェ、ひとまず無事で何よりだった」
労いの言葉も明るいものではない。
その視線を受けたソルヴェは、腕を組んだまま静かに首を振った。
「ヘマしてすみません。これからの話をしなければ。あいつらは、また来ますよ」
淡々と言うが、ソルヴェには確信があるようだった。
「お前もそう思うか。今、残骸の回収と分析に水中ドローンを向かわせている」
副所長は一度目を伏せ、覚悟を決めたように顔を上げた。視線は、部屋の隅で静かに佇むレシオへと注がれる。
「レシオ卿、しばらくの間、力を貸してはいただけんだろうか」
「私でお役に立てるのであれば」
レシオは恭しく応じた。その瞳は相手の真意を探るように、鋭く副所長を射抜いている。
「しかし、お心当たりのあるご様子ですね?この襲撃に」
ファンブが苦々しく顔を歪めた。
「……ある。あるが、情報が漏れるにしても早すぎる」
「帝国、ですか」
単刀直入なレシオの言葉に、副所長は乾いた笑みを浮かべた。
「あんたに心当たりがないなら、ユニオンは関係ないな。……というのは冗談で、帝国の内輪揉めに関わってしまったのだ。
所内で匿っている人物を狙ったものだろう。時折、亡命のために身を寄せたいと言う者が来るのは、無下にできん」
レシオは表情を変えずに、ただ静かに頷く。
「まだ、追い出すわけにはいかない、と言うことですか。詳細は、話せる時が来たら教えてください。……研究所を直接襲うまでとは、予想していませんでしたがね。承知いたしました。当面は私と、それからゼンが防衛に出ましょう」
「すまない」
副所長の短い謝罪が、かえって彼の心情を表しているようだった。
「船が外洋に出てしまえば、少しは時間を稼げるだろう。対空砲の用意も急がせる」
レシオがモニターの海底探索映像を指して言う。
「無駄かもしれません。敵は身元がわかるようなものを残さないでしょう。調査より、今はこの海域から離れることを優先しても良いかと」
ファンブは再び黙り込む。
それまで黙って端末を操作していた主任オーランドが、すっと立ち上がった。
「副所長。ドローンを戻しましょう。私は暇な奴を捕まえて、作業に入ります」
「ああ、誰でも半日は使っていい。私もあとで行く」
これで仕舞いとばかりにファンブが部屋を出る。
レシオはその背を見送ってから、ソルヴェを促した。
「機体は直せるのですか?」
「うーん。コアがあっても機体がない、というのは街のコアと同じ条件になったわけだよね。いっそあちらを仕上げる方早いかもしれない」
「なるほど。様子を見に行きましょうか」
「副所長はいいのか?」
「ええ、亡命ならば私にも予想がつきます。今は中のことよりも、対策です」
ソルヴェがもっともらしく頷き、二人は揃って扉をくぐった。




